プーチンの首に鈴を付ける者達

今日はこの話題です。
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1.抗議の辞職をしたロシア外交官


5月23日、ロシアの外交官がウクライナ侵攻に抗議するとして辞職したことが明らかになりました。

辞職したのは、スイス・ジュネーヴの国連機関のロシア代表部に勤務していたボリス・ボンダレフ氏。

ボンダレフ氏は、ソーシャルメディアへの投稿で、「もううんざりだ。遅くなったが本日で退職する……2月24日ほど国を恥ずかしいと思ったことはない……侵略戦争はウクライナ国民に対してだけでなく、繁栄を失うロシア国民に対しても犯罪だ……この戦争を思いついた人物は、永遠に権力を握り、豪華な宮殿に住み、露海軍全体の金額にも匹敵するヨットに乗りたいと思っている。そのためにはどんな犠牲もいとわない。既に両国民が何千人も亡くなった」と述べ、20年にわたった外交官のキャリアを終えることにしたと説明したと明かしました。

ボンダレフ氏はBBCの取材に対し、辞職する以外の選択肢はなかったとし、「正直言って、これが大きな変化を生むとは思わない。だが、いずれ築かれるであろう大きな壁の、小さなレンガの1つになるかもしれないと思う。そうなることを願っている」と答えました。

ボンダレフ氏は、ロシアが侵攻という「過激な手段を講じた」ことに、彼の同僚たちは当初、「幸福、喜び、陶酔」を感じていたと明かした上で「今ではあまり喜んではいない。いくつかの問題、とりわけ経済の問題に直面しているからだ……しかし、そうした人たちの多くが悔い改め、考えを変えるようなことはないだろう……それらの人々が過激さを少し弱め、攻撃性をかなり弱めるかもしれない。だが、平和的になることはない」と指摘しました。

そして、ボンダレフ氏は自らについては、同僚とは対照的に、侵攻が始まった2月24日ほど「自分の国を恥じたことはない」としています。

ボンダレフ氏は、「違法なことは何もしていない……私はただ辞職し、自分の考えを述べた……しかし、身の安全はもちろん心配しなくてはならないだろう」と、ロシア政府が自らを裏切り者と見なすことを覚悟していると述べています。

プーチン大統領がウクライナで「特別軍事作戦」を開始してから3ヶ月になりますけれども、ロシアの国家機関では、反対意見を表明する動きはほとんどないのが現実です。

実際、これまでボンダレフ氏以外に辞職を公表した職員はいませんし、ボンダレフ氏自身も自分は少数派だと認め、ロシア外務省の職員のほとんどは政府の公式見解と「特別作戦」を支持するだろうとしています。

従って、ボンダレフ氏1人が辞任したからと言って、他の人も続いて辞任するとは限らないのが現状です。


2.プーチンは核兵器を使えないし、総動員もできない


それでも、ロシア政府内で対立が起きているという指摘があります。

5月16日、オランダに拠点を置くオープンソース・ジャーナリズム「ベリングキャット」のクリスト・グローゼフ氏は、Radio Svobodaの番組"Grani Vremeni"で、プーチン大統領と軍・治安機関上層部の溝は確実に深まっていて、明らかに対立が起きていると指摘しました。

グローゼフ氏が語った要旨は次の通りです。
・プーチン政権の軍・治安機関上層部は、これまでプーチン大統領の庇護の下、汚職まみれで私腹を肥やし、法を超えた特権を得てきていたが、それが今回のウクライナ侵攻によって、ことごとく失われてしまう恐怖と不安に直面している

・プーチンの側には利益誘導できる元手がもうない。2014年のクリミア半島併合の時は、プーチンの取り巻きとオリガルヒ(新興財閥)とで、風光明媚な保養地クリミアを分け合ったが、この戦争では分捕るものもない

・最近はクレムリンの情報を盗み出すハッカーからもさまざまな情報が出回っているが、プーチン周辺の不満は高まり、この戦争に皮肉を言う者も出てきている。プーチンが戦争を始める決定を下したことに対して激しく批判する者もいる。対立があることは明白で、今後プーチンがどういう行動をとるかが注目だ

・国防省やFSB(連邦保安局)の高官たちは多くの情報を得ているので、この戦争が負けていることはわかっている。
第一段階はすでに負けた。第二段階も勝てるかどうかわからない。

・この戦闘を現地で戦った民間軍事会社ワグネルの傭兵までもが、『将軍連中にも参謀本部にも戦略も戦術もない』、とコテンパンに非難している。

・国防省やFSBの上級将校たちは、勝機を得るためにはすべてのロシア国民を戦争態勢に引きずり込む国民総動員が必要だと考えている。しかし、それをやればロシア社会が暴発しかねないため、プーチンが総動員体制を敷かないこともわかっている。だから、彼らの間にはペシミズムが広がっている

・あと1万人のロシア将兵を死亡させるより、化学兵器や核兵器など、極端な戦術を使うべきだと考える軍人もいる。プーチンが核兵器使用の命令を下す場合、後に続く者すべてがそれを実行する、という確信がなければならない。だが、プーチンが戦術核兵器の使用を命じた時、命令を拒否する者が出る可能性もある。

・核ボタンにつながる5人の手のうち、1人でもボタンを押すのを拒否すれば、それは『お前には従わない』というシグナルだ。それが連鎖していけば、プーチン自身の肉体的な抹殺につながる恐れだってある。クーデターにつながる可能性だ。だから、全員が自分の命令に従うという確信がない限り、命令は出せないのだ

・なぜ、こういった確信をプーチンがもてないのかといえば、それは、数カ月後も彼が権力の座にいるかどうかを不安視しているシロビキ(力の組織)たちが醸し出す『空気』を、プーチン自身が感じているからだ

・最もたくさん正確な情報を持っている部署のエリートが最も不安を感じている。つまりGRU(参謀本部情報総局)とFSBの幹部だ。

・FSBはロシア側の死傷者の正確な数を知っているし、戦死者や消息不明者の母や妻たちから、ひっきりなしに軍検察やFSBに手紙が届いていることもわかっている。これがコントロール不可能なことも理解している。このエリートたちは現政権が危険水域にあることを知っている。

・彼らの中には家族を国外に出したりして、自分たちの将来を守ろうという動きも始まっている。汚職で得てきた大金をドルやユーロに替える人もいる。彼らはプーチンのイデオロギーに従っていないのだから、このこと自体がすでに反逆行為の始まりと言えるだろう
このように、ロシア社会の暴発やクーデターへの恐れから、プーチン大統領は国民総動員体制も核兵器使用も出来ないというのですね。


3.べリングキャット


グローゼフ氏が所属する「べリングキャット」とは、どの政府からも機関からも組織からも独立し、ソーシャルメディアなどオープンソースの情報から真実を探り、公表する集団です。

現在、30人近くのスタッフを抱え、彼らは男女が半々で、一番多いのは20代後半から30代前半の若者。一番年上は40代という若い組織です。スタッフ以外にも、全世界にコントリビューター(協力者)が、ボランティアとして協力しているそうで、英国軍にいた人もいれば、エンジニア、修士号の学生、ビジネス・インテリジェンスの分野で仕事をしていた人など千差万別。

「べリングキャット」の創始者でイギリス人のエリオット・ヒギンズ氏は元々ブロガーで、趣味で関心がある事件をYouTubeやソーシャルメディアを使って調べていたのが、イギリスの「Guardian」などに引用されるなど注目を集めていたのだそうです。

そこでヒギンズ氏が2014年7月にオランダでベリングキャットを設立しました。14年のマレーシア航空機撃墜事件の容疑者や背後関係を明らかにして、これが公的国際捜査機関による起訴につながったことは世界中で報道されました。

べリングキャットが使う調査手法は、「オープンソース・インテリジェンス(OSINT=オシント)」とか、「オープンソース・インベスティゲーション(公開情報調査)」と呼ばれるもので、ネット上に公開されている画像や動画、SNSの内容、各種データ、地図情報などを入手し、最新のツールを使って丹念に分析することで、離れた場所で起きていた事実や、権力が隠そうとしていることを暴き出す手法です。

ヒギンズ氏によると、情報の殆どはSNSやYouTubeの画像や寄せられた情報などですけれども、ときには関係者に取材することもあるそうです。

ただ、世界中のコントリビューターから寄せられる情報にも真実ではないものもあるそうで、べリングキャットがまったく手を付けていない事件で、向こうからコンタクトしてきた案件については特に注意し、映像も嘘である場合も考え、オープンソースで入手できるすべての情報と照らし合わせるのだそうです。

ウクライナ紛争の調査、報道についてもヒギンズ氏は、情報の正確性に注意を払っており、オープンソースといってもロシアが出した情報かもしないし、ウクライナからの情報でも100%正確であるとは限らないとしています。

先に取り上げた、ベリングキャットのクリスト・グローゼフ氏は、ウクライナ紛争関連情報の真偽の判断について「最初はすべて偽情報だと疑ってかかり、意外に思われるような方法を積み重ねて、仕分けしていく。二重三重にチェックしていくことで、小さな情報が価値あるものになることがある」と答えています。

例えば、FSB(連邦保安局)の第五局局長がウクライナでの事前の工作活動の失敗を責められて自宅監禁に置かれたという情報についても、「最初は偽情報かと疑った。しかし複数の筋から入ってきたため、その人物に関係する親類縁者に電話をかけまくった。その時つながったいくつかの電話が半日後か一日後に突然つながらなくなったりしたため、情報の信憑性が高まったと判断し、調査を続けた」と、複数のソースを使っての裏取りをしていると述べています。

また、グローゼフ氏は、最近急増しているというハッカーからの情報についても、「このウクライナ戦争は、主権国家ではないハッカーなどのさまざまな諜報集団が、これまで国家機関では考えられなかった手法によって戦争の行方に大きな影響を与えている最初の出来事だ」と評価しています。


4.プーチンは2023年迄に表舞台から去るだろう


プーチン政権が揺らいでいることを指摘しているのは、無論、ベリングキャットだけではありません。

5月19日、イギリスのMI6(英国情報部国外部門)のリチャード・ディアラブ元長官は、ポッドキャストの番組のインタビューで、プーチン大統領について「彼は2023年までに(表舞台から)去るだろうと私は思っている。たぶん療養施設に入る」とし、施設を出て「ロシアの指導者」として再び姿を現すことはないだろうとした上で、「そうなればクーデター抜きで事態は動く」と述べました。

続けて、ディアラブ元長官は、西側諸国からの対ロシア制裁やウクライナ侵攻、そして現在のロシア軍の戦いぶりを背景に、プーチン政権が今後12~18ヶ月の内に「瓦解する」かも知れないとコメントしています。

更に、元MI6職員のクリストファー・スティール氏もイギリスLBCラジオの取材に対し、先頃、プーチン大統領が出席し、テレビでも放映された安全保障会議について「安全保障会議は1時間程度続いたと思われているが、実際には数回のセクションに分けて行われた……セクションの合間に外出し何らかの治療を受けた」とプーチン大統領が会議を中座して治療を受けたと明かしました。

スティール氏によると、プーチン大統領は移動の際「常に医師団を伴なっている」そうで、プーチン大統領の病気によって、ロシアの統治には深刻な影響が出ていると指摘。スティール氏は「ロシア政府内での混乱や混沌の度は増している。プーチンの病気は重くなっており、彼が明確に政治を統率している様子も見当たらない」と述べています。

実際、欧米メディアではプーチン大統領の健康不安説はしばしば取り沙汰されているのですけれども、ウクライナ侵攻開始以降、ロシア政府はこの件について公式にコメントを出していません。


5.不安だらけのロシア


既にロシア国内では、ウクライナ侵攻による影響が徐々に出始めています。

米欧の経済制裁により、モスクワのスーパーでは欧州からの輸入品が減り、タマネギやニンジンなどの野菜は約1.5倍値上がりしているようです。ロシア統計局が発表した4月の物価状況によると、乳製品は前年同月比で約1.2倍に上昇。洗剤類や家電は約1.3倍と、物価高は食品以外でも続いています。

そんな中、ロシア政府は広報などで、国内統制を試みています。

モスクワ中心部の街頭では、国防省系の団体による、ロシア軍が全域の「解放」を目指すウクライナ東部ドンバス地方の子供たちの苦境を示す写真展が開かれているのだそうです。

また、5月上旬には、オリガルヒが出資するテレビ局が「勝利の将軍たち」と題した番組を放映。ウクライナでの軍事作戦の責任者とされる南部軍管区のアレクサンドル・ドボルニコフ司令官らと並び、「軍事機密を統括する人物」として軍参謀本部情報総局(GRU)のウラジーミル・アレクセーエフ副長官を紹介しました。

アレクセーエフ氏の台頭は、プーチン大統領がKGBの後継組織「連邦保安局(FSB)」よりも、軍参謀本部情報総局(GRU)を重用し始めたことを示すとの見方が出ているそうですけれども、イギリス国防省によると、東部ハリコフを攻略できなかった司令官や、旗艦「モスクワ」が沈没した黒海艦隊の司令官が相次いで更迭されたそうで、イギリス国防省は、「責任転嫁と隠蔽が横行している」と指摘しています。

また、調査報道で知られるロシア人記者アンドレイ・ソルダトフ氏とイリーナ・ボロガン氏は内部情報に基づき、「プーチン大統領が3月下旬に軍事作戦の目的を首都キエフ攻略から東部ドンバス地方の全域制圧に絞ったことへの不満が軍に広がっている」との分析を発表しています。

プーチン大統領の健康不安説に国内経済。そして軍部の不満と不安要因だらけです。ウクライナ侵攻がこのまま長期戦となれば、やはり時間と共にロシアが苦しくなることは明らかです。

そんな中で、核も化学兵器も、国家総動員体制も国内暴発やクーデターへの恐れで使えないとなると、このまま通常兵力を磨り潰しながら戦うしかありません。

一部では、ロシアは長期戦の備えを始めたなんて報道も出ていますけれども、プーチン大統領どこまで続ける積りなのでしょうか。


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