岸田総理の天運と参院選後の3つのシナリオ

今日はこの話題です。
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1.NHK世論調査


NHKは、今月24日から3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行いました。調査の対象となったのは3726人で回答は2049人。

その結果、岸田内閣を「支持する」と答えた人は1週間前より5ポイント下がって50%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は、2ポイント上がって27%となりました。

ただ、2週間前の支持率59%からは9ポイントも下がっており、「物価高」や「電力逼迫」などが一因になっているのではないかとも見られています。

一方、政党支持率は、自民党が35.6%と立憲民主党の6.0%、公明党の4.6%、日本維新の会の4.8%を大きく引き離していますし、青木率も85.6%と政権維持が危ういとされる50%からは全然上ですから、危機的状況という訳ではありません。

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2.27勝5敗


産経新聞社とFNNが実施した参院選の中盤情勢調査では、自民党は勝敗のカギを握る全国32の改選1人区のうち、25で優位に立ち、複数区でも候補全員の当選が視野に入る情勢です。

野党が優勢な選挙区は2つだけ。残る山形、新潟、山梨、長野、沖縄の5選挙区が野党と競り合う接戦区で、自民は圧倒的に優勢です。

何でも自民の予測議席数は最大68にも届くとのことで、自民重鎮は「そんなに取れたらえらいことだが、全部がうまくいけば届くかもしれない」と可能な数字であるとの認識を示しています。

一方、野党第一党の立憲民主党は苦戦しており、共産党が擁立を見送って一本化が実現した12選挙区でも、半数で自民に後れを取っています。

この状況に、自民は逆に緩みを警戒するような有様で、遠藤利明選対委員長は「好調な情勢が報じられたものの、一転、厳しい結果に終わった事例は枚挙にいとまがない」とする通達をすでに各陣営に出し、引き締めを図っています。

では実際の議席はどのくらいになるのか。

これについて、選挙プランナーの松田馨氏は改選定数1人の1人区で自民党の27勝5敗と圧勝を予測しながらも、「物価高批判などから、岸田内閣の支持率が落ちている。下落が続けば、比例区に加え、接戦の1人区でも取りこぼしが出てくる。有権者は最近、支持を『保留』して最後まで決めない傾向が顕著だ。参院選は長期戦で風向きが読みにくい。投票行動が不透明で、当落線上の接戦は予想が極めて難しい」とコメントしています。


3.岸田総理の天運


梅雨明けしてからこの方、真夏日が続いて、電力逼迫注意報が出っぱなし。岸田総理は、ドイツでの記者会見で、電力の供給力確保のため、今後2つの火力発電の再稼働を確保し、万全な体制をとる考えを示した上で「この夏は無理な節電をせず、クーラーを上手につかって乗り越えて欲しい」となどと呼びかけていましたけれども、どうも思ったようにはいかないようです。

6月30日未明、東京電力管内に電力を供給している福島県の勿来火力発電所9号機がトラブルで停止したことが分かりました。この勿来火力発電所9号機の出力は最大60万キロワット。これは、再稼働を前倒しした2基のうちの一つ、姉崎火力発電所5号機の出力と同じです。

東京電力管内向けにはおよそ半分の30万キロワット分の電力を供給していて、停止の原因は、ボイラーの誘引通風機2台中1台の不具合によるもののようです。勿来火力発電所は、誘引通風機1台運転に切替え、12:30頃、出力25万キロワットで発電を再開しました。

折角、2基を再稼働するとしたものの、別の1基が出力半減した訳で、電力の余裕度がその分削られてしまった形です。

運がいいのか悪いのか。半分の出力でも運転できただけでもよしとすべきなのか。こう言ってはアレですけれども、岸田総理は天運があまりないようにも見えます。


4.一番低い勝敗ライン


今のところ、参院選で自民党は大勝するとの見込みですけれども、その後のシナリオはどうなるのか。

現在岸田派は第4派閥で、第1派閥の安倍派、第2派閥の茂木派、第3派閥の麻生派に逆らって好き勝手に振舞うことが出来ないでいます。

今後、岸田総理は自分のやりたいことをやるのなら、参院選で大勝して党内力学で優勢に立つ必要があります。要するに「岸田総裁」のお陰で勝てたという形にならないと駄目ということです。

岸田総理は、参院選の勝敗ラインを非改選を含めて与党で過半数としていますけれども、それ以外にも、いろんな目安があります。代表的なものは、上から次の5つではないかと思います。
①自民党単独過半数
②自民党改選過半数
③与党現有議席数維持
④与党改選過半数
⑤与党過半数
①の自民党単独過半数は、今回の参院選で争う125議席のうち、自民党のみで69議席を獲得するという目標になります。これだけ獲れば、非改選の56議席と合わせて合計125議席となり、総定数248議席の過半数を占めることになります。
②の自民党改選過半数は、125議席のうち、自民党のみで過半数での63議席と占めるというものです。自民党の改選の現有議席数は55議席ですから、8議席の増加が必要になります。
③の与党現有議席数維持は、自民党の改選55議席、公明党の改選14議席であり、合わせて69議席を確保するというもの。
④の与党改選過半数は、125議席のうち、与党で過半数である63議席を占めることですから改選の現有議席数から6議席減らしても達成できます。
⑤の与党過半数は、改選非改選合わせて過半数を取ることです。自公の非改選議席計69に加え、今回改選125議席のうち、計56議席を獲得すればクリアとなる、もっとも低い目標です。

岸田総理は非改選を含めて与党で過半数を勝敗ラインとしましたから、⑤の一番低い目標を勝敗ラインに置いた訳です。


5.岸田が安倍を超える日


情勢調査では、自民は現有の改選55議席からの上積みが見込まれ、公明も現有議席維持が視野に入っていることから、このままいけば、④の与党で改選過半数は固く、②と③の間あたりで着地するのではないかと思います。

問題はその実績が過去の政権と比べてどうかです。

翻って、第二次安倍政権での国政選挙の自民の獲得議席を見てみると次の通りです。
2013年参院選 改選34  当選65
2014年衆院選 選前293  当選291
2016年参院選 改選50  当選56
2017年衆院選 選前284  当選284
2019年参院選 改選66  当選57
参院選はバラツキがあるものの、おおむね改選議席は維持しています。つまり岸田総理はこの安倍元総理の実績を超える勝利を上げなければ党内力学を変えることは難しいと思われます。

これは筆者の勝手な感覚ですけれども、自民改選議席をキープ、あるいは少し超える程度では、安倍総理に並んだかどうか程度であり、岸田は安倍を超えたとは見なされず、畢竟、岸田総理が自分のやりたい政策を好きにはやれないだろうと思います。

麻生副総裁は自民改選の現有議席数から14議席増やす「自民党単独過半数」を目標に掲げているそうですけれども、ここまで増やすことが出来れば、党内でも安倍を超えたと見做される可能性はあると思います。


6.参院選後の3つのシナリオ


SMBC日興証券日本担当シニアエコノミストの宮前耕也氏は、参院選後のシナリオとして、岸田総理が「指導力を発揮する」、「発揮しない」、「退陣する」、の3つのケースを挙げています。それは次の通り
・岸田首相が指導力を発揮するケース

岸田首相が、自民党内の力学という観点で勝利し、指導力を発揮するケースにおいては、安倍元首相に遠慮せずに経済政策で持論を推進し、アベノミクスの軌道修正を図る可能性がある。

岸田首相の著書や2020年総裁選での主張をみる限り、経済政策における岸田首相の持論は、分配など公的部門の役割拡大、そして財政健全化である。

だが、両者は矛盾する側面がある。一般に、公的部門の役割拡大には歳出拡大が必要である一方、財政健全化には歳出削減、景気拡大、増税のいずれか(できれば複数)が必要だ。

岸田首相の持論である公的部門の役割拡大および財政健全化の2つを両立させる組み合わせとして、増税による歳出拡大が選択されやすい。

金融政策については、参院選後も基本的には変わらないだろう。黒田総裁の在任中、日銀が金融政策の見直しに踏み切る可能性は低いほか、岸田政権も金融緩和継続と2%の物価目標維持を掲げている。

ただし、次の日銀総裁・副総裁には、将来的な金融緩和見直しに前向きな人材が登用される可能性が高まろう。総裁には日銀出身の副総裁経験者が起用されやすくなる。副総裁のリフレ派枠の扱いも焦点になりそうだ。

もちろん、岸田首相が安倍元首相に遠慮せずに持論を推進、アベノミクスの軌道修正を図れば、いずれ党内最大派閥である安倍派が岸田政権を支えず、非主流派として対抗し、政権運営が不安定化するリスクを抱えることになる。

岸田首相の安倍元首相との距離感や経済政策スタンスを見極める上では、参院選後に行われる党役員人事や内閣改造において、安倍元首相に近いと目される人物が続投するか否か等が注目される。


・岸田首相が指導力を十分に発揮できなくなるケース

岸田首相が、自民党内の力学という観点で敗北となれば、指導力を十分に発揮できなくなり、政権運営が不安定化しよう。そうなれば、政権運営を安定させるため、岸田首相は安倍派との協力関係を深める可能性が高い。

その場合、岸田首相は持論を抑制し、アベノミクスを継続、ないしは強化するだろう。すなわち、金融緩和継続かつ積極財政となりやすい。日銀人事や歳出入改革にも影響しよう。円安・輸入インフレが一段と進行する可能性があるが、財政出動による対応が図られそうだ。


・岸田政権退陣のケース

なお、可能性はかなり低いが、与党で改選議席の獲得数が55を下回り、総定数の過半数割れとなれば、いわゆる「ねじれ国会」となる。過去の例をみれば、岸田政権は退陣となりそうだ。連立政権の組み直しにも至ろう。

その場合、経済政策を考える上では、誰が総理総裁になるかのみならず、どの政党と新たに連立を組むかが重要になる。

連立相手として、外交・安全保障政策で自民党に近い日本維新の会と国民民主党が有力候補になる。両党は外交・安全保障政策では類似するものの、経済政策は大きく異なる。日本維新の会が規制緩和や減税、歳出削減など「小さな政府」を志向する一方、国民民主党は歳出拡大に積極的で「大きな政府」を志向しており、真逆と言える。
今の岸田政権は、指導力を十分に発揮できず、安倍派、茂木派、麻生派に気を使いながら、安倍・菅路線を継続する「ステルス岸田」政権なのですけれども、それが参院選の勝ち方によって、ステルスのままなのか可視化されるのか分かれてくるのではないかと思います。

その意味では、自民が勝つと分かっていても、その「勝ち方」によって大きく方向性が変わってくることは念頭においた上で投票に臨みたいと思いますね。


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この記事へのコメント

  • 深森

    >岸田総理は天運があまりないようにも見えます
    そのように見て取れる、ということですね。
    考えさせられました。実際に天運を削られているのはどこか?――検討してみると、いろいろ興味深く。

    出来事をどのように考えるかは人それぞれ、見解については、お任せします。
    いずれにしましても選挙の行方、注目でありますね。
    2022年07月01日 19:00

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