
1.ディスコンボビュレーター
1月24日、アメリカのトランプ大統領は、ニューヨーク・ポスト紙のインタビューにて、ベネズエラのマドゥロ氏の拘束作戦で「ディスコンボビュレーター」と呼ばれる秘密兵器を使用したと明らかにしました。
トランプ大統領は「彼らはロケットを全く発射できなかった。彼らはロシアと中国製のロケットを持っていたが、一発も撃てなかった……我々が侵入した時、彼らはボタンを押したが、何も作動しなかった。彼らは我々に対して万全の準備をしていた」と述べました。けれどもトランプ大統領は「ディスコンボビュレーターについて話したいが、話してはいけない」とさらに具体的な説明は避けました。
Discombobulate は英語の俗語で、「混乱させる」「面食らわせる」「頭をこんがらがらせる」といった意味を持っていて、その名詞形である「Discombobulator」 は「混乱製造機」とか「わけわからなくする装置」といった非常に砕けたニュアンスの言葉だそうです。要するに、ドラえもんの道具みたいな名前で呼んでいるのか、と受け取りました。
トランプ大統領のこの発言についてアメリカ政府高官は、CNNの取材に対し、トランプ大統領は複数の兵器を一緒くたにして存在しない一つの兵器と認識しているのかもしれないと指摘しています。
それでもトランプ大統領は、作戦直後の会見で「特定の専門技術でカラカスの明かりを消した」と言及しており、停電を引き起こすサイバー攻撃や電子戦能力の存在を匂わせています。
2.兵士たちが鼻から出血し、血を吐いた
では、トランプ大統領が述べた「ディスコンボビュレーター」なるものが、停電を引き起こすサイバー攻撃や電子戦能力を持った兵器なのかというと、それとは違うという見方もあります。なぜなら、現地のベネズエラ兵士そのものを無力化したと見られているからです。
1月11日、「Indiatoday」紙は、「兵士たちが鼻から出血し、血を吐いた:米国はベネズエラでの急襲中に音響兵器を使用したのか?」という記事を掲載しています。
件の記事の内容は次の通りです。
兵士が鼻血を出し吐血:米国はベネズエラ急襲で音響兵器を使用したのか血を流して、起き上がることさえできないとは、相当な威力であることは間違いありません。
ベネズエラでの急襲作戦中、米軍が高度で類を見ない音響兵器を使用し、現地の部隊を強烈な音波で無力化したと報じられている。この作戦は広範な注目を集め、地域における新たな軍事技術への懸念を引き起こしている。
ニコラス・マドゥロ大統領を拘束するための作戦中、米軍兵士がこれまでにない強力な兵器を使用し、現地の兵士たちが強烈な音のような力によって行動不能になったという劇的な目撃証言が出たことで、世界的な注目が集まっている。
土曜日にホワイトハウス報道官がX(旧Twitter)で共有したこの証言は、米軍がレーダーシステムを停止させ、一帯をドローンで埋め尽くし、守備隊を立ち上がれなくさせる高度な技術を投入したことで、ベネズエラの治安部隊がわずか数分で圧倒された様子を詳述している。
ベネズエラ側の警備兵: 「我々は警戒に当たっていたが、突然、何の説明もなくすべてのレーダーシステムが停止した。次に目にしたのはドローンだった。多くのドローンが陣地上空を飛んでおり、どう反応していいか分からなかった。」
ニューヨーク・ポスト紙が報じたこの証言によると、わずか8機ほどのヘリコプターで展開した約20名の小規模な米軍ユニットがその地域に進入した。人数は限られていたにもかかわらず、米軍は瞬く間に戦場を支配したと警備兵は主張している。
ベネズエラ側の警備兵: 「彼らは技術的に非常に進んでいた。これまでに戦った相手とは全く違って見えた。」
警備兵はこの遭遇を一方的なものだったと表現し、ベネズエラ軍は米軍の火力のスピードと精度に太刀打ちできなかったと述べている。
ベネズエラ側の警備兵: 「我々は数百人いたが、チャンスはなかった。彼らは恐ろしい精度とスピードで射撃してきた。まるで兵士一人が毎分300発を撃っているかのようだった。」
その後、警備兵は謎のデバイスが使用されたとされる瞬間について説明した。
ベネズエラ側の警備兵: 「ある時点で、彼らは何かを放った。どう表現していいか分からないが、非常に強烈な音波のようなものだった。突然、自分の頭が内側から爆発するような感覚に襲われた。」
身体的な影響は即座に現れたという。
ベネズエラ側の警備兵: 「皆、鼻から血を流し始めた。血を吐く者もいた。我々は地面に倒れ込み、動くことができなくなった。その音響兵器か何かの後、立ち上がることさえできなかった。」
カロリン・リービット報道官が「今していることを止めて、これを読みなさい」というキャプションと共にこの証言をリポストしたが、これが主張内容の事実確認を意味するのかという質問に対し、ホワイトハウスは回答していない。
ベネズエラ内務省は、1月3日の作戦で治安部隊の約100名が殺害されたと発表している。これらの死亡が、主張されている兵器と関連があるのかは不明なままである。
指向性エネルギー兵器に注目
元米情報筋は、この描写がマイクロ波やレーザーなどの集中エネルギーを使用して標的を無力化する「指向性エネルギー兵器」の特徴に似ていると指摘する。
元米情報筋: 「軍は何十年も前からこれらのバージョンを保有している。システムの中には、出血、痛み、灼熱感、そして身体機能の喪失を引き起こすものもある。」
中国は以前、2020年のラダックでの国境紛争においてインド兵に対してマイクロ波兵器を使用したと非難されたが、北京側はその主張を否定している。
ベネズエラの警備兵は、ドナルド・トランプ大統領が最近メキシコも「リストに入っている」と警告した直後ということもあり、この急襲がラテンアメリカ全土に衝撃を与えたと語った。
ベネズエラ側の警備兵: 「米国と戦えると考えているすべての人に警告を送る。彼らは(米軍が)何をできるのか分かっていない。私が見たものの後では、二度とあちら側の敵にはなりたくない。彼らに手を出すべきではない。」
警備兵はさらに、急襲の影響はすでにベネズエラを越えて広がっていると付け加えた。
ベネズエラ側の警備兵: 「誰もがこのことを話している。ここで起きたことは、ベネズエラだけでなく、地域全体の多くのことを変えることになるだろう。」
3.アメリカはマドゥロ大統領誘拐に秘密兵器を使ったのか
また、1月26日、アルジャジーラ紙は、「米国はマドゥロ大統領誘拐に「秘密兵器」を使ったのか?」という記事でこの「ディスコンボビュレーター」が何のことを言っているのだろうかと分析しています。
件の記事の一部を引用すると次の通りです。
【前略】アルジャジーラ紙は、「ディスコンボビュレーター」という言葉に武器としての定義はなく、政治的なアイコンとして使われているというニュアンスで説明しています。ただ、血を吐いて倒れ、起き上がれないという程のものが、「爆圧や閃光弾、その他の方向感覚を失わせる既存の装置」で片づけるのは苦しい気がします。
〇米軍のベネズエラ攻撃と「音響兵器」を巡る検証
1月16日、パドリノ・ロペス氏は、カラカスへの米軍攻撃によりベネズエラ兵47人が死亡したと発表した。マドゥロ大統領の警護にあたっていたキューバ兵32人も死亡している。
先週、同氏は「兵器研究所」を非難し、エル・ウニベルサル紙はその発言を次のように伝えた。「米国大統領は、戦場で使用されたことのない、世界中の誰も保有していなかった兵器の使用を認めた。彼らは2026年1月3日、ベネズエラ国民に対してその技術を使用したのである。」
この発言は、トランプ大統領が米ニュース局ニュースネーションのインタビューで「音響兵器」が使用されたと述べたことを指しているとみられる。
マドゥロ大統領の拉致から数日後、ホワイトハウス報道官のカロリン・リービット氏は、ベネズエラの警備員がXに投稿したと思われるコメントを再投稿した。そこには、作戦中に米国が「非常に強力な音波のようなものを発射した」との記述があった。
証言の中で警備員は、「突然、頭が内側から爆発するような感覚に襲われた。全員の鼻から血が流れ始め、血を吐く者もいた。我々は地面に倒れ、動けなくなった」と記している。ただし、アルジャジーラはこのアカウントの真偽を検証できていない。
トランプ大統領は先週のインタビューで、厳重に警備された地域でマドゥロ大統領のキューバ人ボディーガードに対して「音響兵器」が使用されたと言及した。大統領は「他者は保有していない、誰も知らない秘密の兵器がある。信じられないほどの攻撃だった。あの場所が要塞と軍事基地の真ん中にあったことを忘れてはならない」と語っている。
また、ニューヨーク・ポスト紙は日曜日、トランプ大統領が防衛装備を無力化するために設計された兵器について「あの混乱させる装置だ。それについて話すことは許されていない」と述べたと報じた。
〇専門家による兵器の分析
ブリュッセルを拠点とする軍事・政治アナリストのエリヤ・マグニエ氏がアルジャジーラに語ったところによると、米国が使用する最も著名な音響システムは「長距離音響装置(LRAD)」などの指向性音響呼び出し警報装置である。これらは強力で集中的な音響を投射し、船舶の停止や群衆の制圧などに使用されるが、電子機器を無効にする設計にはなっていない。高出力設定では痛みやめまい、聴覚障害を引き起こすが、その使用には慎重な調査が伴う。
また、人を混乱させる別の兵器として「アクティブ・デニアル・システム(ADS)」がある。これは音ではなくミリ波エネルギーを使用して皮膚に強い熱感を与えるもので、2010年にアフガニスタンへ派遣された経緯がある。LRADと同様、ADSも機械ではなく人間に作用することを目的としている。
マグニエ氏は、音響装置がミサイルやレーダー、通信システムを停止させることは不可能であると指摘する。装備が機能停止したのであれば、電磁波、サイバー攻撃、あるいは電力遮断によるものである可能性が高いという。
〇米軍が保有する非運動エネルギー兵器
マグニエ氏によれば、米軍は以下のような「非運動エネルギー兵器」を使用している。
・電子戦(EW): レーダー妨害や通信遮断、GPSの欺瞞により電磁スペクトルを制御する。
・サイバーフィジカルオペレーション: ネットワークや制御システムへの妨害工作。2009年のイラン核施設へのスタックスネット攻撃が代表例である。
・対電子機器・指向性エネルギー兵器(CHAMP等): 高出力マイクロ波パルスを照射し、物理的破壊を伴わずに電子回路を無力化する。
・グラファイト・炭素繊維弾: 導電性繊維を拡散させて電力網をショートさせ、広範囲の停電を引き起こす。
〇実戦を通じた新技術のテスト
現代の戦争は、新技術が実戦でテストされる場となることが多い。1991年の湾岸戦争ではステルス機や精密誘導爆弾が、2009年のイラン攻撃ではサイバー兵器が、2017年のアフガニスタンでは大規模爆風爆弾「MOAB」が初めて実戦投入された。主要国は、電子戦やサイバー作戦などの分野で常に新システムを秘密裏にテストし、フィードバックを得て改良を重ねている。
また、米国は過去に自国の外交官が「音響攻撃」を受けたと主張したこともある。2017年、キューバのハバナ駐在の米・カナダ外交官らが聴覚障害などの「健康被害」を訴え、調査が行われた。
〇トランプ氏の言う「混乱させる者」とはどういう意味か?
「混乱を引き起こす装置」という言葉に技術的な定義はなく、政治的なラベルとして使用されている可能性が高い。防空システムの故障についても、システム統合の不備や電子戦、サイバー攻撃といった既知の手法で説明が可能である。
カラカスの襲撃時に兵士たちが見せた身体的症状についても、爆圧や閃光弾、その他の方向感覚を失わせる既存の装置によるものである可能性があり、現時点で新型の「音響兵器」の存在を証明する公的な証拠は存在しない。
4.音撃は戦争を変えるか
音を兵器に使うという発想は昔からありました。アルジャジーラの記事ではLRADと言う言葉が出てきましたけれども、筆者は2009年に「音撃鏡LRAD」、2012年に「エルラドの音撃 」という記事をエントリーしたことがあります。
このときは、まだ海賊退治に使ったくらいのものでしたけれども、あれから年数も立ってますからね。対人無力化を可能とするまで性能を向上させた携帯型LRADがあっても不思議ではないのかもしれません。
前述の記事で、ベネズエラの警備兵が 「誰もがこのことを話している。ここで起きたことは、ベネズエラだけでなく、地域全体の多くのことを変えることになるだろう」とコメントしていますけれども、アメリカの軍事力が他国を圧倒するのみならず、その保有する兵器そのものが他国に大きく水を空けていると思わせたことは間違いなく、少なくとも、トランプ大統領が、ああいう「チラ見せ」的な言い方をしてみせたことで、一種のブラフ的な効果もあるかと思います。
実際、あれほどの斬首作戦をほぼ完璧に実行してみせた訳ですからね。他国、とりわけ独裁国の首脳は震えあがったに違いありません。
ウクライナ戦争で、ドローンがこれまでの戦争を変える中、アメリカは戦争そのものの在り方を変えていくのかもしれませんね。
【何をしているでしょう?】
— 防衛省 海上自衛隊 (@JMSDF_PAO) June 4, 2024
これはLRAD(エルラド)という、長距離音響装置です!
広い洋上において船舶等に対し指向性のある呼びかけができる、海賊対処行動における重要な装備です⚓🚢#LRAD #海賊対処行動 pic.twitter.com/JPGe4hhZLI

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超神将軍•オーバーロード
日比野
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