
1.石油備蓄の協調放出
3月11日、国際エネルギー機関(IEA)は石油備蓄の協調放出に加盟32カ国が合意したと発表しました。
放出にあたっての国際エネルギー機関(IEA)の声明は次の通りです。
国際エネルギー機関(IEA)の加盟32カ国は本日、中東戦争に起因する石油市場の混乱に対処するため、緊急備蓄から4億バレルの石油を市場に供給することで全会一致で合意した。このIEAの協調放出は、ロシアがウクライナ全面侵攻を開始した2022年以来のこと。当時の放出量は過去最大だったのですけれども、今回の4億バレルはその倍以上の量となります。
緊急集団行動を取るという決定は、中東紛争下における市場状況を評価し、供給途絶に対処するための選択肢を検討するために、IEA事務局長が昨日招集したIEA加盟国政府の臨時会合を受けて下された。
「私たちが直面している石油市場の課題は前例のない規模であり、そのためIEA加盟国が前例のない規模の緊急共同行動で対応してくれたことを大変嬉しく思います」と、 IEA事務局長ファティ・ビロル氏は述べた。「石油市場はグローバルな市場であるため、大きな混乱への対応もグローバルなものでなければなりません。エネルギー安全保障はIEAの設立理念であり、IEA加盟国が強い連帯を示し、共に断固たる行動を取っていることを嬉しく思います。」
緊急備蓄は、各加盟国の国内状況に適した期間にわたって市場に供給され、一部の国では追加の緊急措置によって補完されます。
IEA加盟国は12億バレルを超える緊急備蓄を保有しており、さらに政府義務に基づき6億バレルの業界備蓄が確保されている。今回の協調的な備蓄放出は、1974年に設立されたIEAの歴史上6回目となります。過去の共同行動は1991年、2005年、2011年、そして2022年に2回実施されました。
2026年2月28日に始まった中東紛争は、ホルムズ海峡を通る石油の流れを阻害しており、原油および精製製品の輸出量は現在、紛争前の水準の10%未満にとどまっています。このため、地域全体の石油・ガス事業者は、生産量の大幅な削減または停止を余儀なくされています。
2025年には、平均して1日あたり2000万バレルの原油および石油製品がホルムズ海峡を通過すると予測されており、これは世界の海上石油貿易量の約25%に相当します。ホルムズ海峡を迂回する石油輸送ルートの選択肢は限られています。
IEA事務局は、この共同行動の実施方法について、追って詳細を発表する予定です。また、世界の石油・ガス市場を継続的に注視し、必要に応じて加盟国政府に勧告を提供していきます。
それでも、これは世界全体の3〜4日分の供給量に過ぎず、ホルムズ海峡から通常出荷されるおよそ2週間分にしかなりません。IEAの加盟国および協力国は、世界のエネルギー生産の3分の2と、消費の80%を占めていることを考えると「焼け石に水」とはいわないまでも、多少の時間稼ぎにしかならないのが現実です。
この日、高市総理は16日にも備蓄している石油を放出すると表明しているのですけれども、「国際エネルギー機関(IEA)と連携した国際的な備蓄放出の正式な決定を待たず、備蓄放出を行うことを決定した」と述べているところをみると、リーダーシップを発揮した形です。
経済産業省によると、今回の放出は民間備蓄と国家備蓄をあわせて約8000万バレルを見込む。日数でみると過去最多の45日分となるようです。
2.有事の雰囲気
今回の備蓄放出について、13日、赤沢亮正経産相は閣議後会見で質問され、次のように答えています。
Q:私からイラン情勢について1点伺います。高市総理は、11日、約8,000万バレルの石油備蓄協調放出とガソリン補助の再開を表明されました。また、IEA加盟国は同日4億バレルの備蓄協調放出で合意をしています。供給不安の解消へ抑制効果は限定的との見方もありますが、改めて取組の意義や目的を伺わせてください。あわせて備蓄放出について今後の予定、見通しもお願いします。緊急的な激変緩和措置に、民間備蓄水準を現行の70日から55日に引き下げる告示を発出。世間にも有事の雰囲気が漂ってくるかもしれません。
A:原油タンカーがホルムズ海峡を事実上通れない状況が続く中、今月下旬以降、我が国への原油輸入は大幅に減少する見込みでございます。このため、総理の御指示を受けて、万が一にも石油製品の供給に支障が生じないよう、G7各国やIEAとも連携しながら、我が国が先行して、今月16日の月曜日以降、備蓄放出を行います。まずは、民間備蓄15日分を放出するとともに、当面1か月分の国家備蓄を3月下旬頃から放出いたします。また、11日の水曜日にIEAから発表がありました石油備蓄の協調放出に関しては、今後の放出量の割当てや放出のタイミングについて調整を行ってまいります。また、今週に入り、原油価格が1バレル120ドルに高騰する局面も生じたことから、総理の御指示を受けて、国民生活と経済活動を守り抜くために、緊急的な激変緩和措置を早急に実施することといたしました。燃料油価格激変緩和基金を活用し、今月の19日木曜日から、ガソリンについて、小売価格を全国平均で170円程度に抑制するための補助を行うとともに、軽油、重油、灯油にはガソリンと同額の補助、航空機燃料にはガソリンの4割に相当する額を補助してまいります。引き続き、我が国のエネルギー安定供給確保に万全を期していくとともに、中東情勢が経済に与える影響を注視しつつ、国民生活や経済活動への影響を最小限に抑えるため、必要な対応を機動的に講じてまいります。あわせて、燃料油や石油製品等の供給について影響が生じてしまった場合に備えて、国民の皆様から情報提供いただく連絡先を早急に設置したいと思っています。詳細は改めてお知らせしたいと思います。
Q:石油備蓄放出の関連で大きく3点伺います。1点目は、民間備蓄からの放出もありますが、民間備蓄で確保する義務量を引き下げるのはいつ頃になりますでしょうか。それから、2点目は全国10か所ある国家備蓄のタンクのうち、どこの地域のタンクから放出を予定しておりますでしょうか。3点目は国家備蓄の売渡しは随意契約とのことですが、企業を選ぶ際の基準はどのようなものになりますでしょうか、それから随意契約の際に海外勢から依頼があった場合もその契約を結べるということでしょうか。以上3点お願いいたします。
A:総理の御指示を受けて、今月16日月曜日にも放出を行うことを決定しました。まずは、民間備蓄15日分を放出するとともに、当面1か月分の国家備蓄を放出するというのは先ほど申し上げたとおりです。具体的には、今月16日月曜日にも民間備蓄水準を現行の70日から55日に引き下げるための告示を発出し、機能性に優れる民間備蓄の活用による初動対応を可能といたします。また、国家備蓄の放出については、事業者との契約が整い次第、備蓄を放出する基地等について公表することといたします。その際、国家備蓄の放出には、緊急の必要があることから、随意契約を行うことを想定しております。契約価格については、法令で、取引の実例価格等を考慮して適正に定めなければならないとされていることなどを踏まえ、備蓄放出決定時の1か月前の産油国が公表している公式販売価格で譲渡する予定でございます。また、今般の放出は石油備蓄法第31条に基づき、石油の安定的な供給を確保するために行うことであり、なおかつ随意契約でありますので、売却先は国内の石油精製事業者を想定しております。
3.対ロシア暫定制裁解除
更に、3月13日、アメリカは制裁対象となっているロシア産原油および石油製品を各国が購入するための30日間の免除措置を発令しました。
これについて、スコット・ベッセント財務長官はXに次のように投稿しています。
@POTUSは、テロリストであるイラン政権がもたらす脅威と不安定さに対処しつつ、グローバルなエネルギー市場の安定を促進し、価格を低く抑えるための決定的な措置を講じています。この発表で、金曜朝のアジア市場では原油価格が下落。ロシア大統領特使のキリル・ドミトリエフ氏によると、この措置はロシア産原油1億バレルに影響を与え、これは世界の原油生産量のほぼ1日分に相当するとのことです。
既存の供給のグローバルなリーチを拡大するため、@USTreasury は、海上で立ち往生しているロシア産石油を各国が購入することを許可する一時的な承認を提供しています。この狭い範囲に限定された短期的な措置は、輸送中の石油にのみ適用され、ロシア政府に大きな財政的利益をもたらすことはなく、同政府のエネルギー収益の大部分は抽出時点で課される税金から得られています。
トランプ大統領の親エネルギー政策により、米国の石油・ガス生産量は記録的な水準に達し、勤勉なアメリカ人にとって燃料価格の低下に寄与しています。石油価格の一時的な上昇は短期的な一時的な混乱であり、長期的には我が国と経済に巨大な利益をもたらすことになるでしょう。
今回の措置は、わずか1週間強の間にウクライナ戦争関連のアメリカ制裁を大幅に緩和する2度目の動きですけれども、免除期間は4月11日までということで、この辺りまでに石油供給の目途がつくと踏んでいるのかもしれません。
ただ、アメリカ財務省のウェブサイトに掲載された許可証の本文をみると、アメリカが出した許可証は、3月12日以前に船舶に積み込まれたロシア産原油および石油製品の配送と販売を許可しただけに過ぎません。
一部には、今回の暫定的制裁解除の裏には、原油価格高騰で、11月の中間選挙を前にアメリカの企業や消費者に悪影響を与えるというホワイトハウスの懸念があるのだという見方もあるようです。
.@POTUS is taking decisive steps to promote stability in global energy markets and working to keep prices low as we address the threat and instability posed by the terrorist Iranian regime.
— Treasury Secretary Scott Bessent (@SecScottBessent) March 12, 2026
To increase the global reach of existing supply, @USTreasury is providing a temporary…
4.ロシア産原油購入
このアメリカの暫定的制裁解除措置を受け、日本政府も動いているという報道もあります。
ロイター通信は、3月13日、「経済産業省の危機管理担当次長である細川成己氏は、『様々な国際情勢と日本の国益に照らして検討する』と述べた。経済産業省の別の職員は、ロシア産原油は安定したエネルギー供給にとって重要だが、東京はG7協議やより広範な国際協調と国益とのバランスを取りながら、『適切な措置』を引き続き講じる必要があると述べた」と報じています。
ただ、現時点では経産省からの正式な発表はなく、他のメディアからの追随報道も見当たらないようなので、あるいは観測気球的に書かせた面も可能性としてはあります。
ロイターの報道では、経産省でロシア産原油の購入を検討すると答えた、「危機管理担当次長」の細川成己氏は、2月28日付の経済産業省幹部名簿では、審議官(産業保安・安全担当)となっています。
経済産業省設置法によれば、経済産業審議官は、命を受けて、経済産業省の所掌事務に係る重要な政策に関する事務を総括整理する(第5条第2項)とされていますけれども、具体的な職務は「国際問題担当次官」であり、経済産業省の仕事の一つの柱である通商問題の責任者とされていることを考えるとまったくの眉唾とは言えない気もします。
日本のみならず、世界各国が原油確保に躍起になっています。日本も備蓄に頼らず、イラン戦争が長期になることも想定しつつ、ありとあらゆる手を使って原油確保に動くべきだと思いますね。
この記事へのコメント
ス内パー
G7の備蓄放出、IEAの放出、ロシア産の購入(60$制限無視して定価購入)
に続いてイラン産制裁中石油の購入許可まで出ました
https://jp.reuters.com/markets/commodities/5JHAUSQ7OVMFFH77UKM2KGRXJU-2025-12-17/
日本はサハリン2のガス輸入と並行して副産物の原油も購入しているので
元々ロシア産の購入への障害は他国より緩いのですが
岸田政権、高市政権が突出して反ロシアで得点稼いだ負の影響として
新規購入分については他国より条件が厳しいことは言われています
また、「ロシアは約束を守らない」と吹く支持者が現在の高市政権の主要支持者であるため
支持率的な意味でも表立った公的な新規購入は難しい
よって極力報道管制が敷かれ極秘裏に民間企業責任での輸入増加となるでしょう
日比野
こんばんは。
>よって極力報道管制が敷かれ極秘裏に民間企業責任での輸入増加となるでしょう
あり得る話ですね。今年年末か来年くらいにしれっと報じられるかもしれません。ウクライナ情勢が放置状態ですけど、こちらが停戦なり、なんらかのカタがつかないとロシア原油の件は中々表に出てこないかもしれませんね。
今後ともよろしくお願いいたします。