

1.合意を結ぶべきだし、結ぶだろう
6月15日、アメリカのトランプ大統領がイランの最高指導者ハメネイ師を殺害するというイスラエルの計画を却下していたことが分かりました。
トランプ政権高官2人が明らかにしたところによると、イスラエルがイランに対する先制攻撃に踏み切った13日以降、イスラエル側がハメネイ師を殺害するチャンスがあると伝えてきたのに対し、トランプ大統領が却下したということです。
トランプ政権高官は、イランがまだアメリカ人を殺害していないと指摘し、「そういう事態になるまで、指導者を狙うという話にはならない」と語っています。
この会話は、イスラエルが金曜日にイランへの攻撃を開始してから行われたとされているようです。
これについて、イスラエル当局者は「イスラエルは原則として政治指導者を殺害することはない。我々は核兵器と軍事力に重点を置いている。こうした計画について決定を下す者が、安易な行動を取るべきではないと思う」と述べ、トランプ大統領は、自身のSNSであるトゥルース・ソーシャルへの最新の投稿で、「イランとイスラエルは、私がインドとパキスタンに結ばせたように、米国との貿易を利用して、迅速に決断し、阻止することができた二人の優れた指導者との交渉に理性、結束、そして正気をもたらすことで合意を結ぶべきだし、結ぶだろう」と両国に敵対行為を停止させると述べています。
2.彼の判断を完全に信頼している
6月15日、イスラエルのネタニヤフ首相は、Foxニュースの生放送インタビューに応じ、イランがアメリカの核開発計画放棄の要求を受け入れれば、イスラエルは軍事作戦を中止する用意があると示唆しています。
件のインタビューでのネタニヤフ首相の発言の概要は次の通りです。
・今回の空襲はイスラエルだけでなく世界を保護するためのものだネタニヤフ首相はこのように述べていたのですけれども、ネットにあがっているインタビュー動画でのネタニヤフ首相の様子は、とても不安気でビビッているようにさえ見えました。インタビューで語っている内容も、なんとかしてアメリカをこの戦争に参加させたい気持ちがありありとみえて、アメリカの支援を必死に懇願するかのようでした。もしかしたら、アメリカが支援してくれないと国が保たない。イスラエルが滅ぶと内心分かっていて、それを恐れているのではないかとさえ。
・イランで9個の核爆弾を作ることができるウラン濃縮を発見した。我々は2度目のホロコースト、核ホロコーストを許容できなかった
・ここでの問題は、我々の生存を脅かすものを阻止することだ。我々はそれを阻止することに全力を尽くしている。そして、我々はそれを達成できると考えている。
・ただし、彼らがトランプ大統領の条件を受け入れるかどうかは別問題だ
・そうでなければ、そうした能力を削除すれば終わだ。そして、実際にそうする
・イランの政権は非常に弱いため、その結果(イランの政権交代)は確かにあり得る
・(トランプ大統領がイランの最高指導者アリー・ハメネイ師へのイスラエルの攻撃を拒否したとの報道について)実際には行われなかった会話についての虚偽の報告が数多くあるが、私はそれについて言及するつもりはない……しかし、我々は必要なことをしていると思っている。我々は必要なことをするつもりだ。米国は米国にとって何が良いかを知っていると思う。私はただ、そのことに口出しするつもりはない。
・彼らがウランを兵器化する秘密計画を進めていたことは全く明らかだった。彼らは非常に迅速に行動していた。数ヶ月以内に試験装置、そしておそらく最初の装置を完成させるだろう、少なくとも1年以内には。それが我々が米国と共有した情報だ。
・トランプ大統領とはずっと連絡を取り合ってきた……私たちは長年の知り合いだ。そしてもちろん、アメリカの友人たち、そして私たちの偉大な友人であるトランプ大統領には事前に知らせた。本当にそうした。
・彼(トランプ)は決断力のある指導者だ……他の指導者たちが取るような、弱腰な交渉の手段を彼は決して取らなかった。つまり、ウラン濃縮の道筋、つまり核兵器開発の道筋を与え、何十億ドルもの資金を注ぎ込むようなやり方だ。彼は偽りの合意を事実上破棄した。そして、カセム・ソレイマニを殺害したのだ
・(イスラエルはイランの地下深くにある施設を破壊する能力を持っているかと問われ)「確かにかなりの成果を上げた。ナタンツの主要施設を破壊した。そこは主要な濃縮施設だ。そして、必要であれば、必要なものは何でも追加する。しかし、確かに、私たちは両方の目標を達成することに全力を尽くしている。すべての目標について言及するつもりはないし、具体的な作戦計画についても触れたくない。」
・これでテヘランへの高速道路が無料で使えるようになり、飛行機を撃墜されることなく、テヘランやその他の場所で必要な標的を攻撃することができるようになった
3.ダニー・ダノン国連大使
6月13日、アメリカのNPR(旧ナショナル・パブリック・ラジオ)は、イスラエルのダニー・ダノン国連大使にインタビューを行い、イラン攻撃の理由について尋ねています。
件のインタビューの概要は次の通りです。
NPRスティーブ・インスキープ記者:イスラエル側は、ユダヤ民族を滅ぼすと宣言しているイランが核兵器を保有する寸前の状態に至ったので、先制攻撃をしたのだ、と主張しています。
イスラエルとしては、現時点で他国への攻撃を正当化するものは何だと思いますか?
ダニー・ダノン国連大使:
そうですね、爆弾を組み立てるのに必要な部品をすべて含む秘密計画に関する情報を入手しました。IAEAはイランが複数の核兵器を製造するのに十分な物質を保有していると判断し、報告しました。そこで私たちは、待つことなく、不意を突かれないように、先制行動、つまり先制攻撃を行うことを決定しました。
インスキープ:
では、イランの秘密計画、つまり爆弾の様々な構成部品についてあなたが入手したという情報についてお話ししましょう。イランは核兵器開発の権利は有すると主張しながらも、核兵器開発の野心はないと常に否定しています。あなたは、イランが核兵器開発の途上にあったと主張しているのでしょうか、それとも、秘密計画には爆弾を製造する能力があったとだけ主張しているのでしょうか?
ダノン:
いいえ。さらに、これは民生用の原子炉とは別物だという情報も持っています。国際社会から隠された軍事計画だったのです。彼らが策略を巡らせ、後戻りできない地点に非常に近づいていることに気づいた時点で、私たちはそのようなリスクを冒すことができませんでした。数時間前、彼らは100機以上のドローンを送り込みました。今後数日以内に弾道ミサイルがイスラエルに飛来すると予想されます。ですから、彼らが既に保有している弾道ミサイルに核兵器能力を搭載できるようになる日を待ちきれません。
インスキープ:
あなたのおっしゃっていることをきちんと理解しているか確認したいのですが。イランには核兵器製造計画があったとおっしゃっていますね。あなたの情報によると、イランは実際に核兵器の製造を積極的に進めていたのでしょうか?
ダノン:
その通りです。彼らは前進していました。そして、彼らが十分なウランと技術を持っていることに気づいたのです。そして、どうでしょう?私たちは彼らを信じてしまったのです。彼らは「ユダヤ民族を滅ぼす」と明確に宣言し、それを隠そうともしませんでした。ですから、私たちはその危険を冒さないことにしました。歴史が教えてくれているのは、ユダヤ人を絶滅させると脅す政権が出てきたら、それを信じた方が良いということです。
4.イランをディールに引きずり出す
また、NPRは、シンクタンク「クインシー国家戦略研究所」のトリタ・パルシ副所長にも、この件についてインタビューしています。
その概要は次の通りです。
クインシー責任ある国家戦略研究所の執行副所長で米イラン関係専門家のトリタ・パルシ氏は、NPRのミシェル・マーティンに対し、イスラエルは米国とイランが問題を解決し関係を改善するのを望んでいないと語った。6月16日のエントリー「イラン・イスラエル紛争」で、今回の紛争にアメリカが関与しているという意見を紹介しましたけれども、パルシ副所長も関与していたという見方を示し、その理由は、イランが核開発計画を断念するよう圧力を掛けるためだとしています。
NPRミシェル・マーティン特派員:
今起こった出来事について、あなたの第一印象はどうでしたか?
トリタ・パルシ・クインシー国家戦略研究所副所長:
ここで肝心なのは、トランプ政権はアメリカは関与していないと言っているものの、イスラエルがこれを行うためにトランプ政権が何らかの形で調整とゴーサインを出していたことは明らかだということです。
マーティン:
アメリカが承認するだろうという何らかの考えなしにこれが起こったと想定するのは合理的ではないからそう言ったのですか?
パルシ:
そうですね、また、トランプ氏の現在の発言から判断すると、彼は基本的にこれらの攻撃を利用してイランを交渉で屈服させようとしているのです。なぜなら、制裁解除と引き換えにイランの核開発計画を制限する合意を結ぶ機会があったからです。
しかし、トランプ大統領は数週間前に立場を転換し、もはや核兵器プログラムを制限するだけでは満足せず、実質的に核兵器プログラムを廃止することを望んでいます。しかし、予想通り、それは何の成果も生みませんでした。そして今、彼はイスラエルによる核攻撃を容認し、それがイランの立場を変えるかどうかを見極める方向に舵を切ったようです。
マーティン:
イラン国営メディアが報じているように、テヘランはイスラエルの攻撃に断固として対応するでしょう。あなたや他のアナリストは、これがイランが核開発計画を継続する可能性を高めると示唆しています。
パルシ:
そうですね、実際に攻撃されることほど、核抑止力への欲求を強めるものはありません。そして今、イラン原子力庁の複数の長官が、イランへのいかなる攻撃も、イランが核拡散防止条約(NPT)を離脱し、核兵器開発へと向かう可能性を高めると警告しています。そして、そのリスクは今や非常に深刻です。
つまり、トランプ氏はここで大きな賭けに出ているのです。イランの立場を軟化させ、降伏させるとでも考えているのでしょう。もし降伏しなかったら、彼にはどんな選択肢があるのでしょうか?そして、イスラエルはまさにこの点でイランが降伏せず、アメリカが戦争に突入せざるを得なくなることを期待しているのではないでしょうか。
5.トランプが直面する三つの選択肢
ナイフをちらつかせながらの交渉ではなく、核をちらつかせながらの交渉とでは、そのリスクには雲泥の差があります。
これからトランプ大統領の取り得る手段には何があるのか。
これについて、6月17日、BBCは「トランプ大統領のイランへの対応の選択肢は何だろうか?」という記事を掲載しています。
件の記事で提示された三つの選択肢の概要は次の通りです。
(1)ネタニヤフ首相の圧力に屈し、エスカレート:要は「進む」か「立ち止まる」か「退く」かの三択だと述べています。現時点ではトランプ大統領は「立ち止まる」というスタンスでいるように見えますけれども、先述したクインシー国家戦略研究所のパルシ副所長が指摘したとおり、イスラエルのイラン攻撃がトランプ大統領の承認済みのことであり、その目的がイランに核開発を放棄させるためのディールなのだとしたら、イランとの交渉の可能性があると見える限りにおいては、「立ち止まる」というスタンスは維持されるように思います。また、トランプ大統領が、イランの最高指導者ハメネイ師を殺害するイスラエルの計画を却下したのも、交渉相手を消してしまっては元も子もないからと解釈すれば辻褄は会いますし、同時にイランとディールしたいという意思表示にもなっています。
イスラエルのミサイルが木曜日にテヘランを攻撃した際、トランプ大統領は、アメリカの爆弾で武装したイスラエルの同盟国による「さらに残忍な」攻撃をイランの指導者らに警告した。
トランプ氏の究極の目的は周知の事実だ。彼はネタニヤフ氏と同様に、イランは核兵器を保有できないと主張している。重要なのは、彼が(ネタニヤフ氏とは異なり)好ましい選択肢として米国とイランの合意を挙げていることである(この道筋は、トランプ氏が自ら称する世界クラスのディールメーカーというイメージを反映するものでもある)。
しかし、合意に至る方法については曖昧な態度を示し、時には武力による脅しに頼り、時には外交を重視する姿勢を見せてきた。先週には、イスラエルによるイラン攻撃は合意成立にプラスに働くか、あるいは「破滅させる」か、とさえ口を揃えて述べた。
彼の予測不可能性は、事後的に支持者によって戦略的なものとして描写されることがある。いわゆる外交における「狂人」理論である。この理論は以前からトランプ氏の交渉戦術を説明するために用いられてきたもので、エスカレーションに関する意図的な不確実性や予測不可能性によって、敵対国(トランプ氏の場合は同盟国でさえも)を従わせる効果があると示唆している。これは、冷戦期におけるリチャード・ニクソン大統領のいくつかのやり方に起因しているとよく言われている。
トランプ氏の顧問や支持者の中には、イランへのアプローチに関して、狂人理論の「最大限の圧力」の側面を支持する者もいる。彼らは、イランは交渉に真剣ではないため、最終的には脅しが勝利すると考えている(イランは2015年にオバマ大統領主導の核合意に署名したが、後にトランプ氏はこれを離脱した)。
ネタニヤフ首相はトランプ大統領に対し、外交ではなく軍事の道を進むよう絶えず圧力をかけており、トランプ大統領は最終的に、イラン指導部に対するより好戦的な脅しを実行する必要があると判断するかもしれない。
イスラエルは、任務完了のため、水面下でアメリカの関与を強く求めるかもしれない。イスラエルは、アメリカがフォルドゥにあるイランの地下ウラン濃縮施設を破壊できると考えているバンカーバスター爆弾を保有している。
戦闘が激化するにつれ、イランの政権交代を長らく求めてきた議会共和党の強硬派陣営からのトランプ大統領への圧力も強まっている。
トランプ大統領は、イラン側が今やより弱い立場で自身と交渉せざるを得なくなるかもしれないという議論も理解するだろう。しかし、イラン側が既に交渉のテーブルに着いていたという事実は変わらない。トランプ大統領のスティーブ・ウィトコフ特使との第6回協議が日曜日にオマーンで予定されていたからだ。
交渉は今や中止となった。
(2)中道 - 進路を維持する:
これまでのところ、トランプ大統領は米国はイスラエルの攻撃に関与していないと繰り返し主張している。
エスカレーションはトランプ大統領にとって重大かつ、政権のレガシーを決定づけるリスクを伴う可能性がある。アメリカ海軍の駆逐艦と地上配備ミサイル部隊は、すでにイランの報復に対するイスラエルの防衛に貢献している。
国家安全保障会議のトランプ大統領顧問の中には、特にイランのミサイルがイスラエルと米国の防衛網を突破し、致命的な効果を及ぼす可能性があるため、近い将来にイスラエルのイラン攻撃の激しさを増す可能性のある行動をトランプ大統領が取らないよう警告する者もいるだろう。
ネタニヤフ首相は現在、イランの最高指導者アリ・ハメネイ氏を標的にすれば紛争は激化するのではなく終結すると主張している。
しかし、匿名の米国当局者は週末、複数の報道機関に対し、トランプ大統領がそうした動きに反対する姿勢を明確にしたと報告した。
(3)MAGAの声に耳を傾け、後退する:
トランプ大統領の心を占める大きな政治的要因の一つは国内での支持だ。
議会の共和党議員の大半は、イスラエルへのアメリカの武器供給の継続を含め、依然としてイスラエルを断固として支持している。また、イスラエルによるイランへの攻撃を声高に支持する議員も多い。
しかし、トランプ大統領の「アメリカを再び偉大に」(MAGA)運動の中には、イスラエルに対するこの伝統的な「鉄壁の」支援を今や完全に拒否する重要な声もある。
ここ数日、彼らは、トランプ大統領の「アメリカ第一主義」外交政策の公約を踏まえると、なぜ米国が中東戦争に巻き込まれる危険を冒しているのかと疑問を呈している。
トランプ氏支持派のジャーナリスト、タッカー・カールソン氏は金曜日、政権の不関与の主張は真実ではなく、米国は「イスラエルを見捨てる」べきだと痛烈に批判した。
同氏は、ネタニヤフ氏と「戦争に飢えた彼の政府」が、彼に代わって戦うために米軍を引きずり込むような行動を取っていると示唆した。
カールソン氏は「これに関与することは、最終的に米国を第一とする政府を作ることを願って投票した何百万人もの有権者に対する中指を立てることになるだろう」と書いた。
同様に、トランプの熱烈な支持者である米国下院議員マージョリー・テイラー・グリーンはXにこう投稿した。「米国がイスラエル・イラン戦争に全面的に関与することを熱望している人は、アメリカ第一主義者/MAGAではない」。
これはトランプ氏にとって大きな弱点となる。
これにより、トランプ大統領には米国とイスラエルの攻撃に距離を置くよう圧力がかかり、少なくとも公的にはトランプ大統領が対応した兆候が見られる。
週末のMAGAでの討論と時を同じくして、彼はソーシャルメディアに、ロシアのプーチン大統領と共に戦争終結を訴えていると投稿した。日曜日には、イランとイスラエルは合意を結ぶべきだと述べ、「米国はイランへの攻撃に一切関与していない」と付け加えた。
イランは、現在起こっているようにワシントンがイスラエルの防衛を支援する場合、この地域の米軍基地を攻撃するとすでに脅している。
アメリカ人の死傷者が出るリスクがあれば、マガの孤立主義的主張は飛躍的に高まる可能性が高く、ひいてはトランプ大統領に撤退を迫り、ネタニヤフ首相に攻撃をより早く終わらせるよう促す圧力が強まる可能性がある。
6.もう一つのシナリオ
また、シドニーモーニングヘラルド紙は16日、「トランプは、彼だけが終結できる戦争において、3つの苦渋の選択に直面している」という記事で、こちらも三つの選択肢を提示しています。
件の記事の概要は次の通りです。
・ドナルド・トランプは、中東での戦争を終わらせることを約束した。しかし、その代わりに、アメリカ大統領は新たな戦争を監督することになった。シドニーモーニングヘラルドは、「外交的解決」、「アメリカの参戦」、「イランの政権転覆」の三つの選択肢を示しています。この中で一番平和なのは「外交的解決」なのでしょうけれども、仮にこれが成立したとしても、イランがユダヤ民族を滅ぼす積もりなのだとイスラエルが思っている限り、「火種」は残ったままであり、消えることはありません。
・しかし、彼は、4 日目に突入したイスラエルとイランの紛争は簡単に終結できると考えている。
・6月15日、彼はソーシャルメディアに「私たちは簡単に合意に達することができる」と投稿した。その数時間後、彼は 1979 年以来の宿敵である両国の和平は、両国に貿易の拡大を説得するだけで実現できるとほのめかした。
・彼の軽率な楽観主義は、テヘランに空爆を、テルアビブにミサイル攻撃を降り注ぐ戦争とは不釣り合いだ。しかしトランプは、その戦争がいつ、どのように終わるかについて大きな影響力を持つ。今後数日間、彼はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を抑制するか、それとも鼓舞するか、複数の決定を下さなければならない。ネタニヤフは戦争を始めたが、その終結にはトランプに依存している。大統領がどのようにそれを計画しているかは、誰にも分からない。
・最初の決断は、外交的な解決を要求するかどうかだ。戦争前、アメリカは2018年にトランプが破棄した核合意に代わる新たな合意をイランと交渉しようとしていた。先週の週末に第6回交渉が予定されていたが、当然ながら中止された。それでもトランプは交渉を継続するよう促し続けている。イランの核計画はイスラエルの戦争努力の表向きの焦点であり、それを制限する合意は停戦合意の重要な要素となる。しかしトランプは数多くの障害に直面するだろう。
・まず、交戦当事者のいずれ側もそのような合意を結ぶ準備ができていない。イスラエルは数年かけてこの戦争を計画してきた。多くの目標が達成されないまま、数日で戦闘を停止するつもりはない。一方、イランは相互停戦を受け入れる用意はあると主張しているが、核プログラムに関する重大な譲歩をする準備はできていない。アメリカは、イランがウラン濃縮を放棄し、数十年間拒否し続けてきた多くの核施設を解体することを求めている。
・イランは損害が拡大するにつれ、より降伏する可能性が高まるかもしれない。政権は存続を望んでいる。しかし、アメリカ全般、特にトランプに対しては信頼していない。彼は2018年に核合意を破棄し、2020年にイランの最高司令官を暗殺し、イスラエルが戦争を開始することを許した。
・ドイツの外相は、イギリスとフランスと共にイランとの交渉を提案している。しかし、アメリカは依然として交渉の中心的役割を果たす必要がある。他の国は、イスラエルとイランの両方に合意が持続することを保証できない。もし真剣に合意を目指すなら、今回はより能力のある交渉者となる必要がある。アメリカ大統領の中東特使スティーブ・ウィットコフは、ガザとウクライナの戦争も担当する多忙なスケジュールの中、2ヶ月間でイランとの会談をわずか5回しか行えなかった。
・彼はまた、アメリカの同盟国からの支援を軽蔑した(ヨーロッパの外交官は、イランからアメリカよりも詳細な会談の報告を受けたと言っている)。
・イスラエルはイランの山岳要塞を破壊したい。その武器を保有するのはアメリカだけ。アメリカは戦争に参加するだろうか?
・トランプが外交に真剣でない場合、彼の第二の選択肢はアメリカが戦争に参加すべきかどうかだ。衛星画像によると、イスラエルはナタンズにある「パイロット燃料濃縮施設」を破壊した。この地上施設ではイランがウランを60%まで濃縮していた(兵器級に一歩及ばないレベル)。
・しかし、山の中腹に掘られたフォードウの濃縮施設は、イスラエルの兵器では到達できない深さに位置しているため、まだ損傷を受けていない。イスラエルは入り口や換気シャフトを破壊し、一時的に施設を封鎖する可能性がある。しかし、アメリカが特殊な爆弾で地下深くまで到達できるため、イスラエルはアメリカの支援を求めたいと考えている。イスラエルはトランプにフォードウへの攻撃に参加するよう要請したが、彼はまだ同意していない。
・最も楽観的なシナリオでは、これらの空爆は施設を機能不全に陥らせ、イランを合意に導く可能性がある。しかし現実はそう単純ではない。
・イランは、フォードウへの攻撃が政権転覆を目的とした広範なキャンペーンの序章に過ぎないと恐れるかもしれない。その場合、イランはアメリカやその地域同盟国に対して報復攻撃を仕掛ける可能性がある。イランはこれまでそのような行動を控えてきたが、アメリカが戦争に巻き込まれることを恐れていたためだ。しかし、アメリカが既に戦争に巻き込まれている場合、イランは失うものが何もないと感じるかもしれない。
・トランプの支持者の一部とイスラエルのアナリストの一部は、ネタニヤフがそのようなシナリオを念頭に置いていると疑っている。戦争が始まった際、イスラエルはアメリカからの承認のみが必要だと主張していた。しかし現在、アメリカに限定的な軍事作戦への参加を求めている——その作戦は容易に大規模なものに発展する可能性がある。
・首相はイラン政権の転覆にますます執着しているようだ。6月13日にイラン国民に向けた声明で、彼は「支配者たちに対して立ち向かうよう」呼びかけた。2日後、フォックスニュースのインタビューで、政権交代がイスラエルの目標かどうか尋ねられ、「それは確かに結果となる可能性がある。なぜならイランの政権は非常に脆弱だからだ」とネタニヤフは答えた。トランプの顧問の何人かは、それが終わりが見えないキャンペーンになることを恐れ、アメリカ軍の攻撃承認に反対している。
・これはトランプの第三の選択肢を指す。イスラエルの指導者たちは、自国が自らを防衛すると主張する。しかし、イランの弾道ミサイルからの防衛、情報共有、軍の再補給にはアメリカに依存している。トランプが戦争に介入せず、真剣な外交を拒否するか、またはその努力が目的不明で無意味なものとなる場合(彼の政権の特微である)、イスラエルへの継続的な支援の程度を決定しなければならない。
・彼はイスラエルに戦争を終了するよう促すこともできる。または、3月にイスラエルがガザでの停戦を破棄して以来、彼がガザでしてきたように、戦争を継続させることもできる。イスラエルは、特にイランが反撃に使う弾道ミサイルが不足した場合、イランでの攻撃を数週間継続できるだろう。最終的に勝利を宣言するだろうか?それとも爆撃を続け、政権を不安定化させることを期待するだろうか?もしイランがイスラエルに対して効果的に反撃できなくなれば、戦争を隣国に拡大するだろうか?
・戦争は長引くほど、予測不能な展開となる。「イスラエルが米国を巻き込むか、政権が崩壊しない限り、終結のシナリオはない」と西側の外交官は指摘する。「どちらも大きな賭けだ」
・最終的に、唯一の現実的な解決策は合意かもしれない。しかし、その合意を成立させるには、トランプの外交手腕と、イスラエルとイランの両方の柔軟性が不可欠だ——いずれも彼らが得意とするものではない。
となると、イスラエル側からみて望ましいのは「イランの政権転覆」であり、それを加速させるのが「アメリカの参戦」なのだろうと思います。ただ、トランプ大統領も同じかというと、少し違う気もします。
トランプ大統領の側からみれば、まずイランとのディールが先にあって、政権転覆など二の次。ましてやアメリカの参戦などあり得ないと考えているのではないか。なんとなれば、ディールする姿勢を見せては、いまのまま「立ち止まり」続け、イラン、イスラエル双方の共倒れを待っているのではないかとさえ。
仮に、イランもイスラエルも焼野原になってしまったら、もちろんディール以前の話になりますけれども、双方ミサイルを打ち尽くし、軍も壊滅してしまえば、ある意味、周辺に対する「脅威」という意味では薄れることになる訳です。
その空白を狙ってどこかの国は侵略しようと企てたとしても、そこは、アメリカが阻止する。そんな嫌なシナリオすら頭をよぎってしまいます。
トランプ大統領は、両国の敵対行為を停止させる云々と述べていますけれども、既にこの紛争の行く末の大部分はトランプ大統領が手中に収めているのかもしれませんね。
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