米の値段と政治力

今日はこの話題です。
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1.日本の美味しいお米をリーズナブルな値段で世界の人たちに


米の値段が高止まりする中、要人の発言が波紋を呼んでいます。

5月11日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」に生出演した石破総理は、日本の米生産について、次のように述べました。
・ここ50年くらい、世界中が米の生産を増やしてきた。中国だってアメリカだってインドだって、世界全体で3.5倍になってる……日本だけ米生産を減らしてきた。本当に正しかったですか?ということです
・高齢化が進み、人口が減り、だから米の生産が減っても仕方ないんだ、という考え方をもう1回立ち止まって考えてみるべき
・国土狭い、農地面積が小さい、以上おしまい、からは脱却しないといかんのじゃないか。ここ何十年、日本の農業は決して強くなっていない
・私、農林水産大臣をやってた時に、もう生産調整やめと言って……それは史上最低の農林水産大臣だと、めちゃくちゃ言われましたからね
・日本の美味しい安全な米を世界の人々に提供するっていうのは日本がやるべき国際社会に対する責任じゃないですか
・日本だけ良ければいいやって話にならないね
・日本の安全で美味しいお米をリーズナブルな値段で世界の人たちに食べてもらいましょう
・これから伸び代のある農業の伸ばし方をどうするのかという議論をもっとしたい
この「日本のお米をリーズナブルに世界の人たちに食べてもらう」という意見に国民は激怒。Xでは、海外ファーストな発言に、《何で他国優先してるの?》、《まずは日本人優先でしょ》、《そんな責任日本人に無いだろうと思う。何で日本人が日本の米を食べるのを我慢して海外に安く売らなきゃいけないの?》、《まず日本国内にリーズナブルな値段で行き渡った後海外に販売してください》、《なんかもう気の毒なレベル…》《的外れにも程がある!》といった批判の声が集まりました。


2.米価格は高くない


5月13日、全国農業協同組合中央会(JA全中)の山野徹会長は定例記者会見で、「今備蓄米が出回りつつあり、店頭の小売価格の上がり幅は縮小傾向から「下落した」という話もある。その効果が表れ始めている。決して高いとは思っておりません」と米価は、決して高いとは思ってないという認識を示しました。

そして、「高値で推移すると、消費者離れが出てくるので、やはり適正な価格を求めている」とし、米の価格について「長年にわたり、生産コストをまかなえていないような極めて低い水準だった」と指摘。消費者、生産者の双方が納得できる価格でコメを安定的に供給していくことが重要と付け加えています。

テレビでは、この発言を報じると共に、「「高くない」と言われてもって感じですね。実際に高いし。どういう意図を持って発言したのか」「なんかJAの方と市場とはギャップがあるようには感じる。一般市民とは違う感覚を持っているのかなと感じる」など戸惑う街の声を伝えています。

また、長野県・JA松本ハイランドの田中均代表理事組合長は、4月24日、専門紙「農業協同組合新聞」への4月24日付の寄稿記事「【どうするのか?崩壊寸前 食料安保】米の安定供給は長期的視点で」で、次のように述べています。
・そもそも、民間在庫があるにも関わらず価格調整のために備蓄米を放出するのは市場原理に反する
・生産者のことはさておき、今だけ値段が下がりさえすればいいという消費者目線だけではことは解決しない
・そもそも、ごはん1杯いくらなのか分かって『高い』といっているのだろうか。5キロ4000円としたら、1杯は50円、コンビニのサンドイッチは300~350円。我がJA本所近くのラーメン店では、いまだに『ご飯無料サービス』の看板を掲げている
この発言にもネットが炎上しています。

ただ、件の記事を全部読むと、米価高騰の中で備蓄米として買い入れし5年後に飼料用米として売り渡すというスキームそのものが成立するのかなど、政府農政を批判する色合いが濃いように見えます。




3.米の値段は下がらない


果たして米の値段は下がるのか。

これについて、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、5月14日付の「プレジデントオンライン」紙の寄稿記事「残念ながら来年秋まで「5㎏4200円」が続きます…農水省とJA農協がいる限り「コメの値段は下がらない」そのワケ」で次のように述べています。

【前略】

まずは、昨夏以来の事態の推移を整理しよう。

昨年夏スーパーの棚からコメが消え、その後その値段は2倍に高騰した。JA農協や大手卸売業者の民間在庫は昨年の5月頃から今年の2月現在まで前年同月比で約40万トン減少している。

3年前から農水省とJA農協は減反を強化して米価を上げようとしていた。23年産米は作付け前から減反で対前年比10万トン減少していた。さらに、猛暑の影響を受け白濁米などの被害が生じ、合わせて40万トン程度不足した。このため、昨年の8月から9月にかけて、本来昨年の10月から今年の9月にかけて消費される24年産米を先食いしたので、昨年10月の期首の時点で40万トン不足し、これが今も続いている。

昨年夏から農水省はウソと訂正を重ねてきた。その裏に一貫しているのは“コメ不足を認めたくない、備蓄米を放出して(も)米価を下げたくない”という態度である。

まず、減反強化と猛暑で23年産米の実供給量が減少していることは、23年秋の等級検査などで農水省は分かっていたはずなのに、「コメは不足していない」と言い張った。昨年夏のコメ不足を、「南海トラフ地震の臨時情報発表で家庭用の備蓄需要が急増したからだ」と農水省は説明した。しかし、それなら家庭への在庫増加で民間在庫量は減少するはずなのに、そうではなかった。また、家庭用で備蓄されたとするコメは、保存の利かない精米なので、その後のコメの購買量は減少して値段は下がるはずなのに、逆に上昇した。

農水省は、大阪府知事からの備蓄米放出要請を拒否し、「スーパーからコメがなくなったのは、卸売業者が在庫を放出しないからだ」として、責任を卸売業者に押し付けた。農水省は「9月になれば新米(24産米)が供給されるので、コメ不足は解消され、米価は低下する」と主張した。だが、逆に価格が上昇すると、今度は「流通段階で誰かが投機目的でコメをため込んでいて流通させていないからだ」と主張した。この量はJA農協の在庫の減少分21万トンだと言った。

しかし、24年産米は生産が18万トン増えているので、卸売業者も含めた民間の在庫が44万トン減少したなら、62万トンが消えているはずである。消えたコメの存在を証明するため、農水省は今年に入りこれまで把握してなかった小規模事業者の在庫調査を行ったが、これら業者は在庫を増やすどころか、逆に前年比で5956トンも減少させていた。“消えたコメ”はなかったのである。

そもそもコメには流通履歴を記録するトレーサビリティ法があるので、コメが消えることはあり得なかった。農水省は、また19万トン在庫が増えているとしたが、生産増加の18万トンに比べ、在庫が1万トン増えたというだけで米価急騰の説明になっていなかった。農水省がウソを重ねてきたのは、備蓄米を放出して米価が下がることを恐れたからだ。

この一連の農水省のウソをそのまま伝えていたマスコミも専門家も失格である。

「概算金(JA農協が農家に支払う仮払金)」とは、出来秋(収穫時)にJA農協が農家に払う年に一回の価格である。コメについては、生産したものが消費されるまで、1年以上の長い期間がかかるので、農協は出来秋にいったん農家に概算金を仮払いし、あとで清算するという方法を取っている。JA農協の実際の販売価格との違いが生じると差額が清算される。実際の価格が上がると農家に追加払いされるが、下がるとその分を農家から徴収する。

農家から集荷したJA農協(かなりが全農へ再委託される)は、年間を通じて適時卸売業者へコメを販売する。その販売価格を「相対価格」と言う。コメについては、卸売市場のような公的な市場は現在存在しない。世界初の先物市場は大阪堂島のコメ市場だったが、戦時統制経済への移行により廃止された。コメ流通を統制していた食糧管理制度が廃止された後、その復活が度々要請されたが、コメの販売価格を操作したいJA農協の反対により実現していない。

このため、農水省が関与して2023年10月からコメの現物市場「みらい米市場」が開設されたが、利用は極めて低調であり、コメ需給全体を反映した価格形成を行っているとは到底言えない。相対価格は、あくまでJA農協(全農)と特定の卸売業者が個別に値決めした価格であり、青果物の中央卸売市場のように、全ての関係者が参加する市場全体の需給情報を反映したものではない。

JA全農は自身の在庫を増減させ流通量を調整することにより、相対価格を操作することができる。過去には、豊作によって本来価格が下がるはずのときに価格が上昇したこともあった。先物取引にJA農協が反対するのは、価格を操作できなくなるからである。

例えば、2012年、13年産の米価は、コメの作柄が良かったので、下がるはずだったのに、逆に高くなった。

突然消費者がコメをたくさん食べるようになったわけではない。農家から集荷したJA農協が、市場への供給を抑えたので、米価が上がったのだ。しかし、生産が多いのに供給を少なくすれば、JA農協のコメ在庫が増える。いずれこの大量の在庫は放出される。2014年のコメの供給は、同年産のコメの生産量にこの在庫を加えたものなので、同年産の生産は前年より減少したにもかかわらず、同年産米価は下がった。

備蓄米を21万トン放出しても、コメの値段は下がるどころか上昇した。全国のスーパーでのコメの平均価格は17週連続で値上がりし、4月27日5キロあたり税込みで4233円となっている。5月4日までの1週間に販売されたコメの平均価格は18週ぶりに19円値下がりしたが、わずか0.4%の減少である。1年前の2000円程度の水準から倍増である。とうとう石破総理の指示で、農水省は7月まで毎月10万トンずつ備蓄米の放出を行うことを決めた。

既に21万トン放出したのにコメの値段は逆に上昇している。備蓄米を追加放出してもコメの値段は下がりそうにない。それは、農水省の備蓄米放出に米価を下げないカラクリが巧妙に用意されているからだ。

一つは、消費者に近い卸売業者や大手スーパーではなく、米価を低下させたくないJA農協に備蓄米を売り渡したことである。3月に放出したのに、4月中頃になっても2%しか消費者に届いていない。スーパー等に近い卸売業者ではなく、流通面ではその1段階前のJA農協に放出した以上、時間がかかるのは当然だろう。また、米価は需要と供給で決まる。より根源的な問題として、備蓄米を放出しても、その分JA農協が以前よりも卸売業者への販売を減らせば、市場への供給量は増えない。相対価格が下がらなければ、卸売業者の利益も確保する必要があるので、小売価格も下がらない。その相対価格は備蓄米の放出と関係なくJA農協によって操作される。

もう一つは、1年後に買い戻すという前代未聞の条件を設定したことである。放出して買い戻すのであれば、市場への供給量は増えない。これは、今秋以降1年間のコメの値段に影響する。備蓄米を放出しても、米価を下げないという農水省の意図が隠されている。

【中略】

ウソを重ねる農水省は面従腹背で、コメの値段を下げるつもりがないことは、国民のみんなに分かったのではないか?今の国会議員で農業政策に最も詳しいのは石破茂である。氏は農水省の役人よりも農業や農政をよくわかっている。農水省の役人に振り付けられて、ウソとわかる発言を繰り返すようなことはしない。

フジテレビによれば、5月12日の衆院予算委員会で石破総理は次のように発言している。

「コメの生産が随分と落ちてきて、農家の数も減って、農地も減ってきた」と指摘し、「今回の色々な状況というのは、もちろん目詰まりを起こしているということもあるが、コメの生産がそもそも少なくなってしまったのではないかということを議論していかねばならないと思っている」と述べた。その上で「それによって仮に米価が下がることがあっても、農家の生活が困らないためにはどうすればよいのか。再生産(営農継続)を可能にするというのはキーワードだが、どなたの再生産を可能とするのか。農地を出した農家の方々の所得が増えるためにはどのような策を講ずるということであって、米の値段を下げることは一切許さんという議論はもう1回見直してみるべきだと思う」との認識を示した。

石破首相はさらに「所得補償はのべつまくなしに行うということではない。価格は市場によって決まる。しかし所得は政策によって確保していくことをどうやって両立させていくか」が重要だと指摘し、海外への販路拡大とマーケティングの推進を含め、「日本の米を守る、農業を守るために、新たな施策を展開をするための議論を賜りたい」と呼びかけた。

今回のコメ騒動の根源に減反による高米価政策がある。しかし、減反を止めて米価を下げても主業農家に直接支払いをすれば、主業農家の所得は維持できる。零細兼業農家が退出してその農地が主業農家に集積すれば、主業農家の規模が拡大しコストが下がり収益が上がるので、これに農地を貸して地代収入を得る元零細兼業農家も利益を得る。兼業農家はサラリーマン収入で生活しているので直接支払いをする必要はない。

しかし、直接支払いが交付されない農協は利益を受けない。価格低下で販売手数料収入は減少するし、零細兼業農家が農業をやめて組合員でなくなれば、JAバンクの預金も減少する。構造改革とは選別政策である。規模拡大による構造改革をすれば農村は所得が向上するが、農家戸数が減少するので農協は政治的にも基盤を失う。こうしてJA農協は構造改革に反対してきた。

今国民の関心は農政に集まっている。JA農協が中心となった農政トライアングルから、食料・農業政策を解放するときが来た。

これ以上、農水省にコメ政策を担当させることは有害ですらある。同省はサイドラインに退かせ、同じく農政に詳しい林官房長官をコメ問題の特命担当として、総理直轄で問題処理に当たるべきではないだろうか?石破さん!“勇気と真心を持って真実を語る”ときが来たのではないでしょうか?
農水省の備蓄米放出に米価を下げないカラクリがあるということは、5月9日のエントリー「米価高騰は人災か」で、同じく山下一仁氏が指摘していましたけれども、今回の山下氏の記事で注目すべきは、「今の国会議員で農業政策に最も詳しいのは石破茂である。氏は農水省の役人よりも農業や農政をよくわかっている」の部分です。

石破総理こそが農水省役人よりも農政を分かっているというのですね。

であれば、米価を下げるのに、石破氏が総理であることは適任というか、これで出来なければ誰にもできないことになってしまいます。


4.石破の政治力を計る試金石


実際、今の米価格の高止まりの状況に、石破総理は怒り心頭だという報道もあります。

5月8日、フジテレビ系情報番組「サン!シャイン」に出演したジャーナリストの田崎史郎氏は、米価格について、「明らかに農林水産省の失敗なんです……石破さんも農林水産省にものすごい怒っていて、それで昨日、自民党の小野寺政調会長を呼んで、コメの値段下げるように党の方で考えてくれ、と。で、農水省に言ってもなかなかやらないんです。備蓄米の放出も実は、官邸がやらせたんです。農水省が自主的にやったんじゃないんです」と述べ、石破総理が「農水省の問題だってずっと分かっているんです」と考えていることまで明かしています。

5月14日、自民の小野寺政調会長は、備蓄米を保管する埼玉県内の倉庫を視察後、「なるべく早く、迅速に打てる対応を政府と一緒に検討していきたい」と記者団に述べました。

政府は、備蓄米の入札に参加する業者の条件が障害になっているとの指摘もあることから、玄米のまま流通できるようにしたほか、入札条件を緩和する方針を打ち出すようです。

農水省に対策をさせるのではなく、党の政調会長に対策案を検討させるということは、農水省の役人にある意味見切りをつけたということでしょう。

党の農林部会は14日、党本部で幹部会合を開き、入札条件緩和などの具体策について協議。元農相で農水族の代表格である森山幹事長も13日、都内で開かれた全国農業協同組合中央会の会合に出席し、備蓄米の円滑な流通に協力を呼びかけています。

自民関係者は「コメの価格は、物価高にあえぐ国民生活の象徴だ。下がらないまま参院選に突入すれば、悪影響は避けられない」と吐露したそうですけれども、役人より農政を分かっている政治家が総理をやっていて、国民生活に直結している米高騰という政治課題がある。

選挙どうこうではなく、これを解決できるできないは、今の日本の政治体制の限界が何処にあるのかを計る試金石になっているのではないかと思いますね。


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