1.二発目の文春砲
自民党総裁選を巡って、小泉農水相に対し、またしても文春砲が炸裂しました。
これは9月30日付の記事「小泉進次郎の地元・神奈川県で高市派自民党員が離党させられていた「826人が勝手に…」前衆院議員が実名告白」で、進次郎農相の地元である神奈川県の自民党で、826人の党員が本人の意思を確認することなく「勝手に離党」させられていたという記事です。
内容は、神奈川9区の支部長を務めていた中山展宏前衆院議員が勧誘した約1000人の党員のうち、826人が今年の6月に無断で離党させられていたことが発覚。中山氏は昨年の総裁選で高市早苗議員を支持しており、離党させられた党員の9割超が昨年高市議員に投票していたとのことで、つまり、大量の「高市派」党員が意図的に離党させられていた疑いがある、という内容です。
この文春記事を受け、10月1日、神奈川県連は記者会見を開いて釈明しました。
その会見の要点は次の通りです。
〇党員名簿の訂正について
・神奈川県連のミスにより、党員名簿の有権者について大幅な訂正が発生したことに対し謝罪する。
・この問題は、前衆議院議員の中山氏の支援者だった党員(826名)の継続手続きに関するもので、中山氏の落選と新しい区支部連合長への交代に伴い生じた。
・地元支部と中山事務所の調整により、継続が見込めないとリストアップされた党員について、県連の事務局が「退会(離党)」と解釈し、事務手続き(離党手続き)を進めてしまったことが原因。
・本来は中山氏本人に再確認すべきだったが、支部と事務所から上がってきた情報であるため、誤りがないと解釈してしまった。
・9月26日に総裁選挙の投票用紙が届かないという問い合わせがあり、離党手続きを取られた方々であることが判明。すぐに党本部と連携し、離党した党員の復党手続きを行い、当日中に速達で投票用紙を郵送した。
・県連として、再発防止に徹底して取り組む意向だ。
〇週刊文春の報道について
・週刊文春の電子版が「小泉氏地元で『高市派党員』離党させられていた」という見出しで報じたことに対し、「全くの誤解である」。
・県連が特定候補を利するために党員を離党・復党させるようなことはあり得ないとし、強い抗議を行う。
〇質疑応答の要点
・ミスの原因と責任:県連のミスは、地域支部から上がってきた「継続できない」というリストについて、中山氏本人への最終確認を怠り、事務処理を進めてしまった点にある。この件について、幹事長は「究極に言えば幹事長かもしれない」と述べ、責任を認めた上で、再発防止が最も重要であると強調。
・継続の意思:離党手続きをされた826名は、実際には党員継続の意思があったと確認された。
・党員資格:党員資格は、前年(2024年)の党費を納めていれば、今年の締め切り(11月20日)までは権利があるため、今年の党費を納めていなくても投票権はある。今回のケースは、6月の時点で離党手続きが取られてしまったために名簿から外れていたことが問題だった。
・県連の対応:総裁選への影響を最小限にするため、早急に復党と投票用紙の郵送対応をした。826名全員の投票権は確保できた。
・今後の対応:今後、県連において調査を行い、再発防止策をしっかり決めていく。
2.神奈川県だけの問題じゃない
これについてジャーナリストの須田慎一郎氏は自身の動画で次のように解説しています。
〇投票用紙未送付問題須田氏は、選挙管理委員会や逢沢委員長の言動から、組織ぐるみでやっていたのではないかと疑義を呈し、「この問題は神奈川県だけの問題に留まらない」と述べていますけれども、ネットでは、広島県でも投票用紙が届かないとのツイートが上がっています。
・自民党総裁選において、神奈川県連の第9支部に所属する826人の党員に総裁選の投票用紙が送付されていなかったという問題が発生した。
・この第9支部の支部長は元々高市氏支持であり、未送付の826人の党員も高市氏に投票する可能性が高いと見られていた。
・これは単なるケアレスミスではなく、何らかの意図的な動きによって投票用紙が送られなかった疑いがある。
・抗議の結果、慌てて投票用紙が送られたが、投票ができない状況が生じている。
〇自民党本部の「選挙人数訂正」への疑義
・投票用紙の未送付が発覚した後、自民党本部から不可解な動きがあった。
・9月27日、総裁選挙管理委員会の愛澤一郎委員長名で「党員投票選挙人数の訂正について」という文書が配布された。
・訂正理由は「神奈川県において一部党員の継続に関し齟齬があったため」とされた。訂正後の神奈川県の党員数は、訂正前より826人(未送付の党員数と一致)増加していた。
・この訂正が未送付の発覚を受けて問題を隠蔽しようと慌てて対応したものではないか。
・逢沢委員長が、この大問題をまるで事務手続き上のミスであるかのように公表したことは、「小泉氏に大きなダメージとなるスキャンダルを「握りつぶした」」のではないかという疑惑を生んでいる。
・岸田前首相の右腕とされる木原誠二選対委員長が自民党本部に詰めていたという情報もあり、この一連の動きと関連があるのではないか。
〇結論
・この問題は神奈川県だけの問題に留まらない。
・逢沢委員長の説明不足から、自民党が組織ぐるみで小泉氏を擁護し、問題を隠蔽しようとしているのではないかという疑念が強く持たれる。
・こうした意図的な投票用紙未送付が、全国47都道府県の他の支部でも行われていないか、徹底的に調査をすべきであると。
・この問題により、今回の総裁選の結果には重大な疑義が生じているとし、最悪の場合、総裁選を一旦ストップしてでも全国調査を行うべきだ。
9月24日のエントリー「高市潰しと犬伏の別れ」でも取り上げましたけれども、自民党はここ数年、総裁選の投票資格は過去1年の党費を納めていればよいとしていたのが、今回急にもとの2年に伸ばしているのですけれども、あるいは投票用紙が届かない問題もこれが影響している可能性があります。
であるならば、なおのこと調査すべきであり、それこそ須田氏が主張するように総裁選を止めてでもやらなければならないのではないかとさえ。
ご安心ください、前回林芳正に投票した私にも未だ投票用紙が届いておりません。郵便物を総ざらいして隣家にまで確認してこれなので、恐らく本当に届いていない。発送はされているらしい。
— 八國穣 (@yakuni_yutaka) October 1, 2025
アカウントと個人情報が紐づくことを恐れて黙っていたが、類似事例が多数あるようなのでまあ大丈夫かなとポスト https://t.co/ZeJGKFgZHJ
3.進次郎の選挙妨害
今回の問題について、京都大学の藤井聡教授も自身の動画で次のように解説しています。
・小泉進次郎氏の地元である神奈川県で、高市早苗氏を支援する自民党員700名以上が、本人の意思とは無関係に大量離脱させられ、投票用紙が届かない状況になっていたと報じられた。藤井教授が指摘するように、高市氏支持の党員ばかりに投票用紙が届いていないという偏りは自然ではありえず、これが事実であれば、恣意的な送付があったと疑われるのも当然です。やはり徹底調査が必要だと思います。
・この離脱手続きは、県連の事務手続きによって行われ、本人の了承がないまま進められたことから「法的に国訴にも相当しうる悪質な事件」であり、小泉陣営の関与があれば投票妨害事件だ
・県連は離脱手続きをバリバリの進次郎派である土井隆典県議の指示で行ったと回答しているが、土井県議は指示を否定しており、意見が食い違っている。
・Twitterで同様の被害を訴える党員を募集したところ、複数の地域から報告が寄せられた。
・当初、愛知、千葉、広島、神奈川の4県で、投票用紙が届いていないケースが報告された。
・報告を寄せた党員は、募集時には支持候補を問わなかったにもかかわらず、確認された全員が高市氏支持者であったことが判明している。
・その後、福島県と神奈川県から追加の報告があり、少なくとも6人の高市氏支持者が投票用紙未達の状況にあることが確認された。
・投票用紙未達が報告された地域には、小泉進次郎氏(神奈川県連会長)や斎藤健氏(千葉県連会長、小泉陣営主要人物)など、小泉陣営に近い人物が県連会長を務めている地域が含まれていた。
・この問題が組織的な選挙妨害であった場合、自民党総裁選の信頼性そのものを脅かす極めて深刻な問題である。
・未達の報告が全て高市氏支持者に偏っている状況は、「あまりにもおかしい」。
・小泉氏自身が否定しても、疑惑を持たれること自体が政治責任問題となる。もしこの状況で小泉氏が党員票で1位になるようなことがあれば、結果の正当性が深刻に疑われることになる
・公職選挙法の対象外とはいえ、政治権力者が選挙を歪めているのだとすれば「とんでもない大問題」であり、選挙が終わった後でも徹底的な解明が必要である
4.伏兵は林の中に潜むもの
今回の問題が今週末の総裁選に与える影響はどれくらいあるのか。
10月2日、選挙ドットコムは自身の動画で次のように分析しています。該当部分を纏めると次の通りです。
・〇「文春砲」第二弾と小泉氏陣営の対応分析に従えば、小泉氏と高市氏が僅差で競っている状況です。
・週刊文春が神奈川4区の元支部長(高市氏支持派とされる)経由で入党した党員862人が、総裁選の党員投票を前に名簿から除外されていたと報じた。
・小泉氏は、報道が「意図的な党員票の削減」と示唆したことに対し、「去年の出来事で総裁選と関係ない」として、抗議文を提出し、弁護士を立てて訂正を求めている。
・今のところ、前回のステマ騒動報道とは異なり、小泉氏の支持率は調査上横ばいで持ちこたえている。
+高市早苗氏の動向:議員票を上積みするため、キングメーカーである麻生太郎氏と会談した。麻生氏は誰を支持するか明言していないが、高市氏の食料品の消費税減税方針が麻生氏の意向を受けたものと推測されている。また、世耕弘成氏(参院安倍派)との連携を通じて議員票の上積みを狙っている。
+小泉進次郎の動向:総裁選の討論会直前という異例のタイミングで、農水大臣としてフィリピンへ外遊に出発した。上川陽子氏が小泉氏の支援を表明するなど、前回総裁選に出た面々からの支持が集まっている。
+林芳正氏:情勢調査で支持率を6ポイント伸ばし、猛追している。林氏の議員票は高市氏を上回る見込みであり、決選投票に残れば小泉氏との連携により勝利の可能性が高まると分析。
・日本テレビが実施した3回目の党員票調査(終盤戦)の結果に基づき、議員票を加味した分析は次のとおり。
+党員票調査結果: 1位 高市氏 35%、2位 小泉氏 28%、3位 林氏 23%
+総獲得票の試算(概算):
小泉氏:160~170票
高市氏:140~160票
林氏:120~130票
・依然として小泉氏と高市氏の決選投票が濃厚ですが、林氏が2位と僅差まで迫っており、順位が変動する可能性もある。
9月13日のエントリー「フルスペック総裁選」で、筆者は、世間やマスコミが高市と小泉の一騎打ちだと騒ぐ中、永田町では、林官房長官が最有力視されていることから、仮に林官房長官が決選投票に残ることができれば、小泉支援の議員票は林氏に流れる可能性は多いにある、と述べましたけれども、逆もしかり。政策的に似ている林氏と小泉氏の片方が決戦投票に残れば、もう片方の票が支援に回るのは自明だろうと思います。
当初はここまで林氏が票を伸ばすとは思われていませんでしたから、ほぼ小泉氏と高市氏の一騎打ちで計算できたのですけれども、伏兵の林氏の伸びがその想定を超えつつあります。高市氏の総裁の目は党員票で圧倒するしかなくなってきたのかもしれませんね。
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