

1.自民、消費税減税を見送り
5月8日、政府自民党は、物価高やアメリカの関税措置を受けた経済対策として消費税減税を実施しない方針を固めたと 複数の政府高官と自民幹部が明らかにしました。
この日の夜、石破総理は東京都内の日本料理店で自民の森山幹事長と会談。関係者によると、席上、両者は消費税減税を見送るべきだとの認識を共有したとのことです。
この報道を受け、翌9日午前、X(旧ツイッター)では、ワード「政府・自民 消費減税を見送る方針」が急上昇しトレンド入り。更に、「じゃあ何をしてくれるのかねぇ」「最初からする気なんて1ミリも考えてないくせに(笑)」「やっぱりね…」「見送るも何も最初からやる気はない」「消費減税はやるべきではない」「いい判断」「それでいい」などさまざまな意見が出ているようです。
一方、連立を組む公明党の斉藤代表は9日の記者会見で、今後まとめる党の経済対策について「物価高やトランプ関税で先行きが不透明な日本経済に対し、個人消費をしっかり支える意味の対策が必要だ。その骨格は減税であり、減税には時間がかかるので、必要とする人への給付という考え方は変わってない……あらゆる項目をいま、俎上にのせて議論している。消費税の軽減税率もその1つとして議論していく」と食料品などを対象にした消費税の軽減税率の引き下げも検討項目に含まれるという認識を示した上で、減税をはじめ、経済対策の根幹となる部分については、自民党とすり合わせを行い、与党で一致させる必要があるという考えを示しました。
なので、最終的な経済対策に減税が入るかどうかはまだ分かりません。
2.野党は消費税減税
ただ、これで、経済対策について、消費減税しない自民と減税を主張する野党と、その対立軸がより鮮明になってきたことは確かです。
消費税を巡っては、立憲民主党が食料品の税率ゼロを参院選公約に盛り込む方針で、日本維新の会や国民民主党も消費税率の引き下げを求めています。自民党は消費税減税を訴える野党に対し、財源論を盾に「責任政党」としての立場を鮮明にすることが重要だとの見方に傾いたとされていますけれども、補助金でばら撒くときには財源論なんて一言も言わない癖に、減税となった途端「財源ガー」と騒ぐのでは、御都合主義としか言い様がありません。
5月5日、国民民主党の玉木代表は秋葉原での街頭演説後、記者団の取材に対し、消費税について「下げるなら一律に下げた方がシンプルだし、負担減にもつながると思う」と述べ、消費税の納税を巡る「インボイス制度」の廃止についても「税率が複数あるとインボイスをなくせなくなる」と指摘しました。
そして、立憲が原則1年間、食料品での税率をゼロにする案を参院選の公約に盛り込む方針としていることについて、玉木代表は「1つの案だと思うがかえって飲食店の負担になる……1年と言わず、景気に合わせて税制を変える方が現実的だ」と批判しています。
これに対し、立憲の小川幹事長は7日、「他党から批判・クレームが来ているが、中には大事な論点もある。しっかり受け止めて、当方は当方で理論武装したい」と反論。翌8日に食品の消費税率をゼロとする減税案の、詳細な制度設計に着手しました。
立憲は物価高対策として、第1段階で、超短期的な緊急対策を行った後、第2段階で、食料品の消費税率をゼロにする減税を原則1年、最長2年実施。その後、第3段階として、給付付き税額控除(消費税キャッシュバック)に移行するとしています。
この日、立憲は「消費税負担軽減策実現作業チーム」の初会合を開き、超短期的な緊急対策の具体的な内容のほか、消費税減税の細かい制度設計の議論をスタートさせていますけれども、立憲の野田代表は、第1段階の超短期的な対策については「給付付き税額控除と整合性のある給付措置」と明示した上で、作業チームに対し、「なるべく早く財源を確保し、具体的な制度設計をきちっとするよう特にお願いした」と明かしています。
減税しない与党と減税を訴える野党。どうやらこの構図のまま参院選に突入する様相を呈しています。
3.ガチ支持層の立憲離れ
もっとも、立憲の減税公約について疑問の声が無い訳ではありません。
ジャーナリストの尾中香尚里氏は、プレジデントオンライン紙への5月8日付の寄稿記事「「ガチ支持層の立憲離れ」が一気に加速…聞こえだけは良い「消費減税」に手を出した「グダグダ政党」の成れの果て」で、「立憲の価値観と相反する、コア支持層も一気に逃げ出す政策だ。得られる支持よりも失う支持のほうが格段に大きいだろう」と批判しています。
件の記事を一部引用すると次の通りです。
【前略】尾中氏は、「給付付き税額控除」と「消費減税」では「目指すべき社会像」が正反対だとした上で、立憲の「食料品消費税ゼロ」は、党の政策として浮いていると指摘。そして、「消費減税」は「芯のない政治家」を炙り出しただけで、選挙対策としての「減税」では政権政党としての信頼を得られないと述べています。
野田氏が「食料品消費税ゼロ」に言及した4月25日の記者会見は、なかなか趣深かった。あれほど「見出しどころの価値」を下げにかかった会見を、筆者はあまり見たことがない。
野田氏は「食料品消費税ゼロ」を前面に押し出そうとはしなかった。消費税の逆進性を抑え、中低所得者の生活を支える政策として、昨秋の衆院選で同党が掲げた「給付付き税額控除」(中低所得者が負担する消費税の半額相当を、控除や給付により実質的に還付する)が「われわれの目標であり、決して変えることはない」と繰り返し強調した。
その上で党の物価高対策について、①当面の「超短期的」な対策として「給付付き税額控除の理念に沿った何らかの給付措置」を行う、②準備が整い次第「食料品消費税ゼロ」を導入する。期間は1年、経済情勢により1回のみ延長可、③給付付き税額控除を導入する――という順で行う考えを示した。
②の「食料品消費税ゼロ」は、①の「超短期的な給付措置」から③の「給付付き税額控除」に移るまでの「経過措置」と位置づけたわけだ。
筆者は軽い疑問を抱いた。この順番は現実的なのか。
立憲が近い将来政権与党になっても、②の食料品の消費税率をゼロにする税法改正は、野党・自民党との合意形成に相当の時間がかかる(おそらく参院は「ねじれ国会」だろう)。一方、③の給付付き税額控除は、政権の判断で実現可能だ。②よりも③のほうが、先に準備が整う可能性が高い。
野田氏は4月28日のBSフジの番組で、給付付き税額控除の制度設計について「(食料品の消費税)ゼロ税率をやっていても(期限の1年を待たずに)途中から切り替えられるほどのスピードアップをしていきたい」と述べた。
できるなら①から③へと一気に飛んで、②の食料品消費税ゼロを「なかったこと」にしたい――。野田氏のそんな「本音」がうっすら感じ取れる発言だった。
さらに野田氏は、食料品消費税ゼロの財源について「赤字国債に頼ることなく」と述べ、説得力ある財源を提示するよう、政調の現場に釘を刺した。減税の公約化を決めた以上、財源についても野田氏自身が語るべきだが、そうしなかった。唯一触れたのが、政府の基金の「積み過ぎ」分を財源とする可能性だが、これは恒久財源たり得ない。
「無責任」と批判されるのを承知で野田氏が財源を語らなかったのは、それまでに党内の「減税派」から出されていた財源案を認めない姿勢を示したかったのではないか。
消費減税については、それを強く求める層がいる一方で「代替財源を示さない(あるいは国債発行で将来にツケを回す)のはポピュリズム政策だ」との認識も高まっている。それを意識してか、立憲の減税派も「外国為替資金特別会計(外為特会)の活用」などさまざまな財源案に言及して「ポピュリズムではない」アピールに躍起になった。
野田氏はこれらを評価しなかった。だから、党内議論で最多だった「食料品消費税ゼロ」を参院選の公約に加えることまでは認めても、財源については現場に再考を迫った。さらに言えば、野田氏は有権者の納得が得られる恒久財源は見つからないことを見越し、ワンショットの財源でも対応可能なように、減税期間を「1年限り」と期限を切った。筆者はそんなふうにみている。
こう考えると、立憲の「食料品消費税ゼロ」は、どう見ても党の政策として浮いている。
物価高対策の順番という観点からは「超短期的な給付措置」(①)から本来の給付付き税額控除(③)に移行する方が合理的で、実現の可能性も高い。食料品消費税ゼロ(②)は、必要もないのにその狭間に無理やり突っ込まれたような位置づけだ。財源の観点でも「1年しか実施できない」点が、むしろクローズアップされている。
野田氏が発言すればするほど、立憲の「食料品消費税ゼロ」が、党の政策としていかにいびつであるかを可視化する結果を生んだ、と思えてならない。
野田氏の発言を待つまでもなく、消費減税は立憲民主党の「目指す社会像」とは相容れない政策だ。それでも、多くの同党議員が、選挙を前に消費減税を公約にすることを求めた。選挙のためなら、自らの党の基本理念や「目指す社会像」をないがしろにできる、ということだ。筆者はそのことに深く失望している。
詳細は3月25日の記事をお読みいただきたいが、「給付付き税額控除」と「消費減税」では「目指すべき社会像」がほぼ真逆である。
前者は富裕層から多額の消費税を徴収し、それを財源に政府が公共サービスを充実させる(再分配)ことで所得格差の是正を図る。後者は低所得者からの徴税を控えて一時的に家計を救うかもしれないが、富裕層に対しより多くの減税を行うため、教育や医療、介護などの公共サービスは削減され、結果として低所得者層の自己負担は増える。長い目で見れば、格差は拡大する。
そんな真逆の政策を並べて「まず消費減税、次に給付付き税額控除」などと言われたら、立憲民主党がどんな社会を目指すのかが見えなくなる。そのことに疑問を感じないなら、それは自身に「目指す社会像」がない、政治家としての「芯がない」ことを白状しているに過ぎない。
給付付き税額控除を捨てて、消費減税による「自己責任の社会」を目指す政党に作り替えたいなんて思っていない。執行部に反旗を翻し、代表の首をすげ替えたいわけでもない。でも、有権者になじみの薄い給付付き税額控除を、粘り強く説明するのは面倒だ。せめて選挙の時だけでも、国民受けしそうな「減税」を叫ばせてほしい――。
そんな姿勢が透けて見えるから、立憲はいつまでも「政権を担うべき政党」としての信頼を勝ち取れないのだと思う。
であるがゆえに立憲は前述した「消費税負担軽減策実現作業チーム」とやらで理論武装しようとしているのかもしれませんけれども、与野党で減税という争点が出来つつある今、財源含めて徹底的に争えばよいと思います。
補助金を出す財源があって、減税の財源がないというのは明らかに矛盾しています。そして単に消費減税だけでなく、国民の所得を増やす、手取りを増やすという視点から、無駄を省いていくという論点もある筈です。
アメリカのトランプ政権が政府効率化省を設けた途端、驚く程の歳出削減をしてみせていることを考えると、日本でも同様な無駄が其処彼処にあると思えてなりません。
国会や参院選では、そこまで踏み込んだ議論を広く深く進めていただきたいと思いますね。
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