

1.トランプ関税総合対策本部
4月11日、政府は総理大臣官邸ですべての閣僚によるトランプ関税に対する総合対策本部の2回目の会合を開きました。
この中で石破総理は「一部の停止を認める動きも見られるが、自動車や鉄鋼、アルミ産業をはじめわが国を支える国内産業や世界経済全体に大きな影響を及ぼしかねないことに変わりはない。アメリカ政府に対し措置の見直しを強く求めるなど外交面の取り組みを進めることが極めて重要だ」と述べました。
そして、交渉を担当する赤澤経済再生担当大臣と林官房長官をトップとする対策チームを発足させたと説明し「関係府省の職員が省庁の枠を超えてアメリカとの交渉や国内産業に対する必要な対策に取り組むオールジャパンの組織体制を構築する」と政府が一丸となって対応していく考えを強調。閣僚に対し、措置の内容を精査し影響を分析すること、アメリカに措置の見直しを強く求めること、それに企業の資金繰りなど国内産業への必要な支援に万全を期すことを改めて指示しました。
複数の政府関係者によると、赤澤経済担当相は来週16日から3日間の日程でアメリカ・ワシントンを訪問する方向で調整に入ったとのことです。
赤澤経済担当相は「わが国の国益にとって何が一番いいか、何が一番効果的かを考えながら交渉をしていく」と述べる一方、非関税障壁や為替が議題として持ち出されれば議論に応じる考えを示していて、交渉する分野の範囲が絞り込まれるかなどが焦点になると見られています。
2.日本はどんな材料を出すのか
トランプ関税を巡っては、日米が担当相を設けて交渉することになったのは、4月7日に行われた日米首脳電話会談で決まったからなのですけれども、その日米首脳電話会談がどうも相当険悪は雰囲気だったようです。
件の日米首脳電話会談には林官房長官も同席し、25分間にわたって行われました。もちろん通訳を交えての会談だったため、踏み込んだ話は出来なかったとみられています。
けれども、会談でトランプ大統領は強い口調で、「日本はどんな材料を出すのか」と迫り、決して雰囲気は良くなかったと伝えられています。
筆者はトランプ関税に関する交渉について、はやくカードを用意すべきだと述べてきましたけれども、案の定です。
もっとも、アメリカ側の交渉担当者すら、トランプ大統領の決定を事前に知らされていないケースがあるそうで、ある外務省幹部は、「アメリカの事務方も指示待ちといった感じ…」と漏らしています。実際、今年2月初めに行われた日米首脳会談では、アメリカへの投資を1兆ドル規模に引き上げるという話がありましたけれども、これらの情報は事前にあまり知らされていなかったのだそうです。
担当閣僚同士での交渉も会談で日本側から「まずは担当の閣僚で協議しませんか」と提案したとのことで、2月の首脳会談と今回の関税措置は別物として扱われていると受け止めているとのことです。
昨年11月24日のエントリー「ここから石破が挽回する方法」で、筆者は船橋洋一著『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル』を取り上げ、安倍総理のトランプ大統領へのアプローチについて紹介したことがあります。
そこでは、安倍元総理が「トランプと話すときは、君らがつくる紙は使えない。トランプは下から上がってる紙、全然読んでないんだよ。紙と紙ですり合わせた地合いで話しても意味がないから……少しは共通理解ができたと思っても、次回、会うとまたゼロから積み上げなければならない。毎回、議論してもトランプの理解や省察が深まることはまずない……常に会い、アップデートし、刷り込んだ瞬間にトランプから指示を出してもらう」と心掛けていたことが綴られています。
トランプ・石破電話会談に関する報道をみていると、安倍元総理の洞察がいかに正確であったかと思い知らされます。
3.困った時の赤沢さん
さて、日米交渉の担当として任命されたのが、赤沢担当相ですけれども、自民党の役員など経験がないことから、「本当に大丈夫なのか」という声が与野党から上がっています。
赤沢担当相に決まる前には、林官房長官は茂木前幹事長の名前が挙がっていましたけれども、なぜ赤沢担当相になったのか。
その理由の一つは閣僚の人数制限です。石破内閣の閣僚は19人と上限に達しています。従って、新たに閣僚を任命するには誰かと交代させるか、現職大臣に担当を追加するかの二択でした。結果として現職閣僚の赤沢担当相に白羽の矢が立てられたということです。
また、林官房長官も、官房長官という立場上、海外に頻繁に出向くことが難しく、茂木氏も閣外にいるため、あえて入閣させるには時間がかかりすぎるといった事情がありました。
事情があるにせよ、泥縄の感が否めないのですけれども、一方、アメリカは、電話会談のその日の夜のうちに、窓口を決めてきました。本気度の差を感じます。
しかも、アメリカ側の担当閣僚に任命されたスコット・ベッセント財務長官は、現在、70カ国以上との関税交渉を主導し、1992年、ジョージ・ソロス氏とともにイングランド銀行を崩壊寸前まで追い込んだ凄腕の人物です。
もっとも、赤沢担当相も交渉事について素人ではないという見方もあります。
赤沢担当相は90年代に日米政府間交渉の担当をした経験があり、赤沢担当相自身、任命後のインタビューで飛行機の旅客機・貨物機の運航権をめぐる交渉を担当した経験を挙げ、これを生かせると主張しています。
赤沢担当相は石破総理の隣の鳥取2区が選挙区で、長年行動をともにしてきた「再側近」で知られています。東大卒業後、旧運輸省に入省した元キャリア官僚で、石破総理を不遇の時代から支えた人物です。
今回の人選について、ある永田町関係者は「『困った時の赤沢さん』と、『困った時の林さん』なんだな……石破首相にとっての精神安定剤であり知恵袋。官邸にも『赤沢部屋』があるくらいで、何かにつけて首相は赤沢さんを頼っている。今回も、再側近に難しい交渉を任せた。だから『困った時の赤沢さん』」と漏らしています。
政府関係者は、「このトランプ関税問題は、長期的な交渉になる」と予想しているそうですけれども、参院選を考えると何らかの成果も欲しいところです。
日本政府は、トランプ大統領からカードは何だと迫られ、担当閣僚を設けて交渉しましょうと逃げましたけれども、前述したように安倍元総理が「トランプは下から上がってる紙、全然読んでないんだよ。紙と紙ですり合わせた地合いで話しても意味がないから」という指摘を考えると、いくら下から積み上げても、トランプ大統領が気にいらなければ、一気にひっくり返される可能性もあると思います。
石破政権は、下から合意を積み上げていく「お決まり」の交渉では、まったく進まなくなるかもしれないことも念頭においておいた方がよいのではないかと思いますね。
🇺🇸財務長官スコット・ベッセントという男
— Joe Takayama🎒 (@TakayamaJoe) April 12, 2025
トランプ政権で財務長官に指名され、現在は70カ国以上との関税交渉を主導しています。
彼の名前を聞いてピンとくる方もいるかもしれません。1992年、ジョージ・ソロス氏とともにイングランド銀行を崩壊寸前まで追い込んだ張本人です。… pic.twitter.com/w43ppIwP3c
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