

1.何の準備もしていなかった
4月3日、経済産業省は、トランプ関税に対応するため、省内に「米国関税対策本部」を立ち上げ、この日の午後に会合を開きました。
会合の冒頭、武藤容治経産相は「今後国内産業にも広範囲に及ぶ影響が出る可能性がある……関係部局が一丸となって、今回の関税措置からわが国の産業・雇用を守り抜く必要がある」と述べました。
米国関税対策本部は、短期的な企業への対策として、「約1000ヶ所の特別相談窓口の設置」、「資金繰り・資金調達支援としてセーフティーネット貸付の要件緩和や官民金融機関への相談呼び掛け」、「中堅・中小自動車部品サプライヤーの事業強化」の3点を打ち出しました。
一方、中長期的な対応策は、今後どのような影響が出てくるかを精査しながら考えるとし、武藤経産相は「自動車産業は日本の産業の大黒柱でもあり、部品メーカーも含め広範なサプライチェーンを有していることから、影響を特に注視する必要がある」と述べ、副大臣や政務官に対して、自動車産業が集積している地域を訪問することを求めました。
また、サプライチェーンにおいて適切な価格転嫁が行われるよう、業界団体に要請を行うとし、武藤経産相は「私からも来週、直接自動車業界のトップに対し要請を行う」と述べています。
そして、石破総理は6日夜、林官房長官、加藤財務相、それに赤澤経済再生担当相と、総理公邸で会談。石破総理は、世界の金融市場に不安定な動きがみられるとして、国内企業の資金繰り支援などの対策を効果的に講じていくためにも今後の動向を注視し、適切に対応するよう指示しました。
加藤財務相は会談のあと記者団に対し「市場がどう動いていくか分からないが、動向をしっかり見たうえで、関係閣僚と連携をとりながら適切に対応したい」と述べました。
4月3日、官邸を訪れた小野寺政調会長は、石破総理から党でも対策を講じるよう指示された後、記者団に「日本が米国経済に貢献していると信じていたし、米側もそれを信じてくれると思っていた。大変厳しい数字だ」と述べていますけれども、トランプ大統領は就任当初から相互関税を掛けるといっていました。それなのに、この慌てぶり。何の準備もしていなかったのかと驚きます。
2.言うなれば国難
4月3日、自民党の高市早苗前経済安全保障担当相は党の保守系議員らの会合で、トランプ関税を巡る政府の対応について「担当相を指名してすぐワシントンに派遣することもしていない。陣頭指揮をとっているのが誰か、私たちも見えてこないのは残念な点だ」と、担当相や特使が渡米して直接交渉すべきだったとした上で「本気の姿勢を日本政府が見せるべき瞬間だった」と述べました。
これは裏を返せば、本気ではないということになりますけれども、確かに交渉の姿勢すらなかったのは批判されてしかるべきでしょう。
翌4日、石破総理は、与野党党首に呼びかけ、公明党の斉藤代表、立憲民主党の野田代表、日本維新の会の前原共同代表、国民民主党の玉木代表、共産党の田村委員長、れいわ新選組の山本代表の6党の党首と国会内で会談。日本に対する相互関税や自動車への追加関税への対応を協議しました。
石破総理は冒頭、「私自身がトランプ大統領に直接、働きかけることが適当であれば最も適当な時期に、最も適切な方法で働きかけることとしたい。全く躊躇するものではない。私や担当閣僚が訪米する際には国会日程などに配慮いただければ大変幸いだ……関税措置による国内産業への影響を十分に精査し、必要な支援には万全を期していく。今月1日に資金繰りなど当面の対策を講じることとした。政府を挙げて、この問題に対応するため、関係閣僚による会議体を設置することとしたい。言うなれば国難というものにあっては、政府・与党のみならず、野党の皆様も含め、超党派で検討、対応する必要がある」と語り、各党首に協力を求めました。与野党党首が一堂に会して会談するのは異例のことです。
トランプ関税に対応するための何か大きな法案の準備を水面下で進めていて、その法案成立のために協力を仰ぐ目的で党首会談を呼び掛けたのならともかく、トランプ大統領と交渉のために訪米するときは国会日程をよろしくというために会談をしたのだとすれば、「国難だ」なんだと大層なことをいっていても、厳しいことをいえば、自分の力では解決できないから助けてくれと泣きついているようにしかみえません。
3.電話会談を模索している
会談では、与野党の党首が要望事項や意見を伝え、立憲民主党の野田代表など複数の党首がトランプ大統領との首脳会談を含む直接協議を行うよう要請したようです。
また、デジタル分野では圧倒的にアメリカが黒字となっていることなど事実関係をもとにした交渉を行うことや、自由貿易体制を守るため各国との連携を強化すること、さらに、影響を受ける中小企業などへの資金繰りを含めたさらなる支援などを求めたとのことですけれども、各国との連携強化だとか、中小企業などへの資金繰りだとかでは、ディールを望んでいるトランプ大統領に対するカードにはなりません。
なぜなら、どれもトランプ大統領に出していないからです。各国との連携なんてポーカーでいうと他のプレーヤーとイカサマやるということになりかねないですし、中小企業などへの資金繰りも、チップをもっと用意しなくちゃと財布をもってくるようなもので、肝心なカードがないからです。どうにもピントがズレているように見えて仕方ありません。
会談で石破総理は、「実際に訪米して直接話をするのがいいに決まっているが、国会日程や先方の都合もあるため、まずは電話会談を模索している。何を話すかということをきちんと整理した上で臨みたい」とトランプ大統領との電話会談を模索していることなども伝えたようです。
4.情けない人達
石破総理の呼びかけに応じて党首会談を行ったものの、野党は石破総理を突き放している感があります。
日本維新の会の前原誠司共同代表は、「石破総理は『誰に話せばトランプ大統領に伝わるかが分からん』という言い方をしていたが、結果として、人間的な関係を今、つくれていないことは石破総理自身が責任を負うべきことだ。すべての国民の命や生活を背負っているので、どうしたら人間関係をつくれるかということを考えて交渉してほしい」と指摘。立憲民主の野田代表も、山口市で記者団の取材に「僭越な言い方だが、挙党態勢を組んだ方がいい。日米貿易協定で極めて厳しい交渉をやった「タフ・ネゴシエーター」は茂木さんじゃないか。首相とのいまの関係はよく分からないが、そういう人にもいろいろと力を貸してもらうことだ。「挙党態勢」があって、その後に「挙国態勢」じゃないか。野党の力を借りようとする前に、自分の党の力を総動員すべきではないかと思う」と述べています。
「野党を頼る前に身内で解決するのが先だろう、人間関係を築けなかったのは貴方の責任だ」というわけです。野党にしてみれば、敵に塩を送る理由もないですからね。
とりわけ「誰に話せばトランプ大統領に伝わるかが分からん」と石破総理がぼやいたことについて、ネットでは「ホットラインを持っていないことを自白、安倍昭恵さんや麻生さんはトランプの携帯に直接電話できますよ」「安倍昭恵さんにお願いしたら?」「人脈がないことが外交の大きなマイナス要素になっている。こういうときは、安倍昭恵さんや麻生氏に相談すれば良いのにプライドがそれを邪魔している」「麻生太郎氏か安倍昭恵さんに聞きましょう」といった当然の書き込みがされています。
石破総理はかつて、安倍外交について問われ「国益とはなんだということ、友情は大切です。しかしそれと外交は別だ」なんて勇ましいことをいっていましたけれども、「誰に話せばいいかわからん」なんて、まったく外交が出来ていないと言わざるを得ません。
そもそも、友情と外交が別なのであれば、それこそ麻生氏や安倍昭恵さんに頭を下げて特使となってもらい、国益を守ることに努めるべきでしょう。言っていることとやっていることが矛盾しています。
総理の職にあって、自分の力が足りないと自覚しているのなら、「公」のために、他人の力を借りるべきですし、借りれる器がなければなりません。
石破総理誕生の立役者である岸田前総理は「首相の努力も動きも見えない。言われるままに受け入れて中小企業を助ける、では情けない」と批判しているそうですけれども、このセリフは「自分の人を見る目がなかった」ことを自白しているようなものですから、別の意味で「情けない」かもしれません。
仮にトランプ大統領と電話会談に漕ぎつけたとしても、先述したようにトランプ大統領に出すカードがないノーガードで突入しても返り討ちに会うだけです。
石破総理は何を話すか整理してから望むといっていますけれども、その前にまず用意できるカードは何かということから始めるべきだと思いますね。

この記事へのコメント
匿名
言霊思想から)徳川幕府は何も対策をしなかったため襲来時に大慌てとなり広く意見を求める
ことになった。
その際に下級役人であった勝海舟を見出し対応した。」と言われていた。
幕府も自民も大慌てまでは同じだが、下級役人の意見を採用する幕府と親中野党の意見しか
求めない自公政権、
トランプは「車(輸出企業に対する消費税還付は輸出補助金)、農産物(高関税)、特に中国」と
言っているのだから消費税または還付金の廃止、農産物の代わりにパイプラインと西海岸側の
ガス輸出基地整備と購入、スパイ防止法を含む対中強硬対策に伴う防衛増強と軍備品の購入
および共同開発などでディールできると思うが、自民の大半は移民、増税、再エネ、多様性、
親中で真っ向から米国共和党に喧嘩を吹っかけているのだからもはや悲劇を超えて喜劇ですね