岸田ビジョンと核兵器が使われない世界

今日はこの話題です。
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1.与野党の参院選公約


参院選を間近に控え、与野党の参院選公約が出揃ってきました。

ロシアのウクライナ侵攻と物価高を受け、政党の公約もその対策を中心になっています。

自民党は、物価高騰について「米国など他の主要国と比べて、日本は4分の1程度に収まっている」とこれまでの対策の成果をアピールした上で、石油元売り会社に対する補助金支給の継続などを通じ、燃油価格の抑制を図る方針を打ち出し、公明党は、適正な賃上げ水準を明示するため、第三者委員会の設置を盛り込みました。

対する野党はというと、立憲民主党は、政府・日銀の金融緩和政策が円安を招いていると批判。消費税率の時限的な5%への減税を主張。共産党も5%に引き下げるよう訴えています。

更に、日本維新の会も消費税の軽減税率を現行の8%から段階的に0~3%に引き下げると明記。国民民主党は「インフレ手当」として現金10万円の一律給付を唱えています。

そして、れいわ新選組は消費税廃止、社民党は「消費税率3年間ゼロ」、NHK党は年金受給者のNHK受信料無料化をそれぞれ掲げました。

これらを見ると、物価対策として補助金を入れる与党と、国民民主以外の減税を主張する野党とに、おおよそ色分けされた感があります。

一方、安保政策では、与野党の多くが防衛費の増額に理解を示しながらも、その水準に関しては温度差があります。

自民党は、NATO諸国が目標とする国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、来年度から5年以内に「必要な水準の達成」を目指す方針を打ち出しました。これに対し公明党は「防衛力を着実に強化する」としつつも、「予算額ありきではなく、真に必要な予算の確保を図る」と自民党との立場の違いを強調しています。

また、立民は「総額ありきではなく、メリハリのある防衛予算で防衛力の質的向上を図る」とし、維新はGDP比2%を増額の一つの目安と位置付け、国民民主も「必要な防衛費を増額する」としました。

これに対し、共産党は「平和と暮らしを壊す軍事費2倍化を許さない」と増額に反対の姿勢を明らかにしています。

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2.骨太の方針2022にみる3つの変化


選挙公約はこれからの政策を訴えるものですけれども、実際に近々に行われる政策は6月7日に閣議決定された「骨太の方針2022」に基づくものとなります。

骨太の方針については、これまで何度か取り上げましたけれども、主たる骨子は、「新しい資本主義」と、その具体策としての人材やデジタル、グリーンなどへの投資、安全保障、財政政策などです。

これについて、証券アナリストの長谷部翔太郎氏は、岸田内閣発足時から提示されていたものが多く、特に目新しいものはないとした上で、注目すべき変化としても次の3点を挙げています。
・安全保障に積極的な姿勢を明確にしたこと、
・プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化推進に向けてのトーンを後退させたこと、
・新しい資本主義実現に向けての主要施策となる具体的な補正予算に関しては参院選後に先送りとなったこと
長谷部氏は、安全保障についての積極的な姿勢は防衛関連産業やIT分野の需要底上げ効果があると期待を寄せ、財政健全化に対する表現の後退についても、政策の方向転換と受け止められた可能性があるとして株式市場に大きなインパクトを与えたと評価しています。

一方、3つ目の新しい資本主義については、その概念がどういうものか見当もつかないことから、財政引き締め観測の後退も「政権の軸の一時的なブレかもしれない」という疑念を生んでいると指摘しています。

ただ、これら3つを見てみると最初の2つは、安倍・菅路線の明確な継承であり、最後の1つは岸田総理が目指しているものです。このうち安倍・菅路線は明記され、岸田総理が目指している「新しい資本主義」が先送りになったということは、少なくとも近々の政策は安倍・菅路線を続けるということであり、元々岸田総理がやりたいと思っていることは、やらせて貰えないともいえるわけです。

その意味では、一部で「何もしない」と批判される岸田総理ですけれども、「何もしない」のは自分がやりたい筈の「新しい資本主義」などの自身の独自政策であって、安倍・菅路線の政策は、神輿にのったまま静々と進んでいるとみるべきなのかもしれません。


3.海中からの専守防衛


6月19日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で9党党首による討論会が行われました。

自民党の岸田総理、公明党の山口那津男代表、立憲民主党の泉健太代表、日本維新の会の松井一郎代表、共産党の志位和夫委員長、国民民主党の玉木雄一郎代表、れいわ新選組の山本太郎代表、社民党の福島瑞穂党首、NHK党の立花孝志党首が参加した討論の中で、安全保障政策を巡り、日本は「原子力潜水艦」を持つべきかがテーマに上がりました。

国民民主の玉木代表は「原潜は3、4カ月潜ることができる。新しい技術の導入を検討すべき」と発言。岸田総理は「原子力潜水艦は莫大なコストと開発までに多くの人員が必要。原子力基本法第2条をどうクリアするのかという問題もある」と慎重姿勢を示しました。また、公明党の山口代表も「性能的にも国民の理解を得ることは難しい」と消極的です。

維新の松井代表は「日本で原子力潜水艦を作るというよりも、アメリカとの日米同盟の中でシェアしていけばいいと思う」と指摘。立民の泉代表は「原潜が日本に適した戦略とは思えない。日本の潜水艦は原潜より5倍から10倍安い。1個豪華なものがあれば強くなるという話はない」と述べました。

一方、共産党の志位委員長は「日本が軍拡で構えたら、相手も軍拡を加速させます。悪循環に陥ってしまう」と述べ、社民の福島党首は「軍拡競争していくことに反対。平和の構築こそすべき」と真っ向否定しました。

これに対し、NHK党の立花党首は「日本の敵は明らかに中国。世界を侵略しようとしている中国には、しっかりした防衛力を持たなければならない」と指摘し、れいわの山本代表は「日本が攻撃されるリスクを負うことになる」とコメントしています。

原潜はその名の通り、原発を動力としており燃料補給が要りません。また、水を電気分解することで酸素も得られますから、理論上は、原発燃料が尽きるまでの間は、いつまでもいくらでも潜水活動を行うことができます。静粛性を脇におけば、航続距離も速度も通常型潜水艦の比ではありません。

その結果、燃料切れを気にすることなく、敵の潜水艦を追いかけて迎撃したり、艦隊に随伴して水中から敵の潜水艦を探知することができます。

一方、燃料を気にしなければならない通常型潜水艦は、そこまで自由に行動できず、敵が攻めてきた時の対応は、畢竟、待ち伏せが主体となります。

もっとも、専守防衛を国是とする日本においては、自国から遠く離れた海域まで潜水艦を送り込む必要はなく、その意味では通常型で間に合っていたとも言えます。

けれども、その専守防衛の想定が変われば、当然その対応も変えざるを得ません。

昨今、敵基地攻撃能力が取り沙汰されているのも、極超音速ミサイルが開発・運用され、今までのようにミサイルが撃たれてからそれを打ち落とすなんて芸当が無理になってきたからです。

これはある意味、潜水艦の世界でも変わりません。潜水艦発射型弾道ミサイルは射程数千キロあるといます。つまり、海自潜水艦の航続距離を遥かに超えた海中から弾道ミサイルを撃たれてしまうことだってあり得ます。

敵基地攻撃能力と同じ敵潜水艦攻撃能力は必要なのか否か。その能力を持つためにはどうすればいいのか。コストだとか人員だとか国民の理解だとは言う前に、あるべき姿を議論すべきではないかと思います。


4.岸田ビジョンと核兵器が使われない世界


あるべき姿とは要するに将来像、ビジョンということになるのですけれども、6月10日岸田総理はシンガポールで行われた「アジア安全保障会議」で基調講演を行い、平和のための新たな構想「岸田ビジョン」を発表しました。

岸田ビジョンは次の五本柱からなるとしています。
1)ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化。特に、「自由で開かれたインド太平洋」の新たな展開を進める。
2)安全保障の強化です。日本の防衛力の抜本的強化、及び、日米同盟、有志国との安全保障協力の強化を車の両輪として進める。
3)「核兵器のない世界」に向けた現実的な取組の推進。
4)国連安保理改革を始めとした国連の機能強化。
5)経済安全保障など新しい分野での国際的な連携の強化
この5本柱をみて分かる人には分かるかと思いますけれども、1と2は安倍元総理のセキュリティダイヤモンド構想であり、5は甘利元幹事長が進めていたものです。また4はかねてからずっと自民党が主張してきたことで、岸田総理の持論と言えるものは3くらいで、あとはみんな借り物。一部識者からは、岸田という名をつけるべきではないという批判の声もあるくらいです。

筆者はかねてから岸田総理の「聞く力」には「結果を見通す力」とセットでなければならないと述べていますけれども、岸田ビジョンの80%が借り物であり、それが安倍元総理と甘利元幹事長、そして自民党のビジョンであるとするならば、その「結果を見通す力」もある程度担保されているかもしれません。

ただ、最後に残った岸田総理の持論であろうと思われる「核兵器のない世界」に向けた現実的な取組については、果たしてどこまで現実的なのか疑問が残ります。

岸田総理が「核兵器のない世界」に向けた取組みとして挙げたのは次の通りです。
・核戦力の透明性向上です。全ての核兵器国に対して、核戦力の情報開示を求めていく。
・米中二国間で核軍縮・軍備管理に関する対話を行うことを関係各国と共に後押しする。
・8月のNPT運用検討会議が意義ある成果を収めるよう全力を尽くす
・「核兵器の人道的影響に関する会議」、「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」を立ちあげる
対話と会議ばかりで強制力といったものが見当たりません。まぁ会議を行うというのは"現実的"かもしれませんけれども、これで「核兵器のない世界」が訪れるのかというと、そうは思えません。

もし、筆者がこれをやるとすれば「核兵器のない世界」ではなく「核兵器が使われない世界」という具合に看板を掛け直すと思います。

「核兵器が使われない世界」であれば、日本も核武装するなりして相互確証破壊を成立させることで結果として核兵器が使われなくなる可能性はうんと高くなりますし、燃料帰化爆弾など大規模破壊兵器に一部置き換えていくことでも、核兵器が使われない可能性は上がります。

現時点では「核兵器のない世界」は飛躍し過ぎていて、ちょっと現実的とは思えません。

まぁ、岸田総理にとっては、「骨太の方針2022」のように、自分のやりたいことは殆ど否定され、表では非安倍路線を標榜しても、実態の政策は安倍路線だというのは内心面白くないかもしれません。

ある識者は岸田ビジョンに「核兵器のない世界」を入れたのは、自身の承認欲求を満たしたいからだなどと指摘していますけれども、一国を預かる宰相はそんな些末なことに拘っていただきたくないですし、神輿だろうが何だろうが、日本にとって本当に必要なことは、支持されようがされなかろうが断行する。それだけの結果が見える力と迫力を持っていただきたいと思いますね。


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