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1.中国による政治的・経済的・軍事的圧力に対抗し、日米同盟への揺るぎない支持を表明する決議案
12月17日、アメリカ上院の超党派議員団は、「中国による政治的・経済的・軍事的圧力に対抗し、日米同盟への揺るぎない支持を表明する決議案」を提出しました。
決議案:中華人民共和国による政治的、経済的、軍事的圧力に対抗し、日米同盟への揺るぎない支持を表明する決議この決議案は、上院外交委員会の東アジア・太平洋・国際サイバーセキュリティ政策小委員会の共和党委員長ピート・リケッツ上院議員と、同小委員会の筆頭委員である民主党のクリストファー・クーンズ上院議員が主導し、決議案の共同提案者は、元駐日大使で共和党のビル・ハガティ上院議員(テネシー州)と、民主党のジーン・シャヒーン上院議員(ニューハンプシャー州)です。
(前文)
日本は自由で開かれたインド太平洋の維持における米国の重要な同盟国である。1960年1月19日にワシントンで署名された「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」第5条は、日本の施政下にある領域全体に適用される。これには尖閣諸島も含まれており、米国は同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する。
2025年11月、日本の高市早苗首相は、台湾への攻撃が日本にとって存亡の危機となり得ると述べ、日本の平和と安全を維持するために集団的自衛権を行使する可能性を示唆した。これに対し、中華人民共和国(PRC)政府は日本政府を非難し、中国国民に日本への旅行を控えるよう促すなど、日本に対して外交的、経済的、軍事的な強迫行為を行っている。
(決議)
合衆国上院は以下の通り決議する。 (1) 日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全、繁栄の礎であることを再確認する。 (2) 日本政府および日本国民に対し、中華人民共和国政府からの強制や侵略に直面する中での、揺るぎない支持を表明する。 (3) 中国による日本への経済的、外交的、軍事的な強迫行為を非難する。 (4) 日米安全保障条約第5条の下での日本の防衛に対する米国の確固たる約束を再確認する。 (5) 尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用範囲内であることを改めて表明する。 (6) 地域および世界の課題に対処するために、日本との協力をさらに深化させることを約束する。
決議案では、高市総理の台湾有事に関する国会答弁への中国の強硬な反応(渡航自粛呼びかけ、レーダー照射など)を非難し、日本の対応を支持しつつ、日米安全保障条約第5条の尖閣諸島への適用(防衛義務)を確認し、日本の防衛力強化を支持する内容で、自由で開かれたインド太平洋維持における日本の重要性を強調しています。 いわば高市政権に対する強力な援護射撃だとも言えます。
2.フェンスにまたがるトランプ
一方、トランプ大統領やホワイトハウスは、日本と中国の間で高まる緊張について自身の立場を公表していません。
12月11日、ホワイトハウス記者会見でこれに関する質問が飛んだのですけれども、キャロライン・リービット報道官は回答を避けています。
件の会見での該当部分を引用すると次の通りです。
リービット報道官: 後ろの方、どうぞ。お二人を指したわけではありませんでしたが、お二人の質問を両方受けて、その後に貴方にいきます。このように中国に配慮した発言に終始していますけれども、いくつかのマスコミはその狙いについて分析しています。
記者: 2つ質問があります。1つは韓国について、もう1つは日本についてです。 最初の質問ですが、最近の米韓貿易ファクトシートには農産物についての言及がありませんでした。米国は、韓国に対して米と牛肉の市場を完全に開放することを望んでいるのでしょうか? 2つ目の質問ですが、日本についてです。中国は軍事力を行使して日本の沖縄を包囲しています。米国は日中間の軍事的紛争を懸念していますか?また、米国はどのような行動をとるつもりでしょうか?
リービット報道官: わかりました。まず最初の質問である韓国の牛肉、あるいは韓国への牛肉輸出についてですが、これについては通商チームに確認し、回答を差し上げます。
さて、日本と中国に関する2番目の質問についてです。 大統領は、ご存知の通り、日本の新しい首相と驚異的な関係を築いています。数ヶ月前に我々がアジアを訪れた際、大統領は彼女(高市氏)に会えたことを喜んでいました。それ以来、彼らは数回にわたって対話を重ねています。彼らは互いに関与を続けており、大統領と首相の個人的な関係、そして我が国と日本との継続的な貿易関係が証明している通り、日本は米国の偉大な同盟国です。
中国に関しては、大統領は習主席とも良好な協力関係(working relationship)を築いており、それは我が国にとって良いことであると大統領は考えています。 そして大統領は、日本との非常に強固な同盟関係を維持しつつ、同時に中国とも良好な協力関係を築ける立場に米国があるべきだと考えています。
12月12日、韓国のハンギョレ新聞は「アメリカは中国と日本の緊張が高まる中、二股をかける」という記事を掲載します。
件の記事の概要は次の通りです。
〇ホワイトハウスによる日中関係への姿勢ハンギョレは、アメリカが同盟国である日本を支持しつつも、決定的な対決を避ける「straddle the fence(二股をかける)」状態にあると評しています。これは、アジアの紛争に巻き込まれたくないというトランプ大統領jの「アメリカ・ファースト」的な本音の表れと見ているようです。
+日本との強固な同盟関係の維持
/高市総理との「驚異的な個人的関係」の構築
/数ヶ月前のアジア訪問以来、継続的な対話を実施
+中国との実務的関係の並立
/習近平主席との「良好な協力関係」が米国の利益になると判断
/日米同盟を維持しつつ中国とも協力できる立場を追求
〇外交・通商における実利主義的アプローチ
+ウクライナ問題への対応
/単なる対話ではなく、和平協定の署名という具体的な「行動」を重視
/価値のある会談であれば米国代表を派遣する用意がある
+安全保障と不法行為の阻止
/ベネズエラ船舶の拿捕は戦争ではなく密輸・麻薬対策が目的
/エヌビディアの最新チップ輸出には厳格な米国内検査を義務付け
+貿易交渉の継続
/韓国との米・牛肉市場開放については通商チームで精査中
また、同じく12日、ジャパンタイムズ紙は「トランプ大統領は日米同盟と中国関係を対立にもかかわらず均衡させられる、とホワイトハウスは言った」という記事を載せています。
件の記事の概要は次の通りです。
〇ホワイトハウスによる対アジア外交方針の提示こちらでは、国務省が「中国の軍事行動は無責任で地域の安定を損なう」と批判的な声明を出していたのに対し、ホワイトハウスは批判を避けていることは、外交実務を担う国務省と、トランプ氏の意向を直接反映するホワイトハウスの間に「戦略的な温度差」があることを示していると評しています。
+日米同盟の重要性と信頼関係の強調
/高市総理を「素晴らしい個人的関係」にあるパートナーと評価
/強固な日米貿易関係を同盟の基盤として再確認
+中国との実務的・戦略的バランスの追求
/習近平主席との「良好な実務的関係」の維持が米国益に直結
/日本との同盟維持と中国との関係構築の両立を目指す立場を表明
〇日中緊張激化への対応と政権内の温度差
+軍事的緊張に対する慎重な発言
/中国のレーダー照射事案に対し、ホワイトハウスは直接的な非難を回避
/「どちらかの側に立つ」ことを避け、仲裁・調整役としての余地を保持
+国務省とホワイトハウスの姿勢の乖離
/国務省は中国を批判したが、リービット報道官はトランプ氏の個人的関係を優先
/貿易交渉や「アメリカ・ファースト」に基づく実利主義的な外交計算が反映
3.戦後の国際秩序を守ることは中国・アメリカの共通責任
アメリカ上院が日本支持決議案を提出したことに対し、中国は早速反応しています。
12月19日の中国外交部定例会見で、決議案についての質問があり、郭嘉昆報道官は次のようにやりとりしています。
【日本テレビ記者】郭嘉昆報道官は「戦後の国際秩序を守ることは中国とアメリカの共通責任だ」と、アメリカを牽制しました。ただ注意したいのは、郭嘉昆報道官が「戦後の国際秩序を守る」として「カイロ宣言、ポツダム宣言」を持ち出して、おきながら、サンフランシスコ講和条約に触れていないことです。つまり、中国が主張する戦後国際秩序は「カイロ宣言やポツダム宣言」つまり、日本が国際社会に復帰する前の状態を国際秩序だとしているように見えます。
米国の一部議員が、日本への支持を表明し、中国による日本への経済的・軍実に圧力を非難する決議案を提出しました。外務省の見解をお聞かせください。
郭家坤:
第二次世界大戦の勝利の成果を堅持し、戦後の国際秩序を守ることは、中国と米国を含む国際社会の共通の責任である。正義と道徳は人民の心に宿る。高市首相の失言は、中国人民の激しい憤りを引き起こしただけでなく、日本、米国の戦略共同体、そして国際舞台からも、客観的かつ理性的な反発と批判を招いている。
日本がすべきことは、詭弁にふけり、国際的にロビー活動を行い、責任を回避し、同盟国を求めるのではなく、注意深く耳を傾け、深く反省することである。我々は改めて日本に対し、自らの誤りを真摯に反省し、改め、高市首相の誤った発言を誠実に撤回し、中日間の4つの政治文書における台湾問題に関する日本の政治的コミットメントを十分かつ正確に説明するとともに、国際法上完全な効力を有するカイロ宣言、ポツダム宣言、降伏文書に規定された敗戦国としての義務を誠実に履行するよう強く求める。
【北京日報記者】
最近、日本の政治団体、学術団体、NGO、市民団体などが、高市早苗首相の台湾に関する誤った発言や行動、そして日本政府による度重なる軍備拡張に関する危険なシグナルの発信を強く批判し、高市首相の誤った発言の撤回を求めていることを承知しています。報道官はこれについてどのようにコメントされますか。
郭家坤:
関連状況は認識している。11月7日の高市早苗首相による台湾に関する誤った発言、および日本による近年の一連の「再軍備」行動は、近隣諸国の警戒と反発を招いている。日本の政治家や国民の間でも、これに反対する声が高まっている。
ある国会議員は、「歴史的に見ても、政治家が外部の危機を煽り、国民の怒りを招き、真の『生死の危機』へとエスカレートさせた例は数え切れないほどある。その結果、国民は多大な犠牲を払ってきた」と述べている。先日、ある国会議員が国会で高市首相に質問し、「私たちは決して子供たちを戦場に送ってはならないし、決して戦争に巻き込んではならない」と訴えた。「村山談話を継承し発展させる会」の藤田隆景会長は、「高市首相の発言は、日本を再び武力行使という危険な道へと導いた」とし、「いかなる政治勢力も、日本を再び戦争の淵に突き落とすことを許してはならない」と述べた。一部の日本のメディア評論家は、高市首相の行動は、日本を軍国主義時代のファシズムの道へと再び導く可能性があると見ている。
80年前、日本国民は戦争の勝利という空約束を聞かされ、壊滅的な敗北の矢面に立たされた。歴史と現実は、軍国主義への回帰が誤った道であり、行き止まりであることを証明している。軍国主義とのつながりを完全に断ち切り、真に平和的発展の道を歩むことは、日本が国際社会、とりわけアジアの近隣諸国の信頼と理解を得るための重要な前提条件であり、日本国民の根本的利益に合致する正しい選択である。
4.中国による日本と台湾に対する新たな二正面戦略
先日、中国が、サンフランシスコ講和条約は無効だと宣言し、なら台湾は日本に帰属するんだな、と騒ぎになりましたけれども、ここ最近の中国の動きについて、12月4日、アメリカの「ディプロマット誌」が「日本と台湾に対する中国の新たな「二正面戦略」」という興味深い記事を掲載しています。
件の記事の概要は次の通りです。
〇 中国による日本と台湾に対する新たな「二正面戦略」先日、中国が国連の「敵国条項」を持ち出して日本を批判したことも、台湾問題を「国内問題」から「国際問題」に格上げしたことも、全て戦略のうちだというのですね。
+ 国際法廷闘争と歴史物語戦争の展開
+ 中国の台湾戦略と対日アプローチにおける大きな転換
〇 高市首相の発言と中国の激しい反応
+ 高市氏が台湾有事を日本の「存立危機事態」に該当する可能性に言及
/ 日本の軍事介入の可能性を示唆する前例のない発言
+ 中国による異例の速さと激しさでの抗議
/ 国連への正式書簡提出と日本を「侵略」と非難
/ 国連憲章の「敵国条項」を配布し軍事威嚇をエスカレート
〇 中国の国際法戦:国連憲章の「敵国条項」の復活
+ 国連憲章第51条(自衛権)と第107条(敵国条項)の利用
+ 敵国条項を復活させる3つの狙い
/ 日本の軍事的意思決定を心理的・政治的に制約し軍国主義復活のレッテルを貼る
/ 日本の国連安保理常任理事国入りに対する法的・政治的な先制拒否権
/ 台湾問題を「国内問題」から「戦後国際秩序の防衛問題」へと変容させる
〇 中国の歴史物語戦争:戦後継続の神話構築
+ 習近平氏による「台湾返還は戦後秩序の一部」という主張
+ 中国共産党による歴史の意図的な歪曲
/ 1945年当時に台湾を承認したのは中華民国であり、中華人民共和国は存在しなかった
/ 中華人民共和国が一度も台湾を統治したことがないという不都合な事実の隠蔽
+ 民主主義社会である台湾を権威主義国家が吸収することの正当化への試み
〇 中国の合理的戦略:日米の分断
+ 米国を無力化し、日本側に立たせないための交渉
/ 習近平氏からトランプ大統領へ「共に対日戦を戦った戦友」として接近
/ 大量の米国産大豆購入などの経済的譲歩(取引外交)の提示
+ 米国には直接的な法的非難を避け、日本のみを孤立させる三角戦略
+ トランプ大統領が高市首相に対し、中国を刺激しないよう求めたという影響
〇 米国とその同盟国に対する戦略的警告
+ 商業的・短期的利益が長期的な戦略的判断を覆い隠す危うさ
+ 米国が地域の安定装置としての役割を放棄した際に生じる空白への懸念
+ 抑止力の維持と、不必要な戦争に巻き込まれる罠の回避
筆者は12月10日のエントリー「サンフランシスコ平和条約無効論という策謀」の中で、日本沖縄政策研究フォーラムの論考を紹介し、「今の世界秩序の法的根幹をサンフランシスコ平和条約からポツダム宣言に変えさせることができれば、日本を国際社会から孤立させる戦略を進めている」と述べましたけれども、今回のディプロマット誌の論考はその文脈に沿った分析のように見えます。
日本人からみれば、サンフランシスコ平和条約をひっくり返そうなんて馬鹿げていると思ってしまいますけれども、どうやら中国は本気でそう考えている。ならば日本は、戦後国際秩序の根幹は「サンフランシスコ平和条約」であって、「ポツダム宣言」ではない、と明確に反論・主張すべきではないかと思いますね。
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