
1.消費税減税に言及すべきでない
4月5、6日の両日、JNNが世論調査を行いました。対象は、全国18歳以上の男女2606人〔固定855人、携帯1751人〕で、そのうち有効回答は39.6%にあたる1031人。
現在、一部の野党中心に物価高対策のため食料品にかかる消費税減税を求める声があがっていますけれども、この世論調査では、消費税を減税することに「賛成」と答えた人が61%、反対は33%と圧倒的に消費税減税を求めている結果となりました。
4月5日、石破総理は読売テレビ番組で、自民党の一部や野党から検討を求める声が出ている食料品の消費税減税について「自民党はあらゆることは当然考える。でも選挙さえよければいいわけではない……消費税を使っている社会保障政策をどうするか、あわせて示すのが自民党の責任だ」と慎重な考えを示していました。
そして、7日の参院決算委員会で立憲の古賀之士氏から減税について問われた石破総理は「現時点で減税うんぬんということについて言及すべきだとは思っていない。物価高に苦しむ方々に対して何が効果的なのかということは、国会の議論を踏まえタイムリーな対応を考えていきたい」と言葉を濁しています。
消費減税を巡っては、立憲の有志議員らが食料品の税率をゼロに引き下げることを参院選公約にしようとする動きがある他、参院自民からも消費減税を含む物価高対策を求める意見が出ています。
その一方、自民幹部からは消費税減税に否定的な意見が出ています。
自民党の鈴木総務会長は総務会後の記者会見で「やはり、消費税の減税というものは、こういう状況ではありますけれども、実施すべきものではないとそういうふうに思っております。やはり、社会保障を支える重要な財源であるわけであります。一度下げるとですね、元に戻すということも相当な政治的なエネルギーがないとできないということもあわせて考えていかなければならない」と物価高対策としての消費税減税に否定的な考えを明らかにしました。
また、森山幹事長も会見で、消費税の税収は社会保障の財源に充てられていると指摘したうえで、「持続可能な社会保障制度を守っていくために、安定的な財源の重要性について十分理解を求めていく必要がある」と重ねて減税に否定的な考えを示しています。
2.板挟みの石破
消費税減税を巡って、石破総理は検討するから否定したかと思えば言及すべきではない、とフラフラしています。
当初、石破総理が消費税減税を検討したいといったとき、本当に引き下げを検討しているとスクープした政治ジャーナリストの青山和弘氏は、石破総理の消費税減税否定発言について次のように述べています。
・参院選のサプライズにしたい思惑があったはず。これまでも解散の時期についても二転三転するのが今の石破総理。この発言で完全否定と決めつけるのは早急だこのように減税派と否定派との間で板挟みにあっているというのですね。
・党内基盤が弱い石破総理を支える最も重要な存在、森山裕幹事長が減税に猛反対している……森山氏は強硬な財政再建論者。しかも党内外の調整を今一手に背負っていて、石破総理が最も頼りにしている重鎮議員。
・安倍総理だって下げなかった消費減税を本当にやれるのか、石破総理らしく迷走する気配もある
・消費税減税案を打ち消した理由について「1つは、この段階で前向きな姿勢を示すにはちょっと早すぎるというのがあったと思う。参議院選挙の公約として掲げるのであれば、まだ3ヶ月以上あるからちょっと早い。やはり消費税を下げるというのはあんまり前から言ってしまうと買い控えも起こる可能性もあるし、やっぱりサプライズで出すのだったら直前がいいという考えはあると思う。だから、一旦打ち消しておこうというのが1つ」
・2つ目の理由として「やはり党内の反発。こういう報道が出たことによって一気に財務省もそうだろうし、党内の財政再建派から『何言ってんだ』『こんなことしたらもう亡国の総理だぞ』と。『政権を失うよりあなたの総理の座が危ない』と言われたかもしれないし。それぐらい厳しい反発を受けて、一旦封印せざるを得なかったということだと思う
・ただ、石破総理はこれまでもいろいろなところでブレてきたというか、迷ってきた。例えば、『すぐ解散しない』と言って解散をすぐにしたり、高額療養費のことも3回も修正して、参議院の審議になってから全面凍結に踏み切ったり。そういう人なので、これからもいろいろな意見が出るから、また揺れ動いていくのだろうと見ている。
・森山氏は消費税減税に対して否定的な人。そして森山氏は、今石破総理が最も頼りにしている人。例えば、党内の菅氏や麻生氏との調整役もやっているし、党外の国民民主党や立憲民主党との国会対策の調整も全部一手に引き受けている。この人を敵に回して、石破政権というのは成り立たない状況になっている。そんな中で、やはり否定せざるを得なかったというのもあると思う。
・木原誠二選挙対策委員長や岸田文雄前総理は、そもそもは財政再建派だと見られがちだが、岸田氏の定額減税も木原氏が進言したように、選挙に勝とうと思うのだったら、それぐらいのことやらなきゃいけないという、よく言えば柔軟性のすごくある人で、今回もやはり軽減税率を下げるのはアリだということは水面下で検討している。また、高市前経済安保大臣や西田参院議員は、今回の消費税の軽減税率を下げることに特定の発言をしているわけではないが、おそらくこっち(減税積極派)の考えだろう。
・西田氏は、今度まさに参議院選挙で戦う人で、自民党の中でも西田氏を筆頭に、参議院選挙のいわゆる改選組、7月に戦う人は、軽減税率の引き下げも検討してくれとガンガン石破総理に突き上げている。一方で、森山幹事長を筆頭にした、消費税を1回下げたらもう2度と上げられない可能性もあるし、『ポピュリズムだ』『逆にマイナスだ』という勢力もあって、まさに石破総理が真ん中で板挟みになっているというような状況
3.いつもの補助金
そこで出てきたのが、いつもの補助金です。
4月7日、政府与党は、アメリカのトランプ政権の高関税政策と長引く物価高への対応として、補正予算案の編成を検討していることが明らかになったと報じられています。
自動車の対米輸出の減少に備えた国内の需要喚起策として、電気自動車(EV)といったエコカーの購入補助金の拡充案が浮上。物価高対策は、3月で終了した電気、都市ガス価格を抑える補助金の再開などを協議するとのことで、石破総理が月内にも指示し、通常国会での成立を目指すようです。
この日行われた参院決算委員会で石破総理は関税対策について「実質無利子・無担保融資を含め、新型コロナウイルス対策に匹敵するものを考えねばならない」と強調していますけれども、自民党の松山政司参院幹事長は記者会見で、「補正予算も必要に応じて検討すべきだ」と発言。食料品を対象とした消費税減税を念頭に「あらゆる選択肢を排除せず議論することが重要だ」と語り、ガソリン価格についてガソリン税の旧暫定税率の廃止と同程度の引き下げを求めました。
また、自民党の森山裕、公明党の西田実仁両幹事長は8日、都内でトランプ関税への対応を協議。同席した自民党の坂本哲志国会対策委員長によると、国内消費を下支えする対策をまとめることで一致したそうです。
西田幹事長は具体策として給付や減税、賃上げが必要だとの認識を森山氏に伝えたとのことで、西田幹事長は協議後、記者団に「政府があらゆる手段を講じ、国民の生活を守るというメッセージが伝わることが大事だ」と語っています。
この補助金について、日本総合研究所チーフエコノミストの石川智久氏は、次のように指摘しています。
・緊急時であり、関税によって貿易が混乱しているだけでなく、株価も下がって経済全体の問題となるなかでは、補正予算を組んで対応を進めることは意味があると思います。トランプ大統領が消費税を、輸出補助金と見なすと宣言しているのに、更に補助金を入れる。トランプ大統領にその分を追加関税として上乗せされる可能性を考えなかったのでしょうか。
・一方で補正予算は一時的な対応です。……抜本的に解決できるわけではありません。
・持続的に米国と対応できるように、貿易や経済について大きなビジョンを作っていくことが重要です。
・米国との衝突を避けつつ、それ以外の国と自由貿易を進めるような地球儀を俯瞰した対応が求められます。
・トランプ大統領やそのブレーンの発言には同盟国を敵視するような発言が目立ちます。日本は自力で世界で生き残る方法を考える時期かもしれません。
国内向けの補助金で海外輸出には関係ないと言い訳するかもしれませんけれども、ビタ一文、海外輸出にその金が流れていないことを保証できるのでしょうか。
アメリカとの衝突回避するには、消費税撤廃がもっとも簡単でシンプルな筈です。
4.中国は関税逃れのためにベトナムを利用している
ただ、トランプ関税は補助金(輸出戻し税)撤廃を狙ったものだけないとは、色んな識者が指摘しています。無論中国のことです。
昨日のエントリーでトランプ大統領が自身のSNSで日本に対して「すべてを変える必要があるが、特に中国に関しては!!!」と述べていることを取り上げましたけれども、日本の消費税は元より媚中政策についても切り込んでくる可能性は高いと思います。
4月7日、 ホワイトハウス通商顧問のピーター・ナバロ氏は、CNBCへの出演で、非関税障壁に関する協議に関心を示し、具体例としてベトナムの付加価値税(VAT)に言及しました。
ベトナム政府はトランプ関税の発表を受け、直ちにトランプ政権との交渉に動きました。ベトナムの最高指導者ト・ラム氏はトランプ大統領に対し「相互関税」の発動を少なくとも45日間延期し、協議を可能にするよう求め、アメリカからの輸入品すべてに対する関税をゼロにすることを提案し、トランプ大統領にもアメリカへのベトナム輸入品について同様の措置を取るよう要請しました。
そして、4月6日、ベトナムのブイ・タン・ソン副首相は、アメリカのマーク・E・ナッパー駐ベトナム大使と会談し、新関税の発動を延期することを期待してアメリカ製品の輸入関税率をゼロに引き下げるベトナムの意向を改めて表明しています。
ベトナムはアメリカへの輸出に大きく依存している国の一つです。昨年、ベトナムは米国の主要貿易相手国の中で8位にランクされ、二国間貿易総額は1496億ドルで、2023年から20.4%の大幅な増加となっています。ベトナムはまた、昨年、1366億ドルに上るアメリカにとって6番目に大きな輸入元となり、アメリカとの貿易黒字は過去最高の1235億ドルを記録しています。
インテル、ナイキ、ファーストソーラー、ボーイング、アップルなどの大手アメリカ企業は、アメリカ市場への輸出を含む世界的事業の一環として、自社の製品や部品を製造するため、ベトナムに多額の投資を行っています。アメリカへの全輸出品に課せられる46%の関税は、これらの企業の工場の閉鎖や雇用喪失につながる恐れがあります。
ところが、ピーター・ナバロ通商顧問は、アメリカ製品に対する関税をゼロにするというベトナムの提案に対し、「これは交渉ではなく、不正行為によって制御不能になった貿易赤字に基づく国家的緊急事態だ」と述べ、知的財産の窃盗や付加価値税を例に挙げました。
そして、「ベトナムは本質的に共産主義中国の植民地だ。中国は関税逃れのためにベトナムを中継地として利用している。どういう仕組みかって?私たちがベトナムに売る1ドルに対して、ベトナムは15ドルを売っている。そのうち約5ドルはベトナムに入ってくる中国製品で、中国はそれにベトナム産のラベルを貼り、関税逃れのためにここに送っている」と、特にベトナムがアメリカの関税を回避する手段として中国製品の流通経路になっていると非難しています。
迂回輸出は許さないという訳です。
当然ながらこのロジックは日本にも向けられる可能性は十分考えられるのですけれども、果たして、石破政権はアメリカを説得する言葉を持っているのでしょうか。
トランプ関税に対するベトナムの結末は、日本の先行指標として見ておくべきかもしれませんね。
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