高市総理の所信表明と積極財政

今日はこの話題です。
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1.高市総理の所信表明


10月24日、高市総理は就任後初となる所信表明演説で行いました。高市総理は「責任ある積極財政」で暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済を作る決意を強調。日本維新の会との新たな連立政権で、「政治の安定」をもたらし、広範な政策合意へ各党と柔軟に議論する姿勢を示しました。

その積極財政に関する高市総理の発言を抜き出すと次の通りです。
【前略】

何を実行するにしても、「強い経済」をつくることが必要です。そのための経済財政政策の基本方針を申し述べます。

この内閣では、「経済あっての財政」の考え方を基本とします。「強い経済」を構築するため、「責任ある積極財政」の考え方の下、戦略的に財政出動を行います。これにより、所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税率を上げずとも税収を増加させることを目指します。この好循環を実現することによって、国民の皆様に景気回復の果実を実感していただき、不安を希望に変えていきます。

こうした道筋を通じ、成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していきます。

【中略】

大胆な「危機管理投資」による力強い経済成長

中長期的には、日本経済のパイを大きくしていくことが重要です。我が国の課題を解決することに資する先端技術を開花させることで、日本経済の強い成長の実現を目指します。そのために、「日本成長戦略会議」を立ち上げます。

この内閣における成長戦略の肝は、「危機管理投資」です。経済安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障、健康医療安全保障、国土強靱(きょうじん)化対策などの様々なリスクや社会課題に対し、官民が手を携え先手を打って行う戦略的な投資です。世界共通の課題解決に資する製品・サービス・インフラを提供できれば、更なる日本の成長につながります。未来への不安を希望に変え、経済の新たな成長を切り拓きます。

AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、サイバーセキュリティ等の戦略分野に対して、大胆な投資促進、国際展開支援、人材育成、スタートアップ振興、研究開発、産学連携、国際標準化といった多角的な観点からの総合支援策を講ずることで、官民の積極投資を引き出します。

「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指して、データ連携等を通じ、AIを始めとする新しいデジタル技術の研究開発及び産業化を加速させます。加えて、コンテンツ産業を含めたデジタル関連産業の海外展開を支援します。

坂口志文(しもん)さん、北川進さんのノーベル賞受賞をお祝い申し上げます。強い経済の基盤となるのは、優れた科学技術力であり、イノベーションを興すことのできる人材です。公教育の強化や大学改革を進めるとともに、科学技術・人材育成に資する戦略的支援を行い、「新技術立国」を目指します。
そして、成長戦略を加速させるためには、金融の力が必要です。「資産運用立国」に向けた貯蓄から投資への取組の成果に基づき、金融を通じ、日本経済と地方経済の潜在力を解き放つための戦略を策定し、官民連携で取り組んでいきます。

こうして日本の供給構造を強化し、世界の投資家が信頼を寄せる経済を実現することで、世界の資本が流れ込む好循環を生み出します。

【以下略】
高市総理は、積極財政で所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税率を上げなくても税収を増加させると述べ、成長戦略の肝は「危機管理投資」であるとの見解を示しました。


2.プライマリーバランスの黒字化からの政策転換


この高市総理の「積極財政」について、24日、ブルームバーグ紙は次の様に報じています。
・財政運営を巡っては、「強い経済」を構築するため戦略的に財政出動を行うと述べた。この過程で「成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げて行くことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保する」と述べた。

・現在、政府が財政健全化の指標として用いる「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)」の黒字化には言及しなかった。今年6月に石破茂政権がまとめた「骨太方針2025」では25-26年度を通じてPB黒字化させる目標を示した上で、コロナ禍前の水準に向けて債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指すとしていた。

・単年度ベースで経費と税収のバランスを計るPBと異なり、政府債務残高対GDP比は経済規模と比較して財政健全化を図る指標だ。中長期的な観点から柔軟な財政運営が可能となる一方で、単年度ベースの赤字が許容されやすくなる。政府債務残高の対GDP比は、債務残高の伸び率が成長率を上回らなければ、引き下げることができる。

・高市氏は総裁選期間中、「純債務残高」の対国内総生産(GDP)比が緩やかに低下する財政運営を目指すとしていた。純債務残高は債務残高から政府保有の金融資産を差し引いたもので、さらに柔軟な財政支出を可能とする。

・財務相に就任した片山さつき氏も22日、財政健全化への取り組みは、純債務残高対GDP比引き下げで「論理的には十分ではないか」との考えを示していた。
ブルームバーグは高市総理が、プライマリーバランスの黒字化には言及しなかったとし、石破前政権からの政策転換を示唆しました。

プライマリーバランスとは、「その年の政策にかかる費用を、その年の税収などでどれだけ賄えているか」を示す指標です。過去の借金(国債)に関する支出と収入を除いて計算します。
プライマリーバランス(PB) = (税収 + 税外収入) - (国債の元利払い費を除く歳出)
PB黒字は、その年の税収などで、国債に頼らずに政策的経費を賄えている状態を示し、余った分は国債など過去の借金の返済に充てることができ、財政が健全な状態を示すとされます。PB均衡(ゼロ)は、その年の税収などで、政策的経費をちょうど賄えている状態であり、新たな借金(国債)を増やさずに、最低限の行政サービスを維持できていることを意味します。そして、PB赤字は、その年の税収だけでは政策的経費を賄えていない状態で、不足分を補うために、新たに国債を発行する必要があることを意味します。日本の現在の状況はこれになっています。

これまで日本政府は、財政再建の目標として「プライマリーバランスの黒字化」を掲げていて、将来世代にツケを回すことなく、現在の行政サービスに必要な費用を、現在の税収などで賄える財政構造を目指すと謳っています。


3.責任ある積極財政はワークするのか


高市総理の「積極財政」政策について、市場の反応はいま一つです。

明治安田生命フェロー チーフエコノミストの小玉祐一氏は、10月6日に「高市氏の「責任ある積極財政」はワークするのか」という調査レポートを出しています。

件のレポートの要点は次の通りです。
〇高市新総裁の誕生と市場の注目:
・自民党総裁選で高市早苗氏が新総裁に選出され、次期総理大臣になることが確実となった。
・経済政策通、財政リフレ派、そして初の女性総理候補として市場の注目度は高く、選出直後には「高市トレード」で株高・円安が進行した。
・今後は具体的な政策設計や財源確保、党内調整の手腕が問われるステージに入ると指摘されている。

〇「責任ある積極財政」への不安(財政面):
・高市氏が掲げる「責任ある積極財政」は、戦略的な財政出動で経済を強くし、税収の自然増で財源を賄おうというものだ。
・しかし、歳出拡大(成長投資、支援拡充、防衛費増額など)や歳入減(ガソリン税等の一時的な減税など)のメニューが並ぶ中で、税収の自然増頼みだけでは財源をカバーできるか不安が残る。
・景気拡大は永続しないため、将来の税収減に備えた余裕のある財政運営、そして恒久的な財源についての議論が不可避になる。

〇物価高対策と供給サイドの強化の重要性:
・物価高対策は減税・給付金寄りだが、これは景気の過熱や物価高を助長する危険性があり、根本的な解決策ではないため、「期待外れ」となるリスクがある。
・足元の物価高の多くは供給サイドに起因しており、本来は供給サイドの強化(生産性向上、コストプッシュ要因緩和)につながる政策に注力すべきだ。
・食料品価格高騰の最大の要因である米については、高関税の抜本的な見直しは選択肢になく、短期的な効果は薄い。
・エネルギー価格については、緩やかな円高を志向する金融政策正常化が選択肢だが、リフレ派の高市氏が好む政策ではない。

〇構造改革と「給付付き税額控除」への期待:
・労働市場改革などの改革的視点が甘くなっている問題がある。労働資源の流動性を上げ、生産性の持続的な向上を実現する政策が必要だ。
・過度な労働時間規制の見直しを公約に掲げている高市氏の実行力に期待。
・高市氏が掲げる「給付付き税額控除」は、税と社会保障の一体改革の核になりうる中長期的な政策であり、実現すれば大きな成果となる。早期の検討と導入に期待。

〇金融政策への介入:
・リフレ色の強い高市氏による日銀への介入が懸念されているが、首相の立場での発言や、経済環境の変化(デフレからインフレへ)、政治的得点になりにくさなどから、懸念されているほど強い干渉にはならない可能性もある。
・ただし、拡張財政が進めば、財政プレミアムを織り込んで長期金利が上昇し、日銀が利上げを急ぐ可能性もあり、金融市場への影響を幅広く見積もる必要がある。
このように高市総理の経済政策運営面での不安は財政であり、税収の自然増頼みでいればいずれ行き詰まると警鐘を鳴らしています。


4.市場は様子見


また、日本総研チーフエコノミスト/主席研究員の石川智久氏は、10月21日、Economist Column「高市新連立政権に望むー節度ある財政政策、地方分権の加速、選挙制度・統治機構改革の本格的な議論を」の中で財政出動について次のように解説しています。
■財政出動については節度ある対応を
・高市氏は「責任ある積極財政」との立場であるが、ぜひとも財政再建という責任を認識し、成長分野に的を絞ったバラマキではない財政運営と、そうしたスタンスを維持することを期待する。
・現在は、高市総理がお手本とするアベノミクスの開始時とは真逆の経済環境にあり、膨張的な財政政策では、インフレや円安の加速等の副作用を招く恐れがある。
・新連立政権においては、財政健全化を重視しつつ、成長戦略と社会保障改革を両立させることを基本姿勢とする維新が加わったことでもあり、節度ある効率重視の財政運営を実施すべきである。
・また、高市総理は英国初の女性首相であるサッチャー氏を目標とする政治家に挙げているが、サッチャー氏は財政再建に注力したことに留意すべきである。
・物価対策や資産バブル回避のためには金融政策の正常化が求められるが、政策金利を上げていくなかでは、なおさら財政再建が求められる。
・低位安定していた日本の長期金利が顕著に上昇するなか、財政再建に時間的余裕はない。
・英国の 3人目の女性首相であるトラス氏は財政規律への配慮を欠いたことで金融市場を動揺させたが(トラス・ショック)、そのような事態は回避すべきである。
・加えて、財政出動を伴わない成長戦略となりうる規制改革の議論が低調なのは大きな問題であり、早急に取り組んでいくことが不可欠である。
石川氏は、現在の経済状況をアベノミクス開始時とは真逆であるとし、トラス・ショックの二の舞にならない為に、バラマキではない財政運営と財政規律への配慮をすべきだと主張しています。

実際、24日の日経平均は、高値圏でもみ合う展開が続き、高市総理の所信表明演説内容が伝わったにも関わらず、相場に大きな反応はみられませんでした。

一方、為替相場は、一時153円台に乗せるなど、円安が進み、一部の為替ブローカーは、高市総理の所信表明での財政出動の主張を受けて「財政悪化を懸念した円売りが強まった」と見ているようです。

いずれにしても所信表明を好感しての動きとは言い難く、しばらく様子見というところではないかと思います。まぁ、市場に高市政権を評価させるためには、実績を出して見せるしかないのだろうと思いますね。



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