
1.日米蜜月という圧力
今回の日中首脳会談ですけれども、もともとは開催は予定されていないものでした。それが突然行われることになったのは、直前の日米首脳会談が影響したと言われています。
11月1日、経済評論家の渡邉哲也氏はネット番組文化人放送局「渡邉哲也Show」で次のように解説しています。
〇米中首脳会談の背景と内容習近平主席にとって中国国内事情が不安定な最中、日米首脳会談でその蜜月ぶりを見せつけられたのが決定打になったというのですね。
・日米首脳会談での「蜜月」ぶりに中国側が焦り、また会談を避けることが習近平氏にとって都合が悪い状況から、首脳会談が実現。
・アメリカ側の譲歩:1年間の延期・減額であり「一時的な停戦」だが、中国にとって関税による不利な状況(平均57%→47%)は変わっていない。
+100%の追加関税、港湾使用料、輸出管理強化の1年間延期。
+フェンタニル課税を20%から10%に引き下げ(10%の減額)。
・中国側の譲歩:中国は予想以上に折れており、アメリカは譲歩が少ないながらも大きな成果(レアアース、大豆・トウモロコシ)を勝ち取った。
+レアアースの輸出即時中断。
+大豆の購入を即時開始(アメリカが長年要求していた内容)。
〇中国の国際情勢と軍事的な弱体化
・中国は国際的な協調を得られず弱体化しており、軍の幹部更迭が相次ぐなど、軍事費の維持にも不安がある状況。
・横須賀の空母「ジョージ・ワシントン」で行われた高市首相を伴うトランプ氏の挨拶は、中国共産党にとって大きな脅威となり、習近平氏が会談に応じた決定的な一因となった。
〇日本の外交と国内政治の「日米二人三脚」回帰
・以前の不明瞭な外交から、高市政権で完全にアメリカとの「二人三脚」体制に回帰。これにより、中国を包囲する法網がアジアでも構築されつつある。
・国土交通大臣(金子氏)、副大臣(佐々木氏)、党選対委員長など、新台湾派が主要ポストに就任。
・海上保安庁を管轄する国土交通大臣の座が公明党から自民党に戻ったことは、危機的な海上保安庁の体制強化に向けた大きな変化を意味する。
〇情報発信源の変化とメディアの地位低下
・高市総理が習近平氏との面会をSNS(Twitter/X)に直接投稿するなど、政治家本人が一時ソース(ファーストソース)となり、情報を直接発信する時代に突入。
・共同通信などの新聞・オールドメディアは、政治家のSNS投稿を後追いで報じる二次ソースの地位に転落。
・今後、大臣会見が公開され、不適切な質問をする記者はその名とともに晒される時代が到来
2.関西のおばちゃん
また、渡邉氏は、 高市総理が習近平氏との面会をTwitter(X)に直接投稿したことで、ファーストソースが政治家本人や自民党、各大臣の「ダイレクト」になり、共同通信などの新聞やオールドメディアは二次ソースの座に転落したと述べ、トランプ大統領がソーシャルメディアに投稿した内容を記事にするのと同じパターンと指摘。
また、茂木外相の記者会見で、記者が会見で既に発表された内容を重複して質問し、茂木外相が皮肉な対応をするという動画も流れました。今後は大臣会見がすべて公開されるため、記者が不適切な行動をすれば、その名前とともに晒される時代がやってくると述べています。
一昔前、ビジネスの場ではよく「見える化」と呼んで、見えにくいものを見やすい状態にし、そこから得られた情報をもとに、継続的な改善活動を行うことを提唱された時期がありましたけれども、政治やオールドメディアの世界もようやく「みえる化」の波がやってきたように思います。
実際、高市総理は日中首脳会議後の記者会見でAPEC全体セッション前に習近平主席に挨拶した写真をSNSに上げたことについて問われ、次のように答えています。
21か国あります。その中で、先般ASEANで御一緒したメンバーもいますので、そこで、「この間、ありがとうね」っていう話をした後、先般、私が総理になってからまだ御一緒してない国々については、全員、お話をいたしました。新入りでございますので、一人ずつ見つけて、短く挨拶をして回ったという中で、習主席とも御挨拶をさせていただいたということでございます。残念ながら、チリの方だけ、控室に入ってこられなかったと思いましたので、(チリの大統領)とは御挨拶ができませんでしたが、残りの国は全部、会話をすることができました。
21ヶ国の首脳を一人ずつ見つけてチリ大統領以外の全員に挨拶したというのですね。どこかの座ってスマホを弄っていた首相とは月とスッポンです。
また、APEC首脳会議が始まる前、着座した高市総理は数メートル離れた隣席にインドネシアのプラボウォ・スビアント大統領が座ろうとすると、まずお辞儀。プラボウォ大統領は手を合わせて挨拶を返して、席に座ると資料を確認し始めた。すると、高市総理はプラボウォ大統領をちらっと見やると、机に手をかけて一気にイスをプラボウォ氏の方にスライド。フレンドリーな表情で近づく高市総理に、プラボウォ氏も手を合わせて再度挨拶。プラボウォ大統領が手にした資料について2人は和やかな様子で話し込み始めるというシーンがネットで拡散。
更に、空き時間には、控室で挨拶できなかった、チリのガブリエル・ボリッチ大統領の肩に手をまわし、親し気に話し込むなど、挨拶コンプリートしています。やり残しなく仕事はしっかりこなしています。
これにネットは、「高市早苗首相、インドネシア大統領との外交素晴らしいね あの椅子の寄せ方感心する」「こりゃキュートですな」「椅子を擦り寄せて話しかけるコミュニケーション力すごい」「なんつーコミュ力」「関西のおばちゃん最強説を提示させていただきたいです」「この人営業やったら間違いなくトップセールス」などと称賛する声が上がっています。
筆者も、動画をみて、なんてお茶目だろうと思いましたけれども、これは海外首脳の中にも高市総理のファンになる人も出てきそうな気さえしてきます。
3.政治報道の見える化
総理自ら情報発信する「サナエ・ダイレクト」は、マスコミの頭越しに外交的影響を与え始めています。
高市総理は、前述したAPEC首脳会議の開催地である韓国・慶州で、APEC首脳会議の台湾代表として出席した林信義・元行政院副院長と約25分間会談しました。高市総理は「台湾は緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人だ。幅広い分野で協力と交流を深めたい」と伝えています。
高市総理は林氏と握手する写真を自身のXに投稿し「日台の実務協力が深まることを期待します」とツイート。10月31日にも、APEC首脳会議を前に林氏とあいさつする様子をXで発信しています。
これに中国が噛みつきました。
記者から、「高市総理が10月31日と11月1日の2日間、APEC首脳会議中に台湾当局者と会談した様子を写真付きでソーシャルメディアに投稿し、相手方を台湾の「総統府上級顧問」と呼んだ。中国側はこれについてどのようにコメントするのか」と問われた、外交部報道官は次のように批判しています。
・日本の指導者がAPEC会議期間中に台湾当局者との面会を主張し、ソーシャルメディアで大々的に宣伝したことは、『一つの中国』原則、中日四つの政治文書の精神、そして国際関係の基本的規範に深刻に違反する。これは「台湾独立」勢力に極めて誤ったメッセージを送るものであり、その性質と影響は甚大である。中国は断固としてこれに反対し、日本に対し厳粛な抗議と厳重な抗議を申し立てた。総理個人の「サナエ・ダイレクト」に、中国外交部が反応する。高市総理が掲げる「懸案があるからこそ、よく話をする」という方針からみれば、まさに対話のチャンスということになります。政治や報道の「見える化」が今後のトレンドであるとするならば、中国に忖度して隠蔽するオールドメディアなどよりも「「サナエ・ダイレクト」や「政治家ダイレクト」がよほどその役割を果たすことになります。
・台湾問題は中国の内政であり、中国の核心的利益の中核であり、中日関係の政治的基礎と日本の基本的信用に関わるものであり、決して越えることのできない一線である。今年は中国人民抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利80周年、そして台湾の返還80周年にあたる。長きにわたり台湾を植民地支配してきた日本は、台湾問題において逃れることのできない重大な歴史的責任を負っており、言動においてより慎重であるべきだ
・中国は日本に対し、中日間の4つの政治文書の精神とこれまでの約束を遵守し、誤りを反省・是正し、具体的な措置を講じて悪影響を除去し、中国の内政への干渉をやめ、新時代の要求に合致した建設的で安定した中日関係の構築への公約を実行に移すよう強く求める。
11月1日、台湾を代表してAPEC首脳会議に参加している林信義氏とお会いしました。日台の実務協力が深まることを期待します。 pic.twitter.com/AJDUkgMEnu
— 高市早苗 (@takaichi_sanae) November 1, 2025
4.高市総理の下準備
テレビ朝日系「報道ステーション」は、10月31日に行われた日中首脳会談の成果について、記者とのやりとりを通じて報じています。
ーー高市総理に同行取材している政治部官邸キャップ・千々岩森生記者に聞きます。31日の習主席の言葉を聞いてどう感じましたか昨日のエントリーで筆者は、先日の日中首脳会談で高市総理が伝えた懸念について、中国側はほとんど「No」と拒絶したのではないかと述べましたけれども、千々岩記者によると、やはり、互いに言いたいことを言っただけ、ということのようです。
政治部官邸キャップ 千々岩森生記者:
・冒頭の習主席の発言は驚きました。『戦略的互恵関係』『建設的で安定的な関係の構築』という言葉を、高市総理から言われたわけではなく、習主席が自発的に発信をしました。この2つは日本が作り上げたワードですが、最近は中国高官も使うようになってきましたが、習主席から出てくる。それだけ中国にも定着したことに驚かされました。この2つの言葉は表現は違いますが、含んでいる意味は似ています。前向きな関係を構築していきましょうねという言葉が双方のトップから出てきたことはポジティブに捉えていいと思います
・もう1つ注目したのは、高市総理の握手の仕方です。高市総理は普通の握手よりも腕を伸ばして、力を入れてグッと握手をしていた。これは相手に引きずり込まれないよう相手と距離を作る、相手のペースにのまれないようにする握手の仕方です。総理の側近に聞くと表情に加えて、握手の仕方も含めて入念に練習していたといいます。
ーー会談の成果をどうみますか
政治部官邸キャップ 千々岩森生記者:
・終わった後、総理周辺に、中国から対中強硬派とみられていた高市総理と会談が実現した理由を聞くと『恐らく中国も日本に言いたいことがあったからだろう』というのを1つ挙げていました。習主席は読み上げるような形を取りながら、中国の立場を伝えていました。高市総理も日本の立場を伝えていた。つまり、お互いが自分の主張を述べ合った。まだ関係性が深まるとか深まらないのフェーズではない、まずはスタートラインに立ったというのが31日の現在地と言えます。
この千々岩記者は翌11月1日放送のテレビ朝日系「ワイド!スクランブル サタデー」に出演し、日中首脳会談の印象について次のようにコメントしています。
・お互いの主張をぶつけ合った、というのが正確なところ……よく、高市首相は安倍晋三元総理のカラーと似ているという言い方をされるが、出席者を取材すると、安倍総理が初めて習近平主席と会談した時は、本当に厳しかったと。それと比べると、今回は全然いいという見方をしていた。千々岩記者は、高市総理が会談前に習主席に挨拶したときの写真について、習主席の「素の表情」が出たのかもしれないと述べていますけれども、そうだとすると、会談時に両首脳が握手するときの写真で、習主席が仏頂面であるのも、素ではない、何某かの目的をもって作られた表情だということになります。
・会談時の、高市首相の習氏との握手の仕方が気になった。握手の時に、腕を結構伸ばすんですね。腕を伸ばしてガッと力を入れ、相手との距離をつくる握手の仕方なんです。力を入れるのは、よく相手の首脳によってはぐっと引っ張る人もいて、相手の方によろけることもあるので、それを防ぐために、胸も張り、相手のペースにのまれないような握手の仕方を、あえてしていたな、という印象です。
・(高市総理が会談に先立ち自身のXに投稿した、控室での習氏とのツーショット写真について)習主席は表情が柔らかい。もしかしたら、カメラに撮影されることを意識せず、素の表情が出たのかなという印象も受けた。
対する高市総理もキリっとして、習主席の目を見たまま視線を逸らしませんでした。APECでインドネシアやチリ大統領に見せたお茶目な行動や表情とは丸っきり違います。おそらく公式の場での表情や握手がどういう外交メッセージを世界に向けて発信することになるのかを十二分に知った上での握手なのだろうと思います。つまりそれだけ事前準備している訳です。
高市総理の振る舞いはこうした事前準備に支えられてのことだということも知っておいてもよいかもしれませんね。
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