

1.七月五日午前四時十八分
7月6日になりました。
一部で噂されていた、「7月5日午前4時18分」に日本に大津波が押し寄せることもなく、何事もなく過ぎました。
これは、2021年に出版された、漫画家たつき諒氏の書籍、「私が見た未来 完全版」から、「7月5日午前4時18分」に日本で大災難が起きるとの噂が拡散し、一部界隈で多くの人の注目を集めていたものです。
件の書籍には、たつき氏が見たという予知夢が描かれていて、その中で「太平洋周辺の国に大津波が押し寄せました。その津波の高さは、東日本大震災の3倍はあろうかというほどの巨大な波です」「その災難が起こるのは、2025年7月です」などの内容がありました。
ただ、日時の特定はされていなかったのですけれども、その予知夢を見た時刻が「7月5日午前4時18分」としていることから、この時刻に何かが起こるのではないかと囁かれていました。
なぜ、そこまで多くの人の噂になったのかというと、たつき氏は、1999年に出版した「私が見た未来」の表紙に「大災害は2011年3月」と書いていたことから、東日本大震災を予言したとして注目されていたのですね。そこから今回も当たるのでは、と拡散したようです。
そして、噂の「7月5日午前4時18分」を過ぎた後、SNSではさまざまなリアクションの投稿が相次ぎました。
日本各地の地震情報をライブで伝えるYouTubeチャンネルには、その時間に「20万人」の視聴者が集まったとする投稿もあったそうで「予言の時間は過ぎました。生きてます」「予言の時間ですけど生きてますよ~」と安堵する声もみられました。
2.地震の三分類
ただ、まったく何事もなかったのかというとそうでもないという見方もあります。トカラ列島での地震です。
トカラ列島は、南西諸島のうち、鹿児島県側の薩南諸島に属する島嶼群を指します。行政区域は全島が鹿児島県鹿児島郡十島村になります。
トカラ列島では6月21日午前8時から7月5日午前7時までに震度1以上の地震を1303回記録。震度4が24回、震度5弱が3回、震度5強が1回、震度6弱を1回記録しています。
気象庁は1994年10月以降のトカラ列島近海の地震の発生場所データを公表していますけれども、悪石島と小宝島、宝島の間で集中的に起こっていることが分かります。また、読売新聞は、今年6月21日から7月3日までの震源とマグニチュードを時系列にした動画を配信していますけれども、ものすごい頻度で起こっているのが分かります。
京都大学・防災研究所附属地震災害研究センターの西村卓也教授は、地震を大きく3つに分類しています。
①最初に大きい地震があり、その後余震が続く「本震ー余震型」トカラ列島の地震の特徴は、震源が浅く短期間で頻発していることですけれども、トカラ列島は火山でできた島々で、地下にあるマグマが地震の原動力になっているとされています。西村教授は、今回マグマが移動している証拠は見つかっていないものの、このあたりは火山島であるということから、マグマの移動が地震に関係していると考えられ、火山の噴火の可能性についても、ゼロではないと述べています。
②①の前に地震が起きる「前震-本震ー余震型」
③極めて大きい揺れは無く、地震活動が活発になり一定期間続く「群発型」
過去には、2000年に伊豆諸島で群発地震があったときには、三宅島で火山が噴火し全島避難につながっています。

3.トカラの法則
そんな中、今度は「トカラの法則」という噂が拡散しているそうです。
「トカラの法則」とは、トカラ列島で地震が相次ぐと、日本の他の地域で大地震が起きるというものです。過去を振り返ると、トカラ列島で一定期間に163回地震を観測した2016年には熊本地震、568回地震があった2023年の翌年の元日には能登半島地震が起きています。
もっとも「トカラの法則」について西村教授は「地域も離れていて全く関係ない。科学的根拠は一切なく、単なる偶然にすぎない」と強く否定しています。
また、7月2日、気象庁の海老田綾貴・地震津波監視課長が会見で「トカラの法則」を否定し、南海トラフ巨大地震への影響も「おそらくない」とし、翌3日に悪石島で震度6弱の地震が発生したことを受けた緊急会見でも、「トカラの法則」を否定した上で、「今の科学技術で、いわゆる地震の予知はできません。ちまたで言われている話はデマです」と否定しています。
気象庁は、冒頭に取り上げた7月5日に大災害が起こる予言についても、前々から否定しています。
5月21日、気象庁の野村竜一長官は記者会見で、「場所、時間、規模を指定して地震が起こると予知することについて、現在の科学では不可能。そのような言及は完全にデマであり、ウソです……一般的に地震はいつ起こってもおかしくないので、常に対策は考えていただきたい」と対応を呼びかけました。
ただ、予言の発信元となった「私が見た未来 完全版」の作者のたつき諒氏は6月に自伝「天使の遺言」を出版。その中で、「夢を見た日=何かが起きる日というわけではないのです」と記しています。
東日本大震災を予言したとされる2011年3月について、たつき氏は、2011年3月という日付を「夢で」みたと述べているのですけれども、今回の「2025年7月5日午前4時18分」は「夢を」みた時間であって、「夢で」みた日時ではありません。
ただ、「私が見た未来 完全版」のあとがきには「夢を見た日が現実化する日ならば、次にくる大災難の日は『2025年7月5日』ということになります」とも記されており、これが7月5日になにか起こるのだ、と早合点されて広まった可能性は否定できません。
さらに、「私が見た未来 完全版」には2025年7月に起こる大災難として「フィリピンと日本の中間あたりの海底が破裂した」とも書かれています。こちらは「夢で」みた日付とのことなので、7月5日ではなく、7月全部だとすれば、まだ予言の範疇にあるとも言えます。
ともあれ、こうして拡散した予言は、国内外で観光業や経済活動に影響を出しました。
たつき氏の「私が見た未来 完全版」が中国語版も発行されていることなどから、香港などでも情報が拡散。日本政府観光局によると、香港からの5月の訪日客数は推計19.3万人で、前年同月から11.2%減少。香港の航空会社「グレーターベイエアラインズ」は4月、「予言」の影響で需要が急減していると判断し、5~10月の間に仙台便と徳島便をそれぞれ減便すると発表しています。
さらに7月になると、「うわさ、予言などでインバウンドが激減した」などとして、徳島便を9月から「当面の間、全便を運休する」と決めています。凄い影響力です。
4.大災害と大災難の複合災害
確かに7月5日に何も起こらなかったからといって、未来永劫安心できる筈がありません。地震大国日本ならば、常に自然災害への備えは必要です。
けれども、それ以前にたつき諒氏が2025年7月に起るのは「大災難」であって「大災害」とはいってないのが気になります。
大災害だと噴火や地震などの自然災害のことを指すと思いますけれども、「大災難」だと、それに加えて人為的なものもニュアンスとして含んできます。
7月中に自然災害だけでなく、人為的な災難を加えるという具合に範囲を少し拡げてみると、実は既に起こっているのではないかという見方もできる気もします。
たとえば、直近では、米騒動などもそれに当たるでしょう。長年の減反政策が祟って、米不足が一気に露呈。米価高騰という日本人にとって「大災難」に見舞われています。また、7月中という意味では、トランプ関税が発動して、経済的大打撃を受ける可能性だって考えられます。政府がちゃんと交渉できていれば、被害を最小限で抑えることができたかもしれないという意味では、人為的に引き起こされた「大災難」と見なすこともできます。
先日停戦合意したイスラエル・イラン紛争でも、また何かあって石油輸入がストップすれば、これも「大災難」になりますし、台湾有事、半島有事と「大災難」のリスクは常にあるといってもいいくらい「ネタ」は揃っています。
ただ、7月5日に何かが起こる予言についていえば、多くの人が危険回避行動をとったりしてましたし、危機意識を高めて備えをした人もいる筈です。とくに、災害に備えて、食料や水を備蓄か何かしていた人は、今回の「大災難」である「米騒動」に対してもその被害を軽くできた可能性もあることを考えると全く意味がなかったとはいえないと思います。
そう考えていくと、自然災害だけでなく、人為的災難を含めた「複合災害」に備えるという考え方と対応が重要になってくるのかもしれませんね。
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