日本のバケツの色とブレトンウッズ2.0

今日はこの話題です。
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1.中国を融資対象国から卒業させろ


4月24日、アメリカのスコット・ベッセント財務長官は、ワシントンでアジア開発銀行(ADB)の神田正人総裁と会談を行いました。

アジア開発銀行の発表によるとその内容は次の通りです。
アジア開発銀行(ADB)の神田正人総裁はワシントンで一連のハイレベル協議を開催し、その中心となったスコット・ベッセント米国財務長官との会談では、ADBが民間セクター開発に重点を置いていることが強調された。

神田総裁は会合後、「アジア太平洋地域全体の経済成長を促進する上で、民間セクターへの支援はADBの最優先事項です」と述べた。「拡大したバランスシートの能力とより緊密なパートナーシップを組み合わせることで、より多くの投資を促し、質の高い雇用を創出し、アジア太平洋地域全体で具体的な成果を上げることができます」。

ADBの民間部門業務は2022年以降2倍以上に拡大した。同行は、2030年までに民間投資融資を4倍の年間130億ドルに増やし、主権業務の40%が民間部門の発展を直接支援することを目指している。

神田総裁は、米国下院金融サービス委員会のフレンチ・ヒル委員長とも会談した。アメリカはADBの最大の出資国の一つであり、貿易、インフラ整備、民間資本動員の分野で協力が深まっている。

ADBは、ベトナムの風力発電プロジェクトにおけるゼネラル・エレクトリック社、モルディブの通信プロジェクトにおけるサブコム社など、米国企業と緊密に連携している。2024年には、ADBの融資を受けた業務において、米国企業が5億ドル以上の契約を獲得した。ADBの貿易・サプライチェーン金融プログラムは、2024年に約250件、総額3億5,000万ドルの米国輸出取引を支援しており、JPモルガンやシティバンクなどの米国銀行が同プログラムの主要利用者となっている。

ワシントン滞在中、神田総裁は世界開発センター(CDO)のレイチェル・グレンナースター所長との炉辺談話に参加した。「アジア太平洋地域の経済的未来を力強く」というテーマの下、神田氏はADBの資本管理改革により、今後10年間で年間コミットメント額が50%増加し、融資余地が1,000億ドル増加すると説明した。また、包摂的な成長と強靭性の基盤として、民間セクターの拡大と地域統合の深化というADBの二つの優先事項を強調した。

神田総裁は、ウズベキスタンのジャムシド・クチカロフ副首相、イタリア銀行のファビオ・パネッタ総裁、パキスタンのムハンマド・アウラングゼーブ財務大臣、英国のヘザー・チャップマン男爵夫人大臣、インドのアジャイ・セス経済担当大臣ら閣僚とも会談した。議論は、各国の優先課題、ADBの融資能力の拡大、そして民間投資の新たな機会に焦点を当てたものとなった。

神田総裁は、マスターカード・インクルーシブ・グロース・センター主催のグローバル・インクルーシブ・グロース・サミットでもメインステージに登壇し、欧州復興開発銀行(EBRD)のオディール・ルノー=バッソ総裁、シティのジェイ・コリンズ副会長、外交問題評議会(CFR)のマイケル・フロマン会長兼大使と共に「新たな官民戦略」と題したパネルディスカッションに参加した。このパネルディスカッションでは、持続可能でインクルーシブな成長を実現するために、多国間金融と民間資本を融合させる革新的なモデルについて議論が行われた。

神田氏はワシントンでの任務を終えるにあたり、他の多国間開発銀行のトップらと会談し、高まる地政学的リスク、増大する債務脆弱性、そして持続可能な開発のための資金ギャップの拡大に対する共同の対応について率直な意見交換を行う予定である。

アジア開発銀行(ADB)は、アジア太平洋地域における持続可能で包摂的かつ強靭な成長を支援する、有数の多国間開発銀行である。加盟国およびパートナーと連携し、複雑な課題の解決に努めるADBは、革新的な金融ツールと戦略的パートナーシップを活用し、人々の生活を向上させ、質の高いインフラを構築し、地球環境の保全に取り組んでいます。1966年に設立されたADBは、69の加盟国(うち49はアジア太平洋地域)によって所有されている。
このように、アジア開発銀行は、アメリカとの関係を深め、民間セクター主導の成長を促すと発表しています。

ところが、この会談について、アメリカ財務省の発表は趣を異にします。

4月25日、アメリカ財務省は、次のような会談速報を発表しています。
昨日、スコット・K・H・ベッセント財務長官はアジア開発銀行(ADB)の神田正人総裁と会談しました。ベッセント長官は、トランプ大統領の「アメリカ第一主義」の経済政策を踏まえ、より公正な国際経済システムの構築に向けて、すべての同盟国およびパートナー国と協力するという米国のコミットメントを改めて表明しました。

会談中、ベッセント長官は神田総裁に対し、中国がADBの借入からの卒業に向けて明確な道筋をたどるよう具体的な措置を講じるよう強く求め、ADBによるベストバリューに基づく調達慣行の取り組みの価値を強調しました。また、ベッセント長官は、効果的な開発資金供給のためには、オール・オブ・ザ・アバブ(あらゆるものを含む)エネルギー戦略が重要であると指摘し、民生用原子力エネルギーについて神田総裁と意見交換できたことを喜ばしく思いました。
アジア開発銀行側の発表では触れてもいない中国を名指しして「ADBの融資対象国から卒業させろ」と述べています。しかも、速報という短い発表文の中に、です。

もっとも、アジア開発銀行の対中融資を巡っては、日本政府も新興国向け融資の対象から中国を外すよう求めています。世界2位の経済大国でありながら、大国と発展途上国の顔を都合よく使い分ける中国を牽制した形ですけれども、こちらは日米両政府が連携して動いているようです。


2.スコット・ベッセント財務長官の国際金融協会での発言


4月23日、ベッセント財務長官は、国際金融協会(IIF)で講演を行っています。

その内容は次の通りです。
親切なご紹介ありがとうございます。ここに来ることができて光栄です。

第二次世界大戦の最後の数ヶ月、西側諸国の指導者たちは、その世代を代表する経済学者たちを集めました。彼らの任務は? 新たな金融システムの構築でした。

ニューハンプシャー州の山奥にある静かなリゾートで、彼らはパックス・アメリカーナの基礎を築きました。

ブレトンウッズ体制の立案者たちは、世界経済には世界的な協調が必要であることを認識していました。そして、その協調を促進するために、IMFと世界銀行を設立しました。

これら二つの機関は、激しい地政学的・経済的変動の時代を経て誕生しました。IMFと世界銀行の目的は、各国の利益と国際秩序をより密接に連携させ、不安定な世界に安定をもたらすことでした。

つまり、彼らの目的はバランスを回復し、維持することでした。

これはブレトンウッズ機関の目的であり続けています。しかし、今日の国際経済システムのあらゆるところに、不均衡が見られます。

朗報です。必ずしもそうである必要はありません。今朝の私の目標は、世界金融システムとそれを支える諸制度の均衡を回復するための青写真を示すことです。

私はキャリアの大半を、金融政策の現場を外から見守る立場で過ごしてきました。そして今、現場から外を見守っています。皆様と共に、国際システムの秩序回復に尽力できることを心より願っています。しかし、そのためにはまず、IMFと世界銀行をその設立当初の使命に再び結び付ける必要があります。

IMFと世界銀行は永続的な価値を有しています。しかし、ミッション・クリープ(*組織が本来の目的から徐々に逸脱して、当初の目標を越えて新たな活動や範囲に拡大していくこと)によって、これらの機関は軌道から外れてしまいました。ブレトンウッズ機関がステークホルダーに奉仕することを確実にするために、重要な改革を実施しなければなりません。逆ではありません。

世界金融のバランスを取り戻すには、IMFと世界銀行の明確なリーダーシップが不可欠です。今朝は、IMFと世界銀行がどのようにリーダーシップを発揮し、世界中でより安全で、より強固で、より繁栄した経済を構築できるかについてご説明いたします。各国の関係者の皆様には、これらの目標達成に向けて共に取り組んでいただくようお願いいたします。

この点について、明確にしておきたいことがあります。「アメリカ・ファースト」とは、アメリカだけを優先するという意味ではありません。むしろ、貿易相手国間のより深い協力と相互尊重を求めるものです。

アメリカ・ファーストは、後退するどころか、IMFや世界銀行といった国際機関における米国のリーダーシップの拡大を目指しています。より強力なリーダーシップを発揮することで、国際経済システムに公平性を回復することを目指しています。

先ほど申し上げた不均衡が最も顕著に表れているのは貿易の世界です。だからこそ、米国は今、世界貿易のバランスを取り戻すための行動を起こしているのです。

歴代政権は数十年にわたり、貿易相手国が世界経済の均衡を促進する政策を実施するという誤った前提に立ってきました。しかし、不公平な貿易体制の結果として、米国の巨額かつ永続的な赤字という厳しい現実に直面しています。

他国による意図的な政策選択は、アメリカの製造業を空洞化し、重要なサプライチェーンを弱体化させ、国家と経済の安全保障を危険にさらしています。トランプ大統領は、こうした不均衡とそれがアメリカ国民に及ぼす悪影響に対処するため、強力な措置を講じてきました。

大規模かつ永続的な不均衡の現状は持続可能ではありません。これは米国にとっても、そして究極的には他の経済にとっても持続可能ではありません。

「持続可能性」という言葉が、この辺りではよく使われるのは承知しています。しかし、私が言いたいのは気候変動やカーボンフットプリントのことではありません。経済と金融の持続可能性、つまり生活水準を向上させ、市場を安定させるような持続可能性のことです。国際金融機関は、その使命を成功させるためには、こうした持続可能性の維持に全力を注がなければなりません。

トランプ大統領による関税導入の発表を受け、100か国以上が世界貿易の均衡回復への協力を希望し、我々にアプローチしてきました。これらの国々は、より均衡のとれた国際システムの構築に向けた大統領の行動に、率直かつ前向きな反応を示しました。我々は有意義な議論を進めており、他の国々との対話を楽しみにしています。

特に中国は、経済のバランス調整を必要としています。最近のデータは、中国経済が消費から製造業へとさらに傾きつつあることを示しています。製造業の輸出が成長を牽引する中国の経済システムは、現状が続けば、貿易相手国との間にさらに深刻な不均衡を生み出し続けるでしょう。

中国の現在の経済モデルは、輸出によって経済難から脱却するという考え方に基づいています。これは持続不可能なモデルであり、中国だけでなく世界全体に悪影響を及ぼしています。

中国は変わる必要があります。国自体も、そして誰もが、変化の必要性を認識しています。そして私たちは、中国の変化を支援したいと思っています。なぜなら、私たち自身もバランスを取り戻す必要があるからです。

中国はまず、輸出過剰から脱却し、自国の消費者と内需を支える経済へと転換を図ることができます。こうした転換は、世界が切実に必要としているグローバルなリバランスの実現に貢献するでしょう。

もちろん、貿易は世界経済のより広範な不均衡の唯一の要因ではありません。需要における米国への継続的な過度な依存は、世界経済の不均衡をますます深刻化させています。

一部の国では過剰貯蓄を奨励する政策が取られており、民間部門主導の成長を阻害しています。また、賃金を人為的に抑制する政策も取られており、これも成長を抑制しています。こうした政策は、成長を促進するために世界経済が米国の需要に依存することにつながっています。さらに、世界経済を本来あるべき姿よりも弱体化させ、脆弱化させています。

欧州では、マリオ・ドラギ前ECB総裁が停滞の要因をいくつか特定し、経済を正しい軌道に戻すための提言をいくつか示しました。欧州諸国はドラギ氏の提言を真摯に受け止めるべきでしょう。

欧州は既に、長らく待たれていた初期段階の措置を講じており、私はこれを称賛します。これらの措置は、新たな世界的な需要の源泉を創出するとともに、欧州が安全保障面での取り組みを強化することにつながります。世界の経済関係は、安全保障上のパートナーシップを反映するようになるべきだと私は考えています。

安全保障上のパートナーは、相互に利益のある貿易を基盤とした、互いに適合した経済構造を持つ可能性が高いのです。米国が安全保障上の保証と開かれた市場を提供し続けるならば、同盟国は共同防衛へのコミットメントを強めなければなりません。欧州が財政支出と国防費の増額に向けた初期の行動は、トランプ政権の政策が効果を上げている証拠です。

トランプ政権と米国財務省は、世界における米国の経済的リーダーシップの維持・拡大に尽力しています。これは特に国際金融機関において顕著です。

IMFと世界銀行は国際システムにおいて極めて重要な役割を果たしています。トランプ政権は、両国がそれぞれの使命に忠実であり続ける限り、両国と協力することに意欲的です。

しかし現状では、彼らは不十分な状況にあります。

ブレトンウッズ機関は、その中核的な任務を遂行する能力を阻害してきた、拡散し焦点の定まらない議題から後退する必要があります。

今後、トランプ政権はこれらの機関における米国のリーダーシップと影響力を活用し、それぞれの重要なマンデート(委任された権限)の達成を後押ししていきます。また、米国はこれらの機関の経営陣と職員に対し、実質的な進展を示す責任を負わせるよう求めていきます。皆様には、これらの機関が本来の核となる使命に再び焦点を当てられるよう、共に取り組んでいただくようお願いいたします。これは私たち全体の利益となるものです。

まず、IMFを再びIMFらしくしなければなりません。

IMFの使命は、国際通貨協力を促進し、国際貿易の均衡ある成長を促進し、経済成長を促し、為替レートの競争的な切り下げといった有害な政策を抑制することです。これらは、米国および世界経済を支える上で極めて重要な機能です。

むしろ、IMFはミッション・クリープ(使命の拡大)に苦しんでいます。かつてIMFは世界的な通貨協力と金融の安定を促進するという使命を揺るぎなく担っていました。しかし今では、気候変動、ジェンダー、そして社会問題への取り組みに、不釣り合いなほど多くの時間と資源を費やしています。

これらの問題はIMFの使命ではありません。そして、IMFがこれらの分野に注力することで、重要なマクロ経済問題への取り組みが圧迫されています。

IMFは、一部の加盟国に対してだけでなく、容赦なく真実を語る存在でなければなりません。ところが、今日のIMFは、墓場を通り過ぎようと口笛を吹いているかのようです。2024年版対外セクター報告書のタイトルは「不均衡の縮小」でした。この楽観的な見通しは、厳しい問いを投げかけるよりも現状維持に固執する機関の典型です。

ここアメリカ合衆国では、財政健全化の必要性を認識しています。前政権は、我が国史上最大の平時赤字を計上しました。現政権は、この状況の改善に全力を尽くしています。批判は受け入れますが、IMFが最も支援を必要としている国々、特に黒字国への批判を怠ることを容認することはできません。

IMFはその中核的使命に沿って、何十年にもわたり世界的に歪んだ政策と不透明な通貨慣行を追求してきた中国のような国を非難する必要があります。

IMFには、一部の債権国による持続不可能な融資慣行を厳しく批判することを期待しています。IMFは、二国間融資機関に対し、債務国との協議に早期に着手し、債務危機の期間を最小限に抑えるよう、より積極的に働きかけるべきです。

IMFは、国際収支問題への対応に融資の焦点を再び当てるべきです。そして、融資は一時的なものであるべきです。

IMFの融資は、責任ある形で行われる限り、世界経済への貢献のまさに中核を成すものです。市場が機能不全に陥った場合、IMFは介入し、資金を提供します。その見返りとして、各国は国際収支問題を解決し、経済成長を支えるための経済改革を実施します。これらのプログラムで実施される改革は、強固で持続可能かつ均衡のとれた世界経済の実現に向けたIMFの最も重要な貢献の一部です。

アルゼンチンはまさに好例です。私は今月初め、アルゼンチンの財政再建を支援するIMFの取り組みに対する米国の支持を示すため、アルゼンチンを訪問しました。アルゼンチンは財政基準の達成に向けて着実に前進しており、IMFの支援を受けるに値します。

しかし、すべての国がそうであるわけではありません。IMFは各国に対し、経済改革の実施について責任を負わせなければなりません。そして時には、IMFは「ノー」と言う必要があります。改革を実施しない国に融資する義務はIMFにはありません。IMFの成功の指標は、融資額ではなく、経済の安定と成長であるべきです。

IMFと同様に、世界銀行も再び目的にかなうようにならなければなりません。

世界銀行グループは、開発途上国の経済成長、貧困削減、民間投資の促進、民間セクターの雇用創出、そして外国援助への依存度の低減を支援しています。各国が自国の開発優先課題に投資できるよう、透明性が高く、かつ負担可能な長期資金を提供しています。

世界銀行は、IMFと連携して、低所得国の債務持続可能性を促進するための広範な技術支援を提供しています。これにより、低所得国は債権者からの強制的で不透明な融資条件に対抗できるようになります。世界銀行のこれらの中核機能は、米国および世界経済のより安全で、より強固で、より繁栄した経済の促進を目指すトランプ政権の取り組みを補完するものです。

しかし、世界銀行もIMF同様、いくつかの点で当初の使命から逸脱しています。

世界銀行は、もはや、改革への中途半端なコミットメントを伴う、空虚で流行語中心のマーケティング活動に対して、白紙小切手を期待すべきではありません。世界銀行がその中核的使命に立ち返るにあたり、その資源を可能な限り効率的かつ効果的に活用しなければなりません。そして、すべての加盟国にとって具体的な価値を示す方法で、そうしなければならないのです。

世界銀行は、エネルギーアクセスの拡大に注力することで、その資源をより効率的に活用することができます。世界中のビジネスリーダーは、不安定な電力供給が投資の最大の障害の一つであると認識しています。世界銀行とアフリカ開発銀行が共同で推進する「ミッション300」イニシアチブは、アフリカでさらに3億人の人々にエネルギーアクセスを拡大することを目標としており、これは歓迎すべき取り組みです。しかし、世界銀行は各国のエネルギーに関する優先事項とニーズに応え、歪んだ気候変動対策資金目標の達成を目指すのではなく、経済成長を持続させる信頼性の高い技術に注力する必要があります。

世界銀行が原子力エネルギーへの支援に対する禁止措置の撤廃を目指すという最近の発表を歓迎します。これは多くの新興市場のエネルギー供給に革命をもたらす可能性があります。世界銀行には、各国が手頃な価格のベースロード電源を提供できるあらゆる技術へのアクセスを一層確保するよう強く求めます。

世界銀行は、エネルギー投資において技術中立を保ち、経済性を優先する必要があります。多くの場合、これはガスやその他の化石燃料をベースとしたエネルギー生産への投資を意味します。また、風力や太陽光発電の断続性を管理するシステムと組み合わせた再生可能エネルギーへの投資を意味する場合もあります。

人類の歴史は、エネルギーの豊かさが経済の豊かさを生むという、シンプルな教訓を教えています。だからこそ、世界銀行はエネルギー開発において「オール・オブ・アバブ・アプローチ」を推奨すべきです。こうしたアプローチは、世界銀行の融資をより効果的なものにし、経済成長と貧困削減という中核的な使命に再び繋がることでしょう。

世界銀行は、エネルギーへのアクセス拡大に加え、卒業政策の適用を開始することで、その資源をより効果的に活用することができます。これにより、より貧困で信用力の低い国への融資に注力できるようになります。世界銀行の支援が貧困と成長に最も大きな影響を与えるのは、まさにこの点です。

それどころか、世界銀行は、世界銀行融資からの卒業基準を満たした国々に毎年融資を続けています。このような融資継続には正当性がありません。より優先度の高い分野から資金を奪い、民間市場の発展を阻害しているのです。また、世界銀行への依存から脱却し、雇用を創出し、民間セクター主導の成長を目指す各国の努力を阻害しています。

今後、世界銀行は、既に卒業基準を満たしている国々に対して、明確な卒業期限を設定する必要がある。世界第2位の経済大国である中国を「発展途上国」として扱うのは不合理です。

多くの西側諸国の市場を犠牲にしながらも、中国の台頭は急速かつ目覚ましいものでした。しかし、中国が世界経済においてその実質的な重要性に見合った役割を果たしたいのであれば、中国はより高度なレベルへと昇華する必要があります。

世界銀行はまた、最善の価値に基づく透明性の高い調達政策を実施すべきです。各国が最低価格の入札のみを優先する調達手法から脱却できるよう支援する必要があります。

このような調達政策は、開発を阻害する歪んだ補助金付きの産業政策を助長するものです。また、民間セクターを抑制し、汚職や癒着を助長し、長期的なコスト増大につながります。最善の価値に基づく調達政策は、効率性と開発の両面から優れており、その堅固な実施は世界銀行とその株主に利益をもたらすでしょう。

この件に関連して、私はウクライナに関する調達政策について強いメッセージを送りたいです。ロシアの軍事力に資金提供したり供給した者は誰も、ウクライナの復興のために割り当てられた資金を受け取る資格はありません。

最後に、国際金融システムの均衡を取り戻し、IMFと世界銀行をそれぞれの設立憲章に再び焦点を当てるにあたり、同盟国の皆様には共に協力していただきたいと思います。アメリカ・ファーストとは、IMFと世界銀行を含む国際経済システムへの関与を一層強化することを意味します。

より持続可能な国際経済システムとは、米国とその他すべてのシステム参加者の利益に資するシステムです。この取り組みにおいて、皆様と協力できることを楽しみにしています。ありがとうございます。
このベッセント財務長官の講演のポイントは次の通りかと思います。
・私の目標は、国際金融システムの均衡を回復させる青写真を策定すること
・トランプ政権の関税措置よりバランスの取れた国際システムを構築すること
・「アメリカ・ファースト」は「アメリカ孤立主義」を意味せず、むしろ、それは貿易パートナー間でのより深い協力と相互尊重を求める呼びかけだ
・「アメリカ・ファースト」はIMFや世銀のような国際機関における米国のリーダーシップの拡大を目指す
・IMFは、中国のように数十年にわたり世界経済をゆがめる政策や不透明な為替政策を追求してきた国々を批判すべき
・世銀が、世界第2位の経済規模を誇る中国を「発展途上国」として扱うことは荒唐無稽
ベッセント財務長官が神田アジア開発銀行総裁との会談で「中国をアジア開発銀行の融資対象国から卒業させろ」と求めたのも、これと軌を一にしているといえます。


3.日本は緑のバケツか黄色のバケツか


このベッセント財務長官の講演について、24日、日経新聞は「ベッセント米財務長官、ブレトンウッズ体制の再構築訴え 講演で」という記事を掲載し、アメリカは「ブレトンウッズ体制の再構築」を目指しているとしました。

ベッセント財務長官は、マンハッタン政策研究所の所長のレイハン・サラム氏とのインタビューで、アメリカの関税戦略は、各国に何を期待し、その行動に基づいてどのように対応するかを明確に示すべきだと述べています。

そのやり取りは次の通りです。
レイハン・サラム:
先ほど、関税が新興のアメリカ産業を保護する上で歴史的に果たしてきた役割、そして関税が交渉の優位性を高めるために利用されてきたという考え方についてお話しいただきました。もちろん、アメリカの歴史において関税が使われてきたもう一つの方法は、歳入源としてです。前大統領が全面関税、特に中国に対する大規模な関税について語っていること、そしてもちろんバイデン大統領自身も中国製の電気自動車などへの関税導入を発表していることを考えると、関税を歳入源として活用できるとお考えでしょうか?これは実質的にアメリカの世帯に対する一種の消費税に相当すると主張する人もいますが、もしこれに地政学的なメリットがあるとすれば、財政再建を達成するための信頼できる、あるいは合理的な戦略だとお考えでしょうか?

スコット・ベッセント:
はい。例えば、10%の関税が課されるとしましょう。長年為替取引に携わってきた経験から言うと、その一部は通貨高につながります。通常はその3分の2です。つまり、今は10%の利益を得ていることになります。通貨高はそのうち6~7%の利益をもたらし、輸出業者に打撃を与えます。

しかし、同時に地政学的なツールとしても利用しています。先日、外交問題評議会の会合に出席したのですが、ジャレッド・バーンスタイン氏がバイデン氏の政策について話していました。彼にとって、気に入らないものはすべて市場の失敗です。まるですべてが市場の失敗であるかのように。しかし、質疑応答で、ヨーロッパのシンクタンクの女性からこう言われました。「あなたは『フレンド・ショアリング』という言葉を7回も使いましたが、友人とはどういう意味なのか、一度も説明していませんでした」

ですから、関税、通貨、二国間貿易協定、安全保障協定、価値観といった面で、緑、黄、赤の3つのバケツがあることを明確にし、それぞれのバケツの位置を誰もがわかるようにすべきだと思います。私たちが皆さんに求めていることはこれです。皆さんはどのバケツに入るかを選ぶことができます。そして、そのバケツに入ったことで得られるものはこれです。
ベッセント財務長官は、三色のバケツを喩えに出しましたけれども、関税、通貨、二国間貿易協定、安全保障協定、価値観といった基準を出しているところを考慮すると、おおよそ緑は同盟国、黄色は友好国でも敵対国との関係を持つ国、赤は敵対国を指すのではないかと思われます。

アメリカにとっての「赤のバケツ」つまり敵対国は中国であることはいうまでもないですけれども、中国とも関係を持つ日本は同盟国とはいえ緑のバケツに入るのだと胸張って言い難いところもあります。


4.ブレトンウッズ2.0


そして、焦点は、ブレトンウッズ体制の再構築、ブレトンウッズ2.0があるのか、という点です。

ブレトンウッズ体制とは、第二次大戦後に米国を中心に作られた、為替相場安定のメカニズムです。第2次世界大戦が終結する前年の1944年7月、44カ国の代表約400人がアメリカ東部ニューハンプシャー州の片田舎、ブレトンウッズのホテルに集まりました。議題は、戦後の国際政治経済秩序のあり方でした。

1929年の世界大恐慌を契機に、列強各国はこぞって関税引き上げや通貨切り下げなど「近隣窮乏化政策」を打ち出しました。多くの国で経済が悪化。加えて、本国と植民地が関税同盟を結んで貿易を活発化させる一方、対外的には高い障壁を設けるブロック経済化が進行し、領土と権益の拡大に向けてブロック同士の対立が先鋭化して大戦を招いたとの反省が、ブレトンウッズ集まった代表者らの共通認識でした。

彼らは、自由貿易の促進とそれを支える国際金融システムの構築を目指したのですけれども、採択されたブレトンウッズ協定が決めたのは、国際金融システムの中核をなす「国際通貨基金(IMF)」と「国際復興開発銀行(世銀)」の設立にとどまりました。

このとき決められた決済システムは、基本的には、戦前の金を国際決済手段とする金本位制への回帰だったのですけれども、過去と異なる点は、各国通貨と米ドルの交換比率を固定し、ドルだけが金と交換比率を固定するという、ドルを間に挟んだ金本位制でした。

純粋な金本位制と異なる点は、各国間の決済を金ではなく、ドルで行われたということです。

金は紙の通貨と違って柔軟に流通量を増やすことが出来ないことから、その後の経済規模の急速な拡大についていけず、米ドルがその地位にとってかわったのですね。

けれども、金の量は増えないのに関わらず、ドルの量は経済拡大につれて増えていきました。増えない金を担保に米ドルが増発されるにつれ、ブレトンウッズ体制の矛盾が露わになっていきました。

1971年8月15日、ニクソンショックによって、米ドル紙幣と金との兌換一時停止が宣言され、ブレトン・ウッズ体制が終結を迎えることになります。

ブレトン・ウッズ体制が終わり、各国が通貨発行量を調節する「管理通貨制度」となり、1973年2月以降、為替レートは変動相場制に移行します。

移行後のドル円レートはしばらく200円台で推移していたのですけれども、1985年のプラザ合意後、急速に円高が進み、1987年からは100円台へと居場所を変え、2011、2012年には70円台をつけました。その後は徐々に円安基調となり現在にまで至っています。

英フィナンシャル・タイムズ紙のグローバル・ビジネス・コラムニストであるラナ・フォルーハー氏は2024年4月の記事で「中国が金を買って米国債を売る現状は、ブレトンウッズ体制が崩壊し始めた1960年代後半に欧州各国がドルを金に替え始めた状況によく似ている」と指摘した、米市場調査会社カレンシー・リサーチ・アソシエイツの報告書を紹介した上で「実際、1968年から1982年にかけて、金はダウ平均株価とドルに対して上昇し、金価格が最後に長く持続した上昇局面の始まりとなりました。この時期は、他にも現代と重なる点があります。1971年、当時の大統領リチャード・ニクソンは、米国を金本位制から離脱させ、輸入品に10%の関税を課しました。これは、米国製品を為替レートの変動から守るための、いわば非公式なドル切り下げでした」と述べています。

4月5日、トランプ大統領は全ての国や地域を対象に一律で10%の関税を課す措置を発動しました。

歴史は繰り返さないが、韻を踏む。果たして、ブレトンウッズ2.0という名のドルの切り下げがあり得るのか。注意する必要があるかもしれませんね。



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