

1.とにかく米だ
5月21日、自民党の小泉進次郎・新農水相は就任会見を行いました。
小泉農水相は、冒頭、「私は、農林水産省の最も重要な使命は国民の皆様に食料を安定的に供給することだと考えている。このため、まずは米について消費者に安定した価格で供給できるように全力で取り組んでいきたい。任命の際に、石破総理からは、随意契約を活用した備蓄米の売り渡しを検討するよう指示があった。つきましては、先週発表した対策のパッケージについて、来週に予定していた入札をいったん中止し、随意契約のもとでどのような条件で売り渡しができるかなど具体的な対応策を早急に整理するよう事務方に指示を出した」と述べました。
また、記者と次のようなやり取りをしています。
ーー7月まで『毎月10万トンの入札』と決めていたが中止するのか? 随意契約で一定額を決めても入札価格は下がらないのでは?小泉農水相は会見で 入札をいったん中止せよと事務方に指示を出したと述べていましたけれども、農水省のサイトをみると、21日付けで備蓄米放出に関する入札の取り消しがプレスリリースされていました。
小泉農水相:
今、ゼロベースで新たな制度を考えるように指示を出している。仮に需要があれば無制限に出す。そういったことも含めて今までとは違う大胆な手が必要だ。随意契約でも下がらなければ農政に対する不信感は国民の皆さんからますます高まりかねないという危機感を持っている。農水省の施策という捉え方ではなく、この施策は政治の中でも最大の課題だといった思いで取り組んでもらいたいと職員にも伝えた。最終的に、この随意契約の詳細を設計をする中で、やはり法的な整理をしなければいけない。具体的に言うと、会計法、これは財務省との協議は不可欠だ。会計法の理解の中で一定の政治判断を持ってやらなければいけないことも出てくるかもしれないが、そういった場合には躊躇なくやりたい。
ーー農協改革については?
小泉農水相:
今、この局面で、やはり一定の団体などに怒られないか気を使いながらの判断は政策を誤る。例えば、水産調査会長として自民党は今まで調査会の会議の毎回団体に出席をいただいていたことを、私は調査会長としてやめた。それは、一定の団体の話を過度に聞きすぎることによって見えないことが出てくるからだ。将来、生産者の皆さんが意欲を持って農業に従事できることを達成すると同時に、やはり消費者の皆さんの立場をもっと考えた農政を実現する。そこが国民の皆さんが求めてることではないか
内容は次の通りです。
「第4回政府備蓄米の買戻し条件付売渡しに係る入札公告」の取消しについてお知らせします。とりあえず、指示は通っているようです。
下記サイトに掲載しております「第4回政府備蓄米の買戻し条件付売渡しに係る入札公告について」(掲載日:令和7年5月16日)を取消し、令和7年5月28日から30日までに実施することとしていた入札は、中止します。
2.農協とのバトル再燃か
小泉農水相誕生に、産経新聞は21日「小泉進次郎氏、農水相就任で農協とのバトル再燃か コメ価格引き下げへ改革要求も」という記事を掲載し、進次郎農水相が、JA改革に乗り出すのではないかと述べているのですけれども、その中で「自民農水族の弱体化」についても指摘しています。
該当部分を引用すると次の通りです。
自民党農水族の強い政治力に阻まれ、JAに不利に作用する米価下落を招くような抜本的な農業政策の見直しは進んでいないのが現状だ。ただ、今回の江藤氏の失脚により、党農水族の弱体化も指摘される。これまで自民党の農水族を、江藤・前農水省が仕切っていたのが、今回の更迭で、農水族のドンとされる森山裕幹事長や坂本哲志国対委員長が仕切り役になるだろうとした上で、2人とも党の要職であることから、農林行政に注力できないだろうと指摘しています。であるが故に進次郎農水相にもチャンスの目があるのだ、と。
近年は西川公也氏や吉川貴盛氏といった農水族の重鎮が不祥事で相次ぎ辞任し、「実質的に党農水族は江藤氏が仕切る状況が続いていた」(農水省関係者)という。今回の江藤氏の辞任により、農水族のドンとされる森山裕幹事長や坂本哲志国対委員長が仕切り役になるとも予想されるが、「2人とも党の要職であり、農林行政に注力できないのではないか」(同)との見方もある。
一方でJA側もコメ高騰に関して、消費者感情を逆なでる発言を連発したことが問題となっている。
4月にJA全農山形が地元紙などに掲出した「それでもお米は高いと感じますか?」というメッセージを含む意見広告がSNS上で炎上。同月にはJAグループの活動などを報じる農業協同組合新聞で、「コメは高くない」と主張するために持ち出した「ごはん1杯はコンビニのサンドイッチより安い」との記述が、ネット上で「比較対照が間違っている」などと物議を醸した。
さらに、今月13日にはJA全中の山野徹会長が記者会見で、現在のコメ価格は「決して高いとは思っていない」と発言。コメ確保に苦労する消費者の反発を招き、JAに対する国民からの風当たりが強まった。与党関係者は「JAに逆風が吹いているのは間違いなく、それを追い風に小泉氏が体質の変わらないJAを断罪、改めて改革を迫る可能性は想定される」としている。
3.農水族に忖度しない
ただ、そうは言っても、農水族のドンを無視してまで好き勝手やれるとも思えません。
それでも、小泉農水相は就任会見で、「一定の団体などに怒られないか気を使いながらの判断は政策を誤る」と述べています。
これはどういうことなのか。
5月22日放送のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」に解説者として出演したテレ朝政治部官邸キャップの千々岩森生記者が次のように述べています。
・進次郎氏は21日に、石破茂首相から後任の指名を受けた後の官邸ぶら下がり取材で、自身がいわゆる「農水族」ではないことに不安の声があると指摘された際、最初に打診があったのは自民党の実力者、森山裕幹事長だったとした上で「私から申し上げたのは、今この局面で大事なのは、組織、団体に忖度(そんたく)しない判断をすることだと思います。それでよろしいですと申し上げたら、『それが大事だと思う』という話をさせていただいた」と。千々岩記者によると、進次郎農水相は予め農水族のドンである森山幹事長に対して、農水族に忖度しないという言質を取っていたというのですね。
・進次郎氏は「『族』とか、非主流派とかは抜きにして、今だれもが思っていることは、コメの価格高騰とマーケットにコメが足りているかという不安を、解消したいということ。そのことでみんな心をひとつに頑張れると思う」と、強調した。
・森山さんといえば自民党農水族の最大の実力者。その森山さんに、忖度しませんけどよろしいですか?と言質を取っている。もう1つ重要なのは、あえて公にしなくてもいい政治家同士の話を、公にしている。私はこういう立場でいきますということを公にして、しかも自ら退路を断ったことも重要
・彼は、『農水族に忖度しない人がやらないといけない』『これまでの方針を転換させて、生産調整を事実上やってきた、価格を調整してきたのを増産に切り替えて、余ったら輸出していく。政府が必死になって販路を拡大していく』という話をしていた……それが、昨日のぶら下がりでも端々に出ていた。
4.日本の食料安全保障を破壊する
となると、気になるのは、昨日のエントリーでも述べましたけれども、進次郎農水相が、農協マネーを外資に売り渡さないか、という懸念です。
これについて、経済評論家の三橋貴明氏が自身の動画で次のように述べています。
・自民党側あるいは政権側として小泉氏が自民党農林部会長として農協改革に携わった経験があり米の価格引き下げに向けた改革案に期待してるという話があるが、だからダメ筆者は昨日のエントリーで農協を敵として責め立てるのではないかと述べましたけれども、やはり同じようにみている人は多そうです。
・現在の日本の米不足の延因になった1つは農協改革
・減反政策について廃止と言っていましたけど実際は廃止されてなかった
・結果的に米の生産能力が不足することでそれで今の米不足を招いています
・小泉さんは米の価格を引き下げるために死力を尽くすというようなことをおっしゃってますけど、現実問題として国内的に回答はない
・今の米不足についてはとりあえずは来年以降を見据えて増産をしなくちゃいけない
・減反を本当に廃止するということをやらなくちゃいけないんですけども、おそらく彼のことですから農協を悪物にして
そしてさらなる農業改革をやる
・JA共済であったり農林中金であったり全農を外国企業に売り渡す方向に動くという風に私は予想しています
・さらには、短期的に米不足を解消するためにまアメリカ米の輸入拡大とかあり得る。1回既成事実できてしまったらその後輸入しませんってなかなかできない
・日本の食料安全保障を破壊する方向に動かれるのは確実なんじゃないかなと思っている
ただ、実際にできるかどうかとなると、まだ分かりません。
なぜなら、米の値段を下げることが第一の目的になるからです。農協を悪物にしても、それだけで米の値段は下がらないですし、全農を外資に売るにしても、今日明日でどうこうなる話ではありません。
それに、7月には参院選挙です。
分かりやすいところでいえば、7月の参院選までに目に見えて米の値段が下がらなければ、国民から駄目判定されるのではないかと思います。
小泉純一郎元総理は、郵政改革の為に、解散し、反対議員に刺客を立てるまでして、ようやく進むことができました。進次郎議員に同じことができるのかを問う以前に総理ですらないですからね。
進次郎農水相は、農協を悪者にすることまでは出来ると思いますけれども、それだけで国民が躍ってくれる時代でもない気もします。
まずは参院選までに米の値段を下げることができるのか。それが直近の目安ではないかと思います。
5.米の値段は下がるか
ただ、進次郎農水相の誕生は、早くも効果が出始めている気配が出てきています。
5月21日、TBS系「ひるおび!」に出演した政治評論家の田崎史郎氏は、事実上の更迭となった江藤拓農水大臣の後任に、小泉進次郎議員が有力であることを報じた際、「小泉進次郎氏が農水大臣になると、結局米の価格は下がるのか?」という質問がなされたが、田崎氏は「ぼくは下がると思う」とコメントしました。
田崎氏は、その理由として「昨日の夜、石破さんと小泉さんは話し合っている……米の価格を下げないといけないですね、と。それはそうだねと。どんな手段を使ってもやっていいですか?やってくれで合意している。それで受諾した」と話しました。
これは前述した、進次郎農水相が森山幹事長と農水族に忖度しなくてよいと握ったことと軌を一にします。
田崎氏は「実際に下がるかは、やってみないと分からないが、これまで以上に力を入れるのは間違いない」と述べています。
進次郎農水相が誕生した21日、JA全農長野は備蓄米の販売状況を公表しました。
全農長野はJA全農を通じて1回目の入札で長野県産米の他、さまざまな産地の備蓄米7700トンを確保。このうち、県内の米卸売事業者2社に約1000トンを出荷し、すでに卸には62%を出荷したと説明しています。
全農長野は確保した備蓄米の流通・販売が順調に進んでいることを受け、3回目の入札で2000トンを新たに確保したことを明らかにしています。
この日、全農長野は消費者に向けて販売状況を伝えるため、開店前のA・コープファーマーズ南長野店の精米売り場を報道陣に公開。備蓄米は「国内産ブレンド米」として5キロ2990円だそうです。
運営会社の長野県A・コープの米担当者は「備蓄米でもうけようとは思っていない。なるべく多くの人に米が行き渡るよう、この価格で販売を続ける」と話しています。
これを受けて翌22日、進次郎農水相は、「きのうも記者会見で全農に対するメッセージも出しましたが、ありがたいことに、きょうは長野県の全農で販売している米がとうとう2000円台に乗ったと聞いている」と述べ、X(旧ツイッター)でも長野県で「備蓄米5キロ2990円」と報じたニュースをリポストしています。
ネットでは、「なぜこんなに急にこうなるわけ?」「どういうこと?」「大臣がチェンジしただけで、お米の価格が即時下がるのってなんだろう」「これを全国へ」「まだまだお高いですね」「えっどういうこと?何で急に安く出来るの?」などとコメントが殺到しているそうですけれども、もしこれが進次郎農水相効果だとしたら、庶民にとっては助かる話です。
あるいは、進次郎農水相に悪者認定されて、外資に売り飛ばされかねないと危機感を持った全農長野が、先手を打って、米の値段を下げることで悪者になることを回避しようとしている、と見るのか穿ち過ぎか。
ともあれ、この長野で起こっている米の値段下落の流れが全国に広がっていくのかどうか。注目したいと思います。
この記事へのコメント
みどりこ
多分その「上」が純一郎氏に郵政をアメに売らせたのでしょう。
JAが同じことにならないか、それだけは避けたい。
かもお
楽天ではすでに多くの農産物を扱っているのだから米は、税府や全農の規制や圧力があったから出来なかっただけのことでこれが開放されれば、全農の独占体制を破壊することなど時間の問題と言えるでしょう。
全農の独占体制を破壊することこそが日本の農業を復活する唯一の手段になるでしょう。
楽天が、米だけでなく、農薬肥料農機具農業資材の分野に進出することで農業全般の流通に関わることが出来ます。
農産品の輸入分野もあります。可能性はいくらかでもあるのです。