

1.中国は会談したがっている
5月1日、アメリカのルビオ国務長官は、FOXニュースのインタビューで関税を巡る米中協議を近く開くとの見通しを示しました。
件のインタビューから該当部分を引用すると次の通りです。
質問:私もあなたと同じ祈りを捧げています。彼らは結果がどうなるか分かっています。おそらく核施設や製油所も失うでしょう。もしそうなれば、貧困と政権交代につながるでしょう。ルビオ長官によると、中国は会談を望んでいるとしながらも、短期的な妥協点が見いだせるかと、中長期的に中国依存から脱却できるかという2つのポイントを上げています。
最後の質問、中国について。おっしゃる通りです。私もあなたと同じように、中国を最大の地政学的敵国だと考えています。表向きは状況が白熱しているように見えますが、水面下で何か進展があり、例えば貿易や関税について何らかの合意に至れる可能性について、少しでも希望が持てるでしょうか?中国はほぼ全てのアメリカ製品に関税を課しており、ずっと私たちを騙し続けているのですから。
ルビオ長官:そうです。彼らは世界から搾取してきました。そして、確かに努力はあります。これが中国経済に打撃を与えていることは明らかです。人々は、靴やシャツ、衣類など、中国から輸入されるあらゆるものが工場で生産されていること、それらはすべて中国の雇用であることを忘れています。コンテナや工場がアメリカに物資を送らないと言うことは、彼らが失業することを意味します。これは中国経済に深刻な打撃を与えています。
2つの疑問があると思います。1つは、彼らと何らかの短期的な妥協点を見出せるかどうかです。それが彼らの望みです。中国側は接触を図っています。会談を望んでいます。話し合いを望んでいます。これには関係者が関わっています。もちろん、スコット・ベッセント財務長官もこの取り組みに関わっており、近いうちに協議が行われる予定です。
しかし、もっと広い視点から見ると、私たちは中国への依存度を下げ、より多くのものをアメリカ国内で生産できる国になるべきではないのか、という問いかけです。これは、私たちが真に必要な警鐘です。私たちは中国に過度に依存していました。不公正な貿易慣行によって中国が産業を空洞化し、関税だけでなく非関税障壁、為替操作、ダンピングを行使することを許してきました。私たちは、中国がそれらすべてを利用して…
質問: 知的財産の窃盗。
ルビオ長官:知的財産の窃盗によって、我が国は産業が衰退し、中国に大きく依存するようになりました。これは非常に危険な状況であり、トランプ大統領はこの問題に取り組んでいます。今、必要なことなので、今行動を起こしているのです。これ以上待つことはできません。このまま2年もこのままでは、中国に大きく依存し、大変な問題に直面することになるでしょう。ですから、今後、中国からどれだけの量を中国から購入すべきかという、より広範な問題が浮上していると思います。
質問: では、長官、幸運をお祈りします。今は重大な転換期であり、長官もまさにその真っ只中にいらっしゃいます。世界のために、長官の幸運を祈っています。そして、大統領の真剣さを理解してくださる方々がいらっしゃることを願っています。時には、大統領を過小評価してしまうこともあるかもしれません。
長官、ありがとうございます。
2.言っていることとやっていることが違う
5月2日、中国商務省報道官は、アメリカと中国の経済貿易対話と協議に関する記者の質問に次のように答えています。
記者:米国は最近、経済貿易問題で中国と交渉しており、合意に達すると繰り返し述べています。商務省からこれに関して何か更なるニュースやコメントはありますか?アメリカに対して「誠意がない」とか「言っていることとやっていることが違う」など、中国が言っても「おまゆう」「自己紹介乙」にしか聞こえません。
報道官:中国は、米国の高官が関税問題について中国と交渉する意欲を繰り返し表明していることを指摘している。一方、米国は最近、中国との対話開始を期待し、関係方面を通じて中国側に積極的に情報を伝えている。中国はこの点に関して評価を行っている。
中国の立場は一貫している。戦わなければならないなら、最後まで戦う。話をしなければならないなら、ドアは開いている。関税戦争と貿易戦争は米国によって一方的に開始された。米国が対話を望むのであれば、誠意を示し、誤った慣行を是正し、一方的な関税を撤回する準備と行動をとるべきだ。最近、米国が関税措置の調整に関する情報を絶えずリークしていることに気付いた。中国が強調したいのは、米国がいかなる対話や会談においても誤った一方的な関税措置を是正しなければ、それは米国に誠意が全くないことを意味し、両国の相互信頼をさらに損なうことになるということだ。言っていることとやっていることが違う、あるいは交渉を強制や脅迫の口実に利用しようとしても、中国では通用しないだろう。
この前日の1日、中国国営中央テレビ(CCTV)傘下のメディア「玉淵譚天」は、トランプ政権が対中追加関税を巡る協議を求めて中国側に接触していると報じています。
玉淵譚天は匿名筋の情報として「米国は複数のルートを通じて積極的に中国に接触し、関税問題について協議したい意向を示している」と中国SNS「微博」に投稿しました。
玉淵譚天は複数の専門家の見解を引用し「中国は米国が実質的な行動を起こす前に米国と協議する必要はない。ただ、もし米国が接触を始めたいのであれば、この段階で中国が応じても害はない……中国は交渉と対立の両方において主導権を維持するため、米国の真の意図を注意深く観察し、場合によっては引き出す必要がある」と指摘していますけれども、専門筋は、交渉に向けてアメリカ側が中国に歩み寄ってきたとの構図を強調することで、貿易摩擦の解消に向けた協議への環境を整える狙いがあるとみられているようです。
3.対米関税の適用除外
5月2日、ブルームバーグ紙は、中国が、一部のアメリカ製品について関税の適用除外を非公表で開始したと報じました。
なんでも、過去1週間に取引業者や企業の間で、対米関税の適用除外となる131品目のリストが回覧されたとのことで、品目には医薬品や工業用化学品などが含まれているそうです。
事情に詳しい関係者は、リストの出所は不明で、公に確認されてはいないとしたものの、中国の少なくとも6社は関税を支払うことなくリストにある品目を輸入できたとしています。
ブルームバーグの試算では、この131品目の輸入総額は約400億ドル(約5兆8000億円)に上り、2024年のアメリカからの輸入総額の約24%に相当するとのことです。
トランプ政権は、スマートフォンやコンピューター、その他電子機器を上乗せ関税の対象から除外していますけれども、ランド研究所の中国研究センター副所長、ジェラルド・ディピッポ氏は、この適用除外品目が中国からの輸入総額の約22%に相当すると見積もっていることから、今回の中国の報復関税適用除外は、アメリカに合わせて対応していくという戦略的な性質を帯びているとも指摘されています。
ディピッポ氏は「中国は主要輸入品の急激な減少を避けることで、経済への打撃を緩和しようとしている公算が大きい……この適用除外について中国は公式に発表せず、企業への連絡を通じて作業していることから、米国へのシグナルとして解釈されるべきではない」と述べています。
関係者によると、中国当局は4月の第2週以降、業務に不可欠で容易に代替できないアメリカからの輸入品を報告するよう外国企業に要請したとのことで、それ以来この調査で挙げられた品目の一部は、中国がアメリカ製品に課す125%の関税を免除されているとのことです。
ただ、この関係者は、関税適用免除の品目は流動的で、中国の需要に応じて継続的に調整され、適用免除の品目が追加される可能性もあるが、代替品を見つかった品目が免除取り消しとなる場合もあるだろうと、説明しています。
中国商務省の報道官は、アメリカに対して「言っていることとやっていることが違う」などと批判していますけれども、なんのことはない、中国とて、言っていることとやっていることが違っています。
4.合成オピオイド
そんな中、同じく5月2日、ウォールストリート・ジャーナル紙は、中国が通商交渉の開始に向けて、アメリカ側に合成麻薬フェンタニルに関して提案を行うことを検討していると報じました。
ウォールストリート・ジャーナル紙は、事情に詳しい匿名の関係者の話として、中国の王小紅公安部長がここ数日、強力な麻薬フェンタニルの製造に使われる化学成分に関してトランプ陣営が中国に何を望んでいるのかを尋ねていて、中国政府の考えには、王氏をアメリカに派遣してドナルド・トランプ大統領政権の高官と会談させるか、第三国のアメリカ当局者と会談させることも含まれているとのことです。
ただ、関係筋の話として、協議は依然として流動的であり、中国政府はトランプ大統領の対中貿易攻勢がいくらか緩和されることを望んでいると警告したとも伝えています。
トランプ政権は、麻薬カルテルが合成オピオイドの製造に使用する前駆物質の大部分を中国の化学薬品製造業者と輸出業者が供給していると指摘しています。
この合成オピオイドは、アメリカで約45万人の過剰摂取による死亡の原因となっているのですけれども、中国は長年、自国の厳格な麻薬法と密輸業者の取り締まりの実績を擁護してきたと主張するも、アメリカは自国の薬物依存症問題に対処しなければならないとしています。
実際、この日、トランプ政権は、中国と香港からの小口輸入品に対する関税免除措置(デミニミス・ルール)を廃止しています。
アメリカ税関・国境警備局(CBP)によると、中国・香港からの関税適用対象の全ての荷物に145%の追加関税が課され、中国から郵便で送られる800ドル以下の荷物についても、荷物の価値の120%、もしくは1個当たり100ドル(6月以降は200ドル)が課税されるとのことです。
トランプ政権は淡々と、そしてじわじわと中国に圧力を掛けています。
口では強がっている中国も、トランプ政権に折れてきているように見えます。米中交渉がいつ始まり、どう進展していくのか。注目したいと思います。
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