
1.議員定数削減受け入れ
10月17日、自民党と日本維新の会は連立政権樹立に向けた2回目の政策協議を国会内で開催し、維新が連立の「絶対条件」と位置付ける国会議員定数の1割削減について受け入れる方向で調整に入りました。
維新の藤田文武共同代表は協議後の記者会見で「大きく前進したものと受け止めている。今後、最終の詰め、調整を行っていく」と、最終調整を進める考えを示し、同席した自民の小林鷹之政調会長は記者団に、議員定数削減について「維新の考え方は真摯に受け止めた」と語っています。
議員定数削減を巡っては、維新の吉村洋文代表が「連立の絶対条件だ」とし、比例代表の削減を示唆します。衆院の場合、定数465のうち小選挙区が289、比例代表が176ありますから、仮に比例代表で1割減らすと176から46前後減らすことになります。
維新が16日に自民に示した12の政策項目では、議員定数削減について国会議員の1割を目標に今秋の臨時国会で法案を成立させると記されています。削減人数や衆・参、比例・選挙区などの削減対象の詳細は引き続き協議し、臨時国会召集前日の20日までの合意を目指すとのことです。
一方、首班指名について藤田共同代表は17日の記者会見で、立民、国民民主両党との協議について「野党側の連携は難しい。これ以上続けるのは失礼」として打ち切る考えを伝えたことを明らかにしました。これで首班選挙で高市氏の総理選出が強まりました。
維新は政策協議がまとまれば、首班指名で高市氏に投票する方針。自民の衆院会派の議席数196に自民出身の衆院議長を含めると197。ここに維新の35が加われば計232で、過半数233にあと一息になります。
2.削るのは比例
吉村代表は当初、災害時の首都中枢機能のバックアップを担う「副首都構想」と社会保険料引き下げを含む「社会保障改革」の二つを自民が受け入れることが「絶対条件」と強調していたのですけれども、自維の政策協議が始まった後の16日夜以降、議員定数の削減が「政治改革の本質」「連立の絶対条件」と言動を変えています。
政治改革の項目を巡っては、維新が求める企業・団体献金廃止が交渉のネックとみられていました。自民は献金の規制強化にすら難色を示し、自民と維新の溝は際立っていました。維新が「身を切る改革」として掲げる議員定数削減について要求を強めたのは、企業・団体献金廃止が争点化するのを避ける狙いがあるのではと見られています。
17日、吉村代表は、フジテレビの情報番組「サン!シャイン」に出演し、コメンテーターの俳優・池畑慎之介に「議員削減って、どういうやり方で削減していくわけですか?」と問われ、次のように答えています。
・数は本当に多いと思うし、とにかく(天下国家を案ずるよりも)政治家としてあり続けたいっていう人も多すぎます。維新は昨年10月の総選挙で、大阪19選挙区で全勝するなど、小選挙区で23、比例代表で15の議席を得ていますけれども、各党が獲得した議席数(選挙区+比例)は次の通りです。
・衆議院でいくと、それぞれの選挙区で選ばれる人と、選挙区では落ちたんだけれども、比例代表といって、もう一回政治家になるっていう仕組みもあるわけです。この比例代表っていうのは、選挙区という仕組みじゃないので僕はここじゃないかなと思います。
自 民132+59=191公明、共産、れいわ、参政、保守は、小選挙区より比例での議席獲得が多くなっています。もし比例削減ともなれば、これらの政党へのダメージは避けられないかもしれません。
公 明 4+20= 24
立 民104+44=148
維 新 23+15= 38
共 産 1+ 7= 8
国 民 11+17= 28
れいわ 0+ 9= 9
社 民 1+ 0= 1
参 政 0+ 3= 3
保 守 1+ 2= 3
無所属 12+ 0= 12
3.いきなりは論外
この定数削減について、自民党は受け入れの方向と報じられていますけれども、当然ながら党内でも反対論が出ています。
10月16日、自民党の逢沢一郎選挙制度調査会長は自身のX(旧ツイッター)で、「維新吉村代表に。身を切る改革、イコール議員定数削減ではない。現行制度で定数削減となると、大阪、東京じゃなくて地方の定数がさらに少なくなる。今与野党で「衆議院選挙制度に関する協議会」で議員定数を含めて、あるべき制度を議論中。この状況のなか、自民・維新でいきなり定数削減は論外です」とツイートしました。
一方、吉村代表は、16日のテレビ朝日の番組で、21日召集の臨時国会で議員定数削減の法改正を実現すべきだとし、17日のフジテレビ番組でも、年内の定数削減を明記する形で合意できなければ連立は組まないと明言しています。
この間まで維新は副首都構想を掲げていたのですけれども、なぜ議員定数削減に切り替えたのか。
これについて、15日、自民の萩生田光一幹事長代行が「ニコニコニュース」のインタビューで、「吉村氏や藤田文武共同代表は副首都構想が重いと言っているが、別の維新の仲間に聞くと、『それよりも安倍さんと野田さんが約束した議員定数削減のほうが重い。副首都は大阪都構想がだめになったときの代替案だと思われてしまうので、そんなに熱心じゃねーよ』と言われた」と明かし、「維新内もいろいろ意見があるのだな、と思い、今、模索している」と話しています。
平成24年11月、国会の党首討論で当時は首相だった野田氏が安倍氏に対し、定数削減の実現を条件に衆院解散を約束していたのですけれども、その後、一票の格差是正のための調整はあったものの、抜本的な定数削減は行われず、そのままになっています。
維新吉村代表に。身を切る改革、イコール議員定数削減ではない。現行制度で定数削減となると、大阪、東京じゃなくて地方の定数がさらに少なくなる。今与野党で「衆議院選挙制度に関する協議会」で議員定数を含めて、あるべき制度を議論中。この状況のなか、自民・維新でいきなり定数削減は論外です。
— あいさわ一郎 (@ichiroaisawa) October 16, 2025
4.比例代表が出来た理由
維新の定数削減提案について、識者からも慎重論がでています。
東京大学教授の内山融氏は、「自民に議員定数削減を受け入れさせれば、維新としては、持論である「身を切る改革」が実現できたとアピールできる。自民としても、企業・団体献金の禁止は党財政に大きな打撃となるので受け入れがたいが、定数削減ならば相対的に打撃が小さいと考えたのだろう。今後は、衆院と参院、選挙区と比例代表でそれぞれどの程度削るかが焦点になる。選挙区の削減は抵抗が大きいので、比例での削減が基本となるのではないか」と指摘。
また、法政大学大学院教授の白鳥浩氏は、「国会議員の数は、「民主主義のデザインの根幹」をなすといってよい。どれだけの国会議員の数が、適正であるのか?という事については、様々な考え方があるが、それを与党連立の条件として提示するのはいかがなものか?という議論にも一理ある。本来であれば、これは全党協議が必要な案件であり、それを与党の数の力で、拙速に成立させるというのであれば、必ずのちに問題が起こってくるはずだ。ここは、全党協議を行い、日本の民主主義において、国会にどれほどの代表者が必要であるのかについて、慎重に時間をかけて議論を重ねる必要がある。拙速では、将来に禍根を残す」と述べています。
更に、ネット番組「渡邉哲也Show」でもこの話題について取り上げられています。
件の番組の要点は次の通りです。
・比例定数削減は、少数野党が全滅する可能性があり、国会の多様な意見を排除することになる。筆者としては、比例定数削減が少数野党が全滅する可能性に繋がるという点が気になります。確か比例は二大政党制を目指して小選挙区制を導入したものの、野党勢力の分裂によって第一党に有利に働くようになったことから、その是正のために政党自体の得票数によって議席を確保できる「比例代表制」が並行して採用されたと記憶しています。
・小選挙区制において少数意見が排除され、独裁が強まる恐れがある。
・人口が少ない地方の意見が国政に反映されづらくなる。
・国会議員が少なくなると、委員会での議論を行う人数が不足し、行政・官僚の力が強まる。
・今回の維新の提案は、選挙で示された政策ではないにもかかわらず、拙速に進めようとしている。
・議員削減よりも、小選挙区制の廃止を議論のベースにすべきである。
・道議会議員時代に定数削減に反対した経験がある。
・しっかりした議員を選べば、削減分の給与以上の働きをする。
・議員を減らすと、かえって行政の問題が増える可能性がある。
・削減の議論は、マスコミが一方的に「おかしな議員は税金の無駄」としているだけで、問題の本質ではない。
・維新は定数削減を連立の条件として「飲まれなかったら連立解消」のような恫喝的なやり方をしている。
・国民のことを見ていないやり方であり、政権不在のリスクと天秤にかけている状況。
・公明党と連立を組んでいた過去があるため、維新と連立を組めないわけではない。
・自民党と維新は、次の選挙に向けた候補者のバーターについても水面下で協議している可能性がある。
もし、比例定数が削減となると、再び第一党に有利に働くようになることが考えられ、結果として自民が第一党であったとしたら、自民の議席復活の切っ掛けになるかもしれません。
前述の「渡邉哲也Show」でも指摘されていますけれども、しっかりした議員を選ぶという議論ももっとすべきではないかと思いますね。
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