

1.石破がダメならオレがやる
5月1日、訪米している自民党の小泉進次郎元環境相は、自身のX(旧ツイッター)を更新し、「トランプ政権との関税交渉のためワシントンD.C.に到着した赤澤大臣と面会し、小野寺政調会長と共に情報交換を行いました。TPP交渉の際もそうでしたが、国益を守るために政府を全力で後押しするのも与党である自民党の責任であり底力です」とツイートしました。
更に、昨年まで駐日大使を務めたハガティ上院議員らと面会したことにも言及し「赤澤大臣と会ってから3人の上院議員と意見交換。元日本大使のハガティ上院議員、アラスカのダン・サリバン上院議員、イリノイ州選出のタミー・ダックワース上院議員。日本で聞いていた話とは違う内容もあり、改めて直に意見交換をする意義を感じています。赤澤大臣や政府の後押しに繋がる実りある会談の連続でした」と綴りました。
また、同じく訪米している自民党の小林鷹之元経済安保担当相は、ワシントンのアメリカ笹川平和財団で講演。トランプ関税について「他国の動向に右往左往しない日本をつくらなければならない……米国という同盟国だけに市場を頼るのはリスクがある」と日本は戦略的自律を迫られると訴え、代替市場の拡大に向けて、ASEANをはじめとするグローバルサウスとの結び付きを一層強める外交を日本政府に望むと主張しました。
トランプ関税をめぐる日米交渉の最中の両氏の動きについて、ある自民党ベテラン議員は「石破首相の退陣後を見据えたアピール合戦が始まった……2人とも“石破がダメならオレがやる”と米国とのパイプを誇示するのが目的。小野寺五典・政調会長らと訪米した進次郎は、政府交渉の側面支援を強調していわば“石破の後継者”の立場を固めたい。石破に距離を置くコバホークは前回総裁選の推薦人たちを引き連れて独自外交を訴えた。次の総裁選はこの2人が軸になるんじゃないか」と指摘しています。
2.自由で開かれたインド太平洋戦略本部
そんな中、5月9日、自民党は、日本の外交力強化に向けた戦略本部を党政務調査会に設置し、14日に初会合を開くことを関係者が明らかにしました。
新組織の名称は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略本部」。安倍晋三元総理が提唱した外交方針の継承、発展を目指すとのことで、初会合には、1月に国家安全保障局長を退任した秋葉剛男氏を講師として招き、トランプ政権への対応など今後の日本外交の展望を聞くとしています。
本部長に麻生太郎最高顧問、本部長代理に高市早苗前経済安全保障担当相、幹事長代理に小林鷹之元経済安保相が就く方向で調整しているとのことで、現在報じられている人事は次の通りです。
本部長︰麻生太郎自民党保守系議員がずらりと並んでいますけれども、関係者は「ポスト石破をにらんだ動きではないか」と述べています。
本部長代理︰高市早苗
幹事長代理︰小林鷹之
副本部長︰西村康稔
副本部長︰萩生田光一
顧問︰茂木敏充
ポスト石破となる次期総理を決めるには、総裁選を行うことになりますから、あるいはこの戦略本部がそのための核になるのかもしれません。
3.ポスト石破の面々
ポスト石破という意味では、他の有力候補も動いています。4月30日、読売新聞は「「石破降ろし」ムード後退、ポスト石破8人は…GW活用し議員外交・関税交渉で存在感アピール」という記事で、ポスト石破として8人の議員の動きを報じています。
冒頭の小泉、小林両氏以外の6人について次のように述べています。
高市早苗・前経済安全保障相:4月27日から自らに近い若手議員を連れて台湾を訪ねた。安倍晋三元首相と同様に日台関係を重視する姿勢を打ち出し、支持基盤である保守層との関係強化を狙う。28日には 頼清徳ライチンドォー 総統と会談し、その後の記者会見で「価値観を共有する台湾と日本、フィリピンなど同志国との連携の重要性を認識した」と強調した。これについて、ジャーナリストの門田隆将氏は「加藤勝信財務相が消費税減税は「低所得者支援という意味では効率性に乏しい」と“財務省理論”をそのまま表明。さすが財務省の傀儡政治家。岸田、林、加藤氏ら財務省から“次の総理”として盛んにリークされる理由がこれ。総裁選で高市早苗氏の1/9しか取れなかった加藤氏まで…財務省の焦りが際立ってきた」と、裏に財務省の影が見えるとツイートしています。
林官房長官:日米交渉や国内産業支援を担う作業部会の共同議長に就任した。農相や外相などの要職経験を生かし、訪米を控える赤沢経済再生相を支える。連休中もほぼ都内に残って対応にあたり、中央官庁からは「全て司令塔は林氏」との声も漏れる。
加藤財務相:対米交渉の最前線に立つ。今月24日(4月24日)のベッセント米財務長官との会談では、関税措置の見直しを強く要求し、存在感を示した。SNSを使って自ら撮影した動画で成果を発信するなどアピールにも余念がない。
茂木敏充・前幹事長:第1次トランプ政権との間で通商交渉を担った経験からテレビ番組に相次いで出演している。28日のBS日テレ番組では、「交渉の優先順位をはっきりするよう求める必要がある」と政府に注文を付けた。トランプ氏も一目置くという交渉力は茂木氏のセールスポイントだ。
上川陽子・前外相:今月、経済外交の強化を目指す議員連盟を自ら発足させ、会長に就任した。
河野太郎・前デジタル相:強いこだわりを持つ社会保障改革の勉強会を開催し、年金改革関連法案の提出に反対するなど党内で積極的に発言している。
加藤勝信財務相が消費税減税は「低所得者支援という意味では効率性に乏しい」と“財務省理論”をそのまま表明。さすが財務省の傀儡政治家。岸田、林、加藤氏ら財務省から“次の総理”として盛んにリークされる理由がこれ。総裁選で高市早苗氏の1/9しか取れなかった加藤氏まで…財務省の焦りが際立ってきた https://t.co/P8cUdvliiX pic.twitter.com/IMWF86jISo
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) May 9, 2025
4.玉木雄一郎は首相候補
では、野党から総理が出る目はないのか。
これについて、岸田前首相が国民民主党の玉木雄一郎氏は首相候補と言及したと報じられています。
これは、5月9日放送のTBSのCS放送「国会トークフロントライン」に岸田前総理が出演した際、司会の石塚TBS解説委員の質問に答えたときの発言です。
その一連の下りは次の通りです。
石塚解説委員:玉木さんは、最近盛んにその参議院選挙の総理候補だとか、週刊紙とか一部新聞でも取り沙汰されてますけど、こういう部分で総理の責任っていう部分でどういう風にご覧になりますか?総理候補たるのかどうか?動画を見る限り、司会から玉木氏は総理候補になりますかを水を向けられて答えただけで、何か、岸田前総理自身が玉木氏を推しているようには見えませんでした。
岸田前総理:もちろん、これは国民の皆さんが評価する話です。そして色々の世論を聞く限り、玉木さんは総理候補の1人なんだと思います。ただこの議論だけを取ってみたならば、財源問題についてもう少し建設的な、具体的な案を考えることは大事なんではないかなとは思います。
石塚解説委員:あと野田さんですよね。2012年、3党合意をまとめた時の総理大臣で、それがま食料品を、ということですよね。これはどう御覧になりますか?
岸田前総理:これも党内で随分議論した結果だとは思います。先ほど言った中で、システムの変更を短期間でやることに対して勘弁してくれという、かなり声が湧き上がってる。この消費税食料品、1年間でこの8を0にするという部分はまさにそこに引っかかってくるわけで、1年間の中で、この税率が上がったり下がったりこれもまた大きな問題ですが、1年間でシステムをこう大幅に変えなきゃいけない。現実的に対応するのは大変だろうなという声にも耳を傾けなきゃいけないのかなとは思います。
それより、筆者が気になったのは岸田前総理の風貌です。
岸田前総理は、髪はボサボサで、疲れた様子にも見えました。総理時代は、あんなにしょっちゅう床屋に行っていた岸田前総理が、CSとはいえ、こんなナリでテレビに出てくるとは。裏で何か起こっているのかと勘繰ってしまいます。
5.余裕と自信の石破
では、当の石破総理の様子はどうかというと、余裕を見せ始めているのだそうです。
5月7日、東洋経済Onlineは「「高級ホテル静養」「減税断念」に批判続出でも石破首相の表情に《余裕》と《自信》がにじむ摩訶不思議の"深層"」という記事を掲載し、次の様に述べています。
最大11日間という大型連休が終わり、国会での与野党の攻防は終盤戦を迎える。そうした状況下、石破茂首相の表情にはなぜか余裕と自信がにじんでいた。なんと、内閣不信任案が出される可能性が低いことと、参院選で負けても、非改選合わせてギリギリ過半数を保てるとの党の内部調査結果が出たことから、余裕が出てきたというのですね。
【中略】
連休中の石破首相の一連の行動へのさまざまな批判・不満も踏まえて、5月7日から始まった終盤国会における与野党攻防の最大の焦点は、やはり立憲民主党の内閣不信任決議案提出の可能性とその結末となる。
不信任案について最終判断を下す立場となる立憲民主党の野田佳彦代表は、メディアとの質疑や番組出演で「総合的判断が必要」と繰り返している。その理由について、野田氏は①アメリカとの関税交渉の展開次第だが、国難への対応中なら不信任で内閣の足を引っ張ることはできない、②他野党は出せというが、出したら必ず賛成するかどうかが不透明、などとしている。
政界関係者には「総合的判断というのは、結局、不信任案の提出を見送るサイン」との見方が広がる。次期参院選での躍進が予想される国民民主党の玉木雄一郎代表は「今回はもし野党がまとまれば(不信任案が)通り、そうなると憲法の規定上、内閣総辞職か解散総選挙ということになる。そのときに野党としてどうするのかを野党第1党がしっかり各党に示すべきだ」と注文をつける。それでも、野田氏は明言を避けている。
石破首相の余裕と自信の裏側には、こうした野田代表の消極姿勢があるが、それだけではない。連休中の次期参議院選挙をめぐる各種の情勢調査で「与党が過半数を維持する可能性が大きい」との分析が多かったことに加えて、各種世論調査の多くで内閣支持率は微増となり、支持率低下による政権危機が遠のきつつあるのだ。
もちろん、自民党にとって「政治とカネ」問題による逆風は依然として強く、多くの調査で次期参院選での予想獲得議席は改選数を大幅に下回っている。だが、非改選と合わせた総議席数では、少なくとも与党が過半数を数議席上回るとの予測が多い。
自民党内で実質的な最高実力者である森山裕幹事長は「続投支持」の意向を固め、高市早苗・元経済安全保障担当相を筆頭とする反石破勢力の動きも沈静化しつつある。その背景には、「少数与党となっている衆議院で野党が結束すれば、首相退陣後の自民党の新総裁は後継首相にはなれない」(自民党長老)との予測がある。
加えて、「トランプ関税」に関する日米交渉の決着が参院選後となる可能性があり、「その場合、野党も国益優先で政局の混乱は避ける」(立憲民主党幹部)とみられる。ここに来て石破首相が「交渉はゆっくり急ぐ」「せいては事を仕損じる」などの微妙な表現を繰り返すのも、「そうした状況を意識した言動」(閣僚経験者)とみる向きが少なくない。
一方で、今国会での石破政権の難問とされる「企業・団体献金」「夫婦別姓」の両問題は、野党側の足並みの乱れによって「決着が先送りとなる公算」(自民党幹部)が強まっている。
このため「次期参院選で与党が過半数を維持すれば、政治的選択肢は石破政権の続投」(政治ジャーナリスト)ということになり、それが「石破首相の自信と余裕につながっている」(同)のだ。
そうした中、石破首相は一時意欲を示した消費税減税について、連休中の自民党幹部らとの協議の結果、「いわゆる『減税』の実施は断念した」(自民党幹部)もようだ。
【中略】
石破首相は外遊から帰国した後、メディアの取材などに対して「消費税を下げたら党が割れかねない」と危機感を隠さない。参院選対策についても「減税よりも、ガソリン値下げやコメの高値の解消が最優先」などと語っている。
こうした石破首相の判断は「国難には毅然として対応し、人気取りよりもトップリーダーとしての決意と見識をアピールすることこそが、国民の信頼につながるとの考え方にたどり着いた結果」(自民党長老)とみられている。
ただ、政権維持への“前提条件”ともなる内閣支持率は「『微増』が『大幅上昇』に変わる可能性は低い」との見方が多い。このため「政局的には“石破続投”が唯一の選択肢だが、自民党内でも『このまま石破政権を続けるのは自殺行為』との声も少なくない」(政治ジャーナリスト)という。
現在の「石破続投説」がどこまで定着するかは依然として不透明だ。
石破総理は、先の衆院選で敗北し、少数与党に転落しても総理に居座った御仁ですからね。もし過半数を維持したら、大きな顔をして続投を表明するでしょう。もちろん、それが日本にとって良いのかどうかは別の話です。
記事では、人気取りよりもトップリーダーとしての決意と見識をアピールすることが、国民の信頼につながると考えたとのことですけれども、トランプ関税交渉を見ていても、「ねばならない」「そうすべき」と相変わらずのネバネバ発言ばかりで、決意も見識も見えません。
そもそも、決意があれば、消費減税も断行できている筈です。
党を割ることも辞さずと郵政選挙で身内に刺客を立てた小泉純一郎元総理と、消費税を下げたら党が割れかねないとビビッて何もできない石破総理とでは、見識はともかく、決意とやる気に雲泥の差があります。
現状を打破するには、国民はより一層政治への無関心から脱し、投票率をうんと高めるしかないのかもしれませんね。
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