
1.習近平国家主席の2026年新年挨拶
昨年、12月31日、中国の習近平国家主席は、中央広播電視総台(チャイナ・メディア・グループ/CMG)とインターネットを通して、2026年に向けた新年の挨拶を発表しました。
人民網日本語版のサイトにその全文が掲載されているのですけれども、4つ程、どこかの「大喜利」でみたようなフォーマットで要点が示されていました。それは次の通りです。
・皆さんが弛まず努力し、地道な貢献を続けたからこそ、活気に満ち、発展し続ける中国を築き上げることができました。私は全ての奮闘者に敬意を表します。
・人々が日々の生活の糧を得て、一つひとつの家族が豊かに暮らすことが、中国という大家族がより良くなることにつながっています。
・中国は一貫して歴史の正しい側に立ち、各国と手を携えて世界の平和と発展を促し、人類運命共同体の構築を推進していきます。
・「一国二制度」の方針を揺るぎなく貫徹して堅持し、香港と澳門が国の発展大局により良く融合し、長期の繁栄と安定を保つよう支持していかなければなりません。両岸同胞の血は水よりも濃く、祖国統一の歴史の大勢を阻止することはできません!
この4つが一番言いたいことなのだと思われますけれども、4つ目に両岸統一は阻止できない、と台湾併合の野心を剥き出しにしています。
★この大喜利フォーマットは日本語版のみで見られるので、これ自身が工作の可能性があるとみてよいかもしれません。
1月4日のエントリーで、台湾有事に日本が絡んでくることを中国は嫌がっていると述べましたけれども、中国は依然と、日本は悪者だと世界各国に告げ口外交を続けています。
昨年12月中頃、王毅外相がアラブ首長国連邦、サウジアラビア、ヨルダンの3か国を訪問し、「日本の現職指導者が台湾問題で中国の内政に干渉することに断固反対する」と批判。更に、水面下でも複数の外交ルートを通じて日本への非難を訴えているとの話もあるようです。
これについて、東京大学大学院総合文化研究科教授の阿古智子氏は、次のように指摘しています。
・中国では若者の失業率がとくに高く、国家統計局の統計では11月時点で16歳〜24歳の失業率が16.9%に達している。国内の不満を逸らすために対日批判をしている、ということですけれども、その告げ口を聞かされる国は堪ったものではありません。
・またGDPの3割近くを占める不動産業界の不況については、当局がSNSでの不動産悲観論を取り締まるという状況にある。
・そうした国民の不安の目を外に向けるためにも、日本批判が役立っている
2.中国の日本に対するプロパガンダが海外で受け入れられない理由
果たして中国の告げ口は効果があるのか。
これについて、X(旧ツイッター)で、「中国の対日プロパガンダが海外で全く響かない理由」という興味深いスレッドがありました。
このスレッドで投稿している人は、どうやら、アメリカの外交・戦略・歴史・中国情勢を専門とするエッセイストのターナー・グリア氏のようです。一連のスレッドを整理すると次の通りです。
・中国政府やその影響を受けた発信者が海外向けに流すメッセージのうち、最も受け入れられにくいのは「日本を敵視する内容」だ。グリア氏は、中国政府やその影響を受けた発信者が行う「日本を悪役に仕立て上げる主張」には信憑性がなく、受け入れられにくいと指摘。その理由は、今の日本の姿とギャップがあり過ぎるからだというのですね。まぁ当たり前といえば当たり前です。
・中国側がいくら「アメリカは悪」「中国の産業は驚異的」と主張しても、一部の海外視聴者にはまだ一定の説得力を持つ余地がある。
・しかし、日本を悪役に仕立て上げる主張になると、途端に信憑性が崩れる。中国国外の人々——特に西洋諸国や発展途上国の一般の人々——にとって、中国人の日本に対する強い敵意は「常軌を逸している」と映るからだ。
・現代の日本に対する中国人のイメージは、依然として「軍国主義の復活」や「潜在的な脅威」に強く結びついている。
・一方、世界の多くの人々が抱く日本像はまったく異なる。第二次世界大戦で敗北し、原爆を投下され、国家の価値観が根本から変わった後、70年以上にわたって平和を維持し、任天堂やハローキティ、アニメやゲームといったポップカルチャーを世界に輸出し続けてきた国——それが大多数の人の認識だ。
・この認識のギャップは決定的で、中国側が「日本は内気なヒトラーのような国だ」と主張すればするほど、海外の人々からは「本当にそんなことを信じているのか?」と呆れられ、発信者自身の信頼性が失われる。
・中国ナショナリストや一部の親中西洋インフルエンサーが日本批判を繰り返すコメントから、「彼らの反応そのものが私の主張を完璧に証明している」
・中国側がこのギャップを埋めるのはほぼ不可能だ。
・「では、アメリカ側にはどんな盲点があるのか? アメリカの反帝国主義者や極左の人々でさえ信じているが、世界の他の人々には全く受け入れられないアメリカ神話とは何だろう?」
・中国の日本敵視メッセージは国内では効果的かもしれないが、海外ではむしろ発信者の現実離れを露呈してしまう。
グリア氏は現代の日本に対する中国人のイメージは、依然として「軍国主義の復活」や「潜在的な脅威」に強く結びついていると指摘していますけれども、ある意味「過去の亡霊」に取りつかれている、あるいは取りつかせているともいえ、今に生きる他国とは「認識の時間軸」が異なっていると言えます。
3.萩生田訪台
ここにきて日本政府は国会議員を次々と台湾に派遣しています。
昨年12月22日、自民党の萩生田光一幹事長代行は22日、台湾の頼清徳総統と会談した。総統府の声明によると、萩生田氏は日台関係を「史上最も良好と受け止められている」と評価。一方、頼氏は「自由で開かれたインド太平洋」のビジョン実現に向けて共に努力していきたいと述べています。
日台の友好促進を図る超党派の議員連盟「日華議員懇談会(日華懇)」の幹事長を務める萩生田氏は、故安倍晋三元首相に近かった。9月に安倍氏の名を冠した研究センターの設立式に共に出席して以来、頼氏とは今年2度目の面会となります。
この他、昨年12月に訪台した日本の国会議員は次の通りです。

台湾外交部によると、2025年の日本の議員による訪問は123回で、昨年の97回から増加しているとのことです。昨年12月16日、台湾外交部は日本の国会議員30人近くが訪台する予定だと発表しています。
萩生田氏は、日台の友好促進を図る超党派の議員連盟「日華議員懇談会(日華懇)」の幹事長を務め、故安倍晋三元総理に近かったことは知られています。
中国は、今回の萩生田氏と頼総統の会談に強く反発、日本側に抗議。中国外務省の林剣報道官は日本が地域の平和と安定を損ねていると非難し、高市氏は就任以降、中国の「レッドライン」を越えたと述べました。
日本の国会議員の訪台ラッシュについて、ユーラシア・グループのシニアアナリストで、米外交官として日中両国に駐在した経験を持つジェレミー・チャン氏は、「日本政府は台湾に対する政策に変更はないと改めて確認しており、ここ数年でかなり定期的になっている訪台は、11月7日以前の現状維持を図ろうとする日本の試みと見なすことができる……ただ、中国はそのようには受け止めず、こうした訪問は日本の軍国主義の台頭を懸念する中国国内の不安を強めることになる」とコメントしています。
4.訪台ラッシュは一石四鳥
今回、このタイミングで、中国に見せつけるかのような日本政府による議員の訪台ラッシュは、次の4つの効果というか狙いがあるのではないかと筆者は考えています。
1)昨年末の中国軍による台湾周辺での軍事演習の牽制1)については、そのまんまです。多くの議員を台湾に送り込むことで、台湾に軍事圧力を掛ける中国に対し日本は台湾をバックアップするぞ、と外交メッセージを送っています。
2)アメリカの台湾保証実施法との連動
3)国内媚中派に踏み絵
4)対中サラミスライス
2)についても、このタイミングでの訪台は、アメリカに対しても、台湾保証実施法と連動して日本政府も動く意思があることをアピールすることになります。
3)についてですけれども、訪台議員リストに、親中派とされる河野太郎氏がいます。河野氏がどこまでどっぷりと親中なのか分かりませんけれども、今回の訪台ラッシュで、自民党内で主流派に属するためには、台湾重視の姿勢を示さなければいけなくなります。つまり、党内の親中派議員にとっては、中国と台湾のどちらを取るのかの踏み絵を迫られていることになります。また、訪台に反対すると、高市政権の方針に反することとなり、党内での影響力を失うことなります。
4)については、次々と色んな議員を訪台させることで、そのたびに中国に反応・反発させ、結果中国政府を疲労させる効果も狙えます。中国は反発して何らかの報復をするかもしれませんけれども、何度も何度もされるとそのうち報復ネタが無くなってきます。かといって反発・報復しなければ、日台の関係深化を黙認することになります。
中国は尖閣諸島に中国船を何度も領海侵入させて、領有権を主張する、いわゆるサラミスライス戦術を取っていますけれども、日本の国会議員を次々と台湾に送り込むのは、中国に対する「逆サラミスライス戦術」の側面があるといえ、これを繰り返すことは、地味にボディブローとなって効いてくるのではないかと思います。
つまり、台湾に議員を送り込むだけで一石四鳥の効果が狙えるという訳です。なかなかどうして、高市総理の外交はじつにしたたかです。これらの狙いがどこまで成就するのか、見守っていきたいと思います。
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