イランから湾岸諸国への攻撃 《イラン情勢シリーズ#10》

今日はこの話題です。
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1.止まぬイランの攻撃


3月8日、湾岸諸国のクウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールがミサイルやドローンによる攻撃を受けたと発表しました。

クウェート民間航空局およびクウェート軍は、クウェート国際空港の燃料貯蔵所がドローン攻撃の標的となったことを発表。クウェート軍は、領空に侵入した複数のドローンやミサイルを迎撃し、インフラへの直接的な攻撃に対応したとしています。国営クウェート通信によると、空港での火災は制御され、「重大な負傷者」は報告されていないとのことで、クウェート内務省は、国境警備隊員2人の「殉職」を発表していますけれども、詳細は明かしていません。

また、UAE国防省は、イランからの「ミサイルとドローンの脅威」に対して防空システムが対応したと発表。カタール国防省は、7日にイランから発射された10発の弾道ミサイルと2発の巡航ミサイルの標的になったが、そのほとんどが迎撃され、死傷者は出なかったと述べています。

さらに、サウジアラビア国防省も首都リヤドの外交官地区への攻撃を含む、同国の空域に侵入した15機の無人機を撃墜したとしています。

今回の攻撃は、イランのペゼシュキアン大統領がそれまでの湾岸諸国への攻撃を謝罪し、それらの国々から攻撃が発生しない限り標的とすることはないと発言したにもかかわらず行われ、イランのゴラムホセイン・モホセニエジェイ司法府代表は、「敵が自由に使える」湾岸諸国の拠点への攻撃を今後も続けると述べています。


2.自滅か戦略か


依然と続くイランの周辺国への攻撃は自滅なのか戦略なのか。

これについて、十文字学園女子大学非常勤講師の坂東太郎氏は、次のようにコメントしています。
現時点でイランの国家としての統制がどうなっているのかを推測させる出来事です。「ミサイルとドローンの脅威」のようだから革命防衛隊による攻撃と思われます。アラブの湾岸諸国とはパレスチナに対する同情や支援の1点でイランと相通ずるにもかかわらず「攻撃」してしまっては反感を買うばかりで利益より損失の方が政治的には大きく、ためにか「ペゼシュキアン大統領が」「謝罪し」「攻撃が発生しない限り」「標的と」しないと表明したはずです。

革命防衛隊は事実上、最高指導者の直下にある存在で、その任にあったハメネイ師が殺害されたため統帥の命令系統が混乱しているのかもしれません。イランの大統領は行政府の長に過ぎず、かつ革命防衛隊と親和的でもあるため止めようもないし、その意思も薄いと推察できます。

湾岸諸国には英仏の部隊も駐留しているので、そこまで敵に回すとアメリカの横暴と批判し得る勢力まで失うデメリットがあります。
また、CNNの国家安全保障担当アナリストを務めるピーター・バーゲン氏は、近隣国に対するイランの攻撃について、「極めて逆効果に見える……彼らはドバイ国際空港を攻撃した。イランの資金の動きはすべてドバイ経由で行われている。カタールに対しても攻撃を行ったが、カタールとイランは世界最大のガス田を共有している。つまり実質的に、自国の資産を攻撃していることになる……サウジアラビアへも攻撃したが、近年のサウジはイランと一定の関係改善を進めていた」と述べ、ホルムズ海峡を封鎖しようとする試みについては、イランにとって「経済的自滅行為」だとコメントしてます。

一方、外交政策シンクタンク「クインシー研究所」の幹部トリタ・パルシ氏は、「彼らの計算では、この戦争を持続的な形で終結させる唯一の方法、つまりトランプ氏やイスラエルが半年後に再び戦争を仕掛けてこないようにする唯一の方法は、すべての関係者にとって高い代償を伴うものにすることだ」と説明し、イランの狙いは「(今回の戦争を)始めるのが良い考えだったとは誰も思わず、再び始めるのが得策だとも誰も思わない」と状況を確実に作り出すことだ述べています。

識者らは、悪く言って自滅行為、良くみても肉を斬らせて骨を断つ戦略と見ているようです。


3.二十億ドルの損失を出した米軍


では、被害を受けたのは湾岸諸国だけなのかというとそうでもありません。米軍基地も被害にあっているようです。

3月4日、トルコのアナドル通信「米国はイラン攻撃の最初の4日間で約20億ドル相当の軍事装備を失った」と言う記事を掲載しています。

件の記事の概要は次の通りです。
・米国は土曜日以来のイランに対する軍事作戦において、計19億200万ドル相当の軍事装備を喪失した。
 主な損害の内訳は以下の通りである。
  +アル・ウデイド空軍基地(カタール): 設置されていたAN/FPS-132早期警戒レーダーシステムが土曜日にイランのミサイル攻撃を受け、損傷した。このレーダーの価値は11億ドル相当であり、カタール側も被弾を認めている。
  +F-15Eストライクイーグル: 日曜日、クウェート防空軍の誤射により3機が失われた。乗組員6名は無事であったが、機体の損失額は2億8,200万ドルと見積もられている。
  +第5艦隊司令部(バーレーン): 土曜日の攻撃開始直後、イランは司令部を標的とし、AN/GSC-52B衛星通信端末2基と大型建物数棟を破壊した。端末の展開・設置費用を合わせると約2,000万ドルの損失となる。
  +アル・ルワイス工業団地(UAE): 迎撃ミサイルシステム(THAAD)のAN/TPY-2レーダー部品が破壊された。衛星画像からも攻撃の痕跡が確認されており、損失額は5億ドルと推定される。

・米国とイスラエルによるイランへの攻撃開始以来、イランは中東全域で少なくとも7カ所の米軍施設を標的としている。
  +主要標的: バーレーンの米第5艦隊司令部、クウェートのキャンプ・アリフジャンおよびアリ・アル・サレム空軍基地、キャンプ・ビューリング、イラクのアルビル基地、UAEのジェベル・アリ港、およびカタールのアル・ウデイド空軍基地である。
  +被害の状況は深刻であり、クウェートのアリ・アル・サレム空軍基地では複数の地点で屋根が崩落したほか、キャンプ・アリフジャンでは米兵6名が死亡した。
  +また、キャンプ・ビューリングではドローンの飛来と爆発が確認されている。
  +イラクのアルビル国際空港の軍事施設も繰り返し攻撃を受け、衛星画像からは複数の建物が損傷し、火災が継続している様子がうかがえる。
  +ジェベル・アリ港においても、米海軍のレクリエーション区域で火災が発生した。

・軍事基地のみならず外交使節団も標的となった。
  +リヤド(サウジアラビア): 米国大使館および敷地内のCIA支局がドローン攻撃を受け、火災と物的損害が発生した。
  +クウェート市(クウェート): 米国大使館がドローンとミサイルによる攻撃を受けた。同大使館は閉鎖され、一部職員は避難を余儀なくされた。
  +ドバイ(UAE): 米国総領事館に隣接する駐車場がドローンによる攻撃を受け、火災が発生した。
約20億ドル相当の軍事装備を失ったなどハンパではありません。


4.軍事的には敗北


では今のイランの戦況はどうなっているのか。これについて、戦争研究所が連日レポートを出しています。

戦争研究所のイラン戦争に関する3月5日から7日までのサマリレポートを拾うと次の通りです。
〇3月5日:
・イスラエル国防軍(IDF)は、イランのミサイル能力を低下させるため、イランの弾道ミサイル施設への攻撃を継続している。IDFは3月5日、イスラエル軍機が2月28日以降、イラン全土の数百カ所のミサイル発射施設を攻撃し、300基以上の弾道ミサイル発射装置を運用不能にしたと報告した。イランの防空体制を低下させることで、米軍とイスラエル軍の航空機はイラン領空において、よりリスクの少ない、より自由な作戦行動をとることができる。
・米イスラエル連合軍は作戦の次の段階に進み、イランの防衛産業資産、特にミサイル生産施設を標的とする。作戦の第一段階では、イランの防空網を制圧し、指揮統制機能を遮断し、弾道ミサイルとドローンによる報復能力を制限した。イスラエル国防軍は3月5日、テヘラン州パクダシュトのアッバース・アバド工業団地とシェンザール工業団地に対し避難勧告を発令した。これはイランの防衛産業基盤を標的とする準備のためとみられる。
・合同部隊は、テヘラン市内および周辺地域、そしてイラン北西部のクルド人居住地域における主要な国内治安拠点を標的とした空爆を継続している。これらの標的は、地域法執行司令部(LEC)やイスラム革命防衛隊(IRGC)の本部から、騒乱のホットスポットとなっている地域の警察署まで多岐にわたる。
・合同部隊は、イラン南西部におけるIRGC地上軍の特殊部隊および即応部隊への攻撃を継続している。合同部隊は、イラン全土におけるIRGCまたはアルテシュ特殊部隊の他の基地やインフラへの大規模な攻撃はまだ行っていない。しかしながら、インターネットの遮断により、ISW-CTPによるこれらの攻撃の監視能力に影響が出ている可能性がある。
・ドナルド・トランプ米大統領は3月5日、イランへの攻撃を行うクルド人部隊を支持すると述べた。トランプ氏はロイター通信に対し、クルド人部隊によるイランへの攻撃を「全面的に支持する」と述べたものの、空爆による支援については明言を避けた。一方、イラクのクルド人高官は、クルド人部隊がイランに展開している、あるいは展開を計画しているという主張を否定している。
・ドナルド・トランプ米大統領は3月5日、西側メディアに対し、イランの新最高指導者選出プロセスに米国が関与する必要があると述べた。トランプ氏は、前最高指導者アリ・ハメネイ氏の政策を引き継ぐイランの新指導者は受け入れないと明言した。
・アルテシュとイラン国営メディアは、イラン軍が3月5日にクウェートのビューリング駐屯地で米軍に対しドローン攻撃を実施したと主張した。イランメディアによると、イランのアルテシュは3月5日、イラクのアルビルにある米軍基地を標的としたドローン攻撃を別途開始した。

〇3月6日:
・ロシアは、中東における米軍へのイランの攻撃を支援するため、イランと情報を共有していると報じられており、これは米国の二大敵国間の協力関係の深化を浮き彫りにしている。イランは、たとえ市販の情報源からであっても、高品質の衛星画像に定期的にアクセスできない可能性があり、そのような画像の入手をロシアに依存している可能性がある。したがって、ロシアの情報共有は、イランによる米軍施設への攻撃を支援している可能性がある。米国の情報機関に詳しい複数の関係者は、中国がイランに資金援助とミサイル部品を提供する準備を進めている可能性があると述べた。
・米イスラエル連合軍は、イランのミサイル能力を低下させ、最終的にはイランの弾道ミサイル計画を破壊するため、イランの弾道ミサイル施設への攻撃を継続している。米中央軍(CENTCOM)のブラッド・クーパー司令官は3月5日、攻撃開始以来、イランからの弾道ミサイル攻撃が約90%減少したと述べた。イランの弾道ミサイル発射装置、備蓄、生産施設を破壊する作戦は、米国が表明した「イランの弾道ミサイル産業基盤を壊滅させる」という目標と、イランのミサイル生産能力を体系的に解体する目標を達成することになるだろう。
・合同部隊はイランの防衛産業基盤、特にドローン開発を支える施設への攻撃を継続している。イスラエル国防軍は、コム州のショクヒエ工業団地とテヘラン州のエステグラル工業団地に加え、テヘラン州とファールス州の弾薬製造施設と弾薬庫を標的とした。
・イランは、イスラエル、中東の米軍基地、湾岸諸国、そしてその他の地域諸国に対する合同軍事攻撃作戦への報復を継続している。イランは過去6日間で少なくとも6波の弾道ミサイル攻撃を実施した。ミサイル攻撃の回数が減少したことは、合同部隊がイランのミサイル発射台数を削減することに成功したことを改めて示している。

〇3月7日:
・イランの強硬派高官たちは、マソウド・ペゼシュキアン大統領が3月7日に地域諸国へのイランの攻撃について行った声明に憤慨している。ペゼシュキアン大統領の発言は、政策転換を示唆するものではなく、長年の政権政策を繰り返すものであったが、それでも強硬派からの批判を招き、イラン指導部内の分裂の深刻さを浮き彫りにした。
・3月7日、合同部隊は初めてイランの石油生産・貯蔵施設への空爆作戦を拡大した。イスラエル国防軍はイラン国内の製油所2カ所と石油貯蔵施設2カ所を攻撃した。イランのエネルギー部門への混乱は、同国で進行中のエネルギー危機を悪化させ、より広範囲かつ頻繁な電力不足と停電につながる可能性が高い。
・イスラエルのジャーナリストは3月7日、イスラエルはイランに約120基のミサイル発射装置が残っていると推定していると報じた。米中央軍(CENTCOM)のブラッド・クーパー司令官は3月5日、攻撃開始以来、イランからの弾道ミサイル攻撃が約90%減少したと述べた。
・ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月7日、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子とイランの無人機の脅威について協議した。サウジアラビア領土を標的としたイランの無人機攻撃は、民間インフラに損害を与え、サウジアラビア最大の国内石油精製所と輸出ターミナルの閉鎖を余儀なくさせた。ゼレンスキー大統領は、ウクライナはサウジアラビアがシャヘド・ドローンの脅威に対処するのを「支援する用意がある」と述べた。
・3月7日、合同部隊はテヘランにあるIRGC航空宇宙軍のインフラを攻撃し、イランの防空能力と指揮統制能力を低下させるとみられる。IRGC航空宇宙軍は、イランのミサイルおよびドローン兵器の主要な運用機関である。
既にイランは防衛産業や重要インフラを次々と破壊されていて、軍事的には敗北が見えています。ただ、それでも、イランは、イスラエル、中東の米軍基地、湾岸諸国、そしてその他の地域諸国に対して報復を継続していて、まだ、いつ終戦になるのか見通せない状況です。

また、たとえ終戦になったとしても、イラン政府が革命防衛隊含め国内とちゃんと統治できるのかという問題もあります。もしそれに失敗すれば、革命防衛隊その他がテロリスト化して泥沼の長期戦のリスクが出てくることも視野にいれておかないといけないかもしれませんね。




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