
1.大統領令は適切な時期に修正する
8月7日、赤澤亮正経済財政・再生相は訪問先のワシントンでの記者会見で、アメリカ政府が相互関税の大統領令を適切な時期に修正し、日本を措置対象に加えることを約束したと明らかにしました。
これは、これまでの交渉で、相互関税は8月7日以降は一律15%になるはずだったところ、7月31日のトランプ大統領の大統領令によると、従来の7.5%に15%が上乗せされ、22.5%に引き上げられることになるように読めることから、赤澤担当相が確認のために渡米していました。
その結果、アメリカ政府は相互関税の大統領令を修正し、徴収しすぎた分の関税は7日に遡って還付。更に修正と同じ時期に、自動車関税を下げるための大統領令も出すとの見通しを示したとのことです。
赤澤担当相によるとアメリカ側も、軽減措置の対象に日本が入っていなかったことは「遺憾だ」との認識を示したとのことで、赤澤担当相は、会談で自動車関税の早期引き下げを求めたのに対し、アメリカ側は相互関税の大統領令修正に併せて、トランプ大統領が自動車関税の引き下げを指示する大統領令に署名するとの見通しを示しました。
具体的な時期について赤澤担当相は「『早いにこしたことはない』ということは、言わなくても互いの共通認識としてある」「半年や1年ということはあり得ない」とだけ述べ、アメリカが修正時期を判断するとしています。
日本政府関係者によると、還付申請の手続きや時効などの詳細は現時点では分からないとのことです。
また、赤澤担当相は、合意内容を確認するための共同文書がないことについて「共同文書作成を目指していたら、期限に間に合わず相互関税は25%の上乗せになっていた」と今回のアメリカ側のミスは共同文書がなかったことが原因ではないという認識を示しました。
一昨日辺りから、日本のマスコミやネットは石破政権の失態だと騒ぎになっていましたけれども、経済評論家の渡邉哲也氏は「認識に違いがあったわけではなく、現場の混乱だろう」と推測のツイートをしています。
認識に違いがあったわけではなく、現場の混乱だと思います。ファクトシートに記載された通りです。 https://t.co/323xBcwuOY
— 経済評論家 渡邉哲也 (@daitojimari) August 8, 2025
2.合意内容を改めて確認いたしました
当然ながら、この件については政府にも質問が集中しました。8月7日に行われた林官房長官の定例記者会見の模様は次の通りです。
林芳正官房長官現場の混乱でそうなったというのなら、それはそれでお粗末な話ですし、合意文書以前に、本当に合意できているのかから心配になってきます。
私からはございません。はい。
記者A(読売新聞)
私から伺います。トランプ政権による関税措置についてお尋ねします。
トランプ政権は今日、新たな関税率を適用します。改めて、新税率適用に向けた政府の対応方針を伺います。また、日本政府はこれまで、従来の税率が15%以上の品目については新たな関税が上乗せされず維持されると説明してきましたが、アメリカ側の文書には同様の措置がEUには適用されると記載されている一方で、日本についての記載がありません。政府として、この点についての見解と、今後の対応について、アメリカ側に文書への記載を求めていくお考えがあるか伺います。
林芳正官房長官
はい。今般の日米間の合意では、総合関税について、25%まで引き上げられるとされていた日本の関税率を15%にとどめることができました。
この総合関税に関して、既存の関税率が15%以上の品目には上乗せされず、15%未満の品目については、既存の関税率を含め15%が課されるという認識について、日米間で齟齬がないことをアメリカ側に確認しております。現在訪米中の赤澤大臣からも、アメリカ側に対し、総合関税に関する合意内容を改めて確認したところです。その上で、内容を実施するための措置を直ちに取るよう求めております。引き続き日米間で様々なレベルで意思疎通を図り、合意の着実な実施に努めてまいります。
記者B(共同通信)
関連で伺います。
赤澤経済再生担当大臣は米国時間6日にライトニング商務長官と面会しましたが、日本側の理解が正しいとの言質は取れているのでしょうか。また、総合関税は日本時間7日午後1時1分に発動されますが、日本側の理解通りの扱いになるのか、見解を伺います。
林芳正官房長官
はい。訪米中の赤澤大臣は現地時間8月6日に約90分間、ライトニング商務長官と協議を行い、今般の日米間の合意に基づき、日米両国の利益となる取り組みを着実に実施していくことの重要性を確認いたしました。その中で、赤澤大臣から総合関税について合意内容を改めて確認し、その内容を実施するための措置を直ちに取るよう求めたところです。引き続き日米間で様々なレベルで意思疎通を図り、合意の着実な実施に努めてまいります。
記者C(朝日新聞)
関税の関連でお尋ねです。
日米両政府の説明が異なっていることについて、赤澤経済再生大臣は米側の事務的なミスとの認識を示していますが、政府として、日米の説明が異なっている理由をどのように認識しているでしょうか。合意する際に確認が不十分だった可能性はないのでしょうか。
林芳正官房長官
はい。先ほどお答えした通り、現在訪米中の赤澤大臣からアメリカ側に対して、総合関税について合意内容を改めて確認いたしました。その上で、その内容を実施するための措置を直ちに取るよう求めております。引き続きアメリカ側と緊密に意思疎通を続けていく中で、日米間の合意に関する共通認識を確認しながら、合意の実施について主導してまいります。
【中略】
記者F(日本経済新聞)
関税の措置について伺います。アメリカの半導体への関税措置を巡って、トランプ大統領はアメリカに輸入される半導体に対しておよそ100%の関税を課す意向を示しました。一方で、アメリカに生産拠点を設けることを約束した企業については対象外としていますが、これに対する政府の見解と、先の日米合意で「他国と劣後しない」としているこの税率について、引き下げを求めていくお考えはあるか伺います。
林芳正官房長官
はい。ご指摘のトランプ大統領の発言は承知しておりますが、その発言を含め、個別の政府関係者の発言の一つ一つにコメントすることは差し控えます。今後のご質問については、今般の日米間の合意において、仮に将来分野別税が上乗せされる際も、半導体に関しては、我が国が他国に劣後する扱いとはならないとされております。引き続き日米間で様々なレベルで意思疎通し、合意の着実な実施に努めてまいります。
記者G(朝日新聞)
現地時間7日に行われた赤澤大臣とライトニング米商務長官との協議では、自動車や自動車部品への関税の引き下げについても協議しているかと思いますが、引き下げのために必要な措置をいつから実施するか、アメリカ側から説明はありましたか。
林芳正官房長官
はい。先ほど申し上げました赤澤大臣とライトニング商務長官との協議におきましては、自動車・自動車部品に関する関税の引き下げなどの今般の合意を速やかに実施するために必要な措置を取るよう求めたところでございます。引き続き日米間で様々なレベルで意思疎通し、合意の着実な実施に努めてまいります。
3.石破続投の為に文書は作らない
今回の件について、経済学者の高橋洋一氏は自身の動画で次のように述べています。
高橋洋一(以下、高橋):えー、まずは冒頭に、高橋一氏の投資広告はAIを使った詐欺ですので、見かけたら通報してください。はい、ということでですね、今日は赤澤大臣がまたアメリカに行っている件について深掘りしていきたいと思います。なんと高橋教授は、日米関税交渉で合意文書を作らないのは石破総理による自身の延命のための策略だと述べています。自分の地位の為に国益を犠牲にするも同然です。本当なら、ちょっと信じられない話です。
質問者:読売新聞によると、トランプ政権の相互関税特例から日本が対象外となり、15%以上の上乗せ関税が課される可能性が出てきたため、赤澤大臣が修正を求めているとのことですが、これ、どういうことなんですか?
高橋:そういった報道があって、それで赤澤さんがアメリカに行ったと。その後、官房長官は「齟齬はない」と言っているらしいんだけど、もうこんなにコロコロ変わって、正直よくわからないというのが率直なところだね。ただ、最初にこの事実を整理しておかないと話が混乱しちゃうんだけど、アメリカの公式文書にはEUと日本の記載の仕方が全然違うんだ。
質問者:ええ。
高橋:EUの方は「全部コミで15%」と書かれている。だけど、日本の方は**「15%上乗せ」**と読めるような文章になっているんだよ。
質問者:あ、そういうことなんですか!
高橋:そう。だから、今までの関税に15%を上乗せするのか、全体で15%に収めるのか。おそらく赤澤さんは、この違いを勘違いしたんじゃないかな。この文書、実は7月末には出ていたものだからね。今さら慌てて行っても、という感じだよね。
質問者:ええ。
高橋:だから、こういう時に「文書があるかないか」がすごく重要になる。文書なしで交渉を進めると、今回のようなことになってしまう。これは外交交渉としては幼稚園レベルだよ。
質問者:しかし、なぜそんな重要な文書がなかったんでしょうか?
高橋:私は、日本の関税交渉を評価する際、EUとの比較をよくするんだけど、EUは官僚国家で、膨大な数の文書を作成している。一方、アメリカとの交渉を見ていても、やはり官僚の特性が強く出る。官僚の仕事は、はっきり言って**「文書を作ること」**なんだよ。
質問者:なるほど。
高橋:EUとアメリカが交渉する時も、互いに文書があるだろうし、両方で合意した内容を一緒に発表する。ベースになる文書が必ずあるはずなんだ。その文書がないというのは、かなりまずい。
質問者:赤澤大臣が「文書は作らない」と発言したことも影響しているんですか?
高橋:そう。日本側が「文書は作らない」と言ったから、アメリカ側は「じゃあ知らないよ」と、勝手に文書を作って公表したんじゃないか。アメリカはファクトシートなどをどんどん出していくから、その中に日本のことが記載されていなくても、当然といえば当然だ。
質問者:それが今回の騒動に繋がっていると。
高橋:そう。日本はアメリカにとって大きな貿易相手国なのに、文書がないためにこんな事態に陥っている。だから、また慌てて行かざるを得なくなっているんじゃないかな。
質問者:文書がないから、赤澤大臣がまた行くことになったと。
高橋:まあ、そうだね。そして、この「文書なし」というのは、石破総理がもっと長く続投したいという意図があるのかもしれない。なぜなら、交渉が終わったら次の政権に引き継ぐことができるはずなのに、文書がないから引き継げない。結局、全部自分がやらなければならない、という話になってしまう。
質問者:それはひどい話ですね。
高橋:自分では行かずに、赤澤大臣に行かせて、時間稼ぎをしているようにも見える。しかし、アメリカ側は既に公式文書を出しているから、それを覆すのは非常に難しい。簡単なミスなら電話一本で済む話だけど、わざわざ出向いていくというのは、文章がないから交渉のような形にならざるを得ないということだろう。
質問者:このままでは、交渉はしばらく長引きそうですか?
高橋:長引くでしょ。石破総理は80年談話を出したいから、それを引き伸ばすために、できるだけ引っ張るんじゃないかな。
質問者:恐ろしいですね。
高橋:この「自爆芸」とも言えるやり方で、石破総理は延命に成功しているのかもしれない。しかし、文書を作らないせいで、日本経済の不透明感は増すばかりだ。関税がどうなるかわからないから、企業の輸出も厳しくなる。政府の経済見通しも下方修正されるだろう。
質問者:これは、アメリカ側の策略というよりも、日本側の問題なんですね。
高橋:その通り。日本が自ら「文書はいらない」と言っているから、アメリカ側は「じゃあ知らないよ」とやっているだけだ。参議院選挙後にアメリカから一方的に発表があったのも、おそらく同じ理由だろう。「いつまで待たせるんだ」と業を煮やして、発表したんじゃないか。そうしたら日本側が「交渉は妥結している」と慌てて言い出したんだ。実はまだ交渉の途中だった可能性もあるね。
質問者:では、今回の赤澤大臣の訪米も、その交渉の続きをやるということですか?
高橋:いや、意味ないよ。最終的には石破総理がトランプ大統領と話さないとダメだ。しかし、彼は行かないで、時間稼ぎをしている。このままでは、日本経済は彼の延命のために振り回され、混迷を極めることになるだろうね。
それにしても、相互関税の大統領令修正も自動車関税引き下げもいつになるのか分からないでは、交渉は全然終わってないのではないかという気がしてなりません。
昨日のエントリーでも述べましたけれども、トランプ大統領が関税を安全保障と絡めた、相手国への圧力に使っているから、そう簡単に妥結しないのだ、という理由ならまだ分かるにしても、石破総理が、自身の政権の延命に利用するから長引かせるのだとしたら、やっぱり国益より自分の権力を取ったと言われても仕方がないと思いますね。

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