イスラエルはイランの核施設を破壊できるか

今日はこの話題です。
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1.イスラエルはイランの核施設を破壊できる


6月19日、イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエルのテレビ局のインタビューで、ネタニヤフ首相はイランのフォルドゥにあるウラン濃縮施設がアメリカの関与の有無にかかわらず攻撃される可能性があるかとの質問に対し、「我々は全ての標的、全ての核施設を排除する力を持っている」と答えました。

6月20日のエントリー「トランプとハメネイそしてプーチン」で述べましたけれども、イラン中部の山岳地帯の地下約80メートルにあると伝えられているフォルドゥ複合施設は、米軍の最新型バンカーバスター「GBU57」なら攻撃が可能だとされています。

フォルドゥの施設を破壊できるほどのバンカーバスターを持っていない筈のイスラエルが、どうやって攻撃するのか。

イギリスの地政学的リスク分析会社シビルラインのジャスティン・クロムフ最高経営責任者は、18日、イギリスの日刊テレグラフのインタビューで、「イスラエルはフォルドが招く脅威を緩和する計画もなくこの戦いに入った。想像しがたい……フォルドを無力化するためには先端米国武器を動員することが唯一の方法だが、イスラエルが接近地点、換気口、電力供給装置を精密打撃すれば該当施設の稼働に重大な影響を及ぼすことが可能という意見が増えている」と述べています。

この見解に対し、米戦略国際問題研究所(CSIS)のランボ研究員は「イスラエルがフォルド核施設を一時的に稼働不可能に攻撃することはあっても、永久的な被害を与えるには米国の支援が必要だ……進入トンネルや換気口は短期間で修理が可能であり、攻撃が施設の完全な閉鎖に十分であるかは判断しにくい」と指摘しています。

入口付近を精密爆撃することで稼働停止に追い込むことができるとする反面、一時的な効果しかないという見方もあります。


2.繰り返しの爆撃と特殊部隊による破壊工作


また、アメリカのアクシオス紙は、6月14日付の記事「イスラエルの使命は、イランの最も困難な核目標を破壊することにかかっている」で次のように述べています。
【前略】

詳しく見てみましょう。イスラエルには、この施設を破壊するのに必要な巨大なバンカーバスターと、それを搭載する戦略爆撃機が不足しています。一方、米国はイランへの飛行距離内にその両方を保有しています。

・イスラエル当局者はアクシオスに対し、米国はまだ作戦に参加する可能性があり、トランプ大統領は作戦開始前の数日間にベンヤミン・ネタニヤフ首相との会談で、必要であれば参加するとさえ示唆したと主張しました。
・しかし、ホワイトハウス当局者はこれを否定し、Axiosに対し、トランプ氏は全く逆のことを言ったと述べた。米国は現時点で直接介入する意図はない、と当局者は述べました。

はい、しかし、イスラエルは同じ場所を繰り返し爆撃することで、大規模なバンカーバスターの効果を再現しようとする可能性があると一部の専門家は考えています。

・より危険な方法は、施設を襲撃するために特殊部隊を派遣することです。
・イスラエルの特殊部隊は昨年9月、シリアの地下ミサイル工場を爆薬の設置と爆発によって破壊するという、小規模ながらも同様の襲撃を実施した。作戦全体は2時間かかりました。

ニュースの背景: ネタニヤフ首相は、イランの高濃縮ウラン備蓄が増大していること、またイランが核兵器開発の研​​究開発を再開しているとの情報があるため、イスラエルは行動を起こさざるを得ないと主張しました。
・イスラエルは、この計画を壊滅させようと、核濃縮施設、遠心分離機生産ライン、核科学者を標的にしました。
・イランは長らく核兵器製造の意図を否定してきたが、民生用に必要な量をはるかに超えるウランを濃縮しています。

現状:国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は金曜日、国連安全保障理事会に対し、イランのナタンズの地上核濃縮施設がイスラエルの攻撃によって破壊されたと語りました。
・イランには他のウラン濃縮施設があるが、それがこの計画にとって大きな障害となっています。
・グロッシ氏は、ナタンツ施設の地下部分は物理的な攻撃を受けていませんでしたが、攻撃の結果、施設の電源が失われたことで遠心分離機が損傷した可能性があると述べました。
イスラエルは金曜日にエスファハーン州の他の核施設を破壊しました。

拡大:グロッシ氏はまた、イスラエルがフォルドウを攻撃したとイラン政府から知らされたと述べたが、それを個人的に確認することはできませんでした。
・イスラエル国防軍はフォルドゥへの攻撃を発表しておらず、これまでのところフォルドゥが大きな被害を受けたという兆候はありません。

注目すべき点:米国側はイスラエルが単独で行動していると主張し続けているが、ネタニヤフ首相はそれが変わる可能性を残しています。
・「米国の立場は米国に委ねる」と同氏は金曜日に述べまし。「彼らはこれからどうするのか?トランプ大統領に委ねる。彼はイランが核兵器を保有してはならないと明確に述べた」
こちらは、繰り返しの爆撃と特殊部隊を送り込むことで同様の効果が出せるとしています。


3.濃縮ウランは別の場所に移した


このような状況について、戦争研究所は6月20日のレポート「イラン最新情報特別レポート」を出しています。

件のレポートから「重要なポイント」を引用すると次の通りです。
・イランは、交渉と核物質の隠蔽工作を利用して米国にジレンマを突きつけ、核交渉においてイランの条件を受け入れるか、隠蔽されたイランの核物質の長期にわたる困難な捜索のリスクを冒すかの選択を迫ろうとしている。このジレンマは、濃縮許可を含む合意を確保することで核計画を守るか、濃縮された物質を隠蔽することで保護するかという選択を迫るものである。イラン当局は交渉姿勢を緩めておらず、米国とイスラエル当局はこれを受け入れるつもりはない。
・ニミッツ空母打撃群は6月22日までにCENTCOMの管轄区域に到着する予定。
・イランの支援を受けるイラク民兵は、米国がイランを攻撃した場合、米軍を攻撃すると脅迫することで、米国の戦争参加を阻止しようとしている。こうした脅迫は、おそらく西側諸国でイランとの長期戦争に関する議論が続いていることを踏まえたものだろう。
・国際原子力機関(IAEA)事務局長は、イスラエルの攻撃によりイランの核施設の核安全保障が危険なほど低下していると警告した。
・イスラエルはイラン国内の治安・社会統制機構を標的とした攻撃を継続しており、これは政権の不安定化につながる可能性がある。CTP-ISWは、現時点でイラン政権が崩壊に近づいている、あるいはその統制が著しく弱まっているという兆候は確認していない。
戦争研究所によると、イランは、交渉と核物質の隠蔽工作を利用して米国にジレンマを突きつけていると述べていますけれども、その詳細について次のように説明しています。
イスラム革命防衛隊(IRGC)のモフセン・レザイ少将は6月20日のインタビューで、イランは濃縮ウランを破壊されるのを防ぐため、安全な場所に移設したと述べた。この発言は、イランの核物質をすべて破壊するには、隠されたウランの捜索が長期にわたる、困難で、おそらくは無駄になるだろうという点を西側諸国に示唆し、したがって西側諸国はイランと交渉すべきだと主張したものと推測される。イラン当局は米国との核合意交渉に関心を示しているものの、紛争以前から変わらない交渉姿勢を維持している。
濃縮ウランを別の場所に移したというイスラム革命防衛隊の発言が本当であれば、イスラエルが苦労してフォルドウ攻撃を成功させたとしても、期待している成果を挙げたとはいえません。たとえ、イランの核濃縮を遅らせることができるにせよ、完全破棄させたという保証がないからです。


4.核施設破壊は必要ないかもしれない


イスラエルがフォルドウの地下核施設を攻撃できるかどうかについて、アメリカのトランプ大統領は懐疑的です。

6月20日、トランプ大統領はニュージャージー州ベッドミンスターに移動後に記者団に対し、「イスラエルが優勢で、イランは劣勢だと言える……今、攻撃を停止するのは非常に困難だ。勝っている人に要請するのは、負けている人に要請するより難しい」とイランがアメリカと交渉を開始する条件としているイスラエルの攻撃停止について、現状では実現するのは困難だとの認識を示しました。

そして、イランへの攻撃に踏み切るか2週間以内に決めると表明したことについて、「イランが正気を取り戻すかどうかを見極める時間だ……猶予期間を与えているが、最長でも2週間だろう……ヨーロッパには解決できない……イランはアメリカと話をしたがっている」と主張しました。

けれども、イスラエルがイランの地下フォルド核施設を破壊する能力があるかどうか問われると、「彼らの能力は非常に限られている。小さな部分を突破することはできるかもしれないが、深く潜ることはできない。彼らにはその能力がないのだ……もしかしたら、それは必要ないかもしれない」と述べています。

この「必要ないかもしれない」というのは軍事介入するとも外交的解決をするとも取れる微妙な表現です。

ただ外交的解決をするにしても、アメリカと交渉したがっているイランがその条件として挙げているイスラエルの攻撃停止について、イスラエルが優勢である限り困難だといったことは、事実上、現状では交渉に応じないということです。

つまり、これからの二週間でイラク側が優勢に転じるか、イラン側が折れて交渉条件を引き下げるかしないと交渉が始まらないということです。トランプ大統領は、イラン攻撃を決めるまでの二週間後をいわば締め切りとして設定した訳です。

これに対し、イランは前述した戦争研究所が指摘している様に、イラン側の交渉条件を受け入れるか、隠蔽された核物質の捜索のリスクを冒すかの選択を迫る形でアメリカの譲歩を促している訳です。

現在、トランプ大統領は、イランの核施設攻撃の是非を検討する上で、ピート・ヘグセス国防長官とトゥルシー・ギャバード国家情報長官ではなく、ダン・ケイン統合参謀本部議長と、中東地域を管轄する米中央軍のマイケル・エリック・クリラ司令官の意見をより信頼しているという話もあるようです。

なんでも、クリラ中央軍司令官は、イラン空爆に関して中立的な立場からトランプ大統領に幅広い選択肢を提示し、ケイン統合参謀本部議長は米国が介入する複数のシナリオに関する見解をトランプ大統領に提供し、空爆が引き起こす可能性のある二次的、三次的な影響に注意を払っているとのことです。

事態のエスカレーションを防ぎつつ、外交的解決が出来るのか。危険な状況は続きます。




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