零れ落ちる対ロシア経済制裁

今日はこの話題です。
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1.EUの対ロシア追加制裁


5月30日、欧州連合(EU)は首脳会議で対ロシア追加制裁に合意したことを受け、6月2日に欧州連合大使級会合を開いて追加制裁の最終案を承認しました。

対ロシア制裁のポイントは次の通りです。
・海上輸送によるロシア産石油輸入禁止。パイプラインは一時的に対象外
・ズベルバンクなどロシア3銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除
・ロシア国営放送3社をEU域内で営業停止
・ウクライナでの戦争犯罪行為に関わったロシア人の個人資産凍結、渡航禁止
ここでロシア産石油輸入禁止については、全面禁輸ではなく、パイプラインは一時的に対象外にするといった部分的なものですけれども、シャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)によると、これにより、EUが輸入する露産石油の3分の2以上が禁輸対象となり、ポーランドやドイツは、パイプラインで輸入するロシア産原油も停止する方針を示しています。

ミシェル欧州理事会常任議長は、「自分たちの利益を守るため、EUが結束できるという強いメッセージを示せた」と述べ、年末までにはロシア産石油の90%が禁輸される見通しとしています。

では、なぜ全面禁輸でなかったのかというと、ハンガリーが反対したからです。


2.ハンガリーが反対する理由


ロシア産原油の対EU輸出は、現在3分の2がタンカー、残りの3分1はパイプラインで運ばれています。

そのため、今回の海上輸送によるロシア産石油輸入禁止措置であっても、EUの原油輸入の過半が絶たれることになります。一方、ハンガリー、スロバキア、チェコの内陸部の3ヶ国は、ドルジバ・パイプラインによる陸上輸送に依存しています。

今回の追加制裁措置を巡って、輸入する石油の4割以上をロシアからのパイプラインに頼っているハンガリーは、国内経済の破壊につながるとして反対していました。

ハンガリーのシーヤールトー外貿相は「ハンガリー国民が戦争の代償を払わされる訳にはいかない……この制裁措置がハンガリーにもたらす問題について、欧州委員会委員長に書簡で詳しく伝え、再考をお願いした。欧州委員会が解決策を提示しない限り、ハンガリーはこの制裁策を支持することはできない」とし、導入までの猶予期間の設定ではなく国民生活への影響を回避できる代替案の提示を求めていました。

また、シーヤールトー外貿相は5月10日にブリュッセルで会見し、「欧州委員会の提案は、ハンガリーの安定的なエネルギー供給を破壊してしまう……ブリュッセルは、自分が引き起こした問題を解決しなければならない。そして、ハンガリーが制裁パッケージを支持するかどうかは、それからしか話すことがでない」と懸念を示していました。

安価な石油・ガスが調達できなくなれば、ガソリン価格はリットル700フォリント(約245円、1フォリント=約0.35円)、軽油も800フォリントに値上がりすることが予想され、家庭向けの光熱料金も大幅に上げざるをえなくなるのが実情です。

更に、ハンガリーのシンクタンクであるサーザッドヴェーグが、5月9日に発表した世論調査によると、回答者の89%が、ロシアへの経済制裁はEUとその経済に有害であるとし、71%がこの制裁を天然ガスや石油などのエネルギー商品に拡大することに反対と、ハンガリー国民の大多数が対ロシア追加経済制裁の発動を支持していないことが明らかになりました。

そして、ハンガリーの首相は、EU諸国のどの国のリーダーよりも親ロシア的なポピュリスト政治家だとされるオルバン氏であることを抜きにしても、ハンガリーにとって、ロシア産原油の輸入停止は死活問題だということなのでしょう。


3.我々は準備期間を手に入れた


これに対し、6月1日、ロシアのペスコフ大統領報道官は「これらの制裁は欧州全体、欧州の人々やわれわれ、そして世界のエネルギー市場全体に悪影響を与えるだろう」と述べ、ロシア政府は制裁発動を受けて既に供給ルートを変更したとしています。

そして、ペスコフ大統領報道官は記者団に「的を絞った体系的な対応でマイナスの影響を最小限に抑えられる」と語っています。

これについて、シナラ・インベストメント・バンクのアナリストチームは「EUが発表した措置は脅威に思えるとはいえ、目先的にも半年後でもロシアの石油セクターを機能不全にするほどの影響はないだろう。ロシアの石油生産者は物流面の問題を解決し、顧客ベースを変更する時間がある」と指摘しています。

このチームによると、昨年末時点でロシアの石油輸出の60%はEU向けで、輸出量は日量約300万バレルだったのですけれども、足元では既にアジアのロシア産石油購入規模が欧州を上回り、3月以降、EUの輸入量は225万バレルに低下し、落ち込んだ分の一部は中国とインドに向かったそうです。

ロシアの証券会社であるBCSグローバル・マーケッツは、欧州がロシアに代わる調達先を見つけ、必要なインフラを整備するまでには数年かかる一方、今後半年から8ヶ月はロシア産石油の禁輸を実行するのが難しいと予想し、ロシアから欧州に大量の石油と石油製品がこの先1年か2年、公然とあるいはグレーな形で流れ込み続ける」としています。

更に、あるロシアの石油企業関係者は「我々は準備期間を手に入れた。もちろんEUの禁輸は石油と石油製品の生産減少につながるかもしれない。だが1年でそのマイナスは帳消しになると信じている」と楽観的な見通しを示しています。

このようにEUの追加制裁でのロシア産原油を禁輸とて、代替調達先に切り替えるまでの間が、いわば準備期間としてロシアに対応する時間を与えたことになるというのですね。

ある石油取引関係者の1人は、欧州向けに想定していた輸出分はアジアに切り替え可能で、その第1弾は全てインドに向かうと漏らし、EUの禁輸について「ロシアにとって決して大きなショックにはならない。当面はインドが全部購入してくれる」と説明しつつ、中国の需要に関しては武漢ウイルスの感染状況の関係でどうなるか分からないと述べています。


4.ロシアへの経済制裁は無意味で世界の貧困者を犠牲にする


こうした状況に対し、イギリスのガーディアン紙は5月30日「ロシアへの経済制裁は無意味で世界の貧困者を犠牲にする。やめるべきだ」と訴える論説記事を掲載しました。

件の論説記事の主旨は次の通りです。
・英国の600万世帯が、ヨーロッパ中の消費者と同様、ロシアに対する制裁を維持するために、この冬の朝と夕方の停電の可能性に直面している。
・ガス・石油の代金の支払いを停止するというEUの提案は、当然のことながら、ロシアに近くその化石燃料に大きく依存している国々によって反対されている。
・ドイツは石油の12%とガスの35%をロシアから購入しており、ハンガリーはこれよりもはるかに高い。
・外交上の妥協案が提起され、ハンガリーとドイツのためにパイプライン経由の輸入に対する制裁が免除されたが、実際的な計画は合意されていない。
・EUは、いくつかの容認できない政策を変えさせるために外国の体制を変えさせるよう誘導しようとしているが、そのようなことが起きることはめったになく、ロシアに対する場合、それは露骨に失敗した。
・制裁措置はロシアの信用を損なう可能性があるものの、世界のガス価格は70%高騰し、ロシアの国際収支は黒字になっている。中央銀行によると、経常収支の貿易黒字は現在、侵略前の水準の3倍を超えている。同時に制裁措置は、それを課している西ヨーロッパと中央ヨーロッパの国々を明らかに傷つけている。
・制裁措置には、解除が難しいというひどい習性がある。
・制裁に対してロシアがどうリアクションしたがといえば、ヨーロッパへのガスを遮断するぞと脅し、価格を押し上げてロシアに有利にした。
・ロシアはすでに、何百万トンものウクライナの穀物が通常は外の世界に出荷されている黒海の港を封鎖している。
・この封鎖により、穀物価格は2019年を基準とすれば48%上昇し、特にアフリカ全体で、市場は壊滅的なものになった。これにより、ロシア自身の大量の穀物輸出の価値が高まることになった。
・NATOは、ウクライナでの戦争をヨーロッパ全体の紛争にエスカレートさせないことに賢明に細心の注意を払ってきた。
・制裁はそのように繊細にはいかない。エネルギーの価格が高騰するにつれ、ヨーロッパ中とその海岸から遠く離れた何百万もの無実の人々が苦しむことになる。 供給ラインが途絶え、貿易関係は崩壊する。犠牲者は圧倒的に貧しい人々だ。
・ロシアにウクライナからの軍隊の撤退を強いるという目的は、明らかに達成されていない。
・軍事援助ははるかに効果的だったが、しかし、ヨーロッパの他の地域や外の世界に与えられた害は今や明白だ。
・EUは、ウクライナの戦争努力は支援し、ロシアに対する経済制裁は撤回することに拘る必要がある。
このように西側諸国の対露制裁について、ロシアに与えるダメージよりも西側諸国自身が受けるダメージが大きいから、ウクライナの戦争支援はしても、対露制裁は撤回すべきだ、というのですね。

一見合理的にも見える論説ですけれども、結局これは、ロシアの資源外交に負けたことを認めるも同じです。仮にウクライナの戦争努力を支援して、対露経済制裁を解除したとしても、今度はロシアがウクライナへの援助を続けるのなら石油・ガスの供給を止めると嵩に掛かって脅してくるだけです。

最後にはウクライナと自身の国の経済を天秤に掛けることになるでしょう。要するに、西側諸国にとって、ウクライナ侵攻が長引けば長引くほど、天秤の片方の皿から分銅を取り除く時が近づくということです。

そう考えていくと、西側諸国の対露制裁は諸刃の剣であり、事態が長期化すればするほど、どこかで我慢の限界点がくることになります。

今後、対露制裁も、各国の経済状況に合わせ、櫛の歯が抜けていくように抜け落ちていくのかもしれませんね。


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