
1.高市総裁誕生
10月4日、自民党は総裁選を行い、高市早苗前経済安全保障相が総裁に選ばれました。1回目の投票で過半数を得られず、上位2人による決選投票で185票を得て小泉進次郎農相を破りました。15日にも召集する臨時国会で第104代総理に指名されるとみられ、日本の憲政史上初の女性総理が誕生します。
各候補の得票数は次の通りですけれども、一回目の投票では高市氏は議員票64、党員票119の計183。小泉氏が議員票80、党員票84の計164でした。
小泉陣営は9月22日の出陣式に代理を含めて党所属の衆参議員92人が集まったと発表し、総裁選中、議員票は100超を集めている云々とマスコミなどは報じていたのですけれども、蓋をあけてみれば、議員票が80と出陣式の92人から12人も減らしています。
対する高市氏は議員票38程度で2位の林氏の後塵を拝しているとされていたのですけれども、こちらは64とマスコミ報道を26名も超える議員票を集めています。
筆者はこれまで総裁選で高市氏が勝つには、一回目の党員票で圧倒するしかないのではないかと述べていましたけれども、実際党員票がトップの都道府県は、高市氏が26、小泉氏が7と圧倒的な結果を収めています。
保守層が他党に流れたといわれる中にあっても、高市氏が完勝した訳です。

2.党員の声を聞くという事でフルスペックになった
今回の総裁選で、麻生派43人を率いる麻生太郎最高顧問は「党員の声を聞くという事でフルスペックになった。その意味を忘れるな。決戦投票は党員が選んだ人間でまとまれ」と自派閥議員に支持を出していたことが明らかになっています。
複数の麻生派幹部が明らかにしたところによると、麻生氏は、保守的な政治信条を掲げる高市氏への支持を底上げし、自民離れが指摘される保守層にアピールする必要があると判断。高市氏への党員の支持が厚いことも考慮したとのことで、党内では「小泉氏陣営に麻生氏との関係が良好ではない議員が複数いることが影響したのだろう」との見方も出ていたそうです。
むろん、党内では麻生氏に影響力はないと公言する人もいました。平デジタル相です。
10月3日、平デジタル相は、記者会見で総裁選に関する記者質問に次のように答えています。
NHK 牛尾:平氏はキングメーカーはいない、麻生氏にそれほど影響力はないと断言していましたけれども、決選投票では、議員票のウェートがうんと重くなりますから、まだひっくり返される恐れがあったことは事実です。
NHKの牛尾です。よろしくお願いいたします。総裁の件でもう1点だけお伺いさせてください。選挙の終盤に入りまして、複数の候補者や陣営の幹部が麻生元総理大臣の元にですね、前日訪れて支援の要請、いわゆる総でというものがいます。今日もそうした動きがある見通しです。自民党は脱派閥を掲げていますけれども、こうした中でですね、唯一の派閥を持つ麻生氏に頼るような状況になっていることについて大臣としてはどのようにお考えなのか教えてください。
平デジタル大臣:
一応行ってこうっていうことなんじゃないでしょうか。
NHK 牛尾:
それ以上?
平デジタル大臣:
はい。あの、その以前ほど影響力があるようには思えないので、それほどですね、念のため行ってこうっていうぐらいの話だという風に理解をしています。あの、各陣営私正直分からないので、大臣の公務に専念をしてるので状況は分かりませんが、もう昔ほどそのいわゆるキングメーカーみたいな人がいるような総裁だという印象は持っておりません。
けれども、党員票の通りに議員票が動いたのは、やはり麻生氏の呼びかけが少なからず影響したのではないかと思います。党員票で高市氏がトップをとった都道府県が26、対する小泉氏が7ですからね。これで決選投票で小泉氏を選んだら党員の意見に逆らったことなります。
実際、麻生氏は自派議員に対し、1回目投票では小林氏と茂木氏に入れるよう求め、両氏に1回目の投票で協力することで決選投票では高市氏に入れるよう求める戦術を取っていたことが報じられています。やはり、平デジタル大臣とは一枚も二枚も上手(うわて)です。
やはり麻生氏はまだまだ影響力を持っていると思います。
3.最大の敗者はオールドメディア
ネット番組「デイリーWill」は、今回の総裁選の「最大の敗者」はオールドメディアであると評しています。
件の動画の要点は次の通りです。
・高市氏の勝利に「感動した」と述べ、長年総裁選を取材してきた中でも感慨深いものがあった。確かに総裁選選挙期間中のオールドメディアの進次郎上げ、高市下げ報道には辟易するものがありました。小泉陣営のステマ事件が発覚してもなお、温い追及ですませてましたしね。
・勝利の大きな要因として、麻生太郎元総理が選挙前夜に「決選投票になった場合、党員表に従うべき」と発言したことがある。この発言が他の自民議員への牽制になった。
・決戦投票前の演説について、小泉進次郎氏が「思い出話と論功行賞をほのめかすような内容」だったのに対し、高市氏は当初緊張しつつも、最後は「鬼気迫る魂の演説」となり、聴衆の心をつかんだ。
・決戦投票では、議員票において高市氏が149票、小泉氏が145票と、僅差で高市氏が上回ったことで大きな勝利だった。
・今回の総裁選の「最大の敗者」はオールドメディアである。
・多くのコメンテーターやメディアが小泉氏の圧勝を予想していたことに言及し、彼らの情報や分析が当てにならなかった。
・一方で、SNSやYouTubeの情報の方が今回の結果に関して正しかった。
・特に、精度の高い世論調査が高市氏のリードを示しており、結果は妥当であった。
4.悔しい読売
今回、見事に総裁の座を射止めた高市氏ですけれども、これからが大変です。少数与党であり、まだ総理になれる保証もないのですから。
読売新聞は4日、「新総裁の高市早苗氏を待ち構える悪路、初の女性首相が短命政権になるかも」という記事を掲載しています。
件の記事の要点は次の通りです。
・新しい自民党総裁に選出された高市早苗・前経済安保相は、10月中旬の臨時国会で首相に指名されれば、日本初の女性首相となる見通しだ。読売は連立拡大相手が維新だとし、自民党への逆風の主が「政治とカネ」の問題だと述べていますけれども、筆者は違うのではないかと思っていますけれども、あるいは相当に読売の「願望」が入っているのかもしれません。
・「政治とカネ」を巡る逆風が続く自民党にあって、高市氏への期待は大きいが、新政権の行方には複数の難題が待ち構えている。
・新政権のキーワードは「刷新感」と「世代交代」であるが、「挙党一致」の演出も必要とされている。
・幹事長人事は小泉進次郎農相、加藤勝信財務相、鈴木俊一総務会長らが有力候補である。鈴木氏の処遇には麻生元首相への配慮が透け、小泉氏の起用にはキャリア面で疑問符がつく。サプライズとして萩生田光一元政調会長の登板の可能性もある。
・政調会長・国対委員長人事については、政調会長には小林鷹之元経済安保相、木原誠二前選対委員長らの名前が挙がっている。連立枠拡大に取り組む新政権にとって、国対委員長は重みを増し、御法川信英元財務副大臣や森山裕幹事長の横滑りがありえる。
・旧安倍派議員の処遇にも課題がある。「政治とカネ」の問題で不記載があった旧安倍派議員らを重用すれば、世論の反発を買うことになる。
・新政権は連立枠の拡大が必要であり、日本維新の会との連立協議が焦点となる。水面下で協議は進んでおり、維新側も交渉のテーブルに着く姿勢を見せている。
・課題は、連立参画に慎重な公明党を説得し、「自公維連立政権」にこぎ着けられるかである。これが実現すれば、衆参両院で与党は過半数を回復し、政局は当面安定すると見られている。
・自民党への逆風の主因である「政治とカネ」の問題に対し、総裁選では実効性のある具体策が示されず、「これまでと同じ党の顔をすげ替えてすむ話ではない」と、党内から危機感の欠如が指摘されている。
・「刷新感」「世代交代」を掲げても、実態は麻生、岸田、菅の**3元首相や森山幹事長に依拠した「長老支配」**が続くとの見方があり、特に麻生氏の影響力が増しそうだ。
・長老支配が露呈したり、高市氏がタカ派色を強めて公明党との関係が悪化したりすれば、新政権は思わぬ落とし穴にはまり、短命に終わる可能性も秘めている。
先述の「デイリーWill」が指摘したように、今回の総裁選の「最大の敗者」がオールドメディアなのであれば読売など十分にその範疇に入ります。だとすれば、負けた腹いせに、高市政権に早く潰れろとばかり、あることないこと叩きまくってくることだって、無いとは言えません。
ただ、今回の総裁選でも明らかになったように、メディアの進次郎上げ、高市下げにも関わらず、党員は高市氏を選んだ。
その意味では、平デジタル相の「以前ほど影響力があるようには思えないので、それほどですね」というセリフはオールドメディアに対していうべきものだったのではないかと思いますね。
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