

1.トランプ関税対策パッケージ
4月25日、政府はアメリカのトランプ政権の関税措置に関する総合対策本部を開催し、自民・公明両党からの提言を踏まえた緊急対応パッケージを決定しました。
自民党政務調査会が22日に政府に提出した「米国の関税措置に関する第一次提言」では、「米国に対する外交的働きかけの強化」「産業・雇用・国民の暮らしの下支えと国内経済の強化」を柱とした対策を提言。
また、公明党は日本政府に対して、影響を受ける国内産業への支援、相談窓口の設置や資金繰り支援や、事実に基づくアメリカとの直接交渉や、自由貿易などの価値観を共有する国との連携を強く後押しする、と申し入れしています。
総合対策本部会合では、石破総理が挨拶で、米国の関税措置は国内産業や世界経済全体に大きな影響を及ぼしかねないものだと改めて指摘した上で「米国に対して日本企業が投資や雇用創出を通じて米経済に大きく寄与している事実を明確に伝えつつ、一連の関税措置の見直しを強く求めていくことが極めて重要だ」と述べ、為替については、加藤勝信財務相とベッセント米財務長官の会談で「引き続き緊密かつ建設的に協議を続けていくことで一致したと報告を受けている」と説明しています。
石破総理は関係閣僚に対し、輸出企業などの要望に沿って施策を効果的に活用するよう指示。また、生産性の向上などに取り組む中小企業や農林漁業者のほか、多角化や新規販路開拓を目指す企業に対し、地域金融機関とも連携して補助金を優先採択するなどして支援を行うよう副大臣や政務官を含む関係閣僚に指示しました。
2.自由貿易を守る
そんな中、23日、国会で野党3党との党首討論が行われました。
党首討論は、立憲民主党の野田佳彦代表、日本維新の会の前原誠司共同代表、国民民主党の玉木雄一郎代表とそれぞれ一対一で論戦を交わしたのですけれども、最初に行われた立憲の野田代表との討論では、トランプ政権による関税措置などが主なテーマになりました。
石破総理と野田代表との主なやり取りは次の通りです。
野田代表:自由貿易体制を拡大するために、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)と欧州連合(EU)との連携の窓口になるべきだ。野田代表は、トランプ関税交渉において日本が下手に出ていると批判し、自由貿易の為に世界と連係すべきと訴え、石破総理も連携に同調して見せていますけれども、これは下手をすれば、中国が画策している、世界vsトランプ政権の構図に乗っかることになり、危険な道を歩むことにもなりかねません。
石破総理:認識は一緒だ。EUと日本が自由貿易の観点から連携する意義は極めて大きい。
野田代表:日本が先頭に立って自由貿易のネットワークを作る外交戦略が必要ではないか。
石破総理:自由貿易によって、どれだけお互いが幸せになるかを説いていかなければならない。いかにして雇用を取り戻すか、日本がいかなる役割を果たすか。いかにして日本の国益を損なわないかは世界中について言えることだ。
野田代表:包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)の事務局機能を日本が持つべきではないか。
石破総理:事務局の負担は重い。いかなるメリットがあるかは真剣に考えていきたい。
野田代表:米ワシントンで現地時間23〜24日に開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、日本としてどのようなメッセージを発信するのかが重要だ。
石破総理:世界の自由貿易体制は守らなければいけない。米国と一緒に日本はどのように国を発展させていくか、日米共同でいかに世界に利益をもたらすかを話していかねばならない。
野田代表:赤沢亮正経済財政・再生相がトランプ大統領と16日にホワイトハウスで面会した際「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン」と書かれた赤い帽子をかぶった。視覚的な印象は非常に日本にとってマイナスだ。朝貢外交に見えてマイナスだった。
石破総理:1995年の日米自動車摩擦でのカンター米通商代表部(USTR)代表と橋本龍太郎通商産業相の交渉場面で、橋本元総理がカンター氏に贈った竹刀を自身ののど元に突きつけてみせた。あの国益をかけた、まさに交渉の前の気迫を感じた。国益全体で考えたときに赤沢氏として可能な限りの対応をした。
野田代表:アメリカ側がトランプ氏をはじめ閣僚ら4人で交渉に応じたのに対し日本側が赤沢氏1人だった。国難と言っている割に体制整備が弱過ぎるし遅過ぎる。
石破総理:トランプ氏が当選したらどうなるかシミュレーションを徹底的にしてきた。体制は強化するが、不十分だったとは考えていない。
トランプ大統領は、あくまでも「公平な」貿易を求めているのであって、自由貿易で全て括ってしまうのはミスリードしてしまう懸念があります。
3.二度目の交渉
注目を集める関税交渉ですけれども、赤沢亮正経済再生担当相は4月30日から3日間の日程で訪米し、2回目の担当閣僚協議に臨む方針を固めたと政府・与党関係者が明らかにしています。
4月24日、赤沢担当相は自民党本部で森山裕幹事長と面会し、前回訪米時の報告と今後の進め方について相談。その後記者団の取材に応じ、「それぞれに優先順位があり、関心が高いものをメインにテーブルに乗せて話し合う。それが何なのかを大体2回目には決めたいという思いがある」と説明。交渉の範囲を定めることに意欲を示しました。
林芳正官房長官も記者会見で、「前回の協議も踏まえつつ、引き続き政府一丸となって最優先かつ全力で取り組んでいきたい」と強調しています。
今回の交渉では、アメリカ側が「非関税障壁」と批判している日本の農業や自動車産業の扱いにも注目が集まっていますけれども、対日貿易赤字の削減などを主張するアメリカに対し、日本は一連の関税措置見直しを求める姿勢を堅持する方針でいます。
政府内では、アメリカ産のコメの輸入拡大を検討。年間77万トン程度を無関税で輸入するミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で、6万トン程度を実質的にアメリカからの輸入枠とする案などが浮上しているそうですけれども、「交渉カード」を早期に提示することは日本側を不利にしかねないとの声もあり、どこまで交渉が進むかは分からないというのが正直なところです。
4.日米貿易協定違反
関税交渉においては、林官房長官が会見で、外務省や経産省、財務省などの職員37人に、農水省や国交省などから参事官ら10人が加わる専従チームを発足させたと明かしています。
21日の参院予算委員会では、トランプ関税に関する集中審議が行われましたけれども、立憲民主党の小沼巧議員が「日本政府は自動車関税が日米貿易協定違反だと認識しているか否か」を問いただしました。
これは、2019年、安倍政権時代に最終合意した日米貿易協定に基づき、アメリカが日本から輸入する自動車への追加関税は課さないと約束したにも関わらず、トランプ大統領が4月3日から日本にも25%の自動車関税を発動したことを指しています。
筆者は3月30日のエントリー「トランプ関税と引き下げ交渉」で、双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏の論説を紹介したことがあります。
件の論説で、吉崎氏は、2019年の日米貿易協定を取りあげ、自動車と自動車部品に対するアメリカ側の2.5%の関税について「さらなる交渉を行う」と明記していることに着目し、「交渉はまだ終わっていないのだから、25%なんて許しませんよ」と反論すればよいと主張しています。
立憲民主の小沼議員が質問したのは、まさにこの部分を突いたものです。
当然政府もそのことは十分知っているでしょう。ついでにいえば、この貿易協定は、当時の茂木敏充経済再生担当相とアメリカのロバート・ライトハイザーUSTR代表との間で結ばれています。
従って、もし、交渉担当が赤沢担当相ではなく、茂木氏であったなら、間違いなくこの点を持ち出して交渉に臨んだに違いありません。
けれども、この小沼議員の質問に石破総理も赤沢担当相も「協定との整合性に深刻な懸念を有している」と回答。小沼議員が「なぜ違反だと言い切れないのか」との質問にも「整合性に云々」と繰り返すばかり。何に忖度しているのか。トランプ大統領を怒らせないように気うをつかっているのか。
これについて経済評論家・斎藤満氏は「日本の非関税障壁として、ボウリング球による車体検査というデタラメを繰り返すトランプ氏に、真っ当な議論が通用するとは思えません。トランプ関税は米国を偉大にするどころか、貧しくする愚策なので長期間続くとは考えにくい。日本政府は安易な妥協をせずに、深入りしないことです」とコメントしています。
いったいどういう交渉になるのか。引きずられ過ぎないで淡々と交渉を進めるのも一つの手かもしれませんね。
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