

1.石破トランプ電話会談
4月7日、石破総理は、アメリカのの関税措置をめぐりトランプ大統領と電話会談を行いました。
石破総理は記者団に対し会見を行い、その内容は次の通りです。
遅い時間に恐縮であります。先ほど、トランプ大統領との電話会談を行いました。今般のアメリカ合衆国の関税措置は極めて遺憾でありますが、私から大統領に対し、日本が5年連続で世界最大の対米投資国である旨を述べつつ、アメリカの関税措置により、日本企業の投資余力が減退することを強く懸念していると、このように申し述べました。その上で、一方的な関税ではなく、投資の拡大を含め、日米双方の利益になる幅広い協力の在り方を追求すべきであると、このように申し上げました。このように、日米双方が担当閣僚を指名して、協議を続けていくことを確認したということです。
トランプ大統領からは、国際経済においてアメリカが現在置かれている状況について、率直な認識が示されました。トランプ大統領とは、今後も率直かつ建設的な協議を続けていくことを確認をいたしました。本日の首脳間のやり取りを踏まえまして、双方において、担当閣僚を指名し、協議を続けていくということにいたしました。我が国といたしましては、こうした協議を通じて、アメリカ合衆国に対し、措置の見直しを強く求めていくものであります。
私といたしましては、「国難」ともいうべきこの状況を乗り越え、新しい日本があるものと考えておりまして、明朝、全ての閣僚が参加をいたします「米国の関税措置に関する総合対策本部」を開催をし、今後の対応を協議することといたします。今回の関税措置について、不安を抱えておられる国民の皆様、日本企業の皆様のために、我々政府一丸となって、あらゆる手段を尽くしてまいります。皆様の御理解、そして御協力を、改めてお願いをするものであります。私からは以上です。
ーー関税の撤廃や引下げを求める内容としてこちらから提示した条件、説得に当たって求めた条件などがあったか、また、担当閣僚の指名という話もあったが、総理はこれまで訪米の可能性や必要性について、言及してきたが、改めて会談を経て、その必要性についてどう感じているか
外交上のやり取りに関することでございますので、今、申し述べましたこと以上のことを申し上げるのは差し控えさせていただきます。
なお、訪米の時期、あるいは訪米の有無については、最も適切な時期に訪米をするということは当然、考えておるところでございますが、先ほど申し上げましたように、担当閣僚を指名するということで一致をいたしました。その推移を見ながら、最も適切な時期に訪米をし、トランプ大統領と直接会談するということは、当然考えておるところでございます。
ーー担当閣僚について、現時点で具体的に名前を挙げられるか
本日のところでは、担当閣僚をお互いに指名するということで一致をしたものでございます。アメリカはアメリカにおいて、我が国は我が国において、今後、その人選というものを進めていくということになります。今の時点で具体的に名前が挙がっておるわけではございません。
2.石破岩屋じゃ駄目だ、話ができる人を出せ
石破総理はアメリカの関税措置について「極めて不本意で遺憾」と非難してきたのですけれども、電話会談では抗議よりも、日本が世界最大の対米投資国であることを訴え、日米協調が両国の利益を最大化する近道だと説明することに重点を置いたようです。
そういった背景から、電話会談では、まず交渉入りで合意することを目指し、具体的な交渉材料を示すことは避けたのですけれども、外務省幹部は「何かを提示して『不十分だ』と言われたら取られ損になる」と指摘。政府は今後の交渉で、日本が提示できる材料を「パッケージ」で示す考えとのことで、8日に設置する総合対策本部の会合では、各省庁で用意できる交渉材料などを精査するとみられています。
政府内では交渉材料として、アラスカの液化天然ガス(LNG)開発などの投資案件や日本の非関税障壁の見直しなど、アメリカ経済に寄与し、アメリカの輸出拡大につながる対策が取り沙汰されています。
なんでも、日本政府内には「トランプ氏の不興を買ったら、交渉どころではなくなる」との見方が根強く、担当閣僚間の協議継続が決まったことに、政府高官は「十分な収穫だ」としています。
今後、日米双方で担当閣僚を置いて、交渉することになるのですけれども、トランプ大統領は、早くもベッセント財務長官とグリア通商代表を日本との関税や貿易交渉の責任者に起用することを決めています。
これは、7日、ベッセント財務長官が「X」に投稿して明らかにしたもので、トランプ大統領はベッセント財務長官に対し「石破総理とその内閣とともに、国際貿易の新たな黄金時代に向け、トランプ大統領のビジョンを実現するための交渉を開始するよう指示した」としています。
更に、ベッセント財務長官は「日本は依然として米国の最も緊密な同盟国の一つであり、関税、非関税貿易障壁、通貨問題、政府補助金に関する今後の建設的な協議に期待しています。このプロセスに対する日本政府の働きかけと慎重なアプローチに感謝します」とツイートしています。
日米が閣僚間協議の継続で纏まったことについて、経済評論家の渡邉哲也氏は、「「石破岩屋じゃだめだ。話ができる人を出せといわれ」官邸以外のルートで話をまとめたということです。そして、電話で最終確認通訳の高尾さんなどが話を付けたのでしょう」とツイートしています。
この通りであれば、石破総理は蚊帳の外というか、完全に相手にされていないことになります。
簡単に言えば、「石破岩屋じゃだめだ。話ができる人を出せといわれ」官邸以外のルートで話をまとめたということです。そして、電話で最終確認通訳の高尾さんなどが話を付けたのでしょう。「両首脳は担当閣僚を指名し、協議を続けていくことを確認しています」 https://t.co/ttnQDYizsL
— 渡邉哲也 (@daitojimari) April 7, 2025
3.中国に五十パーセントの追加関税を課す
今回の電話会談について、トランプ大統領は自身のSNSで次のようにコメントしています。
世界中の国々が私たちと話をしている。厳しいが公平な条件が設定されている。今朝、日本の首相と話をした。彼は交渉のためにトップチームを派遣している! 彼らは貿易に関して米国を非常にひどく扱っている。彼らは私たちの車を受け取らないのに、私たちは彼らの車を何百万台も受け取っている。農業やその他多くの「もの」も同様だ。すべてを変える必要があるが、特に中国に関しては!!!日本の話をしているのに、最後に中国が出てきています。この言葉の前段にある「すべてを変える必要がある」がそのまま中国に掛かっているのであれば、「日本の媚中姿勢を変えろ」、もっと穿って言えば、「中国と手を切れ」という意味に取れなくもありません。
トランプ大統領の頭には、常に中国が念頭にあって、それがそのまま言葉になってしまった感じさえ受けます。少し前、何かの番組か動画で、トランプ大統領はSNSにコメントするとき、秘書に指示して書かせた文面を自分でチェックしてOKを出している場面を見た記憶があるのですけれども、そこから考えると、この文章の最後に中国を名指しして、それを、訂正もせずにそのまま投稿したということは意識してわざとやっていると見るべきかもしれません。
昨日のエントリーで、中国は、トランプ関税について報復関税を掛けることを発表していますけれども、トランプ大統領は、中国について、SNSで次のように発言しています。
昨日、中国は、すでに記録的な関税、非金銭的関税、企業への違法な補助金支給、および大規模な長期的通貨操作に加えて、34%の報復関税を課した。我が国に対する既存の長期的関税濫用に加えて、追加関税を課すことで米国に報復する国は、当初設定されたものに加えて、新たに大幅に高い関税を直ちに課されるという私の警告にも関わらずだ。したがって、中国が明日、2025年4月8日までに、すでに長期的貿易濫用に対する34%の引き上げを撤回しない場合、米国は4月9日から中国に50%の追加関税を課す。さらに、中国が要求している米国との会談に関するすべての会談は打ち切る。同様に会談を要求している他の国々との交渉は、直ちに開始される。この件にご注目してくれてありがとう。なんと追加で50%の関税です。当然ながら中国は反発。中国大使館の劉鵬宇報道官は声明で「中国に圧力をかけたり脅したりするのは正しい対処方法ではない……『相互主義』の名の下に行われた米国の覇権主義的な動きは、他国の正当な利益を犠牲にして自国の利己的な利益に奉仕し、国際ルールよりも『米国第一』を優先するものだ……これは、一方的行動、保護主義、経済的脅迫の典型的な動きだ」と批判しています。
また、8日、中国商務省は「関税措置を拡大すれば、断固として対抗措置をとる……米国が独断専行するなら、中国は最後まで戦うだろう」とコメントしています。
もし、中国に対する50%の追加関税が発動すれば、トランプ大統領が中国からの全輸入品に対して9日から課す34%の相互関税、および合成麻薬フェンタニルの米国への流入に関連して先に課した20%の関税に更に上乗せされることになり、合計で104%にも達します。
4月7日、アメリカ株式市場では、S&P500種株価指数が一時4.7%下げた後、3.4%高まで戻す場面があったものの、その後は前週末の終値近辺で推移。トランプ関税に翻弄されています。
トランプ大統領が対中追加関税を表明した後、オフショア人民元は一時0.5%余り下落。ホワイトハウスはXへの投稿で、「メッセージはシンプルだ。交渉の席に着く用意があり、アメリカをこれ以上不当に扱うことはできないと認識している者は、われわれに合流してほしい。長年にわたってこの国を搾取した後もなお報復したいと考える者に対しては、屈することも折れることもない」と強調しました。
この日、トランプ大統領はホワイトハウスでの演説で、「われわれが36兆ドルの債務を抱えているのには理由がある」と述べ、アメリカは中国をはじめとする国々と「公正かつ良好な取引」を結ぶために協議していく、「今はアメリカ第一だ」と語りました。
トランプ大統領は、その後、記者団に対し、「我々はそのようなことは考えていない。我々と交渉に来る国は数多くあり、公正な取引が行われるだろう」と他国との交渉を可能にするために新たな広範囲な関税を一時停止することは検討していないと述べています。
4.トランプ大統領の関税算定式は誤りに基づいている
どうやら、これで中国以外の各国は、トランプ大統領とのポーカーゲーム「テキサスホールデム」を行うテーブルにつくことになった訳ですけれども、その参加料ともいえるトランプ関税について、算出根拠が間違っているのではないかという指摘も出てきています。
4月4日、アメリカンエンタープライズ研究所のケビン・コリント上級研究員とスタン・ヴーガー上級研究員は「トランプ大統領の関税方式は経済的に意味をなさない。また、誤りに基づいている」という論説で、トランプ政権が相互関税を課すために使用した計算式には重大な計算ミスがあり、影響を約4倍に膨らませていると指摘しています。
件の論説は次の通りです。
トランプ大統領は水曜日、ほぼすべての外国(および一部の非国家)に対する関税を発表した。税率は最低10%から最高50%に及ぶ。経済への影響は劇的で、株式市場は9%下落し(本稿執筆時点のS&P 500指数に基づく)、景気後退の可能性が高まっていると予測されている。トランプ政権が根拠として公表している関税率の計算式で分母にあるεとφはそれぞれ「ε:輸入価格に対する輸入需要の弾力性」と「φ:関税に対する輸入価格の弾力性」を示す変数なのですけれども、このうち、「φ:関税に対する輸入価格の弾力性」、すなわち関税が適用されると輸入価格がどの程度変動するかの値が間違っているというのですね。
トランプ大統領は、関税は相互的であり、他国が課している関税率と非関税貿易障壁の半分に相当すると述べた。しかし、それは全くそんなものではない。米国が他国に課している関税は、米国の貿易赤字を特定の国からの米国の輸入で割り、それを2で割った値、または10%のいずれか高い方の率に等しい。したがって、米国が特定の国に対して貿易赤字(または貿易黒字)がなくても、その国は依然として最低10%の関税を受けることになる。
たとえば、米国が1億ドル相当の商品やサービスを輸入し、5000万ドルをある国に輸出した場合、トランプ政権はその国が米国に50%の関税を課していると主張する(1億ドルと5000万ドルの差額を1億ドルで割ったもの)。トランプ大統領が水曜日に発動した「相互」関税は、その半分の25%となる。
関税の計算式は、もともと経済諮問委員会が考案し、 米国通商代表部が発表したものだ が、経済的には意味をなさない。特定の国との貿易赤字は、関税や非関税貿易障壁だけでなく、国際資本の流れ、サプライチェーン、比較優位、地理などによっても決まる。
しかし、トランプ政権の関税率の計算式を真摯に受け止めたとしても、外国が課すと想定される関税を4倍に膨らませる誤りを犯している。その結果、トランプ大統領が課す「相互」関税も大幅に膨らんでいる。
実際には、他国が米国に課す関税の計算式は貿易赤字を輸入で割ったものに等しいが、米国通商代表部が発表した計算式では、分母にたまたま相殺される2つの項、すなわち(1)輸入価格に対する輸入需要の弾力性 εと、(2)関税に対する輸入価格の弾力性 φ が含まれている。
その考え方は、関税が上昇すると、貿易赤字の変化は関税に対する輸入需要の反応性に左右され、それは輸入需要が輸入価格にどう反応するか、輸入価格が関税にどう反応するかによって決まるというものである。トランプ政権は、輸入価格に対する輸入需要の弾力性を4、関税に対する輸入価格の弾力性を0.25と想定しており、その積は1であり、政権の公式でそれらが相殺される理由となっている。
しかし、関税に関する輸入価格の弾力性は、トランプ政権が述べている 0.25 ではなく、約 1 (実際は 0.945) であるべきである。彼らの間違いは、弾力性を 輸入価格ではなく、関税に対する 小売価格の反応に基づいている点である。 彼らが引用しているAlberto Cavalloと共著者 による 記事は、この区別を明確にしている。著者らは、「関税は米国の輸入価格にほぼ完全に転嫁されている」と述べながら、「小売価格の上昇に関する証拠はより複雑である」としている。輸入価格 に関する輸入需要の弾力性 に、 関税に関する小売価格 の弾力性 を掛け合わせるのは矛盾している。
トランプ政権の誤りを正せば、各国が米国に課すと想定される関税は、公表された水準の約4分の1にまで削減され、その結果、トランプ大統領が水曜日に発表した関税も、10%の関税最低額を条件に、同じ割合で削減されることになる。表1に示すように、関税率はどの国でも14%を超えることはない。一部の国を除いて、関税はトランプ政権が課した最低額である10%ちょうどになる。
さて、私たちの見解は、政権が頼りにした方式は経済理論にも貿易法にも根拠がないというものだ。しかし、それが米国の貿易政策の健全な基盤であるとするなら、少なくともホワイトハウスの関係当局者が慎重に計算を行うことを期待すべきだ。彼らがすぐに間違いを正してくれることを願う。結果として生じる貿易の自由化は、経済に大いに必要とされる刺激を与え、景気後退を食い止めるのに役立つかもしれない。
トランプ政権はこのφの値を0.25としているのですけれども、アメリカンエンタープライズ研究所は、ほぼ4倍の0.945だと指摘しています。
分母が4倍になれば、当然ながら計算値は四分の一になります。つまり、トランプ政権は4倍の関税率を吹っ掛けたということになります。
本当であれば、批判の嵐でもおかしくありません。
筆者はトランプ関税は交渉のテーブルに着かせるための参加料と考えていますけれども、そうであれば、既に目的はほぼ達した訳で、値の妥当性は交渉の中でいくらでもすればよい訳です。見事にブラフを決めてみせたのですから。
そう考えると、トランプ大統領はディールについて、相当の玄人と唸る他ありません。
これから、日本は、石破総理を蚊帳の外において、本気の交渉を行うことなります。報道では、赤沢経済再生担当大臣がトランプ関税交渉の担当閣僚に任命されるようです。国益に叶った交渉をどこまで出来るのか。要注目です。

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