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1.仏独伊羅4首脳のキエフ訪問
6月16日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、イタリアのマリオ・ドラギ首相、ルーマニアのクラウス・ヨハニス大統領は、ウクライナの首都キエフでゼレンスキー大統領と会談しました。
4首脳のウクライナ訪問は、侵攻開始以降では今回が初めてのことです。4人はこの日、数週間にわたってロシアに占領され荒廃した、キエフ近郊のイルピンを訪れました。既にイルピンには日常が戻りつつあるそうなのですけれども、ロシア軍の破壊の痕は未だそこかしこに残っています。
マクロン大統領は、イルピンなどは「ウクライナ軍がロシアのキエフ進軍を阻止した場所」であり、「軍とともにウクライナ国民の勇敢さを象徴する地でもある。同時に、蛮行の痕跡もある」とコメントしました。
これに対し、記者から、かつて自身が発した「ロシアに屈辱を与えてはならない」との言葉について問われると、マクロン大統領は「フランスは初日からウクライナと共にある。われわれは曖昧さなしにウクライナの味方だ……ウクライナが抵抗でき、勝利できてしかるべきだ」と述べました。
これまで、ウクライナは仏独伊について、武器供給が遅く、ロシアのプーチン大統領をなだめることに力を入れ過ぎていると、繰り返し批判してきたことを考えると、「初日からウクライナと共にある」とか「曖昧さなしにウクライナの味方だ」と発言したマクロン大統領は、言ったこととやっていることが違っていないかと批判されるかもしれません。
実際、会談でゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻は「統一された欧州」に対する戦争だと説明し、「最も効果的な武器」は一致団結だと述べたようです。そして、ウクライナがより効果的に自衛し、2月24日の侵攻開始以来ロシアに占領されている領土を解放できるよう、より多くの重火器を早急に送るよう再度訴えたとのことです。
2.EU加盟候補国として認定したい
また、会談で4首脳はウクライナの欧州連合(EU)加盟の意向を支持し、「今すぐに」候補国として認定したいと述べています。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領はEU27カ国に対し、ロシアの侵攻に勝利するまでウクライナを支持するべきだと強調し、ドイツのショルツ首相は共同記者会見で「ウクライナは欧州の家族の一員だ」と述べました。ただ、ウクライナはなお、加盟のための条件を満たす必要があると釘を刺しています。
今回の会合についてゼレンスキー大統領は会談後のビデオ演説で、「今日は本当に歴史的な日だ……今日の会合で、大きな一歩が踏み出された……ウクライナは独立以来、EUに最も近いところに来ている」とし、各国が軍事的、経済的な支援を続ける意思を改めて示したうえ、ウクライナのEU加盟に向けて前向きな姿勢をみせたことを評価しました。
翌17日には、EUのフォンデアライエン委員長が記者会見を開き、ウクライナについて、交渉開始の前提となる「加盟候補国」の立場を認めるよう、ヨーロッパ委員会として加盟国に勧告したことを明らかにしました。
フォンデアライエン委員長は「ウクライナはヨーロッパの価値観と基準に沿っていきたいという強い願いと決意を明確に示した」とする一方で、ウクライナには法の支配などの分野で多くの課題があるとも指摘しました。
テレビ報道だけみていると、今にもウクライナがEUに入れそうな印象を受けてしまうかもしれませんけれども、所詮は加盟の「候補国」であって、しかもEU加盟国全てからは加盟候補国だと認められてさえもいません。
EUは23日と24日の首脳会議でこの件を議論することになっているそうなのですけれども、ウクライナが「加盟候補国」として認められるにはすべての加盟国の同意が必要ですから各国がどのような姿勢を示すかが焦点となります。
3.NATOのような軍事同盟ではない
仏独伊羅の4ヶ国首脳がウクライナのEU加盟を支持したことについて、16日、ロシアのメドべージェフ前大統領は「カエルやレバーヴルストやスパゲティが好きなヨーロッパの人たち」はキーウを訪問するのが大好きだが、「一文の得にもならない」とツイートして牽制しました。
ところが、プーチン大統領はウクライナのEU加盟を「反対しない」と容認する考えを示しました。
6月17日、プーチン大統領はサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに出席し、2014年にロシアがウクライナ南部クリミアを編入した後、ウクライナを軍事支援してきた欧米の脅威を改めて強調。ウクライナ侵攻を「自国を守る権利を持つ主権国家の決定」と正当化し、「全ての任務は間違いなく達成されるだろう」と主張しました。
一方、ウクライナのEU加盟について「NATOのような軍事同盟ではない……ウクライナの産業の復活にはつながらない。欧州は自分の競争相手を作ろうとはしない」と、ウクライナがEUからの補助金に依存するようになると指摘しました。
更に、侵攻後に日米欧がロシアに科した経済制裁については「失敗した」とし、自国の経済が「一歩一歩正常化している」と述べ、逆に欧米諸国が物価上昇で苦しんでいることなどを挙げ、「自分の手で自国の経済に深刻な打撃を与えている」との主張。国際的な食料やエネルギーなどの価格上昇は、欧米などの金融緩和による「無責任なマクロ経済政策」の結果とし、侵攻とは「関係ない」と述べました。
4.急減した穀物輸出
プーチン大統領が侵攻とは無関係とした食料やエネルギーの価格上昇ですけれども、一般的に価格は需要と供給で決まりますから、侵攻によって供給が止まってしまえば、やはり価格に影響してしまいます。
目下のところ、ウクライナ産穀物の供給ストップが周辺国に影響を与えているのは事実です。
世界の小麦供給の3分の1近くを、ロシアとウクライナの2ヶ国が占めているのですけれども、ウクライナは10%近くを占めています。
更に、国連のデータによると、ウクライナは2019年の世界のトウモロコシ供給の16%、ひまわり油の42%を輸出しています。
これまで、ウクライナからは毎年、年間数百万トンの穀物がアフリカや中東に輸出されてきました。けれども、現在はロシアが黒海の港を封鎖しており、国外への出荷ができなくなっています。
2月24日の軍事侵攻前、ウクライナは月当たり最大600万トンの小麦、大麦、トウモロコシを輸出する能力があったのですけれども、3月に30万トンに急減し、4月も110万トンにとどまっています。
こうしたことから、供給が途絶えた一部の国は穀物を備蓄に回し、その影響で、食料不安に直面していた国々で食料不足が助長されていると指摘されています。
特に、アフリカの食糧不足は深刻なようで、世界食糧計画(WFP)ソマリア事務所のペトロック・ウィルトン氏は、「アフリカの角」と呼ばれる東部地域はすでに旱魃で壊滅的な状況だとし「4年連続で雨不足に見舞われている。1500万人が飢餓に苦しんでおり、その人数は年末までに2000万人にまで増える見通しだ」と述べています。
こうしたなか、6月8日、ロシアのラヴロフ外相は、トルコの首都アンカラでトルコのメブリュト・チャブシオール外相と会談し、ウクライナ産穀物の黒海経由での輸出停滞をめぐって協議したのでしけれども、解決策は見出せませんでした。
ウクライナは、ロシアが「穀物の輸出経路を使ってウクライナ南部を攻撃する」恐れがあるため、ウクライナは沿岸部の地雷を撤去できないと主張しているのに対し、ラヴロフ外相は、ロシアがウクライナ産小麦の輸出を妨害しているとの見方を否定。オデッサなど黒海沿岸地域での地雷撤去の責任はウクライナ側にあると述べています。
5.レール幅を揃えよ
ウクライナ穀物協会のミコラ・ゴルバチョフ会長は、ウクライナの港からの輸出を再開できなければ、7月下旬に始まる次の収穫に深刻な影響が出ると警告しています。ゴルバチョフ会長は、ウクライナの来年の穀物輸出量は最大2000万トンに制限されるだろうと述べています。
6月17日、フランスのマクロン大統領は、ウクライナからの帰途、仏BFMテレビに対し、ロシアのプーチン大統領と数週間前に話した際、プーチン大統領は国連の仲介を望まなかったと述べ、オデッサ経由の輸出再開で合意する可能性は低いとの見方を示しました。
そして、代替手段としてオデッサからルーマニアのドナウ川までを結ぶ鉄道ルートの再建を検討していると発言。「オデッサはルーマニアから数十キロの位置にあり、ルーマニアを通じてドナウ川と鉄道へのアクセスが可能になる」とし、ウクライナからの穀物輸出を大幅かつ迅速に拡大する方法を模索していると語りました。
また、フランス政府がこの計画への投資を強化するとともに、ルーマニア政府を支援するため専門家を派遣する考えも示しています。
ウクライナ農業食料省は、ドナウ川の小規模港からルーマニアに月70~75万トンを輸送し、残りは陸上および鉄道経由で欧州に届けたいとのことですけれども、5月1~22日迄の陸上輸送量はわずか2万8000トンにとどまっています。
実は、ウクライナの鉄道と欧州の鉄道とではレール幅が異なっているため、欧州各国に物資を鉄道輸送するには途中で積み荷を載せ替える必要があり、その分、手間とコストがかかります。
そこでウクライナ政府はレール幅を旧来の1520ミリのロシア型から1435ミリの欧州型に変更する方針を決定しました。
ウクライナメディアによると、ウクライナのシュミハリ首相は5月末の政府会議で、軌間を段階的に欧州型に切り替え、半年以内に新しい国境検問所を造ると表明したそうです。
ただし、改修には莫大な費用がかかります。
カワ財務副大臣によると、「全土での軌間変更には1000億ユーロ(約13兆9000億円)と30年余の工事期間が必要になる」とのことです。もっとも、個別路線の軌間変更であれば、1~2年で完了し、旅客・貨物輸送の双方で効果が期待できるとしています。
おそらく、オデッサからルーマニアのドナウ川までを結ぶ鉄道ルートを最優先で軌道変更して輸送ルートを確保しようとするのでしょう。それでも1~2年かかるとなれば、早期停戦しなければ、今年の食糧不足は深刻なものとなる可能性があります。
エネルギーのみならず、食糧についても、警戒と備えが必要になってくるように思いますね。
この記事へのコメント
深森
・ウクライナ発の陸路輸送プロジェクトは存在するのですね。
EUやNATOの踏ん張りが何処まで続くか…
安心には程遠いけれど、これらの対応を日本としては歓迎する、というところだと思われました。
(とはいえ、食料の最終価格に掛かって来るであろう輸送コストや各種の上乗せコスト等を考慮してみると、かなり微妙な気持ちになります。戦時下ゆえ致し方ないのかも知れませんが)