ヘタれた加藤と魅力的な提案

今日はこの話題です。
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1.米国債の売却を交渉手段として使う予定はない


5月4日、加藤財務相は、訪問先のイタリア北部ミラノで記者会見を行い、日米関税交渉について、「私の発言は、日本が貿易交渉の交渉材料として、米国債を簡単に売却しないと米国に明確に保証できるかという質問に対する回答だ……これが我々の立場であり、交渉において米国債の売却を交渉手段として使う予定はない」と日本が保有する1兆ドル超の米国債保有を売却する積もりはないと述べました。

加藤財務相は、5月2日に、テレビ東京の報道番組「Newsモーニングサテライト」に出演した際に「米国債売却もカードとしてありうる」と示唆する発言をしたのですけれども、わずか2日で撤回した形です。

この米国債売却示唆発言については、5月4日のエントリー「慌てず急いで正確に」で取り上げ、特に海外メディアで、日本が嚙みついたと大騒ぎになっていました。

米国債を巡っては、1997年、当時の橋本竜太郎総理が米国債売却を匂わす発言をして、株式市場の急落を招いた過去があります。

件の発言は、1997年6月23日、橋本総理がアメリカ・コロンビア大学での講演のあとの質疑応答で飛び出しました。その時の模様は次の通りです。
質問者「日本や日本の投資家にとって、米国債を保有し続けることは損失をこうむることにならないか」

橋本首相「ここに連邦準備理事会やニューヨーク連銀の関係者はいないでしょうね。実は、何回か、財務省証券を大幅に売りたいという誘惑に駆られたことがある。ミッキー・カンターとやりあった時や、米国のみなさんが国際基軸通貨としての価値にあまり関心がなかった時だ。たしかに資金の面では得な選択ではない。むしろ、証券を売却し、金による外貨準備をする選択肢もあった。しかし、仮に日本政府が一度に放出したら米国経済への影響は大きなものにならないか。

財務省証券で外貨を準備している国がいくつもある。それらの国々が、相対的にドルが下落しても保有し続けているので、米国経済は支えられている部分があった。これが意外に認識されていない。我々が財務省証券を売って金に切り替える誘惑に負けないよう、アメリカからも為替の安定を保つための協力をしていただきたい」
この発言の後、米国株は急落し、橋本総理は直後に「真意が的確に伝わっていない」との声明を発表し、火消しに追われました。

これを考えると、今回の加藤財務相発言も、どこかから猛烈な圧力が掛かって撤回を余儀なくされたのではないかと穿ってみたくなります。


2.日本は米国債を売っているのか?


4月9日、トランプ大統領はトランプ関税の上乗せ部分について90日間の延期を発表していますけれども、その背景には、大規模な米国債売りがあったと言われています。

この米国債売りについて、JPモルガンは4月25日に発表した「米中:合意か合意なしか?」というレポートで、売った主体は誰なのかについて分析しています。

件のレポートから該当部分を引用すると次の通りです。
中国は米国債を売却しているのか?
市場では、「米国株を売る」というテーマが焦点となっているようだ。市場は米国株の下落(絶対値および世界全体に対する相対値)、米ドル安、そして国債利回りの上昇という稀有な三重苦に直面している。JPモルガンの市場・投資戦略委員長、マイケル・センバレスト氏によると、この「米国株を売る」局面(30日間)は1970年以降わずか13回しか発生しておらず、2025年は1981年以来初めてのことだという。通常、リスクオフ局面では国債と米ドルが上昇する傾向がある。国債利回りと米ドルの乖離、そして今回の株式売り局面で国債が「安全資産」となっていないという事実は、この資産クラスに対する投資家の信頼が揺らいでいるのではないかという疑問を提起している。最近のクロスアセットパターンは、伝統的で確立された関係性を覆すものである。

短期的には、この現象は、外国人投資家(特に中国)が報復として保有する米国債を売却または「武器化」しているのか、それともこれが貿易交渉の一環なのかという疑問を大量に引き起こしている。

特に中国に関しては、国際収支は確かに複雑で読み解くのが困難だ。現在、多くの人が差し迫った売り圧力という文脈でこれらの疑問を投げかけているが、買い手、売り手、保有量に関するリアルタイムのデータがないため、その状況は予測できない。しかしながら、中国が売却している可能性は低いと考えている。

外貨準備の運用担当者は、市場で最も売却されている10年債や30年債ではなく、短期国債を保有する傾向がある。さらに、中国は常に大規模な売却に慎重だった。市場が大量の売却を急速に吸収できず、残存するドル資産の価値が下落し、残存する外貨準備の価値が目減りしてしまうからだ。最後に、米ドル以外で中国はどこに向かうのだろうかか?中国は自国通貨をユーロに対して運用しておらず、ユーロにはすべての資金流入を吸収できるほどの流動性の高い市場がない。

外国の公的機関が保有する国債の65%は、満期が5年以内のものとなっている。
重要なのは、一般の認識に反して、中国は米国債の保有を構造的に減らしていないことだ。公式データでは、2014年以降、準備金保有高は減少しているが、これは誤解を招く。中国が保有高の減少を見せたいのは、a) 準備金を積み上げ続けている、または b) 余剰貯蓄を主要な地政学的ライバルの政府債務に投入している、ということを示すのは政治的に都合が悪いためだ。こうした理由から、中国は「影の準備金」を保有することで準備資産を隠蔽している。その隠蔽方法は、中国人民銀行のバランスシート外で保有する外貨、為替レートの安定を図る国営銀行が購入する外貨、公式の最終所有者を隠すために欧州で保管する外貨などである。中国中央政府が管理する機関(大手国営商業銀行、国営政策銀行、中国の政府系ファンド)の準備金以外の対外資産は相当な額に上る。

中国は公的準備金以外に多額の米ドル資産を保有している
米国債ポートフォリオの大部分はオフショアのカストディアンが保有しているが、これはまさに米国が2011年に海外の外国資産保有に関する詳細な月次データを発表し始めた頃から始まっている。カストディセンターに保管されていると思われるものを含めるだけで、米国債の総保有量は安定している。

中国は国債保有量を減らしているのではなく、隠蔽しているだけだ

中国でなければ、日本は米国債を売っているのか?
ETFとミューチュアルファンドを集計した週次フローおよびアロケーションデータを見ると、米国債は外国人投資家によると思われる売却を経験していることがわかる。EPFRのデータによると、4月9日と4月6日までの週の累計売却額は約250億ドルだった。

データ収集方法と期間は完全に一致していないものの、流出の大部分は日本、特に日本の個人投資家による長期国債の売却によるものと思われる。財務省のデータによると、日本の投資家は4月4日から4月11日までの週に、長期国債を約200億米ドル差し引いた。より長期的な視点で見ると、2022年には急速な金利上昇を背景に、より協調的な売却が見られた。ただし、特に2022年には、国債の売りが米ドルの大幅な上昇を伴っていたため、日本のポートフォリオへの打撃は軽減された。

銀行や生命保険会社を含む日本の機関投資家は、米国債券へのアロケーションを国内に戻し始めており、日本国債への資金ローテーションや年度末の利益確定の動きが見られる。同時に、イールドカーブのスティープ化を見越して、長期国債から短期国債へのシフトが見られる。欧州のファンドも債券の国内回帰に寄与しており、これは米国債券の長期オーバーウェイト化を受けて、国内債券への構造的なシフトが進んでいることを表している。

流出の大部分は日本、特に日本の投資家による長期国債の売却によるものと思われる。
我々の見解では、最近の米国債の売りの多くは、根強い長期的な財政懸念を背景に、外国人投資家が米国債に対してより高いリスクプレミアムを求めていることに起因していると考えられる。日本の投資家にとっては、相当なヘッジコストを差し引いた上で、利回り上昇を正当化する必要もある。こうしたリスクプレミアムの認識は、主に政策リスクと市場ボラティリティの高まりによって生じている。

長期的な視点から見ると、日本の投資家は自国市場の地殻変動に直面している。段階的な金利正常化プロセスの結果、30年国債(JGB)利回りは現在2.5%を超えており、10年国債利回りは2024年後半から1%を超える水準を維持している。中期的には、金融政策サイクルの非同期化(FRBの利下げと日銀の利上げ)が進むと、金利差が縮小し、日本の投資家がより多くの資金を本国に還流させる可能性がある。

とはいえ、最近の動向は主に民間セクターの資産配分決定によるものであり、国債保有を武器にしようとする国家の行動によるものではないことに留意したい。日本の場合、関税をめぐる不確実性や世界的なリスクオフ局面における円高の可能性への対応は、米国債の直接売却ではなく、為替ヘッジ(フォワード売却)の増加によっても可能となる。

長期的には、米国のマクロ経済見通しやFRBの政策期待といった基本的な要因が、依然として国債利回りの主な要因となる可能性が高い。
このように、JPモルガンは先日米国債を売ったのは中国ではなく、日本の個人投資家だ、というのですね。

だとすると、中国が米国債を持っていることを隠蔽し、日本政府が米国債を売らなかったとしても、日本の個人投資家による米国債の売却リスクは残っていることになります。


3.彼らは非常に魅力的な提案を持ってきている


米国債売却カードを封じられた日本政府ですけれども、トランプ関税交渉はどうなっているのか。

5月5日、トランプ関税交渉で、アメリカがほぼ全ての国・地域からの輸入品に課す一律10%の相互関税に加え、日本に対する上乗せ分の14%の撤廃も拒否していると報じられています。

アメリカ側は一律10%と自動車や鉄鋼などへの追加関税を協議対象から外し、相互関税の上乗せ分の引き下げなどに交渉を限定する意向のようで、関税全廃を求める日本とは大きな隔たりがあることが浮き彫りになっています。

そんな中、5月6日、アメリカのベッセント財務長官が連邦議会下院委員会の公聴会に出席し、17の重要な貿易相手と交渉中で、中国とはまだ交渉を始めていないと明らかにした上で、貿易相手がアメリカに課している関税の大幅な引き下げや非関税障壁、為替操作などの問題で進展が見込まれると明かしました。

そして、年末までに主要な貿易相手の多くと合意に至ることができるという見通しを示すとともに、「いくつかの主要な貿易相手とは早ければ今週中にも合意を発表できるかもしれない。彼らは非常に魅力的な提案を持ってきている」と述べています。

また、同じく6日、トランプ大統領は「インドは世界で最も高い関税を課す国で、我々は我慢できない。彼らはすでに関税を無くすことに同意した」と相互関税をめぐるインドとの交渉についてこのように話し、「相手が私じゃなかったら彼らは同意しなかっただろう」と強調しました。

トランプ大統領は交渉の詳細は明らかにしなかったものの、ブルームバーグは、インドが鉄鋼・自動車部品・医薬品を対象に一定の輸入量まで関税を互いにゼロにする案を提示したと報じています。

更に、トランプ大統領は各国との交渉の全体状況について、「我々は今にでも25の取り引きに署名できるが、その必要はない……他国はアメリカという市場が欲しいので取り引きをしなくてはいけないが、我々は他国の市場に関心はない」と述べています。

この通りだとすれば、列の先頭に並んでいた筈の日本は、思いっきり出遅れていることになります。


4.茂木チャンネル


安易に妥協しないとか、絶対飲めないとかいって、交渉を急がない姿勢を示している日本ですけれども、石破政権の内に話が纏まるのは不安が募ります。

2019年に日米貿易交渉をまとめ上げた、茂木前幹事長は4月26日、自身の動画チャンネルで、日米関税交渉のポイントについて次のように述べています。
・日本からみてもアメリカからみても6:4に見えるのがよい仕上がり
・交渉の範囲を決めるのが極めて大事
・鉄鋼、アルミ、建設機械、半導体製造装置、これらはアメリカにあまり代替がない
・ベトナム、イスラエルは関税ゼロにするといっているが、それでも交渉が纏まっている訳ではない
・トランプ大統領の信頼もあるベッセント財務長官が交渉窓口になったということは決して悪いことではない
・今回の交渉で取れる時間は少ない
・実はアメリカ側も準備が整ってなくて、事務レベルでも詰めることが難しい
・したがって閣僚レベル協議で色んなカードをポケットに入れながら、その場その場でどのカードを切るか決めていかないといけない
・相手の意図って言うが、極端に言うとトランプ大統領の意図なんです
・トランプ大統領の意図についてベッセント長官が交渉して、これだったらトランプ大統領に上げてもいいなと思えるようなものを作れるかどうかが第一段階
・今度上げた時に、トランプ大統領がそれで満足をするかというのが第二段階
・日本側の提案としては、まずは範囲を決めないと全部をやろうとしたらとても短期でまとまりませんよと。絞りましょうということを、次回の協議で決められるかどうか
・優先順位をつけると、それはすでに優先順位をつけて欲しいということはえ相手側には話してるんじゃないかなと思いますけれどそこら辺が噛み合うかどうかということは極めて重要
・例えば型式認証の問題であったりとか安全っていうのは守りながらもですね日本としてできることはやったらいいと思ってますけど、それですぐに車の輸入が増えるかっていうとまた別問題
・これだけ非関税消壁撤廃しましたと言ってそれで満足をするのかどうかという問題もある
・まずやることは、政府は、想定される影響に対して国内対策をしっかり打っていくこと
結局トランプ大統領を満足させられる交渉材料を出せるかどうかだという、まぁ身も蓋もない答えなのですけれども、ベッセント財務長官は、いくつかの主要な貿易相手が、非常に魅力的な提案を持ってきていると述べています。

彼らは魅力的なカードを出し、日本は出せていない。それどころか、米国債売却というジョーカーをチラ見せしたら体育館の裏に呼び出されてブチ切れられていた、とかだったりしたら、これからの交渉はとんでもない茨の道になります。

仮に、いくつかの国が早期にアメリカとの合意に至り、その内容が関税ゼロだったとしたら、じゃあ日本は何故ゼロにしないんだと、プレッシャーがかかることも考えられます。その圧力に負けて関税ゼロにするくらいならさっさとゼロにすれば、傷は浅く済みます。

石破政権は、自身が考える国益とは何であって、何を守り何を譲るのか、国民に見せる必要があるのではないかと思いますね。





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この記事へのコメント

  • 一読者

    むかしから読んでますが、最近特に広告がうるさくて読みづらいほどです。このままでは読むのをやめようかと思います。広告を小さくできませんか。
    2025年05月08日 07:55
  • 日比野庵

    一読者さん。こんにちは。

    どの広告のことでしょうか。ブログ設定では全ての広告を非表示にしているので、広告があるという認識はないのですが。

    今後ともよろしくお願いいたします。
    2025年05月08日 11:50