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目次
1.東部で攻勢を強めるロシア
5月24日、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は既に3ヶ月に及んでいるウクライナ侵攻について「全目標が達成されるまで特別軍事作戦を継続する」と長期戦を視野に入れていることを示唆する発言をしました。
ロシアは現在、ウクライナ東部の国境沿いにある親ロシア派武装勢力の拠点となっているドンバス地方と、南部の沿岸地域の制圧に注力していて、特に東部で戦闘が激化しています。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は「ドンバス地方におけるロシアの攻勢は冷酷な戦いであり、第2次世界大戦以降、欧州の領土で起きた中では最大のものだ」と述べた。
23日にはこの地方で激しい砲撃があったと伝えられ、ウクライナのゼレンスキー大統領は「今後数週間の戦いは困難なものになるだろう」と述べ、大きな被害を受けた都市としてドネツク州バフムート、ルガンスク州ポパスナとセベロドネツクを挙げています。
ルガンスク州のセルヒー・ハイダイ知事によると、ロシアはこの州に数千人規模の部隊を送り込んでおり、セベロドネツクは大規模な攻撃を受けているとのことです。ハイダイ知事はメッセージアプリのテレグラムで、市内に残っている推定1万5000人市民に対し、市外への避難の時機はすでに過ぎたとし、防空壕にとどまるよう呼び掛けています。
2.回廊を抑えたロシア
多大な被害を出しているロシア軍ですけれども、ウクライナ東部では、ウクライナ軍を大規模に包囲する作戦を放棄し、小規模な包囲戦へと切り替え、少しずつ侵攻範囲を広げているようです。
これについて、アメリカのシンクタンクの戦争研究所は「ロシア軍がセベロドネツクの包囲に成功すれば、市街戦がさらに長期化する可能性が高い」と指摘しています。
一方、ロシア軍が制圧したウクライナ南東部の港湾都市マリウポリでは、24日、ロシア側が地雷の撤去など復旧作業を続けていることから、マリウポリの占拠に注力する可能性が高いと見られています。
マスコミではウクライナが反転攻勢しているとか、国境までロシア軍を追い返したといった報道が目立ちますけれども、アメリカ戦争研究所による5月24日時点での戦況マップを見る限り、現時点では、ロシア軍はズタボロになりながらも、ロシアから黒海へと続く回廊を抑えたという事実は変わりません。
もっとも、占拠したことと、それらを維持することとは別です。占領であろうが自治であろうが、ロシア、ウクライナの勢力範囲、平たくいえば国境線が事実上変わったわけで、何百キロに渡る新しい国境線を守るためには、それなりの数の兵を配置する必要があります。
けれども、報じられているとおり、ロシア軍が多大な被害を出して、兵も弾薬も不足。同盟国や友好国は兵を出してくれず、兵器を製造しようにも経済制裁でそれもままなりません。
3.戦争の終結は外交を通じて獲得するものだ
5月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領は国内メディアによるテレビ・インタビューで、「勝利は困難なものになる。血を多く流し、戦場で勝ち取るが、戦争の終結は外交を通じて獲得するものだと、私は確信している……交渉のテーブルに着かなくては、終わらせることができない事柄がある。我々は全てを取り返したいが、ロシアは何も返したがらないからだ……重要なのは、命を惜しまず戦うウクライナ軍人の犠牲を減らすこと。今、貪欲になるべきではない」と述べました。
けれども、ゼレンスキー大統領は、つい二週間ほど前の5月3日には、クリミアを奪還すると息巻いていたのです。交渉は自身が優勢のときに行うべきで、戦況が不利になったから話し合おう、では足元を見られるだけです。このあたり、やはり政治的素人感が拭えません。
17日、ウクライナ政府の和平交渉団を率いるポドリャク大統領顧問はロシアとの協議は中断したままだと述べ、翌18日には、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官が、「交渉は全く進んでいない。ウクライナの交渉担当側に、このプロセスを継続する意欲が完全に欠けているようだ」と述べ、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所のウクライナ軍が「降伏」した後も交渉を再開しない可能性がかなり高いとの見方を示しています。
ペスコフ報道官は「交渉は全く進んでいない。ウクライナの交渉担当側に、このプロセスを継続する意欲が完全に欠けているようだ」と述べていますけれども、ロシアの報道によると、和平協議が最後に行われたのは4月22日だそうですから、かれこれ1ヶ月停戦交渉が行われていないことになります。
4.ウクライナ人が示したヒロイズムに知恵を合わせることを望む
5月25日、アメリカの金融ニュースサイト「ゼロヘッジ(Zero Hedge)」は、「ヘンリー・キッシンジャーが、ロシアとの和平のためにウクライナは領土を譲り渡すべきだと発言し、"ブルーチェック"が激怒」という記事を掲載しました。
先日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにビデオ出演した、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は「私は、ウクライナ人が示したヒロイズムに知恵を合わせることを望む」と述べ、この国の適切な役割は、ヨーロッパの辺境ではなく、中立の緩衝国であると言い添えました。
キッシンジャー氏は、エリートたちの集まりで、西側がその場のムードに流されて、ヨーロッパのパワーバランスにおけるロシアの適切な位置を忘れることは致命的であるとし、「簡単に乗り越えられないような動揺や緊張が生じる前に、今後2ヶ月の間に交渉を始める必要がある。理想的なのは、現状復帰が分水嶺となることだ。その先まで追求すると、ウクライナの自由のためではなく、ロシアに対する新たな戦争そのものになってしまう」とコメントしました。
これについて、記事は、「"現状維持"とは"以前はどうだったか"という意味で、ロシアがクリミア半島を公式支配し、ウクライナ東部のドネツク州の一部を非公式支配していた2月24日の状況を回復するための和平協定を、ウクライナは受け入れなければならないと暗に示しているのだ」としています。
また、キッシンジャー氏は、フィナンシャル・タイムズのカンファレンスに出席し、次のようなやりとりを行っています。
フィナンシャル・タイムズ 「バイデン政権は、地政学的な課題として、民主主義対独裁主義を掲げている。私は、それが間違った枠組みであることを暗に示唆していると思うのだが?」
ヘンリー・キッシンジャー 「私達は、イデオロギーや解釈の違いが存在することを意識しなければならない。この意識を利用して、問題が生じたときにその重要性を自ら分析すべきだ。むしろ、政権交代を政策の主要な目標とする覚悟がない限り、対立の主要な問題にするべきではない。技術の進化と、現在存在する兵器の巨大な破壊力を考えると、(政権交代を求めることは)他者の敵意によって押し付けられるかもしれないが、私達自身の態度によってそれを生み出すことは避けるべきだろう……私達は今、想像すらできなかったレベルの大惨事を引き起こす可能性のある技術に直面している。しかし、もしその兵器が実際に使用されたらどうなるかという議論は、国際的にほとんどなされていない……私達は今、全く新しい時代に生きていて、そのことを軽視してきたのだということを、どの立場であれ、まず理解してほしいというのが私の考えだ……その場に身を置いたことのある人間として、考えさせられる」
5月22日のエントリー「姿見えなくとも 遥か先で見守っている裁定者」で、アメリカ・シンシナティ大学のブレンダン・リッテンハウス・グリーン准教授とジョージタウン大学のキャサリン・タルマージ准教授の西側諸国がウクライナに圧力を掛けて停戦交渉させるべきだとする提言を紹介しましたけれども、キッシンジャー氏も2ヶ月以内に交渉するようにと、同じことを主張しています。
あるいは、この考え方はアメリカでは少数派とは限らないのかもしれません。
5.キッシンジャーのカレンダーは1938年のままだ
当然ながら、当のウクライナは全くそう思ってはいません。
25日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアが何をしようと『ロシアの利益を考慮しよう』と言う人が出てくる。今年のダボスでもそうした発言が聞かれた」と述べ、ロシアによるミサイル攻撃やウクライナ国民の殺害、ブチャやマリウポリの惨状、都市の破壊、「選別キャンプ」での殺害や拷問などに言及した。
その上でゼレンスキー大統領は「ロシアはこれら全てを欧州で行ってきた。それにもかかわらず、例えば今年のダボス会議ではキッシンジャー氏が遠い過去から現れ、ウクライナの一部をロシアに譲渡すべきだと主張している……キッシンジャー氏のカレンダーは2022年ではなく1938年のままであり、ダボスではなく当時のミュンヘンの聴衆に向け話をしていると考えているようだ」と厳しく批判し、1938年当時15歳だったキッシンジャー氏の家族がナチス・ドイツから逃れたことにも言及しました。
そして、ゼレンスキー大統領は、「偉大な地政学者」が必ずしも普通の人々に目を向ける訳ではないとも述べ、「彼らが平和の錯覚と引き換えに譲渡を提案する土地には何百万人もの普通のウクライナ人が実際に暮らしている」と釘を刺しています。
また、ウクライナ国民も領土割譲など考えていません。
ウクライナの調査機関であるキーウ国際社会学研究所が5月13日から18日に掛けて2000人を対象に行った世論調査によると、和平のための領土割譲を容認できるとの回答は全体の10%で、8%が未決定と、実に82%が戦闘が長期化して国家の独立性への脅威が高まることになってもロシアとの交渉で領土を割譲すべきでないとの結果となっています。
また、ロシアが占領する地域の住民に限っても77%が領土割譲に反対とのことですから、やはりキッシンジャー案がそのまま受け入れられるとはとても思えません。
6.逆さまに掲げられたウクライナ国旗
5月23日、今回で2回目となるウクライナの軍事的支援のためのアメリカ主導のオンライン会議が開かれました。会議には47ヶ国が参加し、うち20ヶ国以上が新たな軍事支援を表明しました。
会議の冒頭、アメリカのオースティン国防長官は「ウクライナの戦いが続く今、私たちの取り組みをさらに増強する必要があり、全員が今後の課題に備えなければならない。ウクライナ軍は私たちの継続的な支援を必要とするだろう」と述べ、ウクライナへの支援を継続することが重要だと改めて訴えました。
会議では、ウクライナのレズニコフ国防相や軍の副司令官も出席し、最新の戦況を共有したということです。
会議後の会見で、オースティン国防長官はデンマークやイタリア、ポーランドなど20ヶ国以上がウクライナへの新たな軍事支援を発表したと明らかにし、今回の会議からオーストリアやコロンビアなど数ヶ国が新たに加わったと述べ、「我々の力を結集させることで、将来のロシアの侵略を抑止することができる」と強調しています。
けれども、ネットでは、会場に掲げられたウクライナの国旗が逆になっていると指摘され、話題になっています。
確かに国防総省のサイトでも、ウクライナの国旗は黄色が上になっていて逆さまです。
47ヶ国も参加した会議で、よりにもよって当事国であるウクライナの国旗を逆にするなど、失態もいいところです。
普通はこんなことは考えられません。筆者はこれはアメリカが「わざと」やったのではないかと穿っています。
つまり、この戦争でウクライナが近いうちに負けるというメッセージを、暗に参加国に伝えたのではないかということです。敗戦後の準備をしてくれと参加国に伝えたのではないか。
3月26日にワルシャワで行われたウクライナ・アメリカ両政府の外務・防衛担当閣僚による「2+2」協議では、もちろんウクライナ国旗は正しい位置になっています。
昨日行われた米軍同盟国ズーム会議で。
— マヨ (@littlemayo) May 25, 2022
🇺🇦の旗が逆さま😂😂😂https://t.co/IWlOR3uVks https://t.co/H8ABNIPZFG
7.出口戦略を考え始めたバイデン
今や、バイデン政権の支持は地に落ちています。
AP通信が、アメリカ国内に住むおよそ1200人の成人を対象に今月12日から16日に実施した世論調査で、バイデン大統領を支持すると答えた人は39%と、先月から6ポイント下がり過去最低となりました。就任した直後の61%から3割以上落ちています。
特にバイデン大統領の経済政策を支持する人は2割にとどまっています。他にも武漢ウイルス対策や相次ぐ銃撃事件、粉ミルクの不足など国内問題に加えて、ウクライナ危機など課題が山積みで民主党員の支持率でさえ先月の82%から73%に下落しています。
これが共和党員に至ってはたったの5%になっていて、政権発足時に掲げていた「団結」とは程遠い状況です。
5月18日のエントリー「アメリカがロシアに突きつけた停戦3条件」で、筆者は、バイデン大統領は自分の政策の不始末を全部ロシアになすりつけることで、次の中間選挙を乗り切ろうとしているのではないかと述べましたけれども、このまま長期化して、延々とウクライナ支援を続けても支持率回復はないと諦めたのかもしれません。
果たして、米欧がウクライナに圧力を掛けて停戦交渉にもっていくのか分かりませんけれども、バイデン政権もこのままではじり貧になると、出口戦略を考え始めたのかもしれませんね。
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