骨太の方針2022に仕込まれた財務省の毒

今日はこの話題です。
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1.大紛糾した自民党政務調査会全体会合


6月3日、自民党政務調査会は、1日に続いて全体会議を開き、政府が取り纏める、今年の「骨太の方針」について意見を交わしました。

この中で政府側は、党の議論を踏まえて修正した原案を示し、防衛費について、NATO(北大西洋条約機構)加盟国がGDPの2%以上を目標としていることを例示したうえで、防衛力を抜本的に強化する期限を「5年以内」と明記しました。

これに対し、出席議員からは「防衛費をGDPの2%を念頭に増額する方針をしっかり明記すべきだ」という意見が相次ぎました。

また、財政政策をめぐっては、去年の「骨太の方針」に基づいて経済財政改革を進めるとした原案の表現について「去年の方針を基準にするのは適切ではない」として、修正を求める意見が出されました。

このため、3日は政府が提示した案は了承されず、来週6日に改めて議論することになりました。

元々、1日の会合で纏まらず3日に持ち越しとなった訳ですけれども、この日も議論が紛糾し纏まりませんでした。


2.安倍元総理の絶大な影響力


5月31日、経済財政諮問会議で政府は「骨太の方針」の原案を示し、そこで防衛費について「安全保障環境は一層厳しさを増している」としたうえで「防衛力を抜本的に強化する」と明記されていました。

これは、5月26日、防衛費の増額について、安倍元総理が自派閥の会合で「『骨太の方針』においては国民の生命、財産、領土、領海、領空を守り抜くという覚悟を示す。GDP比2%の防衛費を確保していくということは当然のことなんだろうと。この国家意思を『骨太の方針』に記していくことが求められている」と発言したことを受けてものでした。

安倍元総理が言及していたGDP比2%という防衛費の増額目標については、数値目標を明記せず、脚注でNATO諸国がGDP比2%以上を達成するという目標を掲げることで、安倍元総理も納得するだろうという腹積もりだったようです。

ところが6月1日の全体会合では、自民党の議員たちから防衛費をGDP比2%以上に倍増するとの目標を盛り込むよう政府に求める意見が相次ぎ、3時間以上にわたった会合の末、原案を政府に突き返す形となりました。

翌2日、安倍元総理は自派閥の会合で「NATO諸国の防衛費目標=GDP比2%以上を念頭に、5年以内に防衛力の抜本的な強化のために必要な予算水準を達成する。このラインは本来であれば骨太に書くべきではないのかなと。しっかりとした目安と期限を明示して国家意思を示すべきだと思うわけであります」と防衛費の倍増目標を盛り込んだうえで、「5年以内」と期限を区切るべきだと強調しました。

この日の午後、国家安全保障局と財務省の幹部が安倍元総理のもとを訪れ、骨太の方針の修正案を示しました。修正案は、脚注に記されていたNATO諸国が国防予算について対GDP比2%以上の目標を掲げている件を、本文に移した案だったのですけれども、安倍元総理は納得せず、防衛力の強化について期限を区切り「5年以内」と明記しなければ政府案は了承できないと突き返したのだそうです。

財務省が、公明党が難色を示していることを伝えると、安倍元総理は公明党を説得しに行くよう指示を飛ばしました。

明けて6月3日、自民党で開かれた2度目の会合では、本文中でNATO諸国が国防予算についてGDP比2%以上を達成するという目標を掲げていることが紹介され、ウクライナ情勢や北朝鮮への対応などについての記述を挟んだ後に「前述の情勢認識を踏まえ、防衛力を5年以内に抜本的に強化する」との文言も追加されました。

この修正案について、安倍元総理は「これで防衛費のGDP比2%目標を5年以内に達成すると読めるだろう。この目標を達成すれば、あとは分母となるGDPを増やしていけばいいだけだ」と周囲に語ったそうです。

けれども、結局この修正案でも了承されませんでした。

その理由は、別のところにありました。


3.骨太方針に財務省が仕込んだ毒


ジャーナリストの須田慎一郎氏は、自身の動画配信で、この骨太の方針原案に財務省が"毒"を仕込んでいたと述べています。

須田氏によると、この日の全体会合で予算編成に関わる部分である若手議員が「これまでの歳出改革をやっていくということは社会保障関係費を高齢化による増加分に収める。新規にプラスアルファしない。ただその一方で非社会保障関係費を3年間で0.1兆円程度に収めるということなんでしょうか」と質問したのだそうです。

これはつまり、社会保障関係費以外、すなわち、防衛費含めた諸々の予算が総額で0.1兆円以内にするということであり、上限を決める、いわば「予算キャップ制」ではないかということです。

防衛予算について、5兆円増だ、7兆円増だと議論しているのにも関わらず、上限を0.1兆円としているのです。これでは防衛予算増の議論が何の意味もなくなってしまいます。

問題の表現は「骨太の方針2022原案:第5章 当面の経済財政運営と令和5年度予算編成に向けた考え方」の「2.令和5年度予算編成に向けた考え方」に記載された「② 令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」の部分です。

本来は「令和5年度予算において、本方針に基づき」だけでよいはずなのに「及び骨太方針2021に基づき」という余計な文言がくっついていて、これが"財務省が仕込んだ毒"だと須田氏は指摘しているのですね。

では、骨太方針2021では、どのように記載されていたのかというと次の通りです。
第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革

1.経済・財政一体改革の進捗・成果と感染症で顕在化した課題
(経済・財政一体改革の進捗と評価)
「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、骨太方針 2018130において策定された新経済・財政再生計画では、経済と財政の一体的な再生を目指し、全ての団塊世代が75 歳になるまでに、財政健全化の道筋を確かなものとする必要があると示した。2025 年度の国・地方を合わせたPB黒字化と、債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す財政健全化目標を設定するとともに、「基盤強化期間」(2019 年度~2021 年度)、歳出の目安、主要分野ごとの改革の基本方針・重要課題を策定・設定し、「改革工程表」による具体化を行うなどの取組を進めてきた。

経済面では、感染症による危機前までは概ねプラス成長が続いたものの、世界経済の減速や生産性上昇率の低迷等により、財政健全化に必要とされた実質2%程度、名目3%程度を上回る成長は実現できていない。

歳出面では、目安が目標達成のための財政規律としての役割を果たしてきた131。消費税率引上げに伴う経済変動に対しては臨時・特別の措置で対応するとともに、感染症・災害に対し補正予算等により機動的なマクロ経済運営を行ってきた。このように政策の優先順位付けを厳正に行いつつ、時々の課題に迅速に対応する枠組みは、国民負担の抑制や需要変動の抑制等を通じ、持続的な経済成長に寄与したと考えられる。歳入面では、2019 年 10 月に消費税率を8%から 10%に引き上げた。国・地方税収は2018 年度に過去最高の104.4 兆円に達した132
※太字・下線は筆者
歳出について、「目安が目標達成のための財政規律としての役割を果たしてきた」とあります。その目安については脚注131で、次のように述べられています。
131 基盤強化期間中の予算編成は目安に沿って行われ、社会保障は各種の改革を通じてその実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめ、非社会保障についても当初予算の歳出構造にメリハリを付与し、思い切った歳出の重点化に寄与するとともに、実質横ばいに維持してきた。また、地方の歳出水準についても、国の一般歳出の取組と基調を合わせつつ、一般財源の総額について実質的にこれまでと同水準を確保してきた。
確かに、社会保障関係費を高齢化による増加分に収め、非社会保障費は「実質横這い」と、新規にプラスアルファしていないことが記載されています。

これを見て分かるとおり、骨太2021で語られている予算編成方針について、ここでは「基盤強化期間」となっているのですけれども、この「基盤強化期間」はいつきまったのかというと、実は2018年の「経済財政運営と改革の基本方針 2018 について」(骨太方針2018)で決められています。

該当する部分を引用すると次の通り。
(経済・財政一体改革の総括的な評価)
これまでのアベノミクスにより、デフレ脱却・経済再生に向けた大きな成果が生み出されたが、再生計画で目指していたデフレ脱却と実質2%程度、名目3%程度を上回る経済成長の実現は、いまだ道半ばの状況にある。

財政健全化については、歳出面では、集中改革期間においては再生計画で定めた一般歳出等の目安に沿った予算編成165が行われたほか、歳入面では、2018年度の国・地方の税収は過去最高の水準を更新する見込みである。しかしながら、成長低下に伴い税収の伸びが当初想定より緩やかだったこと、消費税率引上げ延期や補正予算の影響により、2018年度のPB赤字対GDP比166の見込みは2.9%程度と、当初の想定よりも進捗に遅れがみられる。また、人づくり革命の安定的財源を確保するため、2019年10月に予定されている消費税率引上げ分の使い道を見直すこととした。これらに伴い、PBの黒字化の達成時期に影響が出ることから、2020年度のPB黒字化目標の達成は困難となった。債務残高対GDP比の上昇は緩やかとなったが、着実な引下げまでには至っていない。

歳出改革の面では、「見える化」やインセンティブの強化を通じた国民、企業、地方公共団体等の行動変容を促す取組について、その浸透に時間がかかっているほか、給付と負担に係る制度改革の進捗にも遅れがみられる。

2020年代には、団塊世代が75歳に入り始めることによる社会保障関係費の増加や、高度経済成長期以降に整備されたインフラについて何ら対策を講じなければ維持更新負担が拡大すること、さらには厳しさを増す安全保障環境への対応等に伴う新たな財政需要が予想される。また、人生100年時代の到来や、AI活用など新たな社会変革の可能性等も考慮していく必要がある。
※太字・下線は筆者
ここで、「歳出面では、集中改革期間においては再生計画で定めた一般歳出等の目安に沿った予算編成」と集中改革期間と目安いう文言が登場します。ではそれはいつなのかというと、これもまた脚注165で小さく記されています。それは次の通り。
165 集中改革期間の3年間で一般歳出1.6兆円程度、社会保障関係費1.5兆円程度の増加。同期間の高齢化による増加分は1.5 兆円程度。
ここでようやく、2018年の翌2019年から3年間、つまり2021年までの予算編成で、一般歳出1.6兆円程度、社会保障関係費1.5兆円程度の増加、非社会保障関係費は差し引き0.1兆円、という数字が浮かび上がってきます。

今回の会合で若手議員はこの点について質問した訳です。

よくぞ、こんな細かいところ、うっかり見逃してしまいそうな脚注の文言までしっかり読み込んで質問してくれたものだと思います。

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4.ふざけるな! 絶対許さん


須田氏によると、会合で、この若手議員の非社会保障関係費を0.1兆円程度に収めるという質問に対し、政府がそうだと認めてしまったことが大紛糾した原因だったようです。

なんでも、財政政策検討本部・本部長の西田昌司議員は「ふざけるな! こんなことやるなど姑息だ。絶対許さん」とブチ切れ、全く纏まらなかったそうです。

須田氏は、物事を決め、責任を取るのは政治家であり、その政治家が方針を決めたにも拘わらず、官僚が見つかったら怒られるからとそおっと見つからないような文言を忍ばせるのは言語道断であり、役人の矩を超えていると批判していますけれども、全くその通りだと思います。

西田昌司議員は、骨太方針2022から2025年のプライマリーバランスの黒字化目標の明記を撤廃させたことについて、自身の動画で、過去の経緯を踏まえ、法の縛りの中で予算編成を続けてきたことを解説しています。

西田議員は、現在政府が赤字国債を発行できるのは特例公債法があるからだとした上で、特例公債法の期限が2025年迄であることから、その延長を訴えていますけれども、当座は延長で凌ぐにしても、財政法含め、根本にまで遡って法改正等必要なことを進めていただきたいと思いますね。




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