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1.貯蓄から投資へ
5月30日、自民党の経済成長戦略本部は、岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略の提言を政府に申し入れました。
提言は、「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「地方活性化」「グリーン・GX」「人への投資」「孤独・孤立対策」「中小企業の成長支援等」「魅力あるマーケットの構築による国際金融センターの実現」「民間による社会的課題の解決」の9項目にわたり、述べられています。
この中で8番目の「魅力あるマーケットの構築による国際金融センターの実現」の項目で、国民の資産所得の向上について述べられています。それは次の通りです。
● 日本の家計金融資産構成は、欧米と比較して現預金の割合が非常に高く、株式や投資信託の割合が低い。家計の貯蓄から投資への流れを促進することで、資産所得の向上を図り、それが消費の拡大に繋がり、更に次の成長に結びつくという好循環を実現していくことが重要である。このように、資産所得の向上を図り、消費を拡大させるには、国民一人ひとりが「一億総株主」として成長の果実を享受できることが重要だとして、NISA(=少額投資非課税制度)の抜本的な拡充など求めています。
併せて、国民一人一人の安定的な資産形成が進むことによって「一億総株主」として成長の果実を享受できるようにしていくことが重要である。
このため、我が国市場の魅力向上に向けた取り組みとともに、家計の安定的な資産形成に向け、NISA制度の抜本的拡充などを進めて資産所得倍増を目指すとともに、金融商品取引業者等の助言業務や勧誘・説明業務に関する制度設備や、デジタルツールも活用した情報提供の充実等の検討を進めるべきである
現在、「積み立てNISA」の非課税枠は、年間40万円ですけれども、関係者によると、この枠をさらに拡充することが想定されているようです。
2.投資に回す貯蓄などない
岸田総理は新しい資本主義のスローガンとして「資産所得倍増プラン」を打ち出し、「一億総株主」だと鼻息荒くしていますけれども、現実の庶民はそうは思っていないようです。
JNNの最新の世論調査によると、今後、貯蓄を投資に回す考えがあるか聞いたところ、「投資に回そうと思う」が23%、「投資に回そうと思わない」が40%、「投資に回す貯蓄がない」が34%となったと報じています。「回そうと思わない」と「回す金がない」を合わせると実に74%、3分の2が投資しないと答えたのですね。
また、物価高へのこれまでの政府の対応については、「評価する」が28%、「評価しない」が58%と岸田政権の経済政策は評価されていません。
6月6日、フジテレビ「ミヤネ屋」では、岸田内閣の「資産所得倍増プラン」の特集をしていましたけれども、そこでのアンケート回答では、投資をしていない理由として「リスクを感じる=124人」「知識がない=118人」「資金がない=108人」「興味がない=67人」となっていました。
3.岸田支持ではなく現状維持を支持
それでも、岸田内閣全体での支持率は高止まりしていて、岸田内閣を支持できるという人は、先月の調査から2.4ポイント上昇し、64.5%、支持できないという人は0.2ポイント低下して、31.6%となっています。
個別の政策を見ると、武漢ウイルス対策について政府は、入国者数の上限を2万人に引き上げたほか、外国人観光客の受け入れ再開も決めましたけれども、こうした水際対策の緩和について聞いたところ、「適切」が42%、「もっと緩和すべき」が22%、「もっと厳しくすべき」が32%となっています。
一方、防衛費の増額については「賛成」が55%、「反対」が33%となっています。
このように岸田内閣が全体として高支持率を保っている理由について、識者あたりからは「さっぱり理解できない」だとか「何もしないからだ」などという声が挙がっています。
筆者もなぜだろうか、と考えていたのですけれども、もしかしたら、国民は岸田総理だからとか、内閣や、政策を支持するしないというのではなく、単純に「現状維持」を支持しているだけのではないかと思うようになっています。
つまり、今の日本社会がそのまま維持できるものなら、誰が総理だろうが支持し、現状維持できないとなれば途端に支持しなくなるということです。
例えば、武漢ウイルスワクチンについても、国民の8割、9割が2回も接種したのは、政府が進めたことは勿論のこと、マスコミも今日の感染者数は何人云々と、連日報じ、恐怖を煽った面も否定できないと思います。
つまり、ワクチンを打たなければ、日常が崩れていく、現状維持できなくなる、と国民の多くが認識したが故に、いままでの生活という"現状維持"を求めてワクチン接種に殺到したのではないかということです。
ところが、3回目接種となると、打って変わって政府が期待するように伸びてはいません。
これは、感染が落ち着いて態々ワクチンを打たなくても、日常の生活ができる、つまり現状維持できると国民の多くが思っているからと解釈すれば、なんとなく納得できるような気がします。
政府はワクチン割引とかやって3回目接種を進めようとしていますけれども、国民が現状維持を求めているのであれば、現状ではあまり効果はないのではないかと思います。
4.現状維持の瀬戸際
この現状維持という切り口で岸田政権の政策を見たとき、現状維持の瀬戸際にあるものがあります。電力です。
3月に福島県沖を震源とする地震の影響と、悪天候による電力需要が増加から電力不足に陥り、電力需給逼迫警報が出されたりしましたけれども、今年は夏も冬も電力不足が懸念され、節電の呼びかけもされています。
広域・長期間の停電は当然ながら、「現状維持」を破壊するものですから、国民が電力危機を認識すればするほど、対策を求める声が大きくなります。
3月に行われた、日本経済新聞社の世論調査でも、安全が確認された原発の再稼働について「再稼働を進めるべきだ」が53%で「進めるべきでない」は38%と、昨年9月の再稼働推進44%、再稼働反対46%とは様変わりしています。
その意味では、マスコミなどが電力不足を煽り、実際に広域停電が1~2回起こるようなら世論も一気に原発再稼働に傾くかもしれません。
5.利益誘導は通用しない
日本国民は、岸田政権を特段支持しているわけではなく、現状維持を支持しているとするならば、何かしなければ現状維持できないと認識すれば、それを許容することになります。
これは裏を返せば、何もしなくても現状維持できるものに対しては、利益誘導しようとしても大して効き目がないとも言えます。
そうした観点から、岸田政権の「貯蓄から投資」ということでNISAを拡充したところで、所詮は「利益誘導」にしか過ぎず、現状維持でよしとする多数の国民の心は靡かないことになります。
先に取り上げたJNNの世論調査でも、国民の3分の2が投資しないと答えているところをみると、岸田政権が意気込んでいるようにはいかないのではないかと思います。
"何もしない"岸田総理に苛立ちを覚えている識者も少なくないのではないかと思いますけれども、この件については逆に岸田総理が歯痒さを感じるのかもしれません。
6.出だしから躓く資産所得倍増プラン
日本国民を誘導するには、利益誘導ではなく、現状維持の破壊だというのを今回の「貯蓄から投資」に適用した場合の政策も当然ながら有り得ます。
それは、貯蓄に課税する、いわゆる財産税、貯蓄税です。
個々人の預金に須らく課税するだけで、預金という現状維持を簡単に破壊できます。ですから、預金に課税するがNISAには課税しないとなれば、貯蓄の一部を移す人が出てくるかもしれません。
ただ、課税されないといっても投資である以上、リスクはあります。その意味では、リスクが課税額を上回るうちはそうそう投資へと回らない可能性がありますし、もっといえば「タンス預金」が増えるだけなんてことも考えられます。
それに貯蓄は投資そのものだという指摘もあります。
嘉悦大学教授の高橋洋一氏は「銀行預金も間接的だが投資になる。経済学では貯蓄=所得−消費。そしてマクロから見れば、所得=消費+投資なので、貯蓄=投資つまりISバランス。貯蓄から投資へというヤツはかなりの経済オンチ」とツイートしていますけれども、銀行だって預金を集めた資金を使って企業に融資したり何なりしている訳です。
いわば、個人が預金を介して銀行に投資して貰っている訳で、既に「貯蓄は投資」されています。それを態々「貯蓄から投資へ」なんていうのは、もっとリスクを取って、金を市場に出せということです。
けれども、そもそも、「資産所得倍増」と謳いながら、その資産である貯蓄に課税するのは矛盾しています。
それに、JNNの世論調査でも示されたとおり、投資に回す貯蓄などないと答えた人が3割を超えているのです。逆にいえば直接投資に回す貯蓄がある人などそれだけ少ないということです。
金融広報中央委員会が昨年9月に行った「家計の金融行動に関する世論調査2021年」では、金融資産保有額の平均値は 1563万円ありますけれども、中央値でみると450万円しかありません。これは限られた富裕層に富が集中しているということを意味します。
これまで何度か取り上げていますけれども、投資家からの岸田内閣への支持率はたった3%しかありません。
そんな岸田内閣が「貯蓄から投資」を呼びかけたところで、投資家は見向きもしないでしょうし、投資をしたことがない人は元からする気がないし、するお金もない。
そんな状況で、もし貯蓄税を掛けることはかえって逆効果になることは容易に想像できます。
7.令和の時代も「五公五民」
今年2月に財務省が公表した令和4年度の国民負担率は46.5%(見込み)と昨年の48%より若干下がったもののほぼ5割に達しています。
国民負担率とは、個人や企業の所得といった国民所得に対する税負担と社会保険料負担の割合のことです。税負担には、所得税・住民税・法人税・法人住民税・消費税・固定資産税などが含まれ、社会保険料負担には、年金や健康保険、介護保険などの保険料が含まれます。
これが5割にもなっている。歴史の授業かなにかで、江戸時代は百姓に重い年貢が課せられていて、「五公五民」だとか「六公四民」だとか習ったことがあるかと思いますけれども、何のことはない、令和の時代も「五公五民」だということです。
もし岸田政権がそんな国民の財布に手を突っ込んで投資させてやろうと思っているとするならば、それは少々傲慢というもので、減税して可処分所得を増やすようにしなければ、無理なのではないかと思います。
政府は日本の個人金融資産は2000兆円あるとか現預金は1000兆円あるとか言っていますけれども、その中身をしっかりみれば、庶民にまったくそんな気も余裕もないことを知るべきではないかと思いますし、ましてや貯蓄税を掛けて、投資させようなどと夢々考えないでいただきたいと思いますね。
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