

1.無条件降伏だ!
6月18日、イスラエル軍は50機以上の戦闘機が数時間にわたって、テヘラン周辺で軍事目標を空爆したと発表しました。発表によると、ウラン濃縮に使われる遠心分離機を製造する施設を標的にしたとのことです。
この日、イスラエルのカッツ国防相はSNSに「政府の象徴は爆撃され、破壊される。国営放送局から始まり、ほかの標的も攻撃されるだろう。大勢の住民は避難している。独裁はこうして崩壊する」と投稿しています。
アメリカのトランプ大統領も17日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に「無条件降伏だ!」と投稿し、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師についても、「彼は格好の標的だが、そこにいれば安全だ。少なくとも今のところは、我々は彼を排除するつもりはない。だが、民間人やアメリカ兵へのミサイル攻撃は望んでいない。我々の忍耐は限界に達している」と投稿しています。
2.決して降伏しない
これに対し、イランのハメネイ師は6月18日、テレビ演説を行い、トランプ大統領の要求どおりに降伏することは決してないとし、アメリカが介入すれば「取り返しのつかない損害」に直面することになるだろうと述べました。
件のテレビメッセージの全文は次の通りです。
慈悲深く慈愛に満ちた神の名においてはっきりと徹底抗戦を宣言しています。
偉大なイラン国民に挨拶を申し上げます。
まず最初に、敵が最近この国にもたらしたこの状況において、我が愛する国民の行動を称賛したいと思います。イラン国民は、威厳と勇気を持ち、状況を正しく評価できることを示しました。ガディール記念日に人々が世界に示した偉大な運動は、まさに偉大なものでした。人々の集まり、この数日間に人々が参加した集会、金曜礼拝への参加、そして金曜礼拝後の集会。これらすべてが、人々の理性と精神性の成長と強さ、そして我が愛する国民の勇気と状況を正しく評価する能力を示しました。
私は、この信仰深い国民にこれほどの精神的、物質的能力と可能性を与えてくださった神に感謝し、神を讃えます。
ここで、敵の攻撃に対し、女性テレビ司会者が示した美しく意義深い行為について言及する必要があると感じています。彼女は「アッラーは偉大なり」と唱え、(イランの)国家の力強さを全世界に示したのです。それは歴史的な出来事でした。非常に価値のある出来事でした。
第二に、シオニスト政権による我が国への愚かで悪意に満ちた今回の攻撃は、我が国の政府関係者が米国側と間接的に、あるいは仲介者を通して交渉を行っていた最中に発生したという点です。イラン側からは、軍事行動や突発的で強硬な行動を示唆する兆候は一切見られませんでした。もちろん、当初から米国がシオニスト政権による悪意ある行動に関与しているのではないかと疑われていました。しかし、最近の米国の発言を鑑みると、この疑念は日に日に強まっています。
イラン国民は、これまでと同様に、いかなる押し付けによる戦争にも断固として反対します。また、いかなる押し付けによる平和にも断固として反対します。イラン国民は、いかなる強制にも屈しません。知識人、演説家、作家、特に世界の世論に影響力を持つ人々には、これらの概念を聴衆に向けて表現し、説明し、明確に伝えることを期待します。彼らは、敵が欺瞞的なプロパガンダによって真実を歪曲することを許してはなりません。
シオニストという敵は重大な過ちを犯し、重大な犯罪を犯しました。罰せられなければならず、既に罰せられています。まさに今、罰せられています。イラン国民と我が国の軍隊がこの邪悪な敵に与えた、現在遂行中の、そして将来計画している罰は、厳しいものであり、既に彼らを弱体化させています。アメリカの友人たちがこの場に現れ、このような発言をしているという事実自体が、この政権の弱さと無力さの表れです。
最後に、米国大統領が最近、脅迫に訴えていることです。彼は我々を脅迫しました。脅迫するだけでなく、不条理で受け入れがたいレトリックを用いて、イラン国民に公然と降伏を要求しています。このような発言を聞くと、本当に驚きます。まず第一に、脅迫されることを恐れている人々に対して脅迫すべきです。イラン国民はそのような脅迫に怯えません。「弱気になってはならない。もしあなたがたが忠実であれば、あなたがたは優位に立つであろう」(コーラン3章139節)。イラン国民はこれを信じており、脅迫はイラン国民の行動や考え方に影響を与えません。
第二に、イラン国民に降伏を命じるのは賢明ではありません。イラン、イラン国民、そしてイランの歴史を知る賢明な人々なら、そのような言葉は決して口にしないでしょう。イラン国民は何に降伏すべきでしょうか?イラン国民は降伏する国ではありません。私たちは誰を攻撃したこともありませんし、誰からの攻撃も決して容認しません。そして、誰からの攻撃に対しても決して降伏することはありません。これがイラン国民の論理であり、イラン国民の精神です。
もちろん、この地域の政策に精通しているアメリカ人は、アメリカがこの件(戦争)に介入することは100%自国の不利益になることを理解しています。アメリカが被る損害は、イランが被るであろういかなる損害よりもはるかに大きいでしょう。もしアメリカがこの紛争に軍事介入した場合、アメリカが被る損害は間違いなく取り返しのつかないものとなるでしょう。
愛する国民の皆様に、この崇高な一節を常に心に留めていただきたいと思います。人生はいつも通り進んでいます。神を賛美しましょう。敵に恐れを抱き、弱気になっていることを悟らせてはいけません。敵が恐れを感じていることを察知すれば、決してあなたを見放すことはありません。今日まで示してきたのと同じ態度を、力強く続けてください。奉仕を託された者、人々と直接接する者、そして布教と啓蒙の任務を負った者は、全能の神に信頼を置き、力強く職務を遂行し、継続しなければなりません。
「そして勝利は、全能にして全知なるアッラーからのみ来る。」(コーラン 3章126節)。そして全能の神は、御心ならば、イラン国民に、真実に、そして正しい側に、必ず勝利を与えてくださるであろう。
神の平安、祝福、慈悲があなたにありますように。
3.資本主義には将来は無い
世界唯一のシーア派国家イランにおいて、政治と宗教の両面で国家を導く存在が最高指導者です。
イランの最高指導者は、国防や外交といった国家の重要事項について最終決定権を持つ国家元首だ。選挙で選ばれた大統領や内閣の決定よりも強い権限を持ち、その考えは政策に大きな影響を与えます。
現在85歳になるイラン最高指導者ハメネイ師は、1939年イラン北東部のシーア派聖地マシャドで聖職者の家庭に生まれました。神学を学び、後に初代最高指導者となるホメイニ師に師事。60年代には、親米のパーレビ国王が進めた西欧化政策「白色革命」に反対し、たびたび投獄されています。
79年にイラン革命が起きた後は、精鋭部隊・革命防衛隊の司令官、国会議員などを歴任。81~89年には大統領も務めています。そして、89年にホメイニ師が死去すると、2代目の最高指導者に就任。以降は強硬な反米・反イスラエル路線を貫き、両国への対決姿勢を鮮明にしています。
一方で、ハメネイ師はイスラム教シーア派の聖職者でもあり、最高位にあたる「アヤトラ」の称号を持っています。
イスラム教の預言者ムハンマドが黒ターバンをしていたことから、イランでは、黒のターバンを着用することは、ムハンマドの血筋を引くことを意味し、そうでない場合は白いターバンを巻くのだそうです。
けれども、ハメネイ師は、イスラム教の法律だけでなく、音楽、詩、小説にも造詣が深く、トルストイ、ショロホフ、バルザック、ゼヴァコなどを称賛。中でもヴィクトル・ユーゴーを最高だとし、2004年のテレビでは、レ・ミゼラブルは史上最高の小説で、社会学、歴史、批評の書であり、愛と感情の崇高な本である、と述べています。
更に、「怒りの葡萄」では、民主主義国の中で左翼が如何に扱われているかが解り、「アンクル・トムの小屋(Uncle Tom's Cabin」は、アメリカにおける有色人種迫害を示した書として、これを推薦。そして、ムスリム・ブラザーフッドの主唱者であり、宗教国家を主張したサイード・クトゥブに傾倒し、クトゥブの著作を自らペルシャ語に翻訳しています。
ハメネイ師は1989年に最高指導者となって以来、政治的経済的圧力による西側の文化侵略について研究した上で、そのような文化侵略は、共産主義のような新しい思想には有効でも、歴史あるイスラム社会には効果は無いとしています。
更に、西欧の選挙制度について、二重主権をもたらすものと呼び、最高指導者と民衆との間を割くものとしています。
そして、核の問題については、イランに対する制裁は、核開発の前から始まったことを指摘。もともと体制転覆が目的であると主張しています。
ハメネイ師によれば、自由民主主義は、西側による侵略と支配の道具であり、資本主義には将来は無いと主張しています。
西欧社会とはまったくそりが合わない感じです。日本でいえば、差し詰め「尊王攘夷」みたいなものか、という印象を筆者は受けました。
4.地下核施設は存在し、何も起こっていない
価値観のレベルから衝突しているようにみえるイランとアメリカ・イスラエルですけれども、19日、ロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルクで行われた経済フォーラムの合間に行われた報道機関との会合で出たイランに関する質問に答えています。
そのやりとりは次の通りです。
S. ロビンソン:イスラエル軍はイランの核関連施設を爆撃したと発表していますけれども、プーチン大統領は「地下核施設は存在し、何も起こっていない」と見ているようです。
ありがとうございます、大統領。イランについて質問があります。ネタニヤフ首相は、イスラエルによるイランへの攻撃は政権交代につながる可能性があると述べました。ドナルド・トランプ氏はイランの無条件降伏を求めました。あなたは(イスラエルの)首相と(アメリカの)大統領に同意しますか?
V. プーチン:
あなたの質問がよく分かりません。何に賛成ですか?何に賛成して欲しいのですか?何に反対して欲しいのですか?彼らがあれこれ言ったのに、あなたは「あなたはこれに賛成ですか?」と尋ねたのですか?何に賛成ですか?
S. ロビンソン:
これは政権交代につながる可能性があり、イランは無条件降伏に備えるべきだという彼らの評価に同意しますか?
V. プーチン:
ご存知の通り、ロシアと私はイスラエル首相と個人的に連絡を取り合っており、この問題についてはトランプ大統領とも連絡を取っています。何かを始める際には、常に目標が達成されているかどうかを検証する必要があります。
今日のイランでは、国内の政治プロセスが複雑であるにもかかわらず(これは私たちも承知しており、ここで詳細に述べる意味はないと思いますが)、依然として国の政治指導者を中心に社会が統合されつつあります。これはほぼどこでも起こり得ることであり、イランも例外ではありません。これが第一の出来事です。
二番目に非常に重要なのは、誰もがこの件について話しているということです。私は、私たちが知っていること、そして各方面から聞いていることを繰り返すだけです。これらの地下核施設は存在し、何も起こっていません。この点に関して、敵対行為を停止し、この紛争のすべての当事者が合意に達する方法を模索することが、すべての人にとって正しいことだと私は思います。その方法は、一方ではイランの核活動、平和的な核活動を含むイランの利益(もちろん、平和的な核エネルギーと他の分野における平和的な原子力の両方を意味します)を確保すること、そして他方では、ユダヤ国家の無条件の安全保障という観点からイスラエルの利益を確保することです。これはデリケートな問題であり、もちろん、私たちは非常に慎重になる必要があります。しかし、私の意見では、一般的にはそのような解決策は見つかるはずです。
ご存知のとおり、私たちはかつて、ドイツ企業がイランで行っていたプロジェクトを引き継ぎ、ブシェール原子力発電所を完成させました。ドイツ企業は撤退し、イラン側は私たちに継続を依頼しました。ドイツの専門家が行ったのは彼らの設計であり、ロスアトムはそれをすべてロシアの設計ブロックに適合させるのに多大な努力をしなければならなかったため、困難でした。
しかし、それでも私たちはやり遂げました。このユニットは正常に機能しています。さらに2ユニットの建設契約を締結しました。作業は進行中で、専門家が現場にいます。200人以上が従事しています。イスラエルの指導者らと、彼らの安全は確保されるという点で合意しました。
一般的に言えば、イランが平和的な原子力エネルギーの利用と開発を継続する計画を念頭に置くと、農業や医療などの分野にも適用できると思います。ただし、これは原子力エネルギーではありません。原子力エネルギー分野では、イランと協力できる可能性があります。なぜそう考えるのでしょうか?それは、両国間の信頼関係が非常に高いからです。イランとは非常に良好な関係を築いています。この協力を継続し、この分野におけるイランの利益を確保できるでしょう。
今は詳細には触れません。多くの点があり、イスラエル側とアメリカ側の両方と詳細について協議しました。こうして、イランの友人たちに一定のシグナルを送りました。そして、一般的に言えば、平和的な原子力エネルギーの分野におけるイランの利益を確保すると同時に、イスラエルの安全保障に関する懸念を払拭することは可能です。
私の考えでは、そのような選択肢は存在します。繰り返しますが、我々は全てのパートナー、つまり米国、イスラエル、そしてイランにもその概要を説明しました。私たちは誰かに何かを強制しているわけではありません。単に、この状況から抜け出すための可能性について話し合っているだけです。しかし、もちろん、最終的な決定は、これらの国々、特にイランとイスラエルの政治指導者に委ねられています。
6月13日、FOXニュースに出演した、イスラエルのライター駐米大使は「作戦全体が、フォルドゥの排除によって完了しなければならない」と述べ、イラン中部コム近郊にあるフォルドゥの核施設を破壊する必要性を訴えています。
フォルドゥの核施設は山岳地帯の地下80~90メートルにあり、強固な岩盤で守られているとされています。ほとんどの通常兵器では届かないものの、米軍の最新型バンカーバスター「GBU57」なら攻撃が可能だとみられています。
GBU57は長さ約6.2メートル、重さ約14トンにもなる巨大爆弾で、地中約60メートルまで貫通した後、爆発するよう設計されています。ただし、この巨大爆弾を搭載可能な爆撃機は限られ、米軍の戦略爆撃機B2だけとされています。
イランの核施設の破壊がイスラエルの最終目標だとすれば、これが達成されるのかどうかが、停戦の一つのポイントになりますけれども、プーチン大統領は、紛争のすべての当事者が合意に達する方法を模索するべき、つまり外交的解決を図るべきだと主張しています。
6月16日、アメリカのトランプ米大統領はG7サミットで、イラン側が緊張緩和に向けた話し合いを望んでいるとの認識を示していることを考えると水面下で交渉の動きがあるようです。
どういう決着になるのか。ここ数日が山場になるような気がしますね。
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