

1.スペインの大規模停電
4月28日昼、スペインやポルトガルの広い範囲で停電が発生しました。停電の影響で、スペインのマドリード中心部では信号が停止し、交通渋滞が発生しているほか、電車も停止し、一部の地下鉄で地上への避難が行われたようです。
停電が発生してから数時間後には復旧に向かったものの、完全な回復には時間がかかるとのことです。
スペイン内務省は、要請のある地域に国家非常事態を宣言すると発表。マドリード、アンダルシア、エストレマドゥーラの各州は、中央政府に治安維持などの機能の掌握を要請しています。
スペインのサンチェス首相は、この日夜の国民向け演説で、「今回の理由についてはまだ決定的な情報が得られていないため、過去の危機と同様に、国民の皆様には公式ルートを通じてご自身で情報収集していただくようお願いいたします……現時点では、国民の安全確保に問題が生じたという証拠はありません。繰り返しますが、治安上の問題はありません」と呼びかけ、通信が「危機的な状況」にあると警告した上で、通話時間は短くし、緊急電話番号112は必要な場合のみ使用するよう訴えました。
スペインでは、停電発生時に原子炉4基が運転中だったのですけれども、外部電源喪失を受け設計通り自動停止し、非常用ディーゼル発電機が起動。停止中だった別の3基を含め異常はなかったとのことです。
また、LUSA通信によると、ポルトガル政府高官は停電がサイバー攻撃で生じた可能性を認めた上で、「確認はされていない」と述べ、ポルトガル出身のアントニオ・コスタ欧州理事会議長はSNSへの投稿で、「現時点でサイバー攻撃という証拠はない」と述べています。
ポルトガルでも、首都リスボンやポルトの地下鉄が閉鎖。電力会社は、今回のような大規模停電は、これまでになかったとしていて、原因の解明と復旧作業を進めています。一部で回復が始まっているものの、すべての復旧には、6〜10時間かかると予測されています。
2.スペインの電気事業
スペインは化石燃料資源が乏しく、石油、天然ガスなどのエネルギーは輸入に依存してきました。
1875年から始まったスペインの電気事業は、経済成長と共に発展し、1960年には電力会社数が私営を中心に約3000社に達しました。1970年代には石油危機を契機にして、原子力発電、省エネ、国内炭の開発を推進したものの、巨額の原子力投資、 石油から石炭への燃料転換、通貨価値の下落などによって電力会社の財務状況が悪化しました。
そのため、政府は送電系統の所有・給電指令の権限を接収する一方、電力会社の統合を進めました。1985年には、送電系統を所有し給電指令を行うスペイン電力系統運用会社(REE)が設立されました。
一方、企業統合は、エンデサなど大手電力会社が、 財務危機にあった小規模電力会社を次々と買収して行き、1995年には4大グループ(エンデサ、イベルドローラ、ウニオン・フェノーサ、イドロカンタブリコ)に集約。特にエンデサとイベルドローラの両グループを合わせてシェアは、発電で80%という寡占状態が生まれ、電気料金も上昇することになります。
政府はこの寡占を解消し競争を促進するため、2000年、自由化政策の一環として、大手電力会社の発電容量の増加制限など市場集中化防止措置を実施したのですけれども、その結果、欧州の大手電力会社がスペインに進出し、スペイン大手も外国企業の傘下に入る企業が続出することになります。
イドロカンタブリコはポルトガル電力会社EDPの支配下に、最大手の一つであるエンデサも、イタリアENELに買収されました。また、イタリアENELがエンデサ所有の一部の発電・配電会社を買収してできたENELヴィエスゴ社はドイツE.ONに買収されました。
そして、またウニオン・フェノーサは、スペイン大手ガス会社ガス・ナチュラルに買収されました。
その後、政府は、再エネ買取コストを電気料金に転嫁することを認めず、電力会社が巨額の赤字を抱えることになります。このため2014年、外国企業はこれら電力会社を売却し始め、ENELはエンデサの一部株式を売却。E.ONはスペイン子会社をオーストラリア資本の金融機関に売却しました。
この結果、スペインでは、最大手のエンデサ、イベルドローラの2社に、ガス・ナチュラル・フェノーサ、EDP HCエネルヒア、ヴィエスゴの3社を加えた5大グループが電気事業の中心を形成しています。
このような株式所有者の変更にも係らず、現在、スペインの大手5社体制は変わっていません。これら大手5社は、それぞれ発電会社、配電会社、供給会社を持つ垂直統合型の持ち株会社であり、5社で発電市場の約7割、小売市場では規制料金市場の約10割、自由化市場の約8割を占めています。
送電系統運用は、スペイン電力系統運用会社(REE)が独占的に行っているのですけれども、スペイン電力系統運用会社(REE)の資本は国有化後、80%が一般公開され、大手電力会社からは基本的に所有分離されています。一方、配電は大手5社が中心に行っています。
3.ナショナル・エネルジェティカス・レッド
今回の大規模停電について、スペインの電力会社がどう情報公開しているか5大グループのサイトを見に行ったのですけれども、29日12:00現在で、ヴィエスゴ以外の4社は、数日前からまったくサイト更新されておらず、唯一サイト更新しているヴィエスゴも次のように数行の情報発信のみでした。
全面停電そこで、ポルトガルの電力会社のサイトを見に行くと、ポルトガル電力網運営会社「REN」がニュース発信していました。
当社は電気システムの復旧に取り組んでおり、利用可能なすべての技術的および人的資源を投入しています。
当社は、緊急事態に関する情報を一元管理する行政機関と継続的にコミュニケーションをとっています。
生活必需品の場合、現時点では正確な復旧時間を指定することはできませんのでご了承ください。何か問題があれば、医療センターに行ってください。
それらニュースを拾うと次の通りです。
・2025年4月28日 イベリア半島全域の停電がポルトガルに影響RENは、ポルトガルの停電は、スペインからの輸入電力の電圧が大きく変動したことが原因だとしています。
RENはイベリア半島全域で大規模な電力供給停止が発生していることを確認しました。この停止はフランス領土の一部にも影響を及ぼしており、午前11時33分からはポルトガルにも影響が及びます。欧州のエネルギー生産者および運営者と連携し、段階的にエネルギー供給を回復する計画が開始されています。RENは、国家市民保護局などの公的機関と常時連絡を取り合っており、同時に、この事件の考えられる原因の分析も行われています。
・2025年4月28日 イベリア半島全域の停電がポルトガルにも影響 - 最新情報2
REN は、生産・配電会社およびスペイン電力網と協力し、全国のエネルギー供給ネットワークの復旧に全リソースを投入しています。2つのイベリア半島諸国は大規模な停電の影響を受けており、ポルトガルでは午前11時33分から停電が発生しました。国内電力システムの再活性化は、さまざまな発電グループを段階的に連携させながら、段階的に実施されます。この作業は、無負荷状態、つまり生産源や、サービス復旧のための複雑な作業も行われているスペインからのエネルギー支援がない状態で実行されるため、さらに困難になります。現時点では、いつ状況が正常に戻るかを予測することはまだ不可能です。国境の両側で電力輸送を担当する当局と企業は、今朝の事件の原因の分析を続けています。
・2025年4月28日 イベリア半島全域の停電がポルトガルにも影響 - 最新情報3
RENは、イベリア半島で停電が発生し、本日午前11時33分以降ポルトガルでも停電が発生していることを受け、国の電力系統に再び電力を供給するための作業が進行中であると発表しました。この時点で、カステロ・デ・ボーデ水力発電所とタパダ・ド・オウテイロ火力発電所の生産を回復することができました。この生産により、まずこれらの工場の地域で、そして徐々に隣接地域で、消費を再開するプロセスが徐々に進行しています。まず、病院、治安部隊、空港、鉄道、道路などの優先消費地への供給を再開するために必要な措置も準備されています。国全体のエネルギー供給を回復するための作業は、スペインで起きているような正常化作業にフランスとモロッコの電力システムからの貢献を頼りにしている状況とは異なり、完全な停電の状況下で国内の生産資源のみを使用して行われているため、特に複雑です。
・2025年4月28日 ポルト大都市圏北部とサンタレン地方の電力供給が回復
RENは、本日発生した停電を受けて、病院、治安部隊、給水インフラ、交通機関など、優先地点への電力供給を段階的に復旧させており、すでにポルト大都市圏とサンタレン地域での供給を復旧させており、リスボン大都市圏でも数時間以内に供給を復旧する予定であると発表しましたが、これについて1時間ごとの予測を出すことは依然として困難です。
本日ポルトガル本土全域に影響を及ぼす停電は、ポルトガルがスペインから電力を輸入していた時期にスペインの電力網の電圧が大きく変動したことが原因です。この振動により、このような状況では予想される通り、ポルトガルの発電所の制御および保護システムが停止し、停電が発生しました。
この状況に直面して、ポルトガルは当初、タパダ・ド・オウテイロ・ガス発電所のブラックスタート能力(全停電後に発電所を自律的に起動すること)に頼り、これにより、大ポルト地域で非常に慎重にエネルギーを回復することができました。カステロ・デ・ボーデ発電所と、すでにスペインとの何らかの関係による支援により、中期的には同国のさらに南部の地域への供給が再開されると期待されています。
これは、最大限の安全性を確保しながら復旧を保証し、国の電力網の安定性を最大限に確保するために、非常に段階的かつ慎重に実行する必要があるプロセスです。
・2025年4月28日 エネルギーはすでにカレガド変電所とサカヴェム変電所に到達している
RENは、すでにカレガド変電所とサカヴェム変電所への電力供給を回復させることができたと報告しており、これはリスボンへの再供給に向けた重要なステップです。現在、大ポルト地域のすべての変電所は稼働しており、同地域の消費者はまもなく状況が正常に戻ることを実感できるはずです。現時点では、すでに 75 万人の消費者がネットワークに接続しています。
・2025年4月28日 22:00に稼働する変電所は4つだけ
RENは、今朝の停電の影響を受けた国内電力系統の復旧作業の一環として、午後10時時点ですでに89か所の変電所および変電所のうち85か所に電力を供給することに成功したと報告しています。トラファリア、ディボール、エストレモス、ポルティマオの各変電所は、依然として電力供給を受けることができませんが、RENは今日この状況が解決することを望んでいます。依然として影響を受けている人口密度が最も高い地域は、アルマダ・オエステ市とポルティマオ市です。現時点では、約 250 万人の消費者がすでにネットワークに接続しています。
・2025年4月29日 安定した全国交通網
昨日午前11時33分に発生し、スペインとポルトガルで停電を引き起こした、外部原因による極めて異例の事態を受けて、RENは同日午後11時30分直前に、すでに国営交通ネットワーク(RNT)のすべての変電所の運用を復旧しました。REN は国内外のネットワーク事業者と緊密に協力し、昨日中に RNT を復旧し、ネットワークは完全に安定しました。
4.大気誘導振動
RENはスペインからの電圧変動について「スペイン内陸部における極端な気温変化により、超高圧線(400kV)に異常な振動が発生しました。これは『大気誘導振動』と呼ばれる現象です。この振動により電力システム間の同期障害が発生し、相互接続された欧州電力網全体に連続的な障害が発生しました。」と説明しています。
大気温度の大きな変化が電気システムに及ぼすリスクは業界ではよく知られているそうなのですけれども、この規模で問題が現れるケースは稀だということです。
エネルギー事業者向けソフトウェアプロバイダーであるNeeraのマネージングディレクターであるタコ・エンゲラー氏は「温度変化により、導体のパラメータがわずかに変化します……これにより周波数に不均衡が生じます」と解説。ブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルの上級研究員、ゲオルグ・ザックマン氏は、送電網の周波数が欧州基準の50ヘルツを下回ったことで、フランスを含む複数の発電所が「連鎖的に停電」したと述べています。
こちらの公益社団法人・日本電気技術者協会では、架空送電線のコロナ放電によって、送電に障害が発生すると解説しています。

なんでも「架空送電線では絶縁を施さない裸電線を使用しており、その絶縁は空気に頼っている」のですけれども、その絶縁能力には限界があり、通常大気下でも、一定以上の電位の傾きが発生すると電線表面から放電がはじまるのだそうです。これをコロナ放電と呼んでいて、「薄光及び音を伴い電線、がいし、各種の金具などに発生」「細い電線、素線数の多いより線ほど発生しやすい」「晴天のときよりも雨、雪、霧などのときのほうが発生しやすい」の特徴があるとのことです。
送電線にコロナ放電が発生すると、送電線近傍にあるラジオ受信機や搬送波通信設備に雑音障害を与えることがあり、また電線表面の電界の強さと付着水分によって電線が振動することもあります。
コロナ振動には「気象条件や架線状態に著しく左右される」、「振動の周波数は1~3Hz、全振幅は9~10cm程度」といった特徴があるそうですけれども、送電の安定性にも少なからず影響を与えます。
ただ、いくら極端な温度変化があったとはいえ、イベリア半島全域に影響をおよぼすような電圧変動を引き起こしたといわれても、素直に首肯できかねる印象を受けます。
原因が判明するまでまだ時間がかかると思いますけれども、停電は日本とて他人事ではありません。日本政府も、インフラの安定性には力をいれていただきたいと思いますね。
この記事へのコメント
かも
東京電力では,東京湾沿岸に火力発電所が集中しています。
此の火力発電所を狙って攻撃を受けると,それが戦争であれ、テロリストによるものであれ簡単に大停電は引き起こされます。
一度停電が起きる普及には長時間が必要です。
発電所が破壊されたりしたら普及のめどが立たなくなります。
東京電力管内で4000万人が電気のない生活を強いられます。
電気だけでなく,飲料水、トイレ、エレベーターが使えず,冷蔵庫も数日で腐ってしまいます。
信号が消えて,道路が渋滞して物流が止まります。
病院などでは,必要な医療機器が使えなくなります。
10日間の停電が起きたら何が起きるか,シミュレーションが必要です。
予備発電も病院などのあるだけで一般には使えません。建築機銃法で設置されている発電機は,消火栓ポンプなどに負荷が限定されているからです。
燃料電池を解禁して,家庭用に使えるようにしておけば,都市ガスで発電出来ますから完全な予備電源になりますが,これも厳しい制限があって使えません。発電機容量制限や,系統への逆送の禁止です。
東京で停電が起きるとそれだけで日本の国家機能が奪われるのです。
ウクライナなどより遙かに高密度、高機能のシステムが構築されているからです。
取り返しがつきません。