

1.iPhоneインドへ
4月25日、アップル社は、アメリカで販売するiPhoneの大半を2026年末までにインドの工場で生産する計画を加速させていることが明らかになりました。
アップルはアメリカで年間6000万台以上のiPhoneを販売していて、現在その約80%が中国で製造されています。
インドのナレンドラ・モディ首相は近年、インドをスマートフォン製造拠点として推進しているのですけれども、携帯電話部品の輸入にかかる関税は他の多くの国に比べて高いため、インドでの生産コストは決して低くはありません。
iPhoneの場合、インドでの製造コストは中国より5~8%高く、場合によってはその差は10%にも及ぶともいわれています。
けれども、トランプ関税を回避するため、アップルはインドでの生産を拡大。3月には約600トン、20億ドル相当のiPhoneをアメリカに出荷しています。
ロイター通信は先週、インドからの出荷量はアップル社の下請け企業であるタタとフォックスコンの両社にとって過去最高を記録し、フォックスコンだけで13億ドル相当のスマートフォンを出荷したと報じました。
アメリカ政府は、4月にインドからの輸入品に26%の関税を課したのち、中国を除くほとんどの輸入品に対する関税を3ヶ月間停止しています。
アップルは中国以外にも製造拠点を多様化する中、インドを重要な役割と位置付けしており、インドにおけるアップルの主要サプライヤーであるフォックスコンとタタは、合わせて3つの工場を保有し、さらに2つの工場を建設中だとのことです。
2.我々は素晴らしい合意に達するだろう
4月17日、アメリカのトランプ大統領は、中国との貿易を巡り「非常に良いディールをすることになるだろう」と、米中間の関税戦争に近く終止符が打たれる可能性を示唆する発言をしました。
トランプ大統領は、関税について「私はこれ以上高くしたくないかもしれないし、水準まで引き上げたくないかもしれない。もっと低い水準にしたいかもしれない。なぜなら人々には買ってもらいたいし、ある時点を超えると買ってもらえなくなるからだ」と語りました。
トランプ大統領は、関税導入後も中国とは連絡を取り合っており、合意に達することができるとの楽観的な見方を示していますけれども、関係者によると、米中は連絡を取り合っているものの、合意につながるような高官レベルの活発な意見交換はほとんど行われていないとのことです。
トランプ大統領は両国間の協議の内容や、中国の習近平国家主席が直接参加しているかどうかについては明言を避け、「TikTokについてはディールがあるが、中国の承認が関係するため、この問題が解決するまで延期する」と、短編動画投稿アプリ「TikTok」のアメリカ事業売却について、米中間の貿易問題が解決するまで先送りされる可能性が高いとの見解を示しました。
また、ホワイトハウスのレビット大統領報道官もこの日の記者会見で「トランプ氏は中国との貿易交渉の可能性について『非常にうまくいっている』と話している」と述べています。
これに対し、アメリカのベッセント財務長官は、22日、ワシントンで開かれた投資家向けの非公開イベントで、アメリカと中国が100%超の高関税を互いに発動し合っていることについて「持続不可能」だと、近く両国の緊張関係が緩和されるとの見通しを示したとCNBCテレビなどが報じています。
ベッセント財務長官はアメリカが145%、中国が125%の関税を互いに発動していることについて「どちらの側も、これが持続可能な水準だとは考えていない」とベセント氏は述べた。「これは禁輸措置に相当し、両国間の貿易断絶は誰の利益にもならない」と指摘。ごく近い将来に「緊張は緩和されるだろう」と述べ、現状については、高い関税のために互いに輸出入できない「禁輸」状態との認識を示しています
その一方、トランプ大統領は翌23日、「最終的には、我々は素晴らしい合意に達するだろう。ちなみに、企業や国と合意に至らない場合は、関税を設定することになる……おそらく今後2、3週間のうちになるだろう。2、3週間のうちに、関税率を設定することになる」と一部の国に対し再び「相互」関税を課す可能性があると述べています。
トランプ大統領は相互関税発動に90日の猶予期間を設けましたけれども、現在100カ国近い国が交渉を申し出ています。それらの国々はなんとしてでも関税発動前に合意したいと思っている筈で、なんとなれば、多少不利な条件であっても飲んでしまう可能性も考えられます。
3.日本は抵抗の構え
一方、トランプ政権に目の敵とされた中国ですけれども、依然として周辺国を自陣営に取り込もうと必死になっています。もちろん日本もその一つです。
4月22日、中国政府が石破総理に協調した対応を呼びかける親書を送っていたことが明らかになりました。
日本政府関係者によると、李強首相からの親書を、呉江浩駐日大使を通じて受け取ったとのことで、トランプ政権が高関税措置を続々と打ち出す中、保護主義に共に対抗する必要性を訴えたとみられています。
ただ、日本政府は、自由貿易体制を重視する立場から中国の通商政策を問題視してきた経緯があり、中国側の呼びかけに対し、外務省幹部は「中国が自由貿易の擁護者であるかのような主張は事実と異なる」と警戒感をあらわにしています。
そんな中、24日、ブルームバーグ紙は、「日本は抵抗の構え、米政権の対中貿易包囲網に-パイプ維持へ対話」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
・日本は中国に対抗する経済圏に参加するよう求めるアメリカの動きに対し、抵抗する意向を示している。日本政府の現職および元当局者が明らかにした。中国とのパイプ維持のため与党幹部が相次ぎ訪中、対話を継続する。アメリカと中国の二兎を追ってどちらも失う愚は避けていただきたいと思います。
・多くの国・地域と同様、日本も自動車や農業など二国間貿易の分野でアメリカの懸念に対応することで、トランプ大統領による関税措置から免除を得ようとしている。匿名を条件に語った複数当局者によると、日本は90日間の一時停止措置が期限切れとなる前にアメリカと合意にこぎ着けたいと考えており、6月開催の主要7カ国(G7)首脳会議の前後で合意を最終決定したい意向を示しているという。
・一方で、日本としてはアメリカが中国に対する貿易圧力を最大化するためのいかなる取り組みにも巻き込まれることを望んでいないと、当局者らは語った。中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、原材料などの重要な供給源でもある。
・日本の外務省にコメントを求めたが、現時点で返答は得られていない。
・アメリカは中国に関する具体的な要請を日本に対して行っていないが、そのような状況が発生した場合、日本は自国の利益を優先させるだろうと当局者らは語っている。当局者の1人によれば、日本はこれまで複数回にわたり、半導体関連の輸出や規制についてアメリカと完全には足並みを揃えていないことを中国側に伝えている。
・日本を含む各国との通商交渉で主導的な役割を担っているベッセント米財務長官は今月に入り、まず同盟国と貿易協定を結び、その基盤を築いてから中国に対して不均衡な貿易構造を是正するよう集団でアプローチするとの構想を示した。その後にブルームバーグは、トランプ政権が貿易相手国との関税交渉を利用して中国への圧力を強める準備をしていると報じた。
・対米交渉を担う赤沢亮正経済再生担当相は近く再び訪米し、米当局者との2回目の協議に臨む予定だ。
・一方で中国政府は21日、アメリカと交わす貿易協定が中国の利益を損なうものであってはならないと各国に警告。同国商務省は声明で「他国がアメリカとの貿易紛争を解決する取り組みを尊重するが、中国の利益を犠牲にするような合意には断固として反対する」と強調。そのような事態となれば「決して受け入れず、断固とした報復措置を講じる」と付け加えた。
・自民党の河野太郎衆院議員は、アメリカとの通商協議を進める前にトランプ氏が抱いているいくつかの誤解をただす必要があると指摘。ブルームバーグテレビジョンとの23日のインタビューで河野氏は「中国に関連する経済安全保障問題とサプライチェーンについては、極めて注意深く対応する必要がある」と話した。
・日本は対中貿易を縮小するのではなく、中国が停止した日本産水産物などの輸入再開に向けた働きかけを進めている。そうした取り組みの一環として、複数の与野党議員団がすでに中国を訪問しているか、今後訪問を予定している。
・公明党の斉藤鉄夫代表は23日、中国共産党序列4位の王滬寧・人民政治協商会議(政協)主席と会談。斉藤氏は石破茂首相から習近平国家主席宛ての親書も渡した。さらに、自民党の森山裕幹事長が会長を務める超党派の日中友好議員連盟が27日から29日の日程で中国を訪問する。
・これらの相次ぐ北京訪問には最大の貿易相手国である中国とのパイプを維持する狙いがあるとみられる。森山氏は22日の記者会見で、議連の訪中が両国関係の「具体的な進展につながることを期待している」と述べた。
・日本企業が中国市場を重視している姿勢の表れとして、トヨタ自動車は今週、2027年に上海に新工場を設立することで同市と合意。同工場には約20億ドル(約2850億円)の投資が予定されているという。
・対中貿易は日本の貿易全体の約2割を占めている。ただ、2023年には輸出先としてアメリカが中国を上回って首位になり、その差は昨年さらに拡大した。中国経済の減速などを背景に、多くの日本企業が中国市場の成長性に悲観的な見方を強めてもいる。
・日本は安全保障面ではアメリカに、貿易面では中国に大きく依存していることから、米中間で綱渡りのような外交対応を強いられている。トランプ政権から中国との経済関係を縮小するよう求められれば、日本経済にとっては深刻な打撃となりかねない。
・東京大学の内山融教授は、仮に米中両方との貿易が減ることになった場合、日本にとっては非常に深刻な状況になると指摘。政策当局が中国との関係を断とうとしても、経済界からの反発は避けられないだろうと語った。
4.リフォーモコン・キャス
最近、マスコミ報道で、アメリカの保守系シンクタンク「アメリカン・コンパス」を主宰し、J・D・ヴァンス副大統領と親しいエコノミストのオレン・キャス氏が「日本は、米国か中国か選ぶ必要が今後出てくる」と発言したことが注目を集めていますけれども、筆者も4月5日のエントリー「トランプ関税の狙い」で、キャス氏を取り上げたことがあります。
キャス氏はNHKのインタビューで「今後、日本も、アメリカか中国か、どちらかを選ぶ必要が出てくるでしょう。トヨタがアメリカ寄り、ホンダが中国寄りみたいなことはありえません。……日本が現状維持を望んでいることは理解していますが、そのような選択肢は、すでにテーブルにはないのです。今の関係を変える覚悟があるのかないのか、どちらかを選ぶ必要があります」と断言しているのですね。
キャス氏について、アメリカ保守層の動向に詳しいジャーナリストの会田弘継氏は、次のように述べています。
キャス氏は、トランプ政権を理論的に支える『リフォーモコン(改革保守)』と呼ばれる知識人の代表格です。
リフォーモコンの理念とは、『'90年代から民主・共和両党が推し進めてきたグローバル資本主義は、ごく一部のエリートと富裕層ばかりを儲けさせ、中間層・下位層をむしろ貧しくし、アメリカの国力を損なった。普通の労働者に報いることこそ、アメリカ再興の道だ』というものです。
キャス氏は'12年、オバマ元大統領の対抗馬だった共和党のミット・ロムニー氏の選対幹部となり、初めて注目を浴びました。かねてからキャス氏は『アメリカは大幅に関税を上げるべきだ』と主張しており、それが今回ヴァンス氏などを通じ、トランプ政権の政策に採用された形です」
現状維持は選択肢にはない、そういう人がトランプ政権のブレーンについた。石破総理がいうように、日米関税交渉が「世界のモデル」になるとしたら、そのモデルの中に中国がいるのかいないのか、その重要なカギは日本が握っているともいえ、かなり重い責任を背負っていることになります。
25日、トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し「私は日本と非常によい関係にある。われわれは合意に非常に近い」と交渉が進展していることを明かしていますけれども、果たしてどういう合意がなされるのか。世界から見ても重要な合意になるかもしれませんね。
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