

1.中国への80%の関税は妥当だ
5月9日、アメリカのトランプ大統領は、自身のSNSトゥルースソーシャルで「中国への80%の関税は妥当に思える! スコット・B次第だ」と投稿しました。
これは、スコット・ベセント財務長官とジェイミーソン・グリア米通商代表部が今週末、スイスで中国の交渉担当者と会談することを受けてのものと見られています。
また、トランプ大統領は別の投稿で「中国は米国に市場を開放すべきだ。それは中国にとって非常に良いことだ!!! 閉鎖的な市場はもう機能しない!!!」とも投稿しています。
現在アメリカは中国からの輸入品に145%の関税を課し、中国も報復として一部の米国製品に125%の関税を課し、両国間の貿易を減少させています。9日に発表された4月の公式統計によると、中国の対米輸出は前年比で20%以上減少したものの、総輸出は予想を上回る8.1%増加しています。
政治リスクコンサルタント会社ユーラシア・グループのダン・ワン氏は両国の当局者は「増え続ける経済的な圧力にさらされている……お互いに緊張緩和を検討している様子が、両政府からの最近の合図からうかがえる」とコメントしています。
10日からスイスで米中高官による貿易交渉が行われると発表された当初、緊張緩和に向けた重要な第一歩として広く歓迎されたのですけれども、かつてアメリカ政府の貿易交渉を担当したスティーヴン・オルソン氏は「アメリカと中国の間の構造的な摩擦は、すぐには解決されないはずだ……今回の会合の結果として関税が引き下げられるとしても、それは「小規模」なものになる可能性が高い……最終的な合意には両国トップの積極的な関与が必要だと、誰もが認識していると思う」と指摘しています。
また、国際通貨基金(IMF)中国部門の責任者だったエスワル・プラサド氏も「現実的な目標はせいぜいが、非常に高い二国間関税の引き下げだろうが、それでも高い関税障壁とさまざまな他の制限が残ることになる」とコメントしています。
2.すぐには解決されない
では、実際の交渉はどうなっているのか。
5月10日夜、トランプ大統領はトゥルースソーシャルに「本日、スイスで中国との非常に良い会談が行われた。多くの点について議論し、多くの点で合意に至った。友好的でありながら建設的な方法で、全面的な見直しが交渉された。中国と米国双方の利益のために、中国が米国企業に門戸を開くことを期待している。大きな進展があった!」と投稿しました。
この日の会談は、スコット・ベッセント財務長官と中国の賀立峰副首相との間で10時間以上に及んだのですけれども、会談は、極秘裏に進められており、双方とも退出時に記者団に対しコメントを控えています。
もっとも、ベッセント財務長官が先週フォックス・ニュースに語ったインタビューによると 、当初の協議は「大規模な貿易協定ではなく、緊張緩和」に関するものだったのではないかと見られていて、ベッセント財務長官も米中両国の高関税は「持続可能」ではないとの認識を示しています。
ただ、前述したように両国の貿易問題は「すぐには解決されない」のではないかと思います。
過去を振り返ると第一次トランプ政権時、アメリカは中国が量子コンピューティングや自動運転車といった先端技術で優位に立つために不公平な戦術を用いていると非難していました。これらの疑惑には、中国市場へのアクセスと引き換えにアメリカ企業やその他の外国企業に企業秘密の開示を強要すること、政府資金を使って国内テクノロジー企業を補助すること、そして機密技術を盗用することなどが含まれています。
実際、これらの問題は完全に解決されることはありませんでした。約2年間の交渉を経て、米国と中国は2020年1月にアメリカは中国に対するさらなる関税引き上げを行わないことに同意し、中国はより多くのアメリカ製品を購入することに同意するといういわゆる「第一段階の合意」に達したものの、中国の補助金といった難題は、今後の交渉に委ねられました。
ところが、中国は約束した購入を実行しませんでした。合意直後に武漢ウイルス禍が世界の商業活動に混乱をもたらしたことがその一因になったとも言われています。
3.じっくり急ぐのは日本だけではない
そんな中、5月8日、トランプ大統領はホワイトハウスで、関税措置をめぐる交渉についてイギリスと合意したと発表しました。
ホワイトハウスによると今回の合意ではアメリカの農家や畜産農家などにとって50億ドル分の新たな輸出機会の創出につながるほか、アメリカの輸出品に対するイギリスの税関手続きが簡素化されるなどとしています。
また、トランプ政権がアメリカに輸入される自動車に25%の追加関税を課す中、イギリスで生産された自動車の輸入については、年間10万台までは関税を10%に引き下げるとしています。
さらにイギリス政府の発表によると鉄鋼製品とアルミニウムについては、関税は0%に引き下げられるようです。
ただ、アメリカがほかの多くの品目に一律で10%の関税を課している措置については、イギリスに対しても維持される見通しで、今後、数週間かけて詳細を詰めるということです。
トランプ大統領は、イギリスとの合意について、「画期的な合意を発表できることをうれしく思う」と述べてはいますけれども、多品目で10%関税を継続していることといい、今後詳細を詰めるとしていることといい、悪くいえば、合意といっても、とっかかりに過ぎず、パフォーマンスとまではいわなくても、何かしらの成果を見せておきたいという思いがあったのではないかと思います。
そう考えると、10%の関税は、今後の交渉材料として、あえて残しておいたのだともいえ、まだまだ交渉は続くとみてよいのではないかと思います。
この日、トランプ大統領は米中貿易交渉について、「極めて実質的な協議になるだろう。私たちと中国はよい週末を過ごすだろう……いま中国への追加関税は145%だ。これ以上は引き上げられない。引き下げるしかない……優先して協議することの1つは、市場を開放し、アメリカ企業が中国に進出できるようにすることだ。市場が開放されれば、人々に多くの選択肢を提供し、多くの雇用を生み出し、あらゆる面でよい結果をもたらすだろう。中国にとってもすばらしいことだと考えている」と述べています。
これらを考えると、今回の米中交渉では2020年の第一段階の合意や市場開放をまず要求しているのではないかと思われます。
これらをみていくと、米中交渉も、イギリスの場合と同じく、まずは象徴的な何かの合意を発表してから、145%関税を80%に下げて見せ、引き続き残りの交渉を続けていくのではないかと思います。
すべては始まったばかり、「じっくり急ぐ」のは、日本だけではなく、トランプ政権も同じなのかもしれませんね。
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