

1.ギリシャよりもよろしくない
5月19日、参院予算委員会で石破総理が、日本の財政はギリシャより良くないと発言し、波紋を呼んでいます。
これは、国民民主党の浜野喜史議員が「今は減税をして国民の皆さんの負担を減らし、そして消費を増やしていこうという、これがやるべき対策だと。それが総理は“できない”と」と質問したのに対し、石破総理が「金利がある世界の恐ろしさを認識する必要がある……我が国の財政状況は間違いなく、極めてよろしくないと。“ギリシャ”よりもよろしくないという状況でございます。そして、税収は増えているけども社会保障の費用も増えているわけで、そこにおいて減税を行い、財源は国債で賄うという考え方には賛同いたしかねる」と一蹴しました。
また、共産党の山添議員から社会保障費の財源を消費税以外から充てても良いのではないかという質問にも「それは法的に禁止されているわけではないが、国ぶんの消費税収が20.1兆円、社会保障に負う経費は34兆円で、これだけでも全然足りない。それを借金でまかなって次の時代の方にご負担いただくというのか?」と、財政赤字を増やす消費税の減税に改めて消極的な見解を示しました。
この発言は海外メディアの経済誌が一斉に報道。国債金利も反応したようです。
なぜ、ギリシャより悪いなんて発言をしたのか、すぐには分からなかったのですけれども、財務省の「日本の財政関係資料」があってそれを見たのではないかという指摘がネットでされています。
件の資料には、債務残高の国際比較のページがあり、そこでは186カ国中185位がギリシャで、186位が日本になっています。

2.財務省の言いなりである事は知っていたが、ここまでとは
この石破総理の発言にネットは鋭く反応。「お前ら毎日のように無償資金協力で発展途上国に金をバラ撒いてるよな?
ギリシャより財政状況悪いのに何やってんの? 日本潰したいの?」とか「"ギリシャよりよくない"発言が海外でバズってるw」とかボコボコ。
ジャーナリストの門田隆将氏も「石破首相が世界一の純資産国&債権国・日本をとうとう「我が国の財政状況はギリシャよりもよろしくない。税収は増えているが社会保障の費用も増えている。全てを総合的に勘案していかなければならない」と言い出した。財務省の言いなりである事は知っていたが、ここまでとは…」と批判しています。
こちらのNEWSPICKSのサイトでも、石破コメントを批難する書き込みが目立っていますけれども、公認会計士でFintechコンサルタントを名乗る方は次のようなコメントをしています。
何故財務省が半分本気で自民党幹部にこのような擦り込みをしているのか?この方だけではないですけれども、このサイトでは、自国通貨で国債を発行出来る日本とそうでない国との比較は意味はないとか、都合が良いときだけ債務だけで語るな、債権もみろなど、これまで散々指摘されているコメントで溢れています。
それは、財務省の官僚すら、貸借対照表をきちんと読めないからです。
読めないから、的確な貸借対照表を作れません。
パブリックセクターの財務諸表は、プライベートセクターとは概念が異なるポイントがあります。
→わかる人は分かるけど、分からない人は全然分からない…Kenjiさんの説明がポイント付いていますが、端的過ぎて分からない人は分からないかと
一番のポイントは、自国通貨で国債を発行出来るかどうかになります。
日本は当たり前のように円建てで国債を発行していますが、世界では自国通貨で国債を発行出来る国の方が少数派です。
あと外貨準備高、これは取得原価で財務省は分析していますが、本来なら時価に洗い替えして分析すべきです。日本のように外貨準備高が豊富な国では、仮に含み損があっても時間軸を味方に出来ます。その辺りも含めてのパブリックセクターの貸借対照表の戦略的分析、日本は弱いです。
PL偏重で財務分析が歪んでいるのは、官民共に日本の弱点でしょう。
追記
公務員は貸借対照表を理解出来ない人が多いし、日本の公認会計士はパブリックセクターにだいぶ小慣れて来たけれど、霞ヶ関レベルになるとSBGの財務分析並みに難しい…
財務省と公認会計士協会で人事交流すれば良いかも
石破首相が世界一の純資産国&債権国・日本をとうとう「我が国の財政状況はギリシャよりもよろしくない。税収は増えているが社会保障の費用も増えている。全てを総合的に勘案していかなければならない」と言い出した。財務省の言いなりである事は知っていたが、ここまでとは… https://t.co/W7pkoSadkG
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) May 19, 2025
3.破綻した国の話
確かに、ギリシャは財政破綻した過去を持っています。では、なぜそうなったのか。
こちらの税理士.chというサイトで、ギリシャが破綻した理由について端的に解説しています。
該当部分を引用すると次の通りです。
破綻した国の話―ギリシャの例ギリシャはEU加盟国でありながら、財政赤字の隠蔽や過度な歳出により、国債の信認を失ったとしているのに対し、日本は国債の約9割が国内で保有されていることから国債の安定性は担保されているが故に、破綻する可能性は極めて低いと説明しています。
国債が増えすぎると破綻する――そんな懸念を強くさせたのが、2010年前後の「ギリシャ危機」です。ギリシャはEU加盟国でありながら、財政赤字の隠蔽や過度な歳出により、国債の信認を失いました。
当時のギリシャでは労働人口の約25%が公務員で、55歳から年金受給可能、所得代替率(現役時代の所得との割合)は90%超と手厚すぎる制度があり、財政悪化の下地となっていました。
2009年の政権交代を機に財政赤字が隠蔽されていたことが発覚、財政健全化計画が発表されるもこれが信用できないとして、ギリシャ国債は格下げになりました。ギリシャ国債を多く保有していたドイツの国債も下落、似たような財政状態のイタリアやスペインの国債も下落、通貨ユーロも下落、ほかの国まで巻き込んで大混乱となったのです。結果、金利は急騰し、市場からの資金調達ができなくなり、IMFやEUからの金融支援を受けることになりました。
IMFは支援の代償としてギリシャに非常に厳しい改革を求めました。年金、公務員、公共事業、すべて見直されかつてない規模での緊縮財政と構造改革が行われます。
ギリシャ国民が経験した影響は深刻です。年金の大幅カット、公務員の大規模なリストラ、最低賃金の引き下げなど、生活に直結する痛みを強いられました。また、銀行の預金引き出しが制限され、1日に引き出せる金額が60ユーロ(当時約8,000円)に制限される「資本規制」が導入されたことで、経済活動が著しく停滞しました。
医療現場でも混乱が発生し、医薬品の不足や診療の遅延が常態化。社会的混乱によりデモや暴動が頻発し、国民生活は大きな打撃を受けました。
しかしIMFとEUの支援の代償として構造改革と緊縮財政に取り組んだ結果、問題発覚から5年後の2014年にはGDPがプラスに転じたことを書き加えておきます。
一つの国家の債務残高が信認を失った先に何が起こり得るかの実例として十分に議論されるべきでしょう。
このサイトでは更に、日本の場合はどうかについても解説していて、その内容は次の通りです。
このままだと日本は危ないのか
では、日本もギリシャのように破綻するのでしょうか。現時点での答えは「可能性は極めて低い」です。その最大の理由は、日本の国債の約9割が国内で保有されている点にあります。特に日銀や金融機関が大きな割合を占めており、海外投資家に依存していない構造が、国債の安定性を支えています。
また海外の格付け会社による日本国債の評価も過去十年ずっと「A」以上であり「投資適格」と判断されている状態が続いています。ギリシャ危機のように海外の国債保有者から不安がられる要素はほぼないということです。
また、日本は自国通貨である円建ての国債を発行しており、極端な話、財源が不足すれば通貨を発行して賄うことも理論上は可能です。
4.国際金融のトリレンマ
金融の世界では「国際金融のトリレンマ」と呼ばれる理論があります。
国際金融のトリレンマとは、1980年代に徐々に認知されるようになった国際金融論上の一説です。一国が対外的な通貨政策を取る時に、「為替相場の安定」、「金融政策の独立性」、「自由な資本移動」の3つのうち、必ずどれか一つをあきらめなければならないというものです。
このうち、「為替相場の安定」を諦めているのがほとんどの先進国です。独自の金融政策をとれば必ず内外の金利差が生まれるのですけれども、資本移動の自由が確保されているため、金利差を狙った資本流出入が起こり、結果、為替相場の変動が起こることになります。
そして、「金融政策の独立性」を諦めたのがユーロ圏内の国や香港です。これらの地域は、自由な資本移動を許しながらも為替相場を固定しています。その為には金利差はあってはならず、結果、独自の金融政策は取れなくなります。実際、ユーロ圏内の国は、域内金融政策は欧州中央銀行に一任し、香港の金融政策はアメリカに追随しています。
最後に、「自由な資本移動」を諦めているのが中国です。為替相場の乱高下を避けつつ、国内の金融政策の独立性は守りたい。畢竟、資本移動をある程度制限しなければならなくなっています。
ギリシャはユーロ加盟国であり、「金融政策の独立性」を諦めた範疇に入ります。にも関わらず財政赤字があり、それを隠蔽。財政健全化計画が発表されるも信用を得られず、ギリシャ国債の信任は失われました。それが破綻へと繋がっていった訳ですけれども、これをそのまま日本に当てはめるのは流石に無理があるのではないかと思います。
これを一国の総理が公の場で語ってしまうことの意味とその重さを分かっているのか。あまりにもセンスが無さ過ぎます。
石破総理も「金利がある世界の恐ろしさを認識する必要がある」と答弁する前に、総理という立場での発言の恐ろしさを認識する必要があるのではないかと思いますね。
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