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1.パートナーズ・イン・ザ・ブルーパシフィック
6月24日、アメリカ、オーストラリア、日本、ニュージーランド、イギリスの5ヶ国は、太平洋島嶼国との経済・外交関係を強化することを目的とした非公式なグループを立ち上げたました。
この日、ホワイトハウスが発表した声明の概要は次の通りです。
太平洋諸島の優先事項を支援する、より効果的かつ効率的な協力のための新たなイニシアティブ「青い太平洋のパートナー達」と名付けられたこのグループは、太平洋地域主義を支持し、太平洋の島々や世界の他の地域との間の経済的結びつきの強化を模索するとしています。
・オーストラリア、日本、ニュージーランド、英国、米国の各国は、太平洋地域の繁栄、回復力、安全保障を引き続き支援するため、より緊密な協力を通じて総合力を発揮していかなければならない。
・本日、我々の5ヶ国は、太平洋の優先事項をより効果的かつ効率的に支援するための包括的かつ非公式なメカニズム、「青い太平洋のパートナー達(PBP:the Partners in the Blue Pacific)」を発足させた。
・この新しいイニシアチブは、この地域に対する我々の長年のコミットメントを基礎とするものである。
・「パートナーズ・イン・ザ・ブルーパシフィック」は次のことを目標としている。
+太平洋諸島フォーラムの「青い太平洋のための2050年戦略」に沿って、太平洋の優先事項を支援するために、5カ国は共に、また個々に、既存の取り組みを強化する。
+太平洋の地域主義を強化する。PBPは、太平洋諸国政府および太平洋諸島フォーラムとのより緊密な関係を築くため、各国政府とのより強力かつ定期的な関与を促進する。
+太平洋と世界の間の協力の機会を拡大する。PBPは、太平洋の価値観を共有し、地域の人々のために建設的かつ透明性のある活動を目指す他のいかなるパートナーによる太平洋への関与の拡大を奨励し、促進する。
+PBPは、その発展とともに、包括的かつ非公式であり続け、太平洋諸島に投資し、太平洋諸島とのパートナーシップに献身する同様のパートナーとの協力に対してオープンであり続けるであろう。世界的には、PBPは、国際フォーラムへの太平洋の参加を拡大する機会を提供する。
+我々は、太平洋諸国政府および太平洋諸国主導の地域機関、特に太平洋諸島フォーラムとの関与を継続することを約束する。
この前日の23日、ホワイトハウスのカート・キャンベル・インド太平洋調整官は、アメリカが戦略的に重要な地域で中国に対抗するために関与を強める中、より多くの米国政府高官が太平洋の島国を訪問することを見込んでいるとし、アメリカには地域全体でより多くの外交施設が必要で、時に「あまり注目されない」太平洋島嶼国との交流を増やす必要があると述べています。
この「青い太平洋のパートナー達」について、日本のマスコミは「米国、日本、豪、NZ、英国」の順に報じていますけれども、ホワイトハウスの声明原文では「オーストラリア、日本、ニュージーランド、英国、米国」の順となっており、オーストラリアが主導し、日本が後に続くというニュアンスとなっています。
まぁ、地政学的に考えれば、太平洋島嶼国に最も近いオーストラリアが主導権を握るべきであるのは理解できますし、日本がそれをサポートするという形を想定しているのでしょう。ただ、日本がニュージーランドより前に来ているということはニュージーランドよりも日本の関与がより期待されているということなのかもしれません。
2.青い太平洋のための2050年戦略
この声明で取り上げられている「太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Islands Forum)」とは、1971年8月に開催された第1回南太平洋フォーラム首脳会議以来、大洋州諸国首脳の地域協力の核として発展したものです。
現在、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジーなど16ヶ国と2つの地域が加盟し、フィジーに事務局を設けています。また、1989年からは、援助国を中心とする域外国との対話を開始。域外国対話の相手は、日本、米国、英国、フランス、カナダ、中国、韓国、マレーシア、EU、フィリピン、インドネシア、インド、タイ、イタリア、キューバ、スペイン、トルコ及びドイツです。2000年10月の総会より、太平洋諸島フォーラムに名称が変更されました。
同じく、声明で触れられている「青い太平洋のための2050年戦略」とは、ツバルで開催された2019年の太平洋諸島フォーラム会合で、その策定を承認された戦略で、太平洋の人々、場所、展望を保護し、確保するための地域戦略です。
この「青い太平洋のための2050年戦略」は、この地域が一丸となって取り組む継続的なコミットメントを表し、主要な問題を反映した7つのテーマから構成されています。そのテーマは次の通りです。
・政治的リーダーシップと地域主義現在、この2050年戦略策定作業は、フィジーとバヌアツが議長を務める「太平洋の青い大陸のための2050年戦略に関するフォーラム公式小委員会」が主導し、太平洋地域機構評議会(CROP:Council of Regional Organisations in the Pacific)がオブザーバーとして加わっています。
・資源と経済発展
・気候変動
・海洋と自然環境
・人間中心の開発
・テクノロジーとコネクティビティ
・平和と安全保障
3.太平洋島嶼国に手を伸ばす中国
近年、この太平洋島嶼国に対し、中国が関与を強めています。
中国は4月にソロモンと安保協定に調印し、5月26日から6月4日に掛けて、王毅国務委員兼外相がソロモン諸島、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの合わせて8ヶ国を歴訪しました。
王毅外相は、訪問先のフィジーで太平洋諸国10ヶ国とオンライン形式の外相会議を開き、安保協定の締結を提案したのですけれども、一部の国が懸念を示し、幸いにも合意に至りませんでした。
日本政府は、この中国の動きに警戒を強めており、5月に芳正外相がフィジーとパラオを訪問。4月には上杉謙太郎外務政務官がソロモンを訪れソガバレ首相に中国との安保協定に懸念を伝えています。
そして、今月13日からは海上自衛隊護衛艦「いずも」、護衛艦「たかなみ」、「きりさめ」、潜水艦、救難機「US-2」などをインド太平洋地域に派遣。アメリカやインド、オーストラリア、ソロモン諸島、フィジー、トンガ、パラオなど計12ヶ国・地域を訪問します。
海自によると、各国海軍との共同訓練などで戦術技量を向上させるとともに、相互理解や信頼関係の強化、地域の平和と安定に寄与するということですから、完全にこの地域への軍事プレゼンスを発揮するということになります。いうまでもなく、対中牽制です。
太平洋島嶼国は中国が拡大を目指す防衛ラインのうち、小笠原諸島や米領グアムを結ぶ「第2列島線」からハワイを含む「第3列島線」の間に広がっています。
中国海軍が遠洋展開能力を強化し、太平洋側からアメリカ軍や自衛隊を牽制するシナリオも想定されることから、この地域に如何に影響力を持つのかは大きな課題となっています。
その意味では、今回の「青い太平洋のパートナー達」発足も、カート・キャンベル・インド太平洋調整官がいう通り、対中牽制の文脈でとらえるべきだと思います。
4.日本が直面している最大の脅威は国家戦略の脱線
6月22日、「中国網(チャイナネット)」は、「日本が直面している最大の脅威は、国家戦略の脱線」という劉江永・清華大学国際関係学科教授の寄稿を掲載しました。
その概要は次の通りです。
・日本政府が最近、防衛予算拡大、攻撃目的の軍事力の発展、台湾海峡関連問題などで前進し続けていることが分かる。記事では、日本は「専守防衛」の国ではなく、国家戦略として改憲と、「自由で開かれたインド太平洋」を通じて中国を牽制するという2大目標があると指摘。岸田総理はそれを継承したとし、防衛費の倍増は異常現象であるとした上で、日本は内外の環境を利用し自国を「戦える軍事大国」にすることでアメリカへの依存を減らそうとしていると警戒しています。
・日本が現在直面している最大の脅威は外部の安全環境よりは、日本の国家戦略の脱線にあると言うべきだろう。「国家戦略の脱線」とは主に、日本が戦後憲法の平和的発展のレールから外れ、遠交近攻の隣国を敵視する軍事外交戦略を講じていることを指す。
・安倍晋三政権の発足後、日本の外交には外交・安全(軍事)の一体化の漸次的な実現という重大な変化があった。
・日本はもはや、自衛隊が「専守防衛」を厳守し、外務省が国際舞台で広く平和的外交を展開し、自国の総合的な安全保障を実現する国ではなくなっている。
・日本の外交と防衛には分業があるが、軍事安全を離れて日本の外交、特に対中政策を論じてもその本質と全貌が見えてこない。
・次に、日本の国家戦略には国内で改憲を目指し、対外的には「自由で開かれたインド太平洋」を通じ中国に対する地政学的な牽制を実現するという2大目標がある。
・岸田内閣は安倍内閣による上述した国家戦略2大目標を継承した。
・自民党内では現在、改憲派が有利になっている。戦後憲法は米国から押し付けられたものと称し、「中国の脅威」に対応するためには改憲による軍拡が必要と強調している。
・日本の上述した国家戦略の目標の設定は、単純に米国に追随したわけではない。安倍氏は首相就任後の2007年に、「価値観外交」と「自由と繁栄の弧」という構想を掲げた。2016年にはさらに「自由で開かれたインド太平洋」戦略を正式に掲げた。
・安倍氏は2017年に米国に誘いかけ、中国を念頭に置く「インド太平洋戦略」を策定した。いわゆる「インド太平洋地域」は今や、バイデン政権が認める戦略的中心地帯になっている。
・日本の新たな国家安全保障戦略は、NATOの軍事力のいわゆる「インド太平洋地域」への進出を歓迎するとし、米日欧の軍事大連盟を構築しようとし、さらにASEANと韓国を取り込もうとする可能性がある。
・日本は敵国の指揮中枢を攻撃する、いわゆる「反撃能力」を保有することを決定する。かつ5年内に防衛費の対GDP比を1.24%から2%に引き上げ、憲法の制限をさらに打破する。
・これが日本の国家安全にとって、高コスト、低安全性、持続不可能な危険な道であることは明らかだ。特に日本が経済及び財政の成長が緩慢な状況下、今後5年で防衛費を倍増させる計画を急に打ち出すとは、戦後では珍しい異常現象だ。
・これにより日本政府が国民生活面の財政支出を削減すれば、岸田氏が掲げるいわゆる「新資本主義経済」が失敗に終わる可能性がある。
・台湾地区関連及び釣魚島の問題をめぐり、日本は決して米国に追随するだけではなく、中国と米国の戦略的矛盾を積極的に利用し漁夫の利を得ている。
・日米首脳による共同声明、米日豪防衛相と米日韓防衛相による共同声明の中で、何度も台湾海峡関連の問題に触れている。釣魚島問題をめぐり、日本はさらに積極的に米国を共同防衛に抱き込み、リードしている。
・日本は内外の環境を利用し自国を「戦える軍事大国」にし、殻を破り外に出ることで、米国への戦略的な依存を減らそうとしている。
日本が普通の国になることを、「国家戦略の脱線」というあたり、相当嫌がっていることが分かります。
逆にいえば、中国は今後、この路線で日本を批判してくると予測することも出来るかもしれません。
たとえば、国内の野党やマスコミが、岸田総理のNATO接近を「米日欧の軍事大連盟だ」とか、台湾への関与について「アメリカを台湾共同防衛に巻き込もうとしている」などといった批判をするようであれば、中国からの工作も疑った方がよいかもしれません。
いずれにしても、中国の「サイレント・インベージョン」は世界各国に深く広く進められているという前提で対応することを考えるべきではないかと思いますね。
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