

1.消費減税よりはるかに効果的だ
6月18日、石破総理はカナダで開かれたG7首脳会議への出席を終えて記者会見し、現金給付物価高対策として、夏の参院選の公約に盛り込むと表明した国民1人当たり一律2万円を基本とする給付金について「決して少なくない」との認識を示しました。
その時の記者とのやりとりは次の通りです。
(時事通信中西記者)石破総理は、「そもそも消費税は社会保障に充てられる貴重な財源だ。そのことから消費税を軽々に減税するということには慎重な上にも慎重であるべきだ。なぜならば医療・介護を中核とする社会保障の貴重な財源であるということは決して忘れてはならない。従って、消費税減税との比較において、より優れた対応だと考えている」と給付金の正当性を強調しています。
時事通信社の中西と申します。内政について伺います。物価高対策をめぐり、総理は先に国民に2万円を給付し、子育て世帯や低所得者世帯に加算する案を示しました。額が十分ではない、減税の方が効果がある、など自民党内にも異論がありますが、最善の策とお考えでしょうか。また、中東情勢の緊迫化でエネルギー価格の高騰やガンリン価格の上昇が見込まれますが、政府としてどう対応されますか。会期末を控え、野党が内閣不信任決議案を提出するかが焦点となっています。提出された場合の対応を伺います。
(石破総理)
物価高への対応でございます。物価高への対応は、消費税減税などの減税政策よりも、物価上昇に負けない賃上げの実現こそが基本であり、急務であると、このように考えておりますが、賃上げが物価上昇を上回るまでの間の対応も必要でありますため、給付金を参院選の公約に盛り込む検討を、先週、党に指示したところでございます。
給付額についてでございますが、「お子さん」及び「住民税非課税の低所得世帯の大人の方々」にはお一人4万円、「その他の方々」には一人2万円とすることといたしております。
この額は、令和6年度補正予算に盛り込んだ約1,400万の世帯が対象となります低所得の方々向けの給付金、つまり、世帯当たり3万円プラスお子さん一人当たり2万円でございます。これは今それぞれのお手元に届きつつあると、こういうことになっておるわけでございますが、それよりも手厚いものでございます。この給付金やそのほかの物価高騰対策に資する施策も講じておりまして、これを全体で合わせて考えていただきたいと思います。これは決して少なくはない、このように考えております。
消費税減税との比較がよくなされるところでございますが、この給付金は、高額所得者の方々に手厚く支援するのではございません。本当に困っておられる方々に重点を置くことが可能となります。そして、より早い、より早期の実施が可能となります。消費税減税にはそれなりの時間がかかる。今、物価高に苦しんでおられる方々に対する対応としては、私は給付金の方がはるかに効果的である、このように考えております。そもそも消費税は、社会保障に充てられる貴重な財源でございます。そのことから、この消費税を軽々に減税するということには、慎重な上にも慎重であるべき。なぜならば、医療、介護、そのようなものを中核といたします社会保障の貴重な財源である、ということは決して忘れてはならないものでございます。したがいまして、消費税減税との比較において、より優れた対応である、このように考えておるところでございます。
今般の中東情勢に関して、先般、経済産業省に対しまして、国際的な動向を注視しつつ、国民の皆様方の生活の視点に立って、我が国へのエネルギーの安定的な供給の確保に万全を期すように、指示したところでございます。引き続き、高い緊張感を持って、原油価格・ガソリン価格の動向にも注視をし、今般の中東情勢の混乱が長引き、ガソリンなど石油製品の価格の急激な上昇が継続する場合に備え、国民生活に大きな影響を及ぼすことのないよう、必要な対応策の検討を指示いたしました。
不信任案についてでございますが、野党が不信任案の提出を決定したと、このようには承知をいたしておりません。したがいまして、恐縮ですが仮定の御質問へのコメントは差し控えさせていただきます。政権与党といたしまして、米、エネルギーを始めとする物価高への対応、アメリカの関税措置への対応など、喫緊の課題に決して間隙を作ることなく、隙間を作ることがないよう、全力を尽くしてまいります。以上です。
2.やっぱりバラマキだ
ところが世間では、この給付金は評判よくありません。
6月14~15日、産経新聞社とFNNが合同世論調査を実施したところ、現金給付について「まったく評価しない」が35.7%で最も多く、「あまり評価しない」の30.0%と合わせて6割以上が否定的という結果となりました。
その一方、石破内閣の支持率は、前回調査(5月17、18両日実施)から5.3ポイント増の38.2%。不支持率は今年3月以降で初めて6割を下回り、57.4%となりました。
内閣支持率の上昇は、コメ価格引き下げに向けた取り組みが一定程度、評価されたとみられ、備蓄米放出などの政府の対応に対する設問では「大いに評価する・ある程度評価する」が合わせて69.9%に上り、政府が検討を進めるコメの生産調整見直しの是非を尋ねたところ、84.7%がコメの生産量を「増やすべきだ」と回答しています。
また、野党各党が主張する消費税の減税については、「すべての税率を5%に下げるべきだ」が31.7%、「食料品の税率をゼロにすべきだ」が28.7%、「消費税は廃止すべきだ」が13.5%で、「今の税率を維持すべきだ」は24.7%となっています。
やはり世間はバラマキだと見ています。
野党もこれに乗っかったのは批判を強めています。
6月14日、立憲の野田佳彦代表は「世論が厳しいから突然、1人2万円とか言いだしたようですけど、秋の補正予算でようやく予算がついてできる話で、制度設計もできていないでしょう。真剣に考えていないってことですよ。無策です」と批判しています。
3.あまりに一貫性がないし場当たり的すぎる
評判が悪いのは野党だけではありません。与党でもそうです。
自民党のあるベテラン参院議員は「これまで財政規律の観点から、野党が求めるような減税はできないし、現金給付もなしだと説明してきた。いまさら有権者にどう説明すればいいのか……あまりに一貫性がないし、場当たり的すぎる」と批判。更に衆院中堅議員からも「給付は一回限りですから、持続性のある消費減税よりも物価高対策への効果は乏しいのが実態。どうせやるにしても、2万円という金額はあまりにケチすぎます」といった声もあがっています。
また、衆院若手議員は「公金受け取り口座を活用した現金給付は、物価高対策だけではなく、今後の有事に備えたシミュレーションとしては大義がある。ただ、選挙前というタイミングが残念。現金給付は、野党第一党の立憲民主党も掲げている案だし、本当は立憲が言い出す前にいち早くやるべきだった……支持率の若干の上昇は、小泉進次郎農水相がスピード感ある対応で、備蓄米を放出したことへの評価もあるでしょう。しかし、今回の現金給付案は、進次郎で上げた支持率を下げる危険性すらもあると考えています……参院選の主要な争点をコメ問題に絞れば、自民党にとっては有利だったと思います。しかし、野党の掲げる消費減税と、今回の2万円の現金給付を比べると、どうしても物価高対策としてインパクトの弱さが際立ってしまう。それだったらむしろやらないほうが潔かったでしょう」とコメントしています。
4.国民に冷たい金の使い方の哲学
ただ、今回の給付金について、石破総理周辺からは、「首相は給付に乗り気ではない。ただ、何もないワケにはいかないので、渋々やっている」とか、「首相は給付なんてやりたくない、と思っている」といった声もあがっています。
というのも、先日の党首討論で、国民民主党の玉木代表が、「還元すべき税収があるなら、選挙前にばらまくのではなく、納税者に減税でお返しするのが筋」と発言したのに対し、石破総理は「税収が自民党与党のものだと思ったことは一度もない。そのような侮辱はやめていただきたい」と逆切れしていましたけれども、この発言について石破総理側近は「玉木代表の発言にキレたのは、『ばらまき』と言われたのが嫌だったんだ」と指摘しています。
給付の方針が表明される6時間前。自民党本部には、石破総理と党幹部4人が集まり、公約についての会議を開催。党幹部からは「4つの給付案」が示されたのですけれども、石破総理は「一律2万円、こども1人あたり2万円加算、住民税非課税世帯に1人2万円加算」の案を採用しました。
この決断の理由について、石破総理周辺は、「首相は、野党が主張する消費減税は、高所得者が優遇される“逆進性”ゆえにダメという以上、給付は“こどもや低所得者に手厚く”という思いが強かった」とコメント。別の党幹部は、石破総理がこだわったのは、「“一律の給付はダメ”」という点。さらに、森山幹事長は、「総裁が強く言われたのは『育ち盛りのこどもに十分な食事をとってもらいたい、との思いから、こどもへの加算を実施したい』ということだ」と明らかにしています。
石破総理は、この案に決めた後、「バラマキというのは、哲学のないカネの使い方であり、哲学があれば、バラマキではなく、政策になる」と振り返ったそうですけれども、では、国民に冷たく、海外に補助金を渡していることについての「哲学」とやらを是非説明していただきたいと思いますね。
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