戦艦という名の曖昧戦略

今日はこの話題です。
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1.中国艦船が東アジア海域に多数展開


12月4日、ロイター通信は中国海軍と中国海警局の多数の艦船が東アジアの海域に展開していると報じました。中国が高市総理の台湾有事に関する発言に強く反発して以降、一帯で中国側の大規模な活動が明らかになるのは初めてと伝えています。

報道によると、黄海南部から東シナ海を経て南シナ海に至る海域や太平洋で、一時100隻以上が集結。4日午前時点でも90隻を超えているとのことです。

中国は昨年12月にも、台湾周辺などに艦船90隻以上を展開させていますけれども、今回の活動も、日本や台湾への威圧を狙った可能性があるとも見られています。

これについて他の報道なども加えて纏めると次の通りです。
〇派遣の規模と状況
・派遣主体と規模: 中国海軍と中国海警局の艦艇が、100隻以上(一時的に)東アジアの海域に派遣されている。
・活動時期: 11月中旬以降に活動が増加。
・最新状況: 木曜朝の時点で、同海域で活動している中国船は90隻以上。
・活動海域: 黄海南部から東シナ海、南シナ海、さらに太平洋に至る広範な海域に集結。
・示威行動の最大規模: 情報筋によると、これはこれまでで最大の海上武力誇示であり、昨年12月の大規模展開を上回る規模。

〇派遣の背景と目的
・日本の政治的要因: 高市早苗首相による「台湾が攻撃された場合の日本の軍事的対応を示唆する発言」をめぐる日本との外交対立が引き金。中国は11月14日に駐日大使を召喚。
・台湾の防衛強化: 台湾の頼清徳総統が防衛費に400億ドルの追加支出を発表したことへの中国の憤慨も要因。
・軍事訓練:
 +一部の艦艇は、戦闘機と連携し、外国艦艇への模擬攻撃を実施。
 +紛争発生時に外部勢力の増援派遣を阻止するための接近阻止・領域拒否(A2/AD)作戦の訓練も実施。
・情報筋の懸念: 「中国の国防上の必要性をはるかに超えており、あらゆる方面にリスクをもたらす」とし、北京は地域で「前例のない」展開を試行していると指摘。

〇各国の反応
・中国(林建報道官):
 +艦艇派遣の報道について直接確認を避けた。
 +中国は「防衛重視」の政策を追求し、活動は「国内法と国際法に厳密に従って」いると強調。
 +状況に対して「過剰反応したり、過剰解釈したり、大騒ぎしたりする必要はない」と述べた。
・日本(木原稔官房長官・自衛隊):
 +報道への直接コメントは控えたが、「中国の軍事的動向について、重大な関心を持って情報収集・分析している」と述べた。
 +自衛隊は11月14日以降の活動の「急激な」増加は評価していないが、中国軍が遠方での作戦能力を高めようとしていると認識している。
・台湾(カレン・クオ報道官):
 +総統府は、国防省と治安機関に十分な注意を払うよう指示。
 +「大国として責任ある行動を取り、自制する」よう中国に要求。
 +台湾の安全保障は危険にさらされておらず、当局は状況管理能力に自信を持っていると表明。

〇過去の事例
昨年12月にも、中国は海軍と海警局の艦船約90隻を台湾、日本南部の島々、東シナ海、南シナ海近海に派遣している。
去年に続いてのことですけれども、接近阻止・領域拒否(A2/AD)作戦の訓練も実施したということですけれども、これは明らかに台湾封鎖を想定したものであり、日本の存立危機事態にも直結する行為だといえるかと思います。




2.中国軍機が自衛隊機にレーダー照射


また中国は日本に対しても軍事圧力を強めています。12月2日、中国海警は東シナ海周辺海域で、日本の漁船に退去を要求したと発表しました。

これについて中国の新華網は次のように報じています。
中国海警局の劉徳軍報道官は、12月2日、日本の漁船「瑞鳳丸」が釣魚島周辺の中国領海に不法に侵入したと述べた。中国海警局の船舶は必要な取締措置を講じ、警告を発して同船を追い払った。釣魚島とその付属島嶼は中国固有の領土である。日本側に対し、これらの海域におけるあらゆる侵害行為と挑発行為を直ちに停止するよう強く求める。中国海警局は引き続き釣魚島周辺海域における権利擁護と法執行活動を展開し、国の領土主権と海洋権益を断固として守っていく。
また、中国外交部のリン・ジエン報道官は1日「尖閣諸島の主権が中国に帰属することは歴史的、法的根拠がある」とし「日本の外交文書や地図、歴史学者の論文で確認できる」としています。

もっとも、2日に尖閣諸島近くの日本領海に侵入した中国海警船2隻については、海上保安庁の巡視船が強く退去を要求し、領海内から排除したようです。

けれども、中国の挑発はそれだけではありません。

12月5日午後2時頃、防衛省は中国海軍空母「遼寧」が、沖縄県・久場島の北約420kmの海域において航行していることを確認し、翌6日午前7時頃には空母「遼寧」とミサイル駆逐艦3隻が、沖縄本島と宮古島との間の海域を通過し、太平洋へ向けて航行したことを確認。その後、沖縄・沖大東島の西約270kmの海域で、空母「遼寧」から艦載戦闘機と艦載ヘリが発着艦したことを確認しています。



このときは中国海軍艦艇の日本領海への侵入はなく、危険行為も確認されていなかったのですけれども、夕方になって「遼寧」の艦載機J15が空自のF15に対してレーダー照射を断続的に行う事案が発生しています。

これについて、小泉防衛相は緊急で会見を開き、次のように発言しています。
中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射事案について御報告をいたします。

レーダー照射は2回ありました。

第1に、12月6日、土曜日、16時32分頃から16時35分頃までの間に、沖縄本島南東の公海上空で、中国海軍の空母「遼寧」から発艦したJ-15戦闘機が、当該機体に対する対領空侵犯措置を実施していた航空自衛隊のF-15戦闘機に対して、レーダー照射を断続的に行う事案が発生しました。

第2に、同日18時37分頃から19時08分頃までの間に、沖縄本島南東の公海上空で、中国海軍の空母「遼寧」から発艦したJ-15戦闘機が、当該機体に対する対領空侵犯措置を実施していた、第1の事案とは別の航空自衛隊のF-15戦闘機に対して、レーダー照射を断続的に行う事案が発生しました。

今回のレーダー照射は、航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為であります。このような事案が発生したことは極めて遺憾であり、中国側には強く抗議し、再発防止を厳重に申し入れました。なお、自衛隊機及び隊員に被害はありません。詳細につきましては、このあと事務方からブリーフィングをさせますのでよろしくお願いしたいと思います。
2018年12月に韓国軍の艦艇から、自衛隊機に射撃管制用のレーダーが照射された事件がありましたけれども、今回のも、それと同種の事案とみるべきではないかと思います。

ただ、中国のレーダー照射は、威力偵察的というか、どこまで踏み込めば、軍事行動に出るのか探りを入れている面と、日本に先に手を出させることで、軍国主義だなんだと騒いで、世界各国を味方につけようようとする狙いみたいなものは感じます。




3.台湾有事を先に出したのは岡田克也


事の発端となったとされている高市総理の存立危機事態発言は、11月7日の衆院予算委員会でありました。

件の発言は、立憲民主の岡田克也氏の質疑の中で出たのですけれども、該当部分を引用すると次のとおりです。
岡田克也:
次に、平成27年9月14日の公明党の山口代表と安倍総理、法制局長官とのやり取りですが、当時の法制局長官は、存立危機事態に該当する場合、「武力攻撃事態等に該当しないということはまずないのではないか」と述べ、海外での武力の行使を求めることになるものではないとして、存立危機事態と武力攻撃事態がほぼ重なることを示しました。法制局長官、現代でもこの答弁を維持されていますか?

内閣法制局長官 岩尾信:
当時の答弁で述べられました見解に変わりはございません。新三要件のもとで認められる武力の行使は、我が国防衛のための必要最小限度にとどまり、いわゆる海外での武力の行使を認めることになるといったものではございません。

岡田克也:
総理も同じですね?

内閣総理大臣 高市早苗:
法制局長官が述べられた通り、当時の長官が述べられた見解について変わりはございません。

岡田克也:
その答弁があるにもかかわらず、一部の政治家の不用意な発言が相次いでいることに懸念を表明します。例えば、高市総理は1年前の総裁選挙で、中国による台湾の海上封鎖が発生した場合、「存立危機事態になるかもしれない」と発言されました。どういう場合に存立危機事態になるとお考えだったんですか?

内閣総理大臣 高市早苗:
いかなる事態が存立危機事態に該当するかは、実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、全ての情報を総合して判断しなければならないと考えております。

岡田克也:
例えば、バシー海峡が封鎖された場合、迂回すれば済み、日本へのエネルギーや食料が絶たれることには基本的になりません。そのような状況でどう存立危機事態になるのかを具体的にお聞きしたい。

内閣総理大臣 高市早苗:
台湾有事に関する議論であったと思いますが、海上封鎖が戦艦で行われ、武力行使も伴うものであれば、例えば、海上封鎖を解くために米軍が来援し、それを防ぐための他の武力行使が行われるといった事態も想定され、存立危機事態になりうるケースであると考えます。民間船を並べるといったことは存立危機事態には当たらないと考えます。

岡田克也:
今の答弁では、存立危機事態について限定的に考えることにはならず、政府に幅広い裁量の余地を与えてしまう。麻生副総裁や安倍元総理の発言も含め、有事の可能性を軽々しく言い過ぎていませんか。存立危機事態となれば、日本も武力行使をし、反撃を受け、国民に極めて厳しい状況がもたらされることになります。政治家はそういう事態を極力避けるのが最大の役割ではないですか。

内閣総理大臣 高市早苗:
あらゆる事態、最悪の事態も想定しておくことは非常に重要です。台湾を巡る問題は深刻な状況に至っています。武力行使を伴う海上封鎖などは、存立危機事態になりうるケースであると考えます。ただし、実際に武力行使を行うと認定する際は、個別具体的な状況に応じ、政府が全ての情報を総合して判断します。

岡田克也:
その判断基準は歯止めとしての意味がないほど不明確ではないですか。また、近隣有事の際に日本政府が最も優先すべきは、在留邦人を無事に安全なところに移動させることです。自ら武力行使をすれば、そういう邦人救出活動がより困難になってしまう可能性が高いので、軽々に武力行使を言うべきではない。

内閣総理大臣 高市早苗:
邦人救出は我が国にとって最大の優先事項です。しかし、最悪の事態も想定しておかなければなりません。存立危機事態の認定に際しては、攻撃国の意思・能力、事態の規模・態様、戦火が及ぶ蓋然性、犠牲の深刻性・重大性などの要素を総合的に考慮し、判断します。
これをみても分かるとおり台湾有事という言葉を先に出したのは、岡田氏であって高市総理ではありません。それもしつこく聞いて言わせた感が拭えません。




4.戦艦という名の曖昧戦略


この答弁で高市総理は、存立危機事態について「海上封鎖が戦艦で行われ、武力行使も伴うもの」である場合は、該当する場合があり得ると答弁しましたけれども、このときの「戦艦」という単語が一部で物議を醸しました。なぜなら、今の軍艦で「戦艦」という艦種はないからです。

この「戦艦」発言に、立憲民主の辻元清美議員が噛みつきました。

12月20日、辻元氏は高市内閣について、これに関しての質問主意書を出しています。

件の質問主意書の該当部分を引用すると次の通りです。
二 高市内閣総理大臣答弁の「戦艦」

 1 増田甲子七防衛庁長官(当時)は、一九六八年十月二十二日の衆議院内閣委員会において、「戦艦というものは全世界にもうございません。一隻くらいありましても、これは何かひな形みたいなものでございまして、軍事博物館に陳列されるべきものであって、結局巡洋艦以下のものでございまして、大艦巨砲が日本の防衛に役立ってはいないのである。」と答弁した。また、「この最後の「戦艦」四隻を保有していたのは米海軍で(アイオワ級)、それも湾岸戦争後に相次いで退役させてしまったから、一九九八年前半現在で、世界に現役の戦艦は一隻もない」(江畑謙介「兵器の常識・非常識(上巻)―陸軍・海軍兵器篇―」(一九九八年、並木書房)百三十二頁)とされている。

 現在、世界に「戦艦」という艦種の軍艦は存在するか。存在するのであれば、世界に何隻存在し、保有している国又は地域はどこか。いずれも、軍事博物館等における展示用のものについては、答弁は不要である。

 2 中華人民共和国及びアメリカ合衆国は、高市内閣総理大臣答弁の「戦艦」を保有しているか。軍事博物館等における展示用のものについては、答弁は不要である。

 3 高市内閣総理大臣は、二〇二五年十一月七日の衆議院予算委員会において、岡田克也委員の質疑に対し、「台湾に対して武力攻撃が発生する。海上封鎖というのも、戦艦で行い、そしてまた他の手段も合わせて対応した場合には武力行使が生じ得る話でございます。」と答弁した。

 この答弁及び高市内閣総理大臣答弁にいう「戦艦」は、中華人民共和国の「戦艦」か。そうでなければ、どこの国又は地域の「戦艦」か。

 4 高市内閣総理大臣は、現在、軍事博物館等における展示用のものを除き、世界に「戦艦」という艦種の軍艦が存在するかどうかを知っていたか。

 5 高市内閣総理大臣答弁における「戦艦」は、言い間違いか。言い間違いであれば、答弁の修正をしないのか。
これに対する答弁は次の通りです。
二の1及び4について
お尋ねの「「戦艦」という艦種の軍艦」については、一義的に確立された定義があるとは承知しておらず、文脈によってその意味するところが異なり得るため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である。

なお、「戦艦」の意味は、例えば、広辞苑(第7版)によれば、「①戦争に用いる船。軍艦。戦闘艦。②軍艦の一種。最も卓越した攻撃力と防御力とを有する大型艦で、第二次大戦までは水上兵力の中心。」とされているものと承知している。

二の2及び3について
お尋ねについては、事柄の性質上、お答えすることは差し控えたい。
答弁書は、戦艦について「(1)戦争に用いる船。軍艦。戦闘艦。(2)軍艦の一種」との広辞苑の説明を紹介し、「文脈によって意味が異なり得るため、『言い間違い』との指摘は当たらない」と回答しています。

ただ、この政府答弁について、軍事系界隈は、納得していないようで、軍事ブロガーのJSF氏は、12月4日「高市首相の「戦艦」発言が間違っている理由、戦艦を戦闘艦全般の意味で使わなくなって100年以上が経過」という記事で、航空母艦を指してこれは戦艦だと説明したら、怪訝な目で見られてしまう、だからこれは無理のある説明のように思える。と評しています。

けれども、筆者は、政府答弁は間違いではなく、この「戦艦」という言葉をわざと使ったと考えています。というのも、この「戦艦」という言葉を使うことそのものが「曖昧戦略」になっている側面があるからです。

昨日の「レッドラインを引いた高市総理」のエントリーで、嘉悦大の高橋教授の発言を紹介し、例の発言は「更問い」含めて計算づくだと述べましたけれども、「戦艦」という単語を使うことも計算づくだったとしたら、その狙いは、どの軍艦が来ても、日本側が戦艦だと認定するかどうかで、存立危機事態の線引きを自由に調整できるようにするため、ではないかと思います。

つまり、今は存在しない艦種である戦艦とわざと明示することで、例えば、中国軍が巡洋艦か駆逐艦で海上封鎖を行ったとき、日本政府がこれは「戦艦」だといえば、存立危機事態にできるし、逆に「戦艦」ではない、と認識すれば、存立危機事態にしなくてもよい。どちらでも好きなようにできる訳です。

その意味では、高市総理の今回の発言は、台湾防衛の強固な意志をしめしつつも、存立危機事態だと認識するかどうかを「曖昧」にする、実に練りに練り抜かれた答弁ではないかと思います。

まだこの辺の指摘はあまり見かけないですけれども、中国側も感づいているのではないかと思います。昨日のエントリーで、高市総理はレッドラインを引いたと述べましたけれども、そのレッドラインは可変だったとなると、実にしたたかな外交を展開しているのではないかと思いますね。




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