

1.政府備蓄米の品質確認について
6月12日、農林水産省は公式サイトで政府が備蓄している米のカビ毒検査を「任意検査」に変更したという一部報道を否定する「政府備蓄米の品質確認について」というプレスリリースを行いました。
件の発表の内容は次の通りです。
一部で報道のあった、政府備蓄米の品質確認(メッシュチェック(注))について、お知らせします。農水省は、公開している随意契約による備蓄米の売却案内について、「一部わかりにくい表現があった」と釈明していて、「随意契約による政府備蓄米の売渡しについて」のパンフレットに記載されていた「⑦品質確認を買受者自らが行う場合は、メッシュチェックを行わずに引き渡すことも可能ですので」という文言を「⑦メッシュチェック等の品質確認を買受者自らが行う場合に限り、国にメッシュチェックを行わずに引き渡すことも可能ですので」と修正。すべての買い取り業者に改めて通知しています。
随意契約の政府備蓄米を買受者へ販売する際には、国自らメッシュチェックを行うか、買受者がメッシュチェック等の品質確認を行うことになっています。
このため、国によるメッシュチェック、買受者によるメッシュチェック等の品質確認のいずれかは行われており、一部で報じられている「検査が『任意』になっている」ということは、事実ではありません。
なお、農林水産省ホームページで公表した「随意契約による政府備蓄米の売渡しについて」のパンフレットでは、一部わかりにくい表現があったことから、公表のパンフレットのメッシュチェックに関する表現を修正するとともに、別途全ての買受者へ改めて通知いたします。
(注)「メッシュチェック」とは、玄米状態の米を金属の網(メッシュ)を通して、品質の変化や異物混入の有無を確認(チェック)する作業のことです。
農水省貿易業務課によると、備蓄米の随意契約では、法的な義務はないものの、国か買受者のいずれかがメッシュチェックを実施するルールとなっているとのことで、パンフレットについては「曖昧に書いていたのは事実」だコメントした上で「備蓄米は適切な温度管理でカビの発生などのリスクは小さい……買受者が『自ら検査するので国のチェックは不要』という場合に国の検査を省略している……買受者が品質確認を行うことは当然のこと」と述べています。
この発表にSNSでは「カビ毒検査」がトレンド入り。「カビ毒検査は国がやらなくてもいよい、としたとのことですね。事業者はやる義務がある・・国民は事業者を信用して、コメを買うことになる。なんだか不安」「『どちらか』だとうっかりどちらもやらないミスをしそうだけど、どちらがやったかはどうやってチェックしておるのかしら?」「これに対応して、各業者さんはきちんとコメント出された方がよいのでは」などのコメントがあがっているようです。
2.コメのカビ毒
カビ毒とは、文字通りカビ(真菌)で作られる毒性の2次代謝産物であり、マイコトキシンとも呼ばれています。
カビ毒は通常加熱調理しても壊れないことから、食品を汚染していた場合には調理で取り除くことはできません。したがって、カビに汚染した食品は食べることはできません。
カビ毒を食べたりすると、食あたりや嘔吐、下痢以外にも、血液細胞の障害、血管や子宮平滑筋の収縮、肝機能障害、腎機能障害、神経障害などがあることが知られています。これらの症状はカビ毒の種類によって異なっており、その代表的なものには次があります。
アフラトキシン:なぜコメにカビ毒が発生するのかというと、もともと日本は湿度が高く、梅雨や台風など、穀物がカビにさらされやすい環境にあることが挙げられます。
アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)などのカビが作り出す非常に毒性の高いカビ毒で、強い発がん性があり、特に肝臓がんとの関係が指摘されています。中でもアフラトキシンB1と呼ばれるカビ毒は、最も発ガン性が強いといわれています。アフラトキシンB1は、それ自体は発ガン性を持たないものの、肝臓で代謝されると発ガン性の高い物質に変換され、DNA損傷などを引き起こすことで発ガンリスクを高めます。
デオキシニバレノール(DON):
フザリウム属のカビによって生成され、「嘔吐毒」とも呼ばれます。人が摂取すると、嘔吐や下痢、免疫低下などの症状を引き起こすことがあります。
ゼアラレノン:
フザリウム由来で、植物由来のエストロゲンに似た作用を持ちます。家畜においてホルモン異常を引き起こす例が知られており、人間への影響も懸念されます。
コメは収穫後すぐに乾燥処理され、適切に保管される必要があるのですけれども、ここで気温・湿度管理が不十分であると、カビが繁殖してカビ毒を生成してしおいます。また、カビ毒は海外から輸入される米にも同様のリスクが存在するため、日本では輸入段階でも検査体制が整えられています。
カビ毒の検査方法は主に2種類あります。
ひとつは「スクリーニング検査」と呼ばれる簡易検査キットなどを使った方法です。短時間で判定可能な反面、精度や感度に限界があります。主に初期チェックや現場レベルでの判別に使われます。
もうひとつは、「精密分析」による検査です。これはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)やLC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)といった高度な分析機器を使って、微量のカビ毒でも正確に検出する方法です。主に行政機関や公的検査機関、輸出入管理などで使用されており、信頼性が高いとされています。
日本は食品衛生法に基づき、日本ではカビ毒に対して厳格な基準が設定されています。
前述したカビ毒に対する検査基準は次の通りです。
アフラトキシン:これらの規制値は、人体に有害な影響が出ないように科学的根拠に基づいて設定されており、農家・流通業者・行政が連携して管理しています。
0.01ppm(=10マイクログラム/kg)以下
デオキシニバレノール(DON):
1.0ppm以下
ゼアラレノン:
精白米で1.0ppm以下
備蓄米の殆どは玄米のまま冷凍保存されていますけれども、では、精米すればカビ毒は取れるのかというと、それほど甘いものではありません。
確かに、カビ毒の多くは籾殻や糠層に集中しやすい為、精米によって50~80%のカビ毒が除去されることがあります。従って、玄米の状態でカビが表層にとどまっている場合には精米による除去は有効です。
けれども、カビがコメの内部にまで侵入しているケースでは、精米してもカビ毒が残る可能性があります。そして一度生成されたカビ毒は、加熱しても壊れません。
3.事故米
これらカビ毒やメタミドホスなどの残留農薬等で汚染されたコメを「事故米」と呼ぶそうなのですけれども、2008年9月、米粉加工会社「三笠フーズ」が農水省から工業用の糊に処分することを目的として売却を受けた事故米を焼酎、あられ、せんべい、菓子などの加工用途、保育園の給食用、弁当等に不正に転売、横流しをした事件を起こしています。
農水省は、2003年度~2008年9月までに、食用可能な661tを含む計約7400tが政府から事故米として流通し、うち約3500tが農薬であるメタミドホスに、9.5tがアフラトキシンB1に汚染されていたとしています。
更に遡って、1995年度から2007年度までに日本国内で販売された事故米穀の総量は、政府販売分・商社販売分の合計で3万4185トン。内訳は、備蓄米として購入された国産米から生じたものが8528トン(24.95%)で、ミニマムアクセス米として輸入された外国産米から生じたものが2万5657トン(75.05%)と事故米の四分の三は外国産米です。
もちろん、輸入米全量に対する割合はわずかであり、この時期に輸入された865万トンのミニマムアクセス米のうち、事故米穀の混入率は0.297%でした。
ただ、政府は、昨今の情勢を受け、コメ輸入の前倒しを検討しています。
農林水産省は主食用として輸入しているコメの入札を例年より前倒しし、今月中に実施する方向で最終的な調整を進めていると報じられています。これはミニマムアクセス米のことです。
政府はミニマムアクセス米として、毎年およそ77万トンのコメを無関税で義務的に輸入していて、このうち10万トンは主食用として民間に入札で販売されています。今回、農水省は比較的安い主食用の輸入米を早めに市場に流通させることでコメの値下がりにつなげようと、例年9月に行っていた入札の時期を前倒しする方針を固めたとのことで、最初の入札の対象は10万トンのうちの3万トンとみられています。
4.輸入する米穀に対する二つの検査
ただ、いくら米の値段を下げようと輸入米を増やしても、それがカビ毒などに汚染されていたら意味がありません。
勿論、農水省は、輸入する米穀及び麦の安全性を確認するため、輸入業者にかび毒、重金属及び残留農薬等の検査を義務づけています。
米穀について、農水省が検査を義務付けているのは、産地段階の検査(産地検査)と船積時の検査の2つです。
産地検査は、輸入現品の産地段階の包装時に採取した試料を用いて、概ね1000トン又は400トン単位で検査を実施し、合格したものを船積みします。検査項目は、カビ毒(総アフラトキシン)並びに、毒性が高い農薬、米に一律基準(0.01 mg/kg等)が適用となる農薬のうち、毒性が低い農薬、ヒ素、重金属(カドミウム、鉛)及び未承認の遺伝子組換え米す。
そして、船積時検査では、輸入現品の船積時に採取した試料を用いて、契約数量単位で検査を実施し、合格したもののみを輸入。検査項目は、米に残留基準が設定されている農薬のうち、毒性が低い農薬で、産地検査と併せてポジティブリストに設定される全ての農薬を検査対象としています。
農水省は、輸入米麦のかび毒、重金属及び残留農薬等の分析結果を毎年公表していますけれども、たとえば昨年、令和6年度前期については「国が買い入れた米麦について、食品衛生法及び飼料安全法に基づく規制値、基準値を超えたものはありません」と発表しています。

5.コメの重金属汚染
ただ、去年や一昨年が大丈夫だからといって今年も大丈夫だという保証はありません。
5月17日、CNNはアメリカ国内で販売されている米から、ヒ素とカドミウムが検出されたと報じています。
件の記事の概要は次の通りです。
米国内で市販されている異なるブランド100以上の米のサンプルを調べたところ、危険な水準のヒ素とカドミウムが含まれていることが分かった。CNNに最初に公開された新たな報告で明らかになった。ppbはppmの千分の一の単位でアメリカのFDAは乳児用米シリアルの無機ヒ素の基準を2021年に100ppbに設定しています。これに対し、インド、イタリア、タイ、アメリカの乳児用米シリアルの多くが100~150ppbと基準値を超えていたというのですね。
「低い水準でさえ、ヒ素もカドミウムも深刻な健康被害と関連している。糖尿病や発達の遅れ、生殖毒性、心臓病などだ」。報告の共著者で、子どもの有毒化学物質への暴露低減に取り組む団体、ヘルシー・ベビーズ・ブライト・フューチャーズの調査責任者を務めるジェーン・フーリハン氏はそう述べた。今回の報告は同団体が作成した。
「幼い子どもの重金属汚染には特に懸念がある。発達初期の暴露は知能指数(IQ)の低下や広範囲にわたる認知及び行動障害と関係するからだ」(フーリハン氏)
全米の食料品店や小売店で購入した米のサンプルのうち、4分の1は米食品医薬品局(FDA)が2021年に設定した乳児用米シリアルの無機ヒ素の基準を上回っていた。当該の報告は15日に公表された。
フーリハン氏によれば、FDAが乳児用米シリアルの無機ヒ素の規制値を100ppbに定めて以降、これらのシリアルに含まれる無機ヒ素の水準は45%低下した。しかしFDAは、調理のため購入される米の無機ヒ素の基準については対処してこなかったという。
0~2歳児にとっては米シリアルよりも米そのものが無機ヒ素の重要な暴露源だということが明らかになったと、フーリハン氏は述べた。
ヒ素は土壌や水、空気から検出される天然元素で、無機のものは最も毒性が高い。ここでの「無機」とは化学用語であり、農法とは無関係。
ヒ素は発がん性物質でもあり、妊娠中を含め発達初期の暴露は特に危険だ。流産や死産、早産につながる恐れがある他、生まれてから神経発達症にかかる場合もあると、米小児科学会は述べている。
米生産者を代表する全米ライス連合会は電子メールでCNNの取材に答え、米国で生産される米に含まれる無機ヒ素の水準は世界最低レベルだと説明。広報並びに戦略開発担当幹部のマイケル・クレイン氏は、「米に含まれる微量のヒ素の結果、健康上の問題が生じるとの見方には同意しないが、我々は引き続きFDAと連携し、米国内で出回る米があらゆる基準を確実に満たすよう取り組んでいく」と述べた。
その上で、米国人が食生活で摂取するヒ素の割合は青果と果物ジュースが42%で最も高く、米は17%だと付け加えた。
一方、前出のフーリハン氏は、青果が数十種類で42%なのに対し、米はそれのみで17%を占めていると指摘。単一の食材として米国人の食生活の中でヒ素の最大の摂取源となっている公算が大きいと述べた。
「平均すると、0~2歳の全乳児にとって、米はヒ素に暴露する割合の7.5%を占める。これは他のどの固形食よりも高い」と、フーリハン氏。また同年齢のヒスパニック系、アジア系の子どもだと、このレベルはそれぞれ14%、30.5%に上昇すると付け加えた。
今回の報告では、米のブランド145のサンプルについて重金属の含まれる量を分析した。製品の生産国はインド、イタリア、タイ、米国で、いずれも米国内で市販されている。
またアマランスや大麦、蕎麦(そば)、ブルグル、クスクス、ファッロ、黍(きび)など9種の古代穀物を使用した66のサンプルも同様に調べた。
その結果、市販の米には古代穀物の28倍のヒ素が含まれていることが分かった。古代穀物には米より1.5倍多くカドミウムが含まれていたが、それでも全体的な重金属の水準は9種の古代穀物の方が市販の米よりも3倍低かった。
市販の米のサンプルは、米国南東部産の玄米の重金属濃度が151ppb。このうちヒ素は129ppbだった。主にリゾットに使用されるイタリア産アルボリオ米は全体の重金属濃度142ppb中、ヒ素が101ppb。米国南東部産の精白米は全体の重金属濃度118ppbに対し、ヒ素が95ppbだった。
インド産のバスマティ米、タイ産のジャスミン米、カリフォルニア米のカルローズの重金属濃度は、FDAが乳児用米シリアルに設定した100ppbと同じか、これを下回った。
カドミウムの濃度は、イタリア産アルボリオ米とインド産バスマティ米で特に高い数値が検出された。
全体の重金属濃度はカリフォルニア米がヒ素55ppbを含む65ppbと最も低く、全般的に暴露を低減する上で優れた選択肢になると、フーリハン氏は語った。
この他にも報告では、米を調理する際、パスタのように米1カップに対して水6~10カップで茹(ゆ)で、食べる前に余分な湯を切れば米に含まれるヒ素を最大60%取り除けるとしている。調理前の洗米だけではそうした効果は得られないという。
さらに多くのヒ素を取り除くには米を30分、もしくは一晩水につけ、調理前に水を切る方法もあるという。
またビタミンBやカルシウム、亜鉛、ビタミンCなどの栄養素は、混入物質の体への吸収を抑え、迅速な排出に寄与すると報告は指摘。赤身肉やヨーグルト、チーズ、葉物野菜、ブロッコリー、豆類、柑橘(かんきつ)類などにそうした栄養素が含まれているとした。
では、日本の米はどうなのかというと、農水省の2022年の調査結果では、平均で200ppb前後、最大で800ppbとなっています。
ただ、ヒ素に関する基準値は世界各国でバラバラなのが現実なようで、オーストラリア・ニュージーランドは1000~2000ppb、中国は500ppb、EUは150~300ppb、コーデックス委員会は200~350ppbの基準値を設けているようです。
現実的に考えると、輸入米についてはヒ素やカドミウムよりはカビ毒のリスクの方が高いのではないかと思いますけれども、管理含めて検査でどこまでチェックできるのか。食の安全性には今以上に気を付ける必要があるかもしれませんね。
この記事へのコメント
ルシファード