積極財政に軸足を置いた岸田政権

今日はこの話題です。
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1.骨太の方針2022


5月31日、政府の経済財政諮問会議は第7回会合を開催し、「経済財政運営と改革の基本方針 2022(仮称)」(原案)を公表しました。

この原案から目次だけ拾うと次の通りです。
経済財政運営と改革の基本方針 2022(仮称)
(目次)

第1章 我が国を取り巻く環境変化と日本経済
1. 国際情勢の変化と社会課題の解決に向けて
2. 短期と中長期の経済財政運営
(1) コロナ禍からの回復とウクライナ情勢の下でのマクロ経済運営
(2) 中長期の経済財政運営

第2章 新しい資本主義に向けた改革
1. 新しい資本主義に向けた重点分野
(1)人への投資
(2)科学技術・イノベーションへの投資
(3)スタートアップへの投資
(4)グリーントランスフォーメーション(GX)への投資
(5)デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資
2.社会課題の解決に向けた取組
(1)民間による社会的価値の創造
(2)包摂社会の実現
(3)多極化・地域活性化の推進
(4)経済安全保障の徹底

第3章 内外の環境変化への対応
1. 国際環境の変化への対応
(1)外交・安全保障の強化
(2)経済安全保障の強化
(3)エネルギー安全保障、食料安全保障の強化
(4)対外経済連携の促進
2. 防災・減災、国土強靱化の推進、東日本大震災等からの復興
3. 国民生活の安全・安心
5月5日、岸田総理がイギリス・ロンドンの「シティ」で演説を行い、新しい資本主義として「人への投資」、「科学技術・イノベーション投資」「スタートアップ投資」「グリーン、デジタルへの投資」を訴えていますけれども、今回の原案の第2章1節とほぼ同じです。


2.再建・積極両派に「反映します」


この「経済財政運営と改革の基本方針 2022(仮称)」(原案)が公表された前日の5月30日、自民党の「財政健全化推進本部」と「財政政策検討本部」はそれぞれ岸田総理に提言を行いました。

前者は財政再建派で、後者は積極財政派が中心となっている組織で、岸田総理は双方に「いい方向でまとめてもらった……しっかり検討する」と述べ、今回の方針に反映させる考えを伝えていますけれども、翌日に原案がスッと出せたということは、提言を受け取った時点で、ほぼほぼ案は出来ていたと思われます。

推進本部は麻生太郎副総裁、検討本部は安倍晋三元首相がそれぞれ最高顧問を務め、財政再建と積極財政と、それぞれ見ている方向が違っているのですけれども、両本部で事前に折り合いを付けられたことでなんとか提言を受け取る形が取れたのではないかと思います。


3.「成長と分配」vs「財政と成長」


「財政健全化推進本部」と「財政政策検討本部」とでそれぞれの提言を纏めるにあたっての内幕については、5月23日のエントリー「岸田デスと平八郎の乱」で取り上げましたけれども、それぞれの提言の見出しを拾うと次の通りです。
5月19日 財政政策検討本部提言
・持続的成長がPBを黒字化する
・多額の国債残高の償還について
・今為すべきは中長期の財政政策

5月26日 財政健全化推進本部報告
・危機に対処し、持続可能な未来を切り開くために
・基本的考え方
 経済成長につながる財政~新たな行動を促す経済社会に
 政策は中身と結果の検証が大事
 世界の財政運営はどうなっているか
 世界の情勢変化と信用確保の必要性
  (経済・金融の情勢変化)
  (リスクへの備えの必要性)
  (急激な環境変化の中における政策対応と財政健全化)
・各分野の政策
 社会保障
 研究開発と高等教育
 社会資本整備
 産業・中小企業
 脱炭素
・各分野の政策を効果的に実施する枠組み
・おわりに
見出し数だけみると、結構差があるのですけれども、筆者なりに、その違いを一言でいうのなら、財政政策検討本部が「成長あっての分配」としているのに対し、財政健全化推進本部が「財政あっての成長」と成長と分配の順番が互いに逆になっているように思います。


4.財務省ロジックは通じなくなった


では、政府が出した「経済財政運営と改革の基本方針 2022(仮称)」(原案)ではどうなったのか。

原案の、第1章の2.「短期と中長期の経済財政運営」に、経済財政運営に関して次のように記載されています。
国際商品・金融市場をはじめ世界経済の不確実性が大きく増す中、我が国のマクロ経済運営については、当面、2段階のアプローチで万全の対応を行う。コロナ禍からの回復が依然として脆弱であることに鑑み、まずは、ウクライナ情勢に伴う原油・原材料、穀物等の国際価格の高騰や希少物資の供給懸念等に対する緊急対策を講じることにより、コロナ禍で傷んでいる国民生活や経済への更なる打撃をできる限り抑制し、特に弱い立場にある方々を全力で支援する。これにより、経済の腰折れを防ぎ、コロナ禍からの経済社会活動の回復を確かなものとしていく。

また、今後も感染症の再拡大やウクライナ情勢の長期化に伴う原油価格・物価の更なる高騰の可能性など予断を許さない状況は続くと見込まれることから、予備費の活用等により予期せぬ財政需要にも迅速に対応して国民の安心を確保する。

その上で、第2段階として、本基本方針や新しい資本主義に向けたグランドデザインと実行計画をジャンプスタートさせるための総合的な方策を早急に具体化し、実行に移す。

これにより、中長期的な課題に対応しつつ、コロナ禍で失われた経済活動のダイナミズムを取り戻し、新陳代謝と多様性に満ちた裾野の広い経済成長と成長の果実が隅々まで行き渡る「成長と分配の好循環」を早期に実現する。あわせて、国際的な人の往来や観光需要の回復、対日直接投資の更なる推進等を通じて旺盛な海外需要を日本経済に取り込む。また、エネルギー分野を始め国際環境の変化にも強靱な経済構造に向けた改革を進め、世界の構造変化を日本がリードしていく。

今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進める経済財政運営の枠組みを堅持し、民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け、経済状況等を注視し、躊躇なく機動的なマクロ経済運営を行っていく。日本銀行においては、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。
このように、目下は武漢ウイルス禍、ウクライナ情勢に対する財政支出を行い、その次に経済成長と改革を目指す、と2段階で行うとしています。

ここでは「成長と分配の好循環」とはっきりと明記されており、これは財政政策検討本部の「成長あっての分配」の考え方が反映されたものと見てよいのではないかと思います。要するに「積極財政」を軸にしたということです。

岸田デスと平八郎の乱」のエントリーで、財政健全化推進本部の提言取り纏めがモメにモメたことを取り上げましたけれども、どうやら、財務省の思惑を色濃く反映した当初案は、自民党の若手議員を中心にボコボコに叩かれたそうなのですね。

なんでも若手議員は、嘉悦大学教授の高橋洋一氏から財政政策のレクチャーを受けていて、「財政破綻ガー」といつも財務省が使うロジックが通じなくなっているのだそうです。

実に喜ばしいことです。




5.「成長あっての分配」の完全勝利


岸田デスと平八郎の乱」のエントリーで、今回の政府の基本方針について、ジャーナリストの須田慎一郎氏が「財務省の完敗だ」と述べていますけれども、確かに財務省が推し、今年1月に正式に決まったばかりの「国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年度に黒字化する」という財政健全化目標について再検証することが、盛り込まれています。

原案の第4章1節「中長期の視点に立った持続可能な経済財政運営」には次のように記載されています。
1. 中長期の視点に立った持続可能な経済財政運営
第1章で述べた時代認識とそれに対して必要な取組や政策の方向性を踏まえ、持続可能な経済財政運営を行う。

まずは、急激な輸入物価上昇の中にあって、安定的な物価上昇の下での持続的かつ力強い経済成長の実現が重要であり、第1章で述べた経済財政運営に関する枠組みの下、「成長と分配の好循環」を拡大する。特に、資本主義のバージョンアップに向けて、社会課題の解決に向けた官民連携を成長の源泉とする。このための計画的な重点投資、規制・制度改革を通じて力強い成長を取り戻すとともに、分配戦略により成長の果実を幅広く行き渡らせる。

その際、予算の単年度主義の弊害を是正する。税制の将来にわたる効果を見据えた動的思考を活用する。また、成長と分配の好循環に資する官民投資に重点化し、構造変化を促すインセンティブ・仕組みを構築するとともに、個々の予算を効果的・効率的なものとし、成果の検証の強化を進める。

財政健全化の「旗」を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む。経済あっての財政であり、現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない。必要な政策対応と財政健全化目標に取り組むことは決して矛盾するものではない。経済をしっかり立て直し、そして財政健全化に向けて取り組んでいく。ただし、感染症及び直近の物価高の影響をはじめ、内外の経済情勢等を常に注視していく必要がある。
このため、状況に応じ必要な検証を行っていく。
この中で「財政健全化の『旗』を下ろさず」とか、「経済あっての財政であり」とか、「必要な政策対応と財政健全化目標に取り組むことは決して矛盾するものではない」などと記されているのを見る限り、相当に財政政策検討本部の「成長あっての分配」の考え方に押し込まれたことが分かります。

挙句の果ては「経済をしっかり立て直し、そして財政健全化に向けて取り組んでいく」ですからね。「成長あっての分配」の完全勝利といってよいのではないかと思います。

岸田総理は、先の総裁選で当初、「分配からの成長」といっていたのが、途中で「成長あっての分配」に変わったように記憶していますけれども、今回の「経済財政運営と改革の基本方針 2022(仮称)」(原案)で明確に「成長あっての分配」の方針に舵を切ったことが確定しました。

もしかしたら、これは岸田総理の本意ではないのかもしれませんけれども、決まった以上は"神輿"でもなんでも乗っかって、日本経済をしっかり成長軌道に乗せていっていただきたいと思いますね。



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