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1.各国がウクライナへの追加武器供与を表明
6月15日、ベルギー首都ブリュッセルで50ヶ国近くが参加して行われる「ウクライナ防衛コンタクトグループ」の会合で、ウクライナに対して世界各国からも支援の表明が相次ぎました。
アメリカが10億ドルの新たな軍事支援を発表したのに続き、ドイツが多連装ロケットシステムの提供を表明しています。
会合後、アメリカ軍のミリー統合参謀本部議長は、ウクライナ軍が軍事支援を効果的に使ってロシア軍の戦車などの20%から30%を戦闘不能にしたとして、「大きな成果だ」と強調しました。
アメリカのバイデン政権は6月初めに、ウクライナが数週間にわたり緊急に要望していたハイマース(高機動ロケット砲システム)を含む武器支援を発表。少数のウクライナ兵がハイマースの運用訓練を開始していますけれども、運用には3週間の訓練が必要とのことで、これまでのところ戦闘には投入されていません。
2.ウクライナに届いたのは10%
これまでも、アメリカのみならず他の西側諸国もウクライナへの武器支援を表明していますけれども、どうやら現地に届いているのはその一部に留まっているようです。
6月14日、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は、西側諸国に供与を要請した武器について、これまでに約10%しか届いていないと語っています。
マリャル国防次官はテレビ番組で「ウクライナがいかに奮戦し、わが軍の練度がいかに高かろうと、西側のパートナー諸国の支援がなければこの戦争に勝つことはできないだろう」と述べ、武器の入手が遅れれば遅れるほど、ウクライナが払う犠牲は大きくなり、ロシアに奪われる領土の面積も大きくなるとして、武器供与に「明確な期日」を設定する必要があると主張しました。
かねてより、ゼレンスキー大統領は、連日、西側諸国に重火器の提供を要請しているにも関わらず遅々とした支援に、欧州の一部指導者の「抑制的な振る舞い」により、「武器供与が大幅に遅れている」と非難しています。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は13日、ツイッターに「戦争を終わらせるためには重火器で対等になる必要がある」と投稿。155ミリ榴弾砲1000門、多連装ロケットシステム300基、戦車500両、装甲車両2000台、無人機1000機と数字を挙げて支援を要請しました。
もちろん、実際はそんな量の供与などされてはいませんし、アメリカの現役の10個師団合わせて240門の155ミリ榴弾砲しかないそうですから、まったく話になりません。
軍事情報サイト「Oryx」の分析によると、ウクライナにこれまで供給された重火器は計画分も含め、155ミリ榴弾砲が約250門。戦車は旧ソ連製の主力戦車T72がポーランドなど東欧諸国から約270両、多連装ロケットシステムは「ハイマース」4基など約50基。
ウクライナの希望に程遠い数です。
3.今後予想される3つのシナリオ
現在、ウクライナ東部で攻勢を強めているロシアですけれども、西側の情報機関および軍の関係者は、今や長期的な結果を左右する重大局面を迎えていると考えているようです。
NATO(北大西洋条約機構)の高官は「一方か、他方か、いずれかが成功を収めるという段階に差しかかっているようだ……ロシアがスラビャンスクとクラマトルスクに到達するか、あるいはここでウクライナがロシアを食い止めるか。これだけの軍勢を前にウクライナが持ちこえられれば、大きな意味をもつだろう」とコメントしているそうです。
現況を踏まえ、西側関係者は、今後展開が予想される3つのシナリオを注視しています。
ひとつは、カギを握る東部2州でロシアがこのまま徐々に進撃を続けるというもの。もうひとつは、前線が激化して膠着状態になり、数ヶ月ないし数年と長引いて双方に膨大な死傷者が出るというものです。
そして、関係者がもっとも可能性が低いと思う3つ目のシナリオは、ロシアが戦争の目標を再定義し、勝利を宣言して戦闘終結を図るのではないかというものだそうですけれども、これは希望的観測に過ぎないもののようです。
目下のところ、アメリカ関係者の間では、ロシアが東部での戦果の一部を確固たるものにできれば、次にこれら地域をウクライナへのさらなる侵攻の拠点として利用するのではないかといった不安はが強まりつつあるそうです。
現に、西側関係者は、単純に数で見れば、東部ではロシアの方が優勢だという見方をしています。
4.不慣れな西側装備はあえて使用しないウクライナ軍
ウクライナ政府は西側各国から供与される武器や装備によって反転攻勢を企図していますけれども、現実には、それらをすんなりと使いこなせるわけではありません。
現場では、これら装備を使うための訓練をする以前に、不慣れな西側装備をあえて使用しないというケースもあるそうです。例えば、数百台のスイッチブレード・ドローンが供与されているものの、一部の部隊は使い勝手のよい民間ドローンに爆発物を搭載して使用しています。
けれども、ウクライナ東部でロシア軍との激戦が続く中、ウクライナ側の弾薬不足が急速に深刻化しています。主力である旧ソ連型兵器の砲弾が払底し、一部では、ロシアとの火力差は10対1に悪化したとの情報もあるようです。
一方で、世界各地に現存し、ウクライナに供与できる旧ソ連時代の弾薬は数が限られていることから、旧ソ連製の弾薬が尽きるのは時間の問題と化しています。
6月15日、NATO(北大西洋条約機構)はロシアの軍事侵攻を受けるウクライナの装備を、旧ソ連時代のものから、NATO標準の装備に置き換える支援に乗り出すと発表しました。6月末にマドリードで開くNATO首脳会議で包括的支援策をまとめるとしています。
これは、戦闘の長期化を視野に入れると同時に、武器供与・支援の本格化を意味することにもなるのですけれども、当然ながら、西側諸国の負担も増え続けることになります。アメリカを含め一部の西側諸国では、ウクライナへの武器供与が続いたことで、自国の防衛に欠かせない武器備蓄の枯渇を懸念し始めています。
5.忍び寄る『ウクライナ疲れ』
6月3日、イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙は「忍び寄る『ウクライナ疲れ』緩む西側の結束」という記事で、西側の結束について警鐘を鳴らしています。
記事では、ロシアとウクライナの戦いには地上戦と、国際世論を動かすための情報戦という2つの側面があり、現在どちらも消耗戦に入っていると指摘。
情報戦について「殆どの欧米メディアはロシアの言い分を完全に無視し、ウクライナ側の情報と話を基に報道することを選んだ」ことで、西側とウクライナは、ここまでの成功が裏目に出る恐れがあるとし、それには「慢心」と「民主主義国の意識が侵攻前の状態に戻ること」の2つの副作用があると述べています。
記事では、「慢心」について、惨めなロシアという印象が広がり、負けるに違いないという期待が強まり、ロシアの敗北は単に時間の問題だと思ってしまうことだとしていますけれども、「ウクライナ東部はロシアに近いので補給路が短くて済む。平地が広がり難所も少ない。ロシア軍にかなり有利に見える」と述べています。
そして、「ロシア軍には士気の低さや粗悪な装備、戦略の欠如、仲間内での暴力といった問題がある」としながらも、第2次世界大戦中、旧ソ連軍は圧倒的な物量でナチス・ドイツ軍を上回り、結局、勝利した点を挙げ、プーチン大統領が「東部ドンバス地方を制圧し、クリミア半島と結ぶ"陸の回廊"を確保する」という"プランB"遂行に成功すれば、多少手直しして当初の計画であったキエフ制圧という"プランA"に回帰する公算が大きいと指摘しています。
もう一つの「民主主義国の意識が侵攻前の状態に戻ること」については、現在、プーチン大統領への恐怖が薄れるにつれ、対ロシアでの西側の結束が揺らぎ始めているとし、ウクライナを巡ってもイタリアやフランス、ドイツの世論と、より強硬な介入に積極的なポーランドなどとは隔たりがあると述べています。
過去の成功体験が、現在の失敗の原因になるということはよくある話ですけれども、確かにフィナンシャル・タイムズ紙が指摘する、この2点の副作用はじわじわとウクライナと西側諸国を苦しめるかもしれません。
現に、アメリカのマリスト大学の世論調査によると、バイデン政権の支持率は、ロシアの侵攻が始まってから2週間で47%まで急伸したものの、ロシア軍がウクライナの一部地域から撤退すると、支持率は39%に下落。ほぼロシアの侵攻前の水準になってしまっています。
あるいは、バイデン大統領は大規模な制裁によってロシアは直ぐに音を上げると思っていたのかもしれません。ところがプーチン大統領は人命と兵器の甚大な損耗をものともせずに粘ったことで、目算が狂った感がなくもありません。
まぁ、ロシアとウクライナは当事国ですから、そう簡単に諦める筈もなく、死に物狂いで戦っていますけれども、ロシアはほぼ一国で戦っているのに対し、ウクライナは西側諸国の補給を受けてようやく互角の戦いに持ち込んでいるに過ぎません。
ここで西側諸国が腰砕けになって支援が細っていけば、その分戦況は悪くなるのは目に見えています。
どこの国も自国を滅ぼしてまで支援することはありません。
やはり、ゼレンスキー大統領はどこかで"苦渋に満ちた"政治決断を迫られることになるのではないかと思いますね。
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