北欧2国のNATO加盟と揺れる欧州

今日はこの話題です。
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1.フィンランドとスウェーデンのNATO加盟


7月5日、NATOはフィンランドのペッカ・ハーヴィスト外相とスウェーデンのアン・リンデ外相の立会いのもと、フィンランドとスウェーデンの加盟議定書に署名しました。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は「フィンランド、スウェーデン、NATO、そして欧州大西洋の安全保障にとって歴史的な日だった」とし、「フィンランドとスウェーデンの安全保障は、批准プロセス中を含め、我々の同盟にとって重要だ……多くの同盟国はすでにフィンランドとスウェーデンの安全保障に明確な約束をしており、NATOはより多くの演習を含めてこの地域での我々の存在感を高めている」 と述べました。

フィンランドのペッカ・ハービスト外相は、フィンランドが他のNATO同盟国と緊密に協力することを楽しみにしているとし「フィンランドとスウェーデンの両方のメンバーシップは、彼ら自身の安全だけでなく、同盟の集団安全保障にも貢献するだろう」とコメントしました。

また、スウェーデンのアン・リンデ外相は、「加盟により、NATOが強化され、ユーロ大西洋地域の安定が増すと確信している……私たちは、他の同盟国と肩を並べてNATOの集団的防衛に貢献することに私たちの役割を果たす……NATOに加盟することは、スウェーデンが国家安全保障を確保し、スウェーデン国民の安全を守るための最良の方法であると信じている」と述べました。

既に加盟議定書はNATO加盟各国の国内批准の手続きに入っています。


2.完全勝利のトルコ


ここにきて急にフィンランドとスウェーデンのNATO加盟が進んだのは、一人反対していたトルコが賛成に回ったからです。

6月28~30日、スウェーデンのマグダレーナ・アンデション首相、フィンランドのサウル・ニーニスト大統領、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領はNATO首脳会合が行われているマドリードで、ストルテンベルグNATO事務総長と会談し、トルコ、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟に関連した覚書に合意しました。

トルコの反対については、5月15日のエントリー「新規加盟に反対するトルコとフランス」で取り上げましたけれども、トルコは自身がテロ組織として敵視するクルド系武装勢力、クルド労働者党(PKK)などと、この北欧2ヶ国は近いことを理由に挙げていました。

今回の覚書で、北欧2ヶ国はテロリストの身柄引き渡しを求めるトルコの要求に対処することに合意。さらにトルコが反政府勢力と見なすクルド労働者党(PKK)やギュレン運動を一切支援しないことも約束しました。

更に、両国は、シリアのクルド人民防衛隊(YPG)を支援しないことにも同意。これに加えてスウェーデンは、トルコへの武器禁輸措置を解除することにも合意しています。

このトルコの要求をほぼ丸のみした合意について、専門家の間では、今回のことが前例となって、トルコが今後、アメリカなど他の加盟国に対してもクルド人勢力への支援停止を要求しないかという懸念も出ているのですけれども、NATOのストルテンベルグ事務総長は、「プーチンへの明確なメッセージだ。NATOの扉は開かれていることを示したい」と述べ、北欧2ヶ国が「史上最速」でNATO加盟を果たせば、ロシアがウクライナに全面侵攻してもNATOの拡大は阻止できないというメッセージになるとの認識を示しました。

この2ヶ国の動きについて、アメリカのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」のレイチェル・リゾ上級研究員は「フィンランドとスウェーデンでは過去数ヶ月で、何十年も維持されてきた政策と世論が劇的に変化した……ロシアがウクライナに侵攻した当初、両国の世論がこれほど大きく変化してNATO加盟を支持するようになると予想していた人は少なかったはずだ」と指摘しています。

先日NATOが改定した「戦略概念」では「ロシアは最大かつ直接の脅威」とほぼ敵国認定していますけれども、NATOが対露軍事同盟としての色合いをより濃くしたように思います。


3.ロシアの貨物車押収


7月5日、フィンランドがEUの対ロシア制裁を受けて、ロシア企業の貨物車1000両近くを押収したことが明らかになったとロイターが報じています。

ロシア鉄道が運輸省に送付した6月6日付の書簡によると、フィンランドでは4月のEUのロシア産石炭禁輸を受けて国営鉄道会社のVRが鉄道の運行本数を削減し、執行官がロシアから来た865両を押収したとのことです。押収されたのは、EUの制裁対象となった企業の車両のほか、株主が制裁対象となり経営権を放棄した企業の車両のようです。

フィンランドの執行局はEUの制裁に従うため、輸送会社を含め、ロシア、ベラルーシの数十の個人・法人の資産少なくとも8200万ユーロを凍結したことを明らかにしました。

VRの広報担当は、現時点でフィンランド国内に制裁対象の貨物車両が800台前後あることを確認。押収されていない車両はできる限り速やかにロシアへの返還を目指すと述べています。

4月の話が今になって報じられたのは、NATO加盟が本決まりになって、ロシアによる軍事的報復の可能性が低くなったとみて、フィンランド当局がリークしたのではないかと思います。


4.あなたのリーダーシップでは何も変わらない


NATOを始めとして、西側諸国はロシアを東西冷戦後、パートナー国とした扱いを完全に改めると同時に、自由と民主主義の価値観を共有する西側諸国とその同盟国の結束を世界にアピールしていますけれども、その道は決して平坦なものではありません。

なぜなら、西側、特にヨーロッパ各国で、内政問題が足を引っ張り始めているからです。

イギリスのジョンソン首相は武漢ウイルスの感染予防対策措置を無視して、イギリス政府内でパーティーをくり返したことで批判され、出身政党の保守党内では党首に相応しくないとの声も上がっています。5日には、スナク財務相とジャビド保健相が相次いで辞任。

スナク財務相は、「国民は政府が適切かつ有能、真剣に運営されることを当然期待している」と述べ、ジョンソン首相の下では国民の負託に応えられないとの考えをにじませ、ジャビド保健相は、「残念ながら、あなたのリーダーシップの下では状況が変わらないのは明白だ」との書簡を送ったとのことです。

また、フランスでは6月実施の下院選挙で、マクロン大統領はを支える与党連合が過半数に届かなかったことから、政治運営が難しくなっています。6月に発足させたばかりのボーヌ首相率いる閣僚の再編も急ぐ結果となり、マクロン大統領の求心力は確実に落ちています。

さらにドイツも、昨年12月に社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党連立政権を発足させたショルツ首相は、就任早々、ウクライナ戦争が勃発し、武器供与の初動が極端に遅れ、国内外から批判を浴びています。

平和主義優先の社会民主党(SPD)は本来、対ロシア宥和派で武器供与にブレーキをかけた一方、人権優先の緑の党はウクライナ防衛のための武器供与に積極的で、これに同調する自由民主党(FDP)がショルツ首相の決断の鈍さを批判しています。

そして、イタリアでも、議会最大勢力の5つ星運動がウクライナ支援をめぐって分裂。ディマイオ外相が旗揚げした新党が現ドラギ政権を支持する一方、コンテ前首相が率いる5つ星運動内には、来年の総選挙を念頭に政権から距離を置くべきとの声も浮上してきています。

もし、来年の総選挙でポピュリスト政党がイタリアの政権を握れば、内政重視でウクライナへの支援は制限を受ける可能性も高まることになります。

要するにウクライナ戦争終結に向けて最も直接的な指導力発揮が求められるヨーロッパの4大国首脳には政権運営で黄信号が灯っている訳で、そこに更に、対露制裁による西側諸国への悪影響がのしかかっている現状があります。


5.団結が弱まるNATO


ドイツ連邦統計局が発表した、ドイツの6月のEU基準の消費者物価指数(CPI)上昇率は8.2%。5月の8.7%より多少下がったものの、ウクライナ侵攻以降、消費者物価は上昇を続けています。

エネルギー価格も大幅に上昇。2022年6月のエネルギー価格は前年比38.0%上昇し、食料品の価格も平均を上回る12.7%の上昇を示し、連邦政府が燃料割引などさまざまな対策を打つことでなんとか経済を下支えしている状態です。

フランスでは、国立統計経済研究所(INSEE)が、6月末に暫定的な予測を発表。フランスの消費者物価は5月の前年同月比5.2%の上昇から、6月には5.8%(暫定数値)に上昇するとしました。インフレの主要因は、エネルギーと食料の価格上昇の加速によるもので、EU基準CPIは5月と同様、6月も前月比0.7%上昇し、6.5%に上昇するとしています。

更に、イギリスでも、燃料や電気、食品・飲料などが軒並み値上がり、英政府統計局(ONS)が6月22日発表した5月のCPIは前年同月比9.1%上昇。1982年以来の高水準だった4月(9%上昇)をさらに上回っています。

ヨーロッパではロシアがウクライナから出荷を阻止していることによる価格高騰が続いており、ヨーロッパ市民の生活に打撃を与えていることから早期解決を望むヨーロッパ市民は確実に増えていると見られています。

6月15日に発表された、EUに加盟する9ヶ国とイギリスの8000人を対象にした欧州外交評議会(ECFR)の世論調査によれば、ロシアがウクライナに侵攻してから最初の100日間は、ヨーロッパの世論は政治的団結を示したものの、今や、どんな方法でも戦争を早期終結させることを望む平和優先派が全体の35%を占め、ロシアを絶対に勝たせてはならず、厳しく罰すべきという正義派は22%にとどまるなど、その団結は明らかに弱っていると指摘しています。

正義派が平和優先派を上回っているのはウクライナの隣国ポーランドだけで、ほかの国は戦争の長期化による経済制裁の代価と核戦争へのエスカレートの脅威を心配する声のほうが強まる傾向にあるようです。


6.世界中でウクライナ疲れが起こり始めている


更に、興味深いのは、ウクライナ危機をもたらした原因に対する見方で、イギリス、ポーランド、スウェーデン、フィンランド、ポルトガルでは、ロシアが主因という回答が80%を超えているのに対し、イタリア、フランス、ドイツでは56~66%となっています。

また、平和を阻む最大の要因は何かという質問に対して、ロシアと回答したのは、調査対象国全体では64%だったものの、個別にみれば、イタリアは39%、ルーマニアは42%に留まっています。更にイタリアでは28%がアメリカのせいだと答えているそうです。

こうした傾向から戦争が長期化すればするほど、ロシアの脅威に直接さらされるフィンランドやバルト3国、ポーランド、チェコを除き、ヨーロッパ内で戦争終結優先、制裁早期解除に世論が振れていく可能性は高いと見られています。

実際、G7もNATOも「ロシアを勝たせてはならない」との認識で合意した一方、ロシアを完全屈服させるまで戦うべきという意見は少なくなっており、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相はロシアを追い詰めすぎることに懸念を示しています。

6月にウクライナを訪問したイギリスのジョンソン首相は帰国後、「世界中でウクライナ疲れが起こり始めていることが心配だ」と述べ、フランス・パリ政治学院のジャン=イヴ・エーヌ教授は「NATO同盟国は、ウクライナでの戦争の目的に対するさまざまな感情を抑えてきたが、この統一戦線を長期にわたって維持することは今後、より複雑になるだろう」と指摘していますけれども、全体的な傾向としてEU各国は段々と国内問題に目を向けざるをえない状況になりつつあり、いつまでも先の見えないウクライナ戦争に関わっていられなく日がこないとも限らないと思いますね。


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