
1.台湾保証実施法
12月2日、アメリカのトランプ大統領は、台湾保証実行法に署名し、成立させました。
「台湾保証実施法」とは、2020年に成立した台湾保証法から名称変更した法律です。
台湾保証法では、国務省に対し、台湾との交流に関するガイドラインを1度だけ審査し、議会に報告を提出するよう求めていたのに対し、今回成立した「台湾保証実施法」は、国務省に対して、米国と台湾の公的接触に関する規定を定期的に見直すことや、少なくとも5年に1回のペースで審査を行い、審査後90日以内に議会に報告を提出することなどを求めるという違いがあります。
これにより、 台湾当局者の米国政府機関への公式訪問など、現在残る交流制限の段階的撤廃の進展が期待されています。
12月3日、台湾総督府の郭雅慧報道官は、「台湾保証実施法」の成立について、「総統府はこれを歓迎し、感謝する……『台湾保証実施法』の成立・発効は米国と台湾の交流の価値を認め、より緊密な台米関係を支持するものであり、民主主義・自由・人権といった価値観を共有する台米関係を象徴するものとして特別な意義を持つ」と述べ、台湾と米国は自由や民主主義という基本的価値を共有しており、安定した台米関係はインド太平洋地域の平和と安定を維持するうえで重要な基礎となるものだと指摘しました。
そして、今後も台湾は米国が緊密な意思疎通を図り、各分野のパートナーシップを深化させ、世界の繁栄と発展のため、安定した力を提供していきたいとし、国際社会の責任ある一員として、米国および地域内の近い理念を持つ国々と連携することで、インド太平洋地域の平和・繁栄・安定的発展の確保に尽力していくと述べています。
更に、この日、台湾外交部も声明を発表し、この法案が米国連邦議会の限られた会期内に、しかも個別審議の方法で順調に進められたことは米国連邦議会及び行政府の台米関係深化に対する強い支持を示すものだと指摘。「心から歓迎するとともに、米国の支持に感謝する」とする外交部の林佳龍外相のコメントを伝えるとともに、「外交部は今後も良好な台米関係を基盤とし、相互信頼・互恵・互利の原則に基づき、米国連邦議会および行政府と緊密なコミュニケーションを保ち、各分野における双方のグローバルな協力関係を着実に推進していきい」と述べています。
2.近づく米台国交回復
この 「台湾保障実施法」成立で、アメリカと台湾の国交回復が近づいたという指摘があります。
12月6日、ネット番組文化人放送局「渡邉哲也Show」では次のように解説しています。
〇 台湾情勢と日米の強い意思表明番組で、渡邉哲也氏は、「トランプ大統領が公式に台湾の土を踏む時は、アメリカと台湾の国交回復以外ない」と指摘した上で、アメリカは「国交回復と同時に、台湾との間で経済安全保障条約、米台安全保障条約。これ同時締結する形になるだろう」と予測しています。
+ 「台湾保障実施法」成立の重大性
/ トランプ大統領が署名し、1979年以来の台湾高官との交流制限(自粛行為)を解除可能とした。
/ トランプ大統領の台湾公式訪問の道を開き、国交回復および米台安全保障条約の同時締結に繋がる可能性が高い。
+ 日米の安全保障連携の強化
/ トランプ大統領と高市氏の会談後、横須賀での空母「ジョージ・ワシントン」を舞台にした日米最高司令官による連携の誇示があった。
/ 台湾保障実施法の成立と合わせ、日米がアジアの安全保障で連携することを世界に宣言し、中国に大きなダメージを与えている。
〇 中国の国際的地位の低下と内政の矛盾
+ 「一つの中国」原則の二面性が露呈
/ 中国の主張(台湾は自国のもの)と、西側諸国の主張(中国側の主張を尊重するが認めていない)のニュアンスの違いが世界に再認識された。
+ 歴史的論拠の検証による自滅
/ 中国が持ち出したサンフランシスコ平和条約やアルバニア決議が、かえって中国側の主張の矛盾を国際的に露呈させる結果となった。
+ 外交的・経済的な孤立の進行
/ 習近平指導部が航行の自由作戦参加国(米仏日豪)などを次々に敵に回し、インド、カナダ、オーストラリア、ドイツなどとの関係も悪化している。
/ アフリカでのレアアース資源開発契約など、中国に頼らないサプライチェーン構築(デカップリング)が前倒しで進展している。
〇 高市氏を巡る国内政治の変化
+ 高市氏の支持率上昇とメディア・野党の動揺
/ 中国の批判に対し一歩も引かない高市氏の姿勢が、国民の支持率上昇に繋がり、世論のコントロールを失ったメディアや野党にとって大きな脅威となっている。
+ トランプ大統領との真のコミュニケーション
/ 「エスカレートを控えるよう」という報道と異なり、トランプ大統領は実際には高市氏に対し「もっと電話してこい」「困ったことがあれば相談に乗る」と、協力を促すメッセージを送っていた。
そして、中国はこれを一番恐れていたはずなのに、これを国内に知らせたくなかったのか、隠すためなのか、代わりに日本の存立危機事態のことを騒いでいるのではないかとも指摘されています。
3.対中恐怖と対米不信
「台湾保障実施法」成立について、台湾政府も歓迎していることを冒頭取り上げましたけれども、台湾の人達は必ずしも歓迎している訳ではないという指摘もあります。
12月5日、ダイヤモンドオンライン誌は、「台湾で高まる「トランプ不信」、日本も見捨てられる「最悪のシナリオ」とは?」という、びわこ成蹊スポーツ大学教授の清水克彦氏の寄稿記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
〇 台湾における「対米不信」(疑米論)の高まりとトランプ大統領の姿勢台湾市民の約6割が「中国侵攻時にアメリカは台湾を守ってくれない」と考え、台湾が「対中恐怖」と「対米不信」の真っただ中にあるという指摘は注目すべきかと思います。
+ トランプ氏は台湾保証実行法案に署名する一方で、その本音は見えず、台湾は全幅の信頼を置けていない
+ 台湾では、中国の侵攻に備えた軍事訓練の頻度増加や、防衛費への大規模な投資計画(400億米ドル)が議論されている
+ 台湾市民の約6割が「中国侵攻時にアメリカは台湾を守ってくれない」と考えている
/ トランプ氏が関税だけでなく、台湾の先端半導体産業まで奪う懸念がある
/ アメリカがTSMCに国内工場設立を求めることで、「半導体産業が確立されれば台湾は見捨てられる」との不信感が広がる
+ 台湾は「対中恐怖」と「対米不信」の真っただ中であり、「台湾は台湾人で守る」意識に傾いている
〇 トランプ氏が台湾より中国とのディールを重視する狙いと「最悪のシナリオ」
+ トランプ氏は習近平総書記の機嫌を損ねないよう努め、米中首脳電話会談後には「米中関係は極めて強固だ」とSNSに投稿
/ 過去の関税戦争での報復経験から、習近平氏とは争わない姿勢にシフトしたと考えられる
+ トランプ氏は過去に台湾支援策を実行しつつも、最近では高官立ち寄りを思いとどまらせたり、軍事支援を拒否したりと、バイデン前政権とは一線を画す行動をとっている
+ トランプ氏の考えは「台湾より中国とディールしたほうが得」であり、「台湾が攻撃を受けても米軍は出動しない」と想定すべき
/ この場合、「存立危機事態」は起こり得ず、台湾は日米の援護がないまま中国に併合される可能性がある
+ ただし、中国が尖閣諸島や南西諸島に武力攻撃を仕掛けてきた場合は「武力攻撃事態」となり、アメリカが日本を守るかが焦点になる
〇 日米安保条約の欠陥と「アメリカは日本を守ってくれない」の現実味
+ 安倍元首相は「尖閣諸島のような岩のような島をアメリカは本気で守ってくれるか」と、安保条約の脆弱性に言及していた
+ 日米安保条約第5条には「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」とあり、アメリカ軍の開戦は連邦議会の承認が必要
+ 日本防衛のために米軍を派遣して中国軍と戦うことへのアメリカ国内のコンセンサスは得にくい
/ 「日本の領土を防衛するのは日本人自身」という考えや、「議会の承認が得られない」ことを口実に米軍が出動しない可能性がある
+ NATO条約が締約国への攻撃に対して「防衛義務」を発動するのに対し、日台の「いざとなればアメリカが助けてくれる」は願望にすぎない
+ 安倍元首相は安保条約の欠陥に最も気づいていた政治家であった
〇 ウクライナ和平協議に象徴されるトランプ氏の巧妙さと日本の危機
+ トランプ氏は日本に対し「我々は日本を守らなければならないが、日本は我々を守らない」と不満を表明
+ トランプ氏は自国の利害を最優先し、台湾・日本への軍事支援を明言しない曖昧政策を堅持している
+ トランプ氏の姿勢は「中国はアメリカ経済にとって最重要、台湾問題は邪魔」という考えを反映しており、日本にとって「存立危機事態」に相当する問題
+ ウクライナのレアアースなどの権益を確保した後、ロシア寄りの和平案を提示したトランプ氏の巧妙さ
/ この流れを当てはめると、台湾や日本は「第2のウクライナ」と化し、泣き寝入りを余儀なくされかねない
〇 2027年想定の「台湾有事」に向け、日本が進むべき5つの道
+ Xイヤーは中国軍創設100年と習近平氏の4選がかかる党大会がある2027年が想定される
+ 日本が進むべき道(筆者まとめ) / 高市首相とトランプ氏の個人的関係をさらに強固にし、米中が接近しないようにする
/ イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、インド、豪州との連携を密にし、「アジア版NATO」に近い枠組みを構築して中国が動けない形を作る
/ 高市首相は中国を刺激せず、台湾に関しては曖昧政策を貫きつつ、必要な防衛費を計上してサイバー、宇宙などの新領域の戦争に備える
/ シミュレーションを繰り返し、南西諸島の住民避難や台湾からの被災民流入に備え、防空シェルターの建設を急ぐ
/ 国民民主党との連立も視野に入れ、勝てるタイミングで衆議院解散・総選挙に踏み切り、安定した政権基盤を作る
4.日本企業の脱中国依存
「台湾保障実施法」が成立したことで、アメリカと台湾の国交回復が近づくということは、その分、米中対立がより激しくなるということも意味します。
この米中対立こそが、日中関係悪化の構造的枠組みになっているのではないかという認識が、日本国内でも広がり始めたという指摘もされています。
12月8日、FNNプライムオンラインは「日本企業が“脱中国依存”へ…中国は「世界最大市場」から「地政学的リスクと技術流出懸念」の市場に」という記事を掲載しています。
件の記事の概要は次のとおりです。
〇 日中関係の冷え込みと日本企業のビジネス懸念記事では、かつて世界最大市場・安価な生産拠点であった中国は、今や「地政学的リスク」と「技術流出の懸念」を伴う市場として認識されつつあると述べられています。筆者としては、何を今更と思わなくもありませんけれども、今からでも、「脱中国依存」を進め、リスクの最小化に努めるべきだと思いますね。
+ 高市首相の「台湾有事は日本の存立危機事態となり得る」発言が発端。
+ 日本の安全保障における台湾海峡の重要性が公的に位置づけられ、中国側の不満を招いた。
+ 外交的な冷え込みは、日本企業の間でビジネスへの懸念として瞬時に拡大した。
〇 これまでの日中ビジネスリスクの構造
+ 2012年の大規模反日デモなど、政治的摩擦が生じるたびに企業はリスクを再認識し、サプライチェーンの多元化や生産拠点の分散といった対策を講じてきた。
+ これまでの危機は「日中間の政治的・歴史的・領土的な摩擦」が直接原因となり、経済が冷え込む構造。
+ 企業は「政冷経熱」の回帰を期待し、一時的な嵐が過ぎるのを待つスタンスだった。
〇 日本企業の対中意識に生じた変化
+ 従来の「日中摩擦」に加え、「米中対立という構造的な枠組み」が日中関係悪化の本質的な要因であるという、より深く悲観的な認識が広がり始めた。
+ 「負のスパイラル」の恒常化
/ 日本が米国との軍事・防衛、経済安全保障上の連携(重要技術の共同開発、デリスキング)を強化・進化させることが、中国の対日不満を助長するトリガーとなり得る。
/ 日本が安全保障や経済的利益を追求し、米国との強固な関係を維持するほど、中国はそれを「対中包囲網への加担」と見なし、対日感情が悪化し、企業への圧力が強まる。
〇 「脱中国依存」の加速と具体的行動
+ 中国ビジネスを「一時的な懸念」ではなく、「不可避で恒常的な構造リスク」として捉える必要が生じた。
+ 製造業やハイテク産業を中心に、「脱中国依存」をこれまで以上に加速しなければならないという意識が広がる。
+ 具体的な戦略的転換
/ 生産拠点のASEAN諸国やインドへの移転加速。
/ 研究開発機能の国内回帰や欧米との連携強化。
/ 中国市場専用製品の比率の見直し。
〇 中国市場の位置づけの変化
+ かつての世界最大市場・安価な生産拠点であった中国は、今や「地政学的リスク」と「技術流出の懸念」を伴う市場として認識されつつある。
+ 経済安全保障推進法の施行など、政府主導のサプライチェーン強靭化の動きが「脱中国依存」を後押し。
+ 中国市場は「世界戦略の全て」ではなく、「高いリスクを伴う、数ある市場の一つ」へと位置づけが低下。
〇 結論
+ 日中関係の冷え込みは、米中対立という巨大な構造変動の波紋であり、この構造的リスクの認識により、日本企業は真のグローバルなレジリエンス(強靭性)獲得のための戦略的転換を迫られている。
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