
1.日中局長級会談
11月18日、中国・北京で外務省の金井正彰アジア大洋州局長と、中国外務省の劉勁松アジア局長との協議が行われましたけれども、会談後の両者の姿勢や態度がX(旧ツイッター)で物議を醸しています。
それは、会議室から出てきた劉氏が胸をやや反らせ、ポケットに両手を入れたまま、金井氏に話しかけているのに対し、金井氏の方は渋い表情を浮かべ、劉氏との間に立つ通訳の男性に顔を傾けている場面で、金井氏が劉氏に頭を下げている様にも見えなくもないとのことで騒ぎになりました。
この場面を切り取った動画が中国のSNSで拡散され、「日本の役人が中国側の話を頭を下げて聞いている」などと説明、「孫に説教しているようだ」「歴史に刻まれる場面だ」などと快哉を叫ぶコメントが並びました。
さらに、劉氏の服装について、日本が1915年に受諾させた対華21カ条要求に反発し、学生デモを機に広がった19年の抗日運動「五四運動」で学生たちが着ていた服のようだと指摘するネットメディアもあるようです。
この中国側の態度について、19日、松原仁衆院議員はXで「不遜な態度に共産中国の野蛮を再認識した。隣国である日本国民を軽んじ人権を蔑ろにする北京政府の権威主義に嫌悪感すら覚える」と不快感を示し、同じく19日、木原稔官房長官は記者会見で、「日本側としかるべく調整されない形でプレスアレンジが行われた点について、中国側に対して申し入れを行った」と述べ、撮影を事前に了承しておらず抗議したことを明らかにしています。
2.計算し尽された無礼
両局長が立ち話をした場所は、通常は撮影が認められていないところであることから、中国側が、日本に対して「優位」な立場にあるとアピールする情報戦の一環と指摘されています。
中国内モンゴル自治区出身の静岡大の楊海英教授は、「中国人民は、このような映像を見て悦に入り、『うちは大国だ』とご満足だろうが、世界的には嫌われるだけ。それが分からない中国は世界の異質な存在」とXで指摘。日経新聞米州総局の大越匡洋総局長も、Xで劉氏の態度について「計算し尽された無礼。中国でもあり得ない格好でカメラ前に登場」と分析。金井氏についても「低姿勢に見える徹底した演出。ベタだが国内向けに重要」とし、中国側の意図的な演出の可能性を指摘しています。
更に、中央大学法科大学院教授の野村修也弁護士は、Xで「恫喝じみた言動を繰り返す……ポケットに手を入れて虚勢を張る姿もその延長線上。これらに動ずることなく、今まで通り中国人と親しく交流する姿を中国に見せ付けるのが、得策だ」とコメントしています。

これについて、FNNオンラインは次のように報じています。
北京支局・近藤記者:更に、中国の事情に詳しいフリージャーナリストの西谷格氏も次のようにコメントしています。
「日中の局長級協議から一夜明けた19日、中国メディアは協議をめぐる中国側の厳しい受け止めを繰り返し報じています。中国国内では18日の協議終了後、外務省の金井アジア大洋州局長が、ポケットに手を入れた中国外務省の劉勁松アジア局長に、頭を下げるような様子を取り上げた映像が、SNSなどで拡散されて話題になっています。
中国では、私たちのような外国メディアに対する取材は規制が非常に厳しく、今回のような取材は特に、当局により撮影を制限されることがほとんどです。
そんな中、今回は協議の現場となった中国外務省の建物の中で取材が許されるという、まさに“異例の対応”でした。普段であれば我々を排除しようとする警備員も、現場では『ここを通るから動線を邪魔するな』と話すのみで、取材を黙認しました。
また、現場には中国国営テレビの姿もあり、いわば中国側が暗に撮影をセッティングしたような形です。撮れた映像に説明をつけて、国内向けの宣伝に利用しているところを見ると、中国側が映像のイメージを計算して撮影させた可能性もあります。
実際にSNS上では、『この映像を見ると誇りに思える』『こういう風に日本を教育すべきだ』などといった投稿が確認できました。正当性を示し、日本より優位にあることを、国内にアピールする強さが伺えます」
高市早苗首相の台湾有事に関する発言は中国メディアでも大々的に報じられており、中国人にとって最大の関心事。国民感情の昂りを抑えるためにも、自国の優位性をアピールすることが求められていたのでしょう。また、そうすることで国民は中国共産党の存在に安心感を覚えます。やはり、中国側の国内向けのパフォーマンスだという見方が大勢のようです。
最もわかりやすいのは、写真一枚で『我が国は、日本に対して強気な態度を取っているぞ』と見せつけることだったのでしょう。通常であれば、外交の場でメディアがどのような場面を撮影するか、中国側と日本側は事前に打ち合わせを行うのが一般的。ところが、今回はそうした相談や調整はなく、金井氏は何も知らずに自然体で出てきたところをいきなり撮影されてしまったようです。中国共産党による自国民への“パフォーマンス”に、まんまと乗せられてしまったのかもしれません。
3.中国が恫喝を続ける2つの理由
このように中国が日本に対して恫喝を続ける理由は何か。
11月22日、ネット番組「言論テレビ」は、日本保守党の北村晴男参院議員と日本維新の会の石平参院議員をゲストに迎え、MCの櫻井よしこ氏との対談を放送しています。
その模様は次の通りです。
櫻井よしこ:皆様、こんばんは。櫻井よしこです。(中略)日本に対する様々な嫌がらせは、習近平国家主席が逆上しているからです。なぜか。高市さんがコントロールすることをできないからですね。アメリカが武力攻撃されたら、「我が国の存立が危ない、国民の命も危ない」ということで、それが明白な危険があるんですよ、というのが存立危機事態ですね。はい。そのような場合には、そのアメリカ軍の要請に従って、我が国がアメリカに補給したり、武力行使で助けたり、集団的自衛権を一部行使できるということを、これ当たり前の話ですね。筆者としては、北村議員の二つの見方「習近平主席が前から高市総理を嫌っていた説」と「朝日新聞のミスリードに薛剣駐大阪総領事が引っかかった説」が興味深かったです。なるほど、どちらもあるように思えてきます。
櫻井よしこ:で、でもこのことが問題されてしまって中国から、で、その後はもう本当にまあ数々の嫌がらせというか理不尽な要求を突きつけられているんですが、このことから始めたいと思うんです。まず、この一連のことについてね、「存立危機事態を認定する可能性がありますよ」と、認定しますよ、ということを言ったことのどこが悪いと中国は思ってるんですかね。
石平:いや、本当はあの、この存立危機事態の認定はね、「どこかの国が戦争を発動したことを前提するでしょ」。そういう場合(を想定して)が中国が怒るということが、要するに中国自身が「俺たちは戦争やる」という(ことになってしまう)。自分自身が考えてることを言われてしまった。そうそうそう。あの、「自分たち戦争やるつもりになんて全くないならば、この話は自分たちに何の関係もない」の話。
北村晴男:私は二つの見方、ま、おっしゃる通りなんですけど、二つの見方を一つ持ってましてね。一つは、その中国は高市さんが首相になる前から、そもそも自民党総裁になる前から盛んにシグナルを出してましたよね。「高市さんになんかなってもらっちゃ困るんだ」と言わんばかりのシグナルです。就任直前には、高市さんその南モンゴルの人権問題について非常に厳しい発言...厳しいってか、当たり前の発言なんですけど、人権条項、人権を懸念してますよということを言った。で、これは中国が絶対言われたくないこと。ウイグルについてもチベットについても。これどれも言われたくない、もう二度と言われたくないと思ってる。安倍さんに言われてかなり頭に来てた習近平。「もう嫌だ」と。「また高市さんと外交関係結ぶたびに言われる」と。だから、何かあったら攻撃しようとずっと思っていたっていうのが一つ。
北村晴男:もう一つは、その朝日新聞が最初に報じた時に、あたかもその、中国がその武力攻撃したことっていう前提を外して、あたかも日本がその武力攻撃をするんだみたいな見出しで持って報じたようなんですよね。
櫻井よしこ:はい、はい。で、それを見て、ま、飛びついたと。中国側が、大坂総領事が。ま、これ今あれで朝日デジタル版の見出しですよね。「高市首相、台湾存立危機事態」...ここまではいいですよね。「認定なら武力行使」っていう、これはこの文章から言うと、「これを認定したら日本が武力行使しますよ」になりますわね。ところが、しばらくしてから朝日はこれ修正して、「高市さん、存立危機事態になりうる」、「武力攻撃の発生時」...この時は中国がアメリカ軍に対して武力攻撃をした場合と。でもこれとこれ、ちょっとニュアンスが全然違いますよね。これを見て(中国側)が言ったということなんですか。
北村晴男:はい、という見方もできないわけではない。つまり、誤解じゃないと思うんですけど、この朝日新聞の記事でもって若干の誤解をしてカッとなってやった、という見方も全然ないわけではないと。やっぱりその、日本のメディアが日本の世論を左右できた。マスコミ化したメディアが、「これじゃあその軍国主義の復活と言われて当たり前じゃないか」ということをメディアが盛んに言うと、世論もその通り動いてたんですよね。その頃は。そうですね。今はそれが変わってしまった。メディアがその世論を操作できなくなった。逆に言うと、リテラシーがすごく上がってきた国民の。それはまあSNSのおかげなわけですけど。そういう状況にあって、中国のその手が、もう、効かなくなってきたということじゃないのかなと思います。
石平:いや、だからそういう意味においてね、高市首相はね、今回の発言を絶対撤回しないのは、もう一つの意味。要するに、そういう中国の経験則を徹底的にひっくり返す。「もうこの経験則はもう通用しませんよ」って言って。むしろ逆の経験則を彼たちに植えつけるんです。今、確かにね、一時的に損かもしれません。大した損でもないんですよ。しかしね、撤回してしまったらね、永遠にこの手を使われる。日本という国にはね、もう一時の損じゃない、もう永遠に損する以外ないんですわ。
櫻井よしこ:確かにそうですね。やっぱりそのテレビも含めてね、中国側のその情報をそのまま受け売りで報道するということは、もう国民に受け入れられないところまで。
北村晴男:もううんざりしてますから国民は。なんだこれはと。「これ中国の広報誌かお前たちは」という感じになってますからね。
櫻井よしこ:これごめんなさい、これ朝日とですね、えっとこれが東京新聞ですよね。これが産経新聞なんですが、(写真で)向こうのアジア局長がポケットに手を入れて傲慢な感じで見ている。これ全部産経新聞は伝えてるんですが、朝日とか東京新聞はこの顔だけ切り取って、報じてないんです、毎日新聞も含めて。だからこういう操作をして、中国の感じ悪いところを隠してしまうという、こういったのももう通用しなくなった。
石平:昔はね、インターネットがなかった時代、みんな新聞で見るしかないからね。インターネット(では)、その新聞(が)出る前からもこの写真をもうずいぶん日本中にも流してますからね。
4.振り上げた拳を下ろす策がない
では、中国側の国内パフォーマンスはひとまず置いて、実際の局長級会談では何が話し合われたのか。
これについては、自民党の青山繫晴参院議員が自身の動画で解説しています。
件の動画の概要は次の通りです。
〇中国の状況認識これを見る限り、金井局長は現実的かつ実利的な協議を行ったように見えますし、アメリカと連係が取れるよう水面下で働きかけていた点も評価できます。ただ気になることがあるとすれば、中国が振り上げた拳を下ろす場所を、日本側が作ってあげる、と述べた点です。
・外務省の金井アジア太陽州局長が自民党外交部会で、中国が強硬な措置を取っている一方で、「振り上げた拳を下ろす策がない状態」であるという異例の論評を提示した。
・一連の対応は「習近平国家主席まで上がって降りてきた対応」であるものの、行政当局レベルでは解決策がなく困っている状態
〇局長級協議の実態と日本の抗議
・中国訪問は「呼びつけられた」ものではなく、長年の「定例協議」の一環。
・協議は4時間行われ、通常の協議(3時間)の中で、レアアース規制や尖閣諸島侵入について強く抗議した。
・1対1の会談(1時間)で、日本側から、中国による「日本の治安悪化」を理由とした渡航自粛の呼びかけを「事実に反し、極めて遺憾」と抗議し、「市民に不安を与えるのは愚の骨頂です」という強い言葉を使用した。
〇水面下の外交努力と米国の連携
・外務省は「各国との連携が大切」として水面下で活動しており、その成果として、米国グラス大使が旧Twitter(X)で尖閣諸島を含む「米国は日本と一緒に守る」と投稿したことを挙げた。
・この投稿は、外務省が働きかけた結果であり、トランプ政権の姿勢を明確に示している点で外交的成果が大きいと強調。
〇安全保障体制の明確化
・「存立危機事態」の整理を求める質問に対し、金井局長は「日本自身の安全が脅かされる事態には武力行使もあり得る」と答弁。
・これは、外交トップクラスが、集団的自衛権の行使が可能な「存立危機事態」について明確な見解を示し、抑止力を高める上で非常に意味がある。
〇中国措置の客観的評価と邦人拘束の懸念
・中国は「渡航禁止」や「留学禁止」といった決定的な措置は取っておらず、発言は「脅し」の要素が強いことから、メディアの「煽りすぎ」に警鐘を鳴らし、客観的かつ冷静に事態を見るべき
・アシスタント(三浦秘書)は邦人拘束を最大の懸念事項として挙げ、現地在住者への注意喚起の必要性を訴えた。
〇今後の日本外交への注意点
・中国が拳を下ろせずにいるため、外務省が「拳を下ろす場所を作ってあげる」という方向に動く可能性がある。
・この中国への歩み寄りは、「日本が屈したように見えないように」細心の注意を払う必要があり、国民の反発を招かないよう警戒すべきであると締めくくった
確かに、いつかは事を収めないといけないので、あるいは日本が譲歩しなければならない場面も出てくるのかもしれませんけれども、安易は妥協は全てをぶち壊しかねません。先述の北村晴男参院議員や石平参院議員が指摘したように、日本のメディアが騒ぐと、世論もその通り動いていたことを利用して中国が好き勝手にやっていたという過去の成功体験、経験則がもはや通じないと徹底的に思い知るまで、妥協せず、今の状態を続けた方がよいのではないかという気さえしてきます。
少なくとも妥協は今ではない。慎重に様子を見ていきたいと思いますね。
この記事へのコメント
naga
ルシファード