日本が描く勝利の方程式

今日はこの話題です。
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1.日本の防衛体制を抜本的に強化しなければならない


5月29日、自民党の茂木幹事長は熊本市内で講演し、敵のミサイル発射基地などを攻撃する「反撃能力」や防衛費の増額を、夏の参院選の自民党の公約に盛り込む考えを表明しました。

講演で茂木幹事長は、「ロシア、中国、北朝鮮と、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、日本の防衛体制を抜本的に強化しなければならない」と指摘し、防衛費について、「来年度予算の防衛費は、これまで5兆円台だったのを、6兆円台半ばか、それ以上まで持っていく。そして、5年以内に対GDP比2%も念頭に、きちんと防衛力を整備できる予算水準を確保したい」と述べました。

また、敵のミサイル基地や指揮統制機能などを攻撃する「反撃能力」についても「しっかり持っておくことが抑止にもつながり、いざという時に国民の生命や財産を守ることにつながっていく。参院選の公約に、そういったことをしっかり書き込んでいきたい」と述べています。


2.攻者3倍の法則


5月31日、防衛省防衛研究所は2022年版「東アジア戦略概観」を公表し、中国に対処する防衛費の水準として、今年度の倍近い「10兆円規模」との考え方を示しました。

費について水準まで示して詳述するのは初めてのことで、自民党内からは増額を下支えする「理論」として歓迎の声が上がっているようです。

今回防衛費について触れたのは「第8章 日本――大国間競争の時代に求められる政治的選択」の「2 日本の防衛費の相対的低下と課題」の節で、高橋杉雄・防衛政策研究室長が執筆しています。

該当部分を抜粋すると次の通りです。
中国は日本をはるかに上回るペースで国防費を増加させてきており、その差は開く一方である。2019 年に、米国トランプ政権のマーク・エスパー国防長官が、日本を含む同盟国の防衛費について、GDP2% の水準が望ましいと発言したが、先ほどみた東アジアにおける国防支出のシェアを見てみるとそれも故なきものではない。20 年前であれば、GDP1% 弱であっても日本の防衛費は東アジアの 38% を占めていた。しかし現在では半分以下の 17% に低下している。東アジアで最大の国防費を支出しているのは中国だが、日本と中国との比率は、2000 年がほぼ 1 対 1 だったものが、2020 年には 1 対 4.1 となった。

これが仮に 2%、すなわち現在の倍の水準であれば、2020 年における比率は 1対 1.95 となり、2000 年の状況には及ばないものの格差は大きく改善することになる。

軍事戦略においては、一般的に「攻者3倍の法則」と呼ばれ、攻撃側は防御側に対して 3倍の兵力が必要とされる。そして日本の安全保障の目標は現状維持である。つまり、攻勢的な外征作戦によってどこかを占領するのではなく、防御的な作戦によって現状を維持できれば目的は達成できる。

もちろん、日本は米国と同盟関係にあり、在日米軍および増援を期待することができる。ただし、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)にも、「日本は、日本の国民および領域の防衛を引き続き主体的に実施し、日本に対する武力攻撃を極力早期に排除するため直ちに行動する」と記述されているとおり、自国領土の防衛について一義的に責任を持つのは日本である。そう考えると、尖閣諸島周辺における中国の一方的な現状変更の試みに対処しなければならない日本の防衛費の水準として、中国の 3 分の 1 以上、2 分の 1 をやや下回る程度くらいを、安定的な抑止力の確保のための 1 つの目安と考えることもできる。

仮に、単純に日本と中国の防衛費に当てはめれば、GDP の 2%、すなわち約 10 兆円であれば、中国との比率は 1 対 1.95 となる。仮に 7 兆円と考えると、比率は1対 2.76 となり、ほぼ 3 分の 1 のレベルになる。ただし、中国の国防費はこれまでも伸びてきたし、これからも伸びて行くであろうから、2020 年度の水準を与件とするのは妥当ではない。中国の国防費のこれからの伸びを考慮し、その 3 分の 1 を目安とするならば、防衛費の水準は 10 兆円規模になるという考えもあり得る。

なお、10 兆円とは、2020 年度のキャッシュフローを表す歳出予算現額では、公共事業費(約 13 兆円)をやや下回る水準の支出にあたる。絶対額で見ると、社会保障費、国債費、地方交付税交付金に次ぐレベルとなるが、社会保障費の約 5 分の 1、国債費の約 2 分の 1、地方交付税交付金の約 3 分の 2 程度である。
これについて、マスコミは「日中の防衛費は2000年時点で並んでいたものの、2020年に「1対4.1」に開いたと指摘した上で、「攻撃側は防御側に対して3倍の兵力が必要とされる」という『攻者3倍の法則』を展開。中国の国防費の伸びを考慮して「3分の1」を目安とする場合、日本の防衛費の水準について『10兆円規模になるという考えもあり得る』としている」と掻い摘んで説明していますけれども、原文では「日本の安全保障の目標は現状維持である……尖閣諸島周辺における中国の一方的な現状変更の試みに対処しなければならない日本の防衛費の水準として、中国の3分の1以上、2分の1 をやや下回る程度くらいを、安定的な抑止力の確保のための1つの目安」と、尖閣周辺に限定し、かつ現状維持するためにはと条件がついています。

また、中国の3分の1の予算を目安としているのは、おそらく「攻者3倍の法則」から、守る兵力は敵の3分の1でよいというところから持ってきているのだと思われますけれども、予算を3倍にしたからといって、即兵力が3倍になるとは限りません。日本の自衛隊は志願制であり、年々志願者が減っていると言われています。

兵力増員できなければ、その分を装備その他で補うことになりますから、下手をすればGDP2%、10兆円でも全然足りなくなることだってあり得ます。


3.炎上した財務省の見解


4月20日、財務省は防衛関係予算に関する資料を公開しました。

財務省はその中の「防衛装備の必要性に関する説明責任」という項目で、ウクライナの戦⾞・装甲⾞に対する戦い⽅を例に挙げ、「物量で勝るロシア軍に対し、ウクライナは⽶国製の携帯型対戦⾞ミサイル「ジャベリン」等を使⽤して激しく応戦。多くの戦⾞・装甲⾞の破壊に成功」「戦⾞や機動戦闘⾞と⽐較して、ジャベリンは安価な装備品であり、コスト⾯において、両者はコスト⾮対称。物量で勝る敵⽅に対抗するために、対戦⾞ミサイル等を活⽤することはコストパフォーマンスを⾼める可能性」と述べ、「⼀部の防衛装備に関して、環境変化への対応や費⽤対効果の⾯をはじめとして様々な課題を指摘する声もある」、「こうした課題を抱える装備品に引き続き依存することが最適と⾔えるのか、また⼤きなコストを投下しなければならないのか、防衛⼒を強化していく上で、その必要性について改めて国⺠に説明を尽くす必要があるのではないか」と、あたかも戦車など不要ではないかといわんばかりの主張をしました。

このもの言いにネットは炎上。「ジャベリンを撃った剥き身の兵士の消耗についてはどう考えてるのだろうか?」、「財務省が防衛省へ国防オンチな介入」、「日本の財務省は防衛費を抑制しようと、当のウクライナが『戦車を寄越せ』と要求していることを意図的に無視して、自衛隊も対戦車ミサイルで戦えと言い出した」と非難轟轟。

これに識者も反応し、日米の安全保障が専門の小谷哲男・明海大教授は「戦車は高いのでジャベリンの方が費用対効果が高いとか、北朝鮮の弾道ミサイルの迎撃は核搭載の可能性は無視して費用対効果が低いとか、論点満載」と突っ込めば、自民党の長島昭久衆院議員が「この財務省文書を完膚なきまでに論破する必要がある」と怒り心頭のツイートをするなど、ボロクソです。当然の反応かと思います。

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4.日本は2つの選択肢をめぐる議論を回避できない


先程取り上げた防衛研究所の2022年版「東アジア戦略概観」には次のような指摘があります。

日本は次の 2つの選択肢をめぐる議論を回避できないということである。1つに、財政破綻を高めるリスクを負って、抑止力を根本的に強化するために、防衛費を公共事業費と同程度、新型コロナウイルス流行以前の社会保障費の3 分の 1 程度に増額させるかという選択肢である。もう 1 つは、財政破綻リスクを重視して、軍事バランスにおける決定的な劣勢を甘受し、抑止破綻のリスクを負うかである。この問題を考える際、公共事業など他の政策目標と比較して、防衛にどの程度のプライオリティをおくのか、という考慮が必要となるであろう。

つまり、今の日本は、「財政破綻を高めるリスクを負って、防衛費を公共事業費と同程度にする」か「財政破綻を回避する代わりに防衛抑止破綻のリスクを負うか」の二者択一を迫られているということです。

日本が本当に財政破綻をするのか云々の議論は脇に置くとしても、普通に考えれば後者一択です。日本が占領されてしまえば財政破綻も糞もありません。

今回の2022年版「東アジア戦略概観」では、防衛費増額の理由について述べられていますけれども、これは財務省のいうところの「防衛⼒を強化していく上で、その必要性について国⺠に説明をすべし」という主張に対する答えになっているとみてよいのではないかと思います。


5.セオリー・オブ・ビクトリー


2022年版「東アジア戦略概観」では、防衛費の増大について国民の理解を得るために必要なこととして次のように述べています。

闇雲に数値目標を定めて防衛費を増大させることはできないし、そもそもそれは望ましいことでもない。具体的にどのような兵力構成を目指すのか、それによってどのような戦略的効果が達成されるのか、そういった点を明確にしない限り、日本の安全保障をめぐる環境を改善できるような形で防衛費を増大させていくことはできない。特に、具体的にどのような能力をどのような形で使うのか、現状では何が足りないのかを明確化しなければ、防衛費の増大について国民的な理解を得ることは難しい。

単純な数値目標ではなく、何をどう使うのかという中身を明確にせよということです。これは現場からみた正論かと思います。

「東アジア戦略概観」は、その中身について次のように続けています。

この文脈で重要なのが、「セオリー・オブ・ビクトリー」という概念である。これは、軍事専門家の間で最近よく言及されるようになったもので、抑止が破れて戦争になってしまった場合に、どのように戦って戦争の目的を達成するかという「戦い方」を表す。一般的に安全保障に関わる戦略は、大戦略→軍事戦略→作戦計画という階層構造にあるとされるが、「セオリー・オブ・ビクトリー」とは、このうち軍事戦略と作戦計画との中間に位置付けられる。

なかなか日本語になりにくい概念なのだが、あえて言えばサッカーで言う「ゲームモデル」や、プロ野球でいう「勝利の方程式」に語感としては近い。

「セオリー・オブ・ビクトリー」を構築できれば、特に重要な能力を把握することができる。そうすれば、それらの能力を「どのような形で使うのか」、「現状では何が足りないのか」を明確化することができるし、防衛費の増大によってどのような戦略的効果がもたらされるかをより具体的に示すことができるであろう。その意味で、新たな国家安全保障戦略や防衛計画の大綱の策定を通じて、「セオリー・オブ・ビクトリー」の構築に向けた議論を進めていくことが急務となっている。

ここで「安全保障に関わる戦略は、大戦略→軍事戦略→作戦計画という階層構造にあるとされる」とまさに「戦略の階層」の概念を持ち出しています。まぁ「戦略の階層」が一般的かどうかは分かりませんけれども、プロからみてもこの考え方は重要だということです。

「東アジア戦略概観」では、「戦略の階層」でいう軍事戦略と作戦との中間に位置付けられる「セオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)」という概念を出し、抑止が破れて戦争になってしまった場合に、どのように戦って戦争の目的を達成するかという「戦い方」を決めておくべきだと提言しています。、

逆にいえば、日本は、今の今まで、戦い方や勝ち方を決めていないことを意味するのですけれども、言葉を変えれば、戦後70年、お花畑の中にいたということでもあるかと思います。

それをロシアのウクライナ侵攻が、現実世界に引きずりだした。そういう面もあるのではないかと思います。

だからこそ、日本は国民全員が日本の「セオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)」を意識して考え、議論する必要があります。

なぜなら、「東アジア戦略概観」が指摘するように「セオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)」がなければ、日本の防衛力に何が足らないのか、何を強化しないといけないかが分からないからです。

激動の世界情勢の中では、何もしないで「現状維持」など不可能です。

日本にとっての「セオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)」とは何か。

小野寺元防衛相は、「『日本はしっかりしている』と思わせることが大事だ」と述べていますけれども、政府も単に予算案をつくるだけではなく、日本の防衛について、世界観と「セオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)」を国民に示すことが何よりも大切なのではないかと思いますね。

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