

1.自民60議席超の勢い
参院選も終盤に入り、状況も大分固まってきたようです。
時事通信が調査した選挙情勢によると、自民党は改選55議席から上積みし、60議席を超える勢い。公明党も堅調で、非改選を含め与党で過半数125議席を確保するのは確実の情勢です。
一方、立憲民主党と国民民主党は苦戦。日本維新の会は改選6議席から伸ばす見通しで、自公両党に維新、国民を加えた「改憲勢力」で見ると、憲法改正の国会発議に必要な3分の2である166議席に届くのではないかと見られています。
自民党は32ある「1人区」のうち21選挙区で優勢。13ある改選数2~6の「複数区」では、千葉、東京、神奈川で2議席確保が有力で、比例は前回2019年に獲得した19議席を維持する模様です。
公明党は選挙区に擁立した7人のうち5人が当選圏内で、残り2人も議席を固めつつあり、比例は6~7議席を見込んでいるとのことです。
一方、立民は改選23議席の維持が微妙。維新は大阪で2議席、神奈川で1議席確保が濃厚。比例は前回の5議席を維持し、上積みを狙う情勢です。
共産党は東京で議席を維持。比例は前回と同じ4議席程度を見込んでいます。国民は改選7議席を割り込む可能性があり、比例でも伸び悩んでいます。
社民党は改選1議席を維持できるかどうかの情勢で、れいわ新選組は東京で議席確保を視野に入れ、比例は1議席を固めた模様。NHK党と政治団体の参政党は比例で1議席を窺っています。
2.世論調査に一喜一憂している
6月29日、岸田総理は訪問先のスペイン・マドリードで記者団に対し、参院選の情勢について「世論調査についてお話がありましたが、選挙は結果が全てですので、世論調査の結果に一喜一憂することはいたしません。引き続き、一人でも多くの方に御支持いただけるように、最後まで政策あるいはビジョンを力いっぱい訴えていきたいと思っています」と述べました。
これについて、ジャーナリストの山口敬之氏は自身が官邸記者をやっていた経験から「世論調査の結果に一喜一憂しないと総理や官房長官がいうときは、一喜一憂している時で、本当に一喜一憂していなければ、国民の声を真摯に受け止めて国会運営していく」といった言い方になるのだそうです。
山口氏は、一喜一憂するくらい支持が下がったことを総理が認めたと指摘しているのですけれども、そうだとすると、今の支持率の下落傾向を結構気にしていることになります。
3.岸田さんが行ったものはゼロです
岸田総理について、巷では「何もしていない」と批判され、そのような言説も多々見受けられるのですけれども、実のところはどうなのか。
5月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演した地政学者の奥山真司氏は、岸田政権の支持率について次のように述べています。
奥山)岸田首相の現在の支持率が上がっているという報道がありました。このように奥山氏も、岸田総理は「具体策に関して、実は岸田さんが行ったものはゼロです……検討するという割に、あまり仕事はしません」と述べています。
飯田)記事になっていますね。
奥山)ほぼ6~7割の高い支持率だということです。私自身は岸田首相にもっと仕事をして欲しい、改革を進めて欲しいと思っています。しかし、それほど動いていないのに、なぜ岸田首相の支持率が高いのかを考えてみると、いくつか理由があるのです。
奥山)まずコロナ禍が収束に向かっているではないですか。外国から2万人くらい毎日入れるという話にもなってきて、全般的に雰囲気が明るくなっているような部分はあるのだと思います。全面解除してから制限を掛けていないので、経済的にも上がっているところが、好感を持たれているのではないでしょうか。
飯田)経済的に。
奥山)もう1つ、オミクロン株は重症化率が低いのです。それほど深刻な医療危機もまだ起きていないということです。
奥山)いちばん大きいのが、ウクライナ危機です。内政に関心が向いていないということが大きいのだと思います。ニュースもそれだけウクライナの話が多くなるので、内政の方に国民の関心が向かないのです。
奥山)私自身は具体的な仕事をもっとして欲しいと思います。具体策に関して、実は岸田さんが行ったものはゼロです。個人的には岸田さんが嫌いというわけではないのですが、検討するという割に、あまり仕事はしません。
飯田)検討はするけれど。
奥山)しかし、支持率が上がっているのは不思議だなと思う部分があります。内閣支持率について、4月23日に「社会調査研究センター」が発表していますが、若者の間では支持率が高くありません。特に10~30代は「支持する」と答えている人が3~4割くらいで、「支持しない」という人は4~5割の間くらいです。
飯田)若者の間では。
奥山)年齢が上になり、60~70代になると、岸田さんに対する支持が上がって、不支持が少なくなります。
飯田)10~20代は支持37%、不支持45%。30代は支持43%、不支持46%と、不支持の方が高いのですけれども、ここから逆転します。
奥山)40代から上ですね。
飯田)70代では支持62%、不支持25%。高齢者に優しい政権なのですか?
奥山)高齢者にとってはすごくいい政権です。なぜかと言うと、改革をしていないからではないかと思うのです。動かず、「現状維持でいたい」と思うシニアの方の意識に寄り添っているのです。
飯田)シニアの意識に。
奥山)しかし、私はこのままではいけないと思います。いま日本は改革をしなくてはいけない。菅さんのときのように、バリバリといろいろな仕組みを変えてもらわないと、日本は落ちぶれていってしまいます。
奥山)しかし、あまり大きな仕事をせずに、抑えていこうという姿勢がウケているのかなと思います。「何もしないことがウケる」というのは、あまりいい傾向ではないと思います。
飯田)小泉さんの時代からそうかも知れませんが、「改革を打ってきた」という疲れが出てきてしまったということもありますか?
奥山)そうかも知れませんね。何か物事を変えると、必ずリアクションがあるのです。リアクションを起こさずに抑えていこうという状態だと、問題は起こらないので、仲よくできて幸せなのかも知れません。しかし、それではダメだと思います。
飯田)リアクションを起こさないということでは。
奥山)改革し続けないと、いまは世の中の動きが早いですから、政治の方が乗り遅れてしまう。これはいかがなものかなと常に思っています。
飯田)菅さんがつくったデジタル庁は、「ここを変革の一丁目一番地にしよう」ということで設立されましたが、マイナンバーの話なども進んでいません。
奥山)「進まないところが支持されている」のが嫌なのです。やはり現状維持ではなく、積極的に進めていかなければいけないと思います。
飯田)今回の補正予算も2兆円あまりで、ずいぶん小粒だけれども、小粒の動かなさがいいのかという。
奥山)そうなると、日本はますます停滞していってしまうのではないでしょうか。改革しなくてはいけないのに、停滞して支持率が高いというのはどうなのか。首相は動いて問題を起こして嫌われるくらいでないと、歴史的には評価されないのではないかと思います。
5月末の時点では岸田政権の支持率は高かったのですけれども、奥山氏はその理由として「コロナ禍が収束に向かい、深刻な医療危機もまだ起きていない」「経済的にも上がっている」「ウクライナ危機で、内政に関心が向いていない」「現状維持でいたいと思うシニアの方の意識に寄り添っている」を挙げています。
最後の「現状維持でいたいと思うシニアの方の意識に寄り添っている」は筆者の見立てと同じなのですけれども、奥山氏は「進まないところが支持されている」のは駄目だとし、現状維持ではなく、積極的に進めていかなければいけないと厳しく批判しています。
確かに昨今の世界情勢をみると、その通りだと思います。
4.何もしない男の流儀
プレジデント紙の元編集長で、現在はイトモス研究所所長の小倉健一氏は現代ビジネスの5月3日付の記事「岸田首相が最近気づいた『高支持率・長期政権の法則』について考える ~何もしない男の流儀」で、自民党衆議院議員の声として、前の菅政権が「携帯電話料金の大幅値下げやデジタル化推進、不妊治療の保険適用拡大などに導いた」のに対し、岸田総理は「『令和版・所得倍増計画』とか格好良い言葉を並べているけど、何も実現していないじゃない」という声を上げ、その議員も地元の有権者から「森友問題を再調査するみたいに言っていたけど、岸田首相は何もしていないじゃないか」「いつから私たちの所得は上がるんですか」と突き上げを食らっていることを伝えています。
記事では「首相は昨年9月の自民党総裁選で、「令和版・所得倍増計画」や金融所得課税の強化など看板政策を次々と打ち出した……だが、政権発足から7ヵ月経ても具体策は見当たらない」とここでも具体策がないと指摘しています。
にも関わらず高い支持をキープしていた理由として、記事では、全国紙政治部記者の意見として次のように解説しています。
安倍晋三政権や菅政権はコロナ対策で緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置を決め、国民に強い行動制限を求めました。1日あたりの感染者数は今も4万人を超えていますが、岸田首相は3月に『まん防』を全面解除してから制限はかけていません。この点、重症化率が低いオミクロン株に助けられている面があるでしょう。
もう1つは、ウクライナ危機で国民の視線が国内から『外』に向かっていることにある。自分たちより大変な人々の姿をテレビやネットで目にして、岸田政権への批判が薄まっているという印象です。2月24日に軍事侵攻が始まりましたが、その辺りから支持率は上昇基調にあります。
自民党も参院選に近いということで、岸田首相の『具体策ゼロ』を問題視をする動きもない。問題を解決しようとすると、誰かが必ず文句を言います。すべての問題を先送りすることで〈優しいイメージ〉もついてきました。岸田官邸はそれに気づいたのでしょうね。
この政治部記者は、武漢ウイルス禍が収まってきたことと、ウクライナ危機で国民の関心が外に向かったのを理由に挙げていますけれども、これは先述した奥山氏の見解とほぼ同じです。
5.岸田の掛け声
これら意見を総合すると、岸田総理は「これをやる」と口にしたはいいが、具体策にまで落とし込めておらず、それが結局「何もしていない」ように見られているということのようです。要するに「掛け声倒れ」に見られているということです。
これについて、経済評論家の渡邉哲也氏は「岸田首相は、説明があまりにも下手だ。資源や食料価格が世界的に高騰しているが、ウクライナ侵攻が発端の外因的な理由なので、日本単独の対応には限界がある。だが、岸田首相や政権に発信力がなく、政策やビジョンが国民にまったく伝わっていない。加えて、岩盤保守層は『岸田首相のリーダーシップの弱さ』に不満を募らせている。民主党政権を経験した国民は『不安定な野党に国政は任せられない』と考えているだろうが、岸田政権が政策や発信を軽んじれば、岩盤保守層をはじめ、国民の反発はさらに高まりかねない」と指摘しています。
確かに、岸田政権に発信力がなく、政策やビジョンが国民にまったく伝わっていないのであれば、何をしようが「何もしていない」ように見られても仕方ないかもしれません。
ただ、その政策やビジョンにしても、具体策にまで落とし込めていないのであれば、国民生活に反映されることもなく、生活実感は、悪化する外部要因に引きずられて、苦しくなったと感じられてしまうことになります。
奥山氏が指摘するように、岸田政権が「現状維持でいたいと思うシニアの方の意識に寄り添っている」のであれば、その現状維持が崩れ去れば、支持も離れていくのも道理です。
6月21日のエントリー「岸田ビジョンと核兵器が使われない世界」で、「岸田ビジョン」は、その80%が借り物であり、それが安倍元総理と甘利元幹事長、そして自民党のビジョンであると述べましたけれども、それが国民に全く伝わっていないのであれば、いっそのこと、「アベノミクスを継続します」、とか「菅政権の改革を続けます」といった方がよほど国民に伝わるのではないかという気もします。
まぁ、そういってしまうと、マスコミからの総攻撃に合うから、それを避けるために、わざと、岸田のビジョンだと言い換えているのかもしれませんけれども、奥山氏は「首相は動いて問題を起こして嫌われるくらいでないといけない」と指摘しています。
あるいは、岸田総理は、そういった嫌われるようなことは極力避けて口にしないというのも、「何もしていない」と思われる原因の一つになっているのかもしれませんし、同時にそれが「岸田首相のリーダーシップの弱さ」に見えて、自民の岩盤保守層の不満に繋がっているのかもしれません。
ただ、そういって、借り物の政策を自分の政策のように看板を塗り替えたとて、それが国民に伝わらないのであれば、同じことです。
この看板の塗り替えについて、経済アナリストの森永康平氏は、岸田総理が就任してからの政策をずっとチェックしていった結果、岸田総理は、「バイ・マイ・アベノミクス」を言ってみたいがために「インベスト・イン・キシダ」と言ってみたり、「新しい資本主義」といってみたり、「新自由主義からの脱却」といってみたりという具合に、安倍元総理への対抗意識、激しいコンプレックスを持っているのだという結論に至ったと述べています。
一国の総理が、そんなケツの穴の小さい事でどうするのかと思いますし、これが本当だとは思いたくありませんけれども、少なくとも岸田総理は、どういう呼び方であれ、政策を具体化し、もっと発信力を高めないといつまでたっても「何もしない」と言われ続けるのかもしれませんね。
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ブリー陰険補佐官